三菱総研DCS・上智大学・福助社による産学連携企画
オープンデータと企業POSデータを活用したアイデアコンテスト

2024.04.23

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三菱総研DCS(以下、DCS)は、上智大学、福助株式会社(以下、福助社)と共に、産学連携企画「オープンデータ活用アイデアコンテスト」を実施しました。コンテストの内容は、上智大学の学生が、福助社が蓄積しているレジPOSデータと、DCSにて選定したオープンデータの提供を受け、両者を組み合わせて分析、新しいインサイトやソリューション案を発表するというもの。本レポートでは、各担当者へのインタビューをもとに、コンテストが企画された経緯や、実施後の手応えなどを紹介します。(敬称略)

前列左から、三菱総研DCS 中島直樹、上智大学大学院 大原佳子教授、福助株式会社 吉田直弘氏。後列左から、三菱総研DCS 帆足翼、松井信、石口純輝、福助株式会社 大森和子氏(撮影場所:上智大学 四谷キャンパスにて)
前列左から、三菱総研DCS 中島直樹、上智大学大学院 大原佳子教授、福助株式会社 吉田直弘氏
後列左から、三菱総研DCS 帆足翼、松井信、石口純輝、福助株式会社 大森和子氏
(撮影場所:上智大学様 四谷キャンパスにて)

<コンテスト概要>

  • 応募テーマ  :オープンデータとレジPOSデータの関係性を探り、福助社の店舗事業の戦略・施策につなげるデータ分析・インサイトの発見を行う
  • 応募者    :上智大学 理工学部、経済学部
            上智大学大学院 応用データサイエンス学位プログラム の学生
  • 使用するデータ:福助社の小売店舗とアウトレット店舗のレジPOSデータ(2020年11月~2023年10月分)、
            DCSが独自に収集・加工したオープンデータもしくは参加者自身で取得したオープンデータ
  • 発表方法   :10分でプレゼンテーション
  • 審査基準   :仮説設定力、データ分析力、プレゼン力
  • 審査会開催日 :2024年3月22日(金) 上智大学 四谷キャンパス

DCSが見据える社会課題

データにもとづいた企業の意思決定を支援するDCS

本コンテストの企画・運営にあたったのは、DCSです。現在DCSは、オープンデータ活用を研究開発のテーマの一つとして取り組んでいます。オープンデータとは主に国や地方自治体が調査・公開している、誰もが無償で使えるデータのことです。例えば、家計消費支出や、コロナ感染状況、鉱工業指数といったものが挙げられます。

一般的にオープンデータは公表に時間を要するため、リアルタイムな活用シーンには向きません。しかし、長期の定点観測として安定性が高い点、特定企業が収集したデータではないため恣意性が少ない点、サンプリングや集計プロセスに公平性が期待できる点などのメリットがあります。

三菱総研DCS 産業・公共企画部 新ビジネスグループ 課長 松井信
三菱総研DCS 産業・公共企画部 新ビジネスグループ 課長 松井信

「多くのオープンデータは入手しやすく、読んでも理解しやすい内容です。特に、企業を取り巻く外部環境を把握するためのデータとして、非常に役立つものと期待しており、サービス化を視野にいれています。」(DCS 松井)

DCSは、そうしたオープンデータと顧客の社内データを組み合わせた活用も進めています。これは、適切にデータを組み合わせることで戦略立案やトレンド予測などを行い、企業の意思決定に役立てられるのではないかという仮説によるものです。「社内には豊富にデータがあるが、分析が進んでいない」「オープンデータを活用しきれない」といった企業の課題解決を支援することでDXを後押ししています。

コンテスト企画の経緯

オープンデータ×社内データの活用アイデアで福助社と連携

三菱総研DCS 産業・公共企画部 新ビジネスグループ 石口純輝
三菱総研DCS 産業・公共企画部 新ビジネスグループ 石口純輝

「そのオープンデータと社内データの組み合わせについて、アイデアを社外からも広く募集できないかと考えたのが、今回のコンテスト企画の発端です。
一般的には『社外秘』である社内データですが、過去3年にわたりデータ活用に関してご相談をいただいていた福助様のご厚意で、コンテンスト参加者向けに特別にご提供いただけることになりました。」(DCS 石口)

福助社は1882年の創業。現在は、靴下、肌着、ストッキングの卸売り、小売業を営んでいます。DXを進めるなかで同社では、社内データ活用についても課題を感じていました。

福助株式会社 管理本部 情報システム室 大森和子氏
福助株式会社 管理本部 情報システム室 大森和子氏

「業務システムから出てくる実績データを、社員が見やすいよう抽出して加工する動きは進んでいます。
ただ、将来の市場ニーズやトレンドを予測するために、手元のデータをどう活用するか、他のデータをどう用いるか等、考えることやできることはまだ多くあると思っています。」(福助社 大森氏)

