企業の「データ利活用」
~事例から学ぶその課題と解決策とは?~

2023.01.01

  • AI
  • コンサルティング
  • コスト削減
  • 内製化支援
  • 業務効率化

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の掛け声の下、企業におけるデータ利活用ニーズが日増しに高まっていますが、しっかりと実行できている企業はまだ一部なのが現状です。今回は、三菱総研DCSがこれまで支援してきたさまざまな企業のデータ分析・データ利活用・DX人財育成プロジェクトの事例を紐解きながら、どうすればデータ利活用が定着するのか、その必要な条件とは何か を解説します。

データ分析・利活用に未着手で、どんな情報を使い、どこから着手して良いかわからず困っている、もしくは着手しているものの、うまく進められていない企業のご担当者必読です!

<INDEX>

二極化が進む企業のデータ利活用の現状と課題

「ビッグデータ」「IoT」「AI」「DX」といったワードに象徴されるように、企業のデータ利活用への関心は高まる一方です。しかし、総務省の調査(平成28年)によれば、その多くは「データの収集・蓄積」「データ分析による現状把握」に留まってしまい、「データ分析による予測」「業務効率の向上」「新たなビジネスモデルによる付加価値の拡大」など、経営層が期待する真の成果創出には、まだつながっていないのが現状ではないでしょうか。

<企業におけるデータの利活用の実施状況>

総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
出典:総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)

では各企業は、どのような分野でデータ利活用を進めようとしているのでしょう。総務省の調査(平成27年版 情報通信白書)によれば「経営全般」、「企画、開発、マーケティング」、「生産、製造」、「物流、在庫管理」、「保守、メンテナンス」の5つのデータ活用領域のうち、「経営管理」(47.6%)が最も多く、「業務の効率化」(46.9%)、「商品・サービスの品質向上」(42.9%)、「顧客や市場の調査・分析」(40.5%)までが40%を超える結果となっています。このことからも、データ利活用の目的は今や業務効率化だけにとどまらず、経営戦略の立案、付加価値向上、競争力強化であることがわかります。

<企業におけるデータの利活用目的と利活用例>

総務省「ビッグデータの流通量の推計及びビッグデータの活用実態に関する調査研究」(平成27年)
出典:総務省「ビッグデータの流通量の推計及びビッグデータの活用実態に関する調査研究」(平成27年)

その一方で、課題も多くあります。総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)によれば、日本企業におけるデータ利活用を進めるにあたっての課題は大きく、以下の3つです。

  • データの収集・管理に係るコスト(工数)の増大
  • 収集データの利活用方法の欠如、費用対効果が不明瞭
  • データを取り扱う人材の不足

<データ利活用において現在または今後想定される課題や障壁>

総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)
出典:総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

つまりは、企業がデータ利活用を推進するためには、大きく2つの課題

  • データを利活用することでどのような費用対効果が得られるのかを明確にすること
  • データを扱える人材をいかにして確保・育成するのか(社内体制を整備するのか)

をクリアにする必要があるということになります。

言い換えれば、この2つのポイントをクリアした企業は、現状把握・分析の初期ステージから新たなビジネスモデルの開発・競争力の強化といった次なるステージに進めますが、それが実現できない企業では、いわゆる「PoC*止まり」となってしまい、費用と労力がかかる割に、経営層の期待する真の成果にはたどり着けません。これが、現在の日本企業におけるデータ利活用の二極化の実態と言えるのではないでしょうか。

  • PoC:Proof of Concept。新しい技術やアイディアの実証を目的とし、実現可能性についての簡単な検証すること。

DCSの支援実績から見えてきた「よくある3つの誤解」

これまでDCSは、自社内でデータサイエンティスト80 名超を育成した経験と実績に加えて、さまざまな業種・業態のクライアント企業において累計50社を超えるデータ分析業務支援、1,200 名以上のデータ分析者の育成、データ専門組織の立ち上げによる内製化を支援してきました。

その経験から言えることは、「データ分析を試してみる」ことは簡単であっても、「データ分析と利活用を企業文化として組織に根付かせる」ことは、非常に難しいということです。

お客様からご相談をいただくなかでのよくある誤解は、大きく以下の3点です。

よくある誤解①データがたくさんたまっているから分析できるようになる よくある誤解②分析ツールを入れればデータ分析できるようになる よくある誤解③統計知識を学べば実務で分析が使える

データの蓄積や分析ツールの整備、人材への研修といった1つの要素を満たしたからといって、一足飛びにビジネスの課題解決やデータドリブン な意思決定が実現する訳ではありません。

これらの誤解があったまま、とりあえずPoCを実施したり、あるいはデータ分析組織を立上げたとしても、それはあくまで単発で表面的なものに留まってしまい、継続してビジネスの成果に結びつく効果は得られません。

ここからはDCSが支援した具体的な事例を基に、どうすればデータ利活用がうまくいくのかを考えていきましょう。

成功企業に学ぶ~データ利活用推進事例

事例1:通信事業者様/デジタルマーケティング支援

お客様課題:

全社にてデータ利活用が求められ、マーケティング部門でデータを用いた戦略立案を行う際の課題

  • 自社が提供する複数のサービスをご利用いただくためのクロスセルなどを目的として、さまざまなデジタルマーケティング施策を実施したい
  • データ利活用のための基盤整備やメニュー化、データ抽出・加工・レポートなどの実運用業務に割ける人的リソースが不足し、事業計画や戦略立案との両立が難しい

DCS支援内容:

ご要望を受け、DCSはデータ分析チームによるオンサイト(常駐)支援を実施

  • データマネジメントシステム(SAS)を用いたデータマートの構築、レポート開発とメニュー化、BIツールのダッシュボード開発
  • 契約者データを用いた各種キャンペーン施策の実施および効果測定
  • 要因分析レポート、効果シミュレーション

上記を通じて、知見を共有

お客様成果:

  • データ収集から分析、各種マーケティング施策の実行から効果測定の仕組み作りと実運用をプロにアウトソースすることで、社内の実行部門は事業計画・戦略立案に集中でき、短期間でキャンペーンなど各種マーケティング施策の実施が可能に
  • プロジェクト推進中にDCSが提供したさまざまなデータ利活用の知見を取り入れることで、社内メンバーのスキルアップを実現
通信事業者様/デジタルマーケティング支援の事例イメージ

事例2:交通事業者様/グループ全社におけるデータ利活用推進支援

お客様課題:

グループを含む全社でのデータ利活用を促進すべく専門部署を立ち上げた後の課題

  • 専門的なデータ分析や活用ノウハウを持つ人的リソースが不足し、思うように進まない
  • 各事業部門/グループ各社からサービス開発依頼があるものの、具体的にはどのようにデータを分析・活用したらよいかがわからない

DCS支援内容:

ご相談を受け、DCSではグループを含むお客様社内のデータ分析およびレポーティングなど、専門スタッフによる実務のオンサイト(常駐)支援を実施

  • データ利活用推進部門の依頼元である各事業部門/グループ各社へのヒアリングからDCSの専門スタッフが同行
  • 依頼内容に応じてDCS専門スタッフが分析方法を検討、データ利活用推進部門に提案
  • 元データの収集、整備からアドホックによるデータ分析をDCSが支援
  • 依頼元へのレポ—ト作成および同行しての報告業務もサポート

お客様成果:

  • データ分析、報告などの実務をプロにアウトソースすることで早期に成果が得られ、全社でデータ利活用の気運が向上
  • 一連の流れを体験したことによるデータ利活用推進部門メンバーのスキルアップ
  • 汎用性が高い、繰り返しの分析内容は定型メニュー化
    また、マスタ関係の整備も実施し、継続的なデータ利活用のための「仕組み化」も実現
交通事業者様/グループ全社におけるデータ利活用推進支援の事例イメージ

ここまでご紹介した2社の事例は、データ利活用のための基盤構築と実運用業務を担う人的リソースの提供により、早期の成果創出を達成。並行してお客様企業社内でデータ利活用を推進する専門部署の方々に、最適なスキルトランスファーを実施しています。

プロにアウトソースすることで自社のみで実行するよりも早く、「データを利活用することでどのような費用対効果が得られるのか=具体的なビジネス上の成果」が体感できることで、社内のデータ利活用に対する気運が高まります。

3社目は、DX人財の育成と専門組織の立ち上げによる自走を視野に入れた、さらに中長期的な支援の事例です。

事例3:総合建設業者(ゼネコン建設会社)/データ分析組織の立ち上げ~自走支援

お客様課題:

経営判断に資するデータ利活用を目指す際の課題

  • デジタル人材の育成からビジネス現場でのデータ利活用までを自走可能とする長期的なプロジェクトが必要

DCS支援内容:

  • 「データ利活用の取り組みの目的を明確化」した上で、「データにもとづく意思決定や課題解決が、企業文化として根付いている状態」を目指し、3か年のロードマップを策定
  • ロードマップはデータ分析組織を立ち上げ、自走可能な状態にするための「7つの必須条件」を基に実行
データ分析組織化のロードマップ案

お客様成果:

  • 経営判断に資するデータ利活用を推進する組織の立ち上げおよび、社内風土の実現
  • データ利活用推進者(データ活用コンサルタント/エンジニア)の育成

本事例の詳しい内容はこちら

データ分析組織をつくるための 7 つの必須条件とは?

3社目の事例には、多くの日本企業がぶつかる課題として先に挙げた「データを扱える人材をいかにして確保・育成するのか(社内体制を整備するのか)」を乗り越えるためのヒントが含まれていますので、より詳細にご紹介します。

企業がデータを利活用して真の成果を挙げ、そしてそれを自走により持続させていくためには、ツールの導入や基盤の構築、人員の研修と専門組織の立ち上げなどをバラバラに行うのではなく、明確な目的意識に沿い、腰を据えて取り組むことが求められます。

DCSでは自社および長年の支援経験を基に成功例に共通する事項を「データ分析組織をつくるための7つの必須条件」としてメソッド化し、お客様への支援活動にも活かしています。

ここからは7つの必須条件ごとに、その要点を解説していきます。

①データ分析をするための明確なビジネス目標の設定

よくある例として、ビックデータやAIの活用だけに着目してしまい「データ分析をすること自体が目的化してしまう」ことが起こりがちです。そうなるとデータ分析環境があっても使いこなせず、データ利活用が定着しないといった事態に陥ります。

一方、データ分析をうまくビジネスで利活用できている企業では、データ分析を行う前にビジネス上の目標や解決すべき課題など、目的を明確に定義しています。そのことがツールや基盤などの分析環境の規模や手法を合理的かつ適正に定めることにつながり、目的に則したデータ分析が可能となります。

データ利活用によるビジネス目標(目的)は企業によりさまざまですが、大きく「事業戦略の立案」「売上への貢献」「コストダウン(業務効率化)」「リスク管理」などが挙げられます。

②全社的なデータ分析リテラシー向上

データ利活用を定着させようとしたとき、専門組織をどう立ち上げるかを考えがちです。しかし、中長期的な視点からは、全社的なデータ分析リテラシーを向上させることが優先課題です。

ビジネスを推進する各事業部門や、意思決定を行う経営側にデータ利活用イメージがなければ、いくら専門組織があっても有効に活用できず、その貢献は限定的になります。そのためデータ分析の専門組織を立ち上げる以前に全社的なリテラシー向上が欠かせず、データ分析への理解が伴うことではじめて、データを利活用する文化が根付く土台が築けるのです。

③分析推進組織・推進者の設置

ビジネス部門はデータ分析に慣れておらず、受け身になりがちです。ともすれば、意思決定プロセスを変えたくないという抵抗感から、データ分析部門が嫌われる存在になることも懸念されます。それを防ぐには、データ利活用の必要性を積極的に社内で周知すると共に、推進する主体を明確にする必要があります。

推進責任者や組織の置き方はさまざまなパターンがありますが、理想的な例としては、役員・執行役員に
CDO*またはCAO*といった分析主責任者を置いたうえで、分析推進部門を新たに設置し、その部門が中心となり、ビジネス部門の分析要件に応える推進役を担うことです。まずはデータ分析がビジネス部門の課題解決に貢献できるかどうかの実証実験から始め、徐々に他部門に広げてデータ分析の有用性を社内に浸透させていきます。

  • CDO:Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)またはChief Data Officer(最高データ責任者)/CAO:Chief Analytics Officer(最高分析責任者)

④データ分析基盤の最適な整備

データ分析を円滑に進めるためには、データを収集し、分析できる形へ変換・集約するデータ分析基盤が必要です。ただし、どんなにすばらしい基盤でも、それを業務システムで使えるように実装しなければ、意味をもちません。また、誰がどこまで使えるようにするかという権限の判断も重要です。権限を的確に設定し、データを経営から現場部門まで見えるようにすることで、よりデータ分析が活用されるようになります。

データ分析推進部門は、業務の社内の広がりに合わせてIT 部門と連携しながら、統合的なデータ分析基盤整備を推進していくことが求められます。

統合的なデータ分析基盤の整備
各種データの例

⑤分析への取り組みを人事制度に活用する

データ分析に関する知識や技術は多様な領域にわたるため、中長期的なモチベーションアップや適性判断のための仕組みが求められます。しかし、明確なキャリアアッププランやスキルマップなどの方針がないまま、個々の裁量で学習を進めてしまうと、バラバラな能力形成になってしまうリスクもあります。企業として積極的に評価する能力をスキルマップに定め、客観的な評価軸で測ることがその後の組織の発展には欠かせません。

DCSではスキルマップと育成のためのレポートを作成し、人事にも活用しています。分析担当者に求めるスキルとそれに伴うキャリアプランがイメージできるようになり、インセティブなど金銭面でも後押しすることでメンバーのモチベーションが向上します。

⑥ビジネス視点でデータ分析を考えられる人を増やす

データ分析作業自体は、アウトソーシングすることも可能です。しかし、自社のビジネスを深く理解し、データ分析と合わせて考えることは社内の人間でなければできません。そのため、ビジネス部門でまず育成すべきはデータ分析者ではなく、分析の依頼が正確にできる人です。

分析依頼者に必要なのは、本質的な業務課題をとらえ、目的を明確化したうえで、分析で解くことのできる問題にまで落とし込む「問題を作る」スキルです。「問題を解く」スキルを持つデータ分析者(データサイエンティスト)が社内でまだ育っていない段階であれば、外注ベンダーなどに「問題を解く」部分は任せることになります。ただし、分析推進者は外注ベンダーからの分析結果の妥当性を評価し、分析依頼者に理解できるようにフィードバックする説明のスキルが必要です。分析推進組織・推進者は「問題を作る」と「問題を解く」の両方に通じることにより、分析依頼者とデータ分析者の橋渡し役となることが求められます。

⑦PoC/PoVによる小さな成功体験

データ利活用が成功しているケースではほとんどの場合、PoCやPoV*を数回実施し、実際に有益なデータ分析ができるか、またそれらがビジネス上どのような価値を生むかの検証フェーズを経ています。こうした積み重ねはデータ分析が社内に浸透する後押しとなり、本格的な組織化に向け、スムーズなスタートを切るのにも効果的です。

  • PoV:Proof of Value。新しい技術やアイディアが実現可能で、業務や事業に導入する必要性(価値)があるかを検証すること。

まとめ~DCSの支援実績とサービス紹介

いかがでしょうか。今回はDCSが支援した事例を紐解きながら、日本企業がデータ利活用を社内文化として根付かせ、継続して真のビジネス成果を挙げるために必要な取り組みについて解説しました。

DCSは、データ分析組織化の検討初期フェーズから本格的な実行フェーズに至るまで、ワンストップで総合的な支援をおこなっております。80 人超の実務経験が豊富なデータサイエンティストが在籍しており、これまで運送業、金融、特殊法人、大学、小売などさまざまな業種のお客様企業の1,200 名を超える方々の育成にも携わってきました。

三菱総研DCSのお客様企業

またシステム会社が母体のため、分析モデル作成だけでなく業務システムへの実装や、その後の運用・保守まで、幅広い範囲でのご支援が可能です。

データ利活用に必要なすべての要素イメージ

データ分析・利活用を始めたいがどこから着手すべきかわからない、着手したがうまくいかないといったお悩みを抱えている方は、ぜひお気軽にDCSまでお問い合わせください。

今回ご紹介した「データ分析組織をつくるための7つの必須条件」をさらに詳しく知りたい方向けのダウンロード資料も公開中です。社内検討にご活用ください。

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