福助株式会社 管理本部 情報システム室 室長 吉田直弘氏
福助株式会社 管理本部 情報システム室 室長 吉田直弘氏

「例えば、オープンデータとの組み合わせで精度が高い販売予測ができれば、在庫を適切に保てるのではないか。経営に対しても、ただ数字の羅列を見せるのではなく、数字の分析からビジネスアイデアを導き、打ち手の提案まで踏み込めないか。
そんなふうにデータの活用を試行錯誤していたところに、今回のコンテストの話をいただき、『ぜひとも』とお答えしました。」(福助社 吉田氏)

データ分析の「理論」を学んだ学生たちに「実践」の機会を用意

福助社とともに本コンテストの共催者として名を連ねているのが上智大学です。
上智大学大学院 応用データサイエンス学位プログラムの大原佳子教授は、DCSの執行役員テクノロジーオフィサーでもあり、長らくビジネス現場でデータ分析の実務に関わってきた経歴があります。

上智大学大学院 教授 大原佳子氏(兼 三菱総研DCS 執行役員テクノロジーオフィサー)
上智大学大学院 教授 大原佳子氏(兼 三菱総研DCS 執行役員テクノロジーオフィサー)

「上智大学のデータサイエンスプログラム開始時より非常勤講師として教育に携わり、昨年のデータサイエンスの大学院開設にあたり、本務教員になりました。
本企画は、DCSと『オープンデータの取り組みを大学と連携できないか』と相談する中で、コンテストとして上智の学生からアイデアを募ってはどうか、と話がふくらみ実現したものです。これは学生にとっても貴重な学びの機会です。授業内でもデータ分析をする機会がありますが、結果が出やすいよう加工されたサンプルデータを扱うことがほとんど。実際の企業から提供される大量の生のデータに触れることで、これまで学んできたデータ分析の理論を『実践』に移してほしい。そんな期待がありました。」(上智大学大学院 大原教授)

実施プロセスと課題

福助社がレジPOSデータを提供、操作環境はDCSが構築した「Snowflake」

コンテストの内容を詰めていく議論において、最も長い時間を費やしたのがテーマ設定です。
ビジネス経験のない学生たちにとって身近でわかりやすいテーマを選ぶ必要があることと、福助社からどのような社内データを提供されるかがポイントとなりました。

「福助社の情報システム室のみなさんとご相談し、レジPOSデータを提供いただけることが決まりました。
ならば店舗運営に資するアイデアを募集するのが最適だと判断し『オープンデータとレジPOSデータの関係性を探り、福助社の店舗事業の戦略・施策につなげるデータ分析・インサイトの発見を行う』というテーマに着地しました。」(DCS 石口)

レジPOSデータは、レジで商品のバーコードを読み取ることで集められるデータで、各商品が購入された日時、個数、店舗などが含まれます。顧客の消費行動をデータ化したもので、当然ながら社外秘の情報です。また、その量も膨大。
提供されたのは、2020年11月から2023年10月までの福助社の小売店舗とアウトレット店舗のレジPOSデータであり、数千万レコードにのぼります。

「もちろんこれまで外に出したことがないデータですから、なかにはマスキングした項目もあります。コンテストの応募者とは秘密保持契約(NDA)を結ぶ形とし、定められた範囲内での利用条件を設定することで、データ提供を実現する道筋を作りました。」(福助社 吉田氏)

三菱総研DCS 産業・公共企画部 新ビジネスグループ 帆足翼
三菱総研DCS 産業・公共企画部 新ビジネスグループ 帆足翼

また、セキュリティを確保しつつ機密データをやりとりできる操作環境も不可欠です。この環境は、SaaS型のデータ提供サービス「Snowflake」を選定し、DCSが構築しました。
環境構築の担当は、「Snowflake」選定理由や構築への対応についてこう語ります。

「上智大学の学生が授業などでSnowflakeを使っていると聞き、『応募者にとっての使いやすさ』という観点から選択しました。大量のデータを保管しておく際のコストが安いことも、Snowflakeのメリットです。
私自身はSnowflakeの経験が豊富だったわけではないのですが、ノウハウを社内外から集めることで、約1ヶ月で構築するというタイトなスケジュールに対応することができました。」(DCS 帆足)

◆「Snowflake」構築に関するブログはこちら◆
【前編】Snowflakeでデータレイクを構築してみた!<データ共有編>

応募学生には3者で徹底したフォローアップ

募集開始後から審査当日まで、上智大学・福助社・DCSの3者は、応募者を密にフォローアップし、実践的なデータ分析に初めて触れる学生たちのバックアップが進められました。

「大原教授とDCSとで1組1時間の相談会を設けてきました。データの読み方を確認してくるチームもあれば、データ分析をある程度進めたところで『この分析で合っていますか』と具体的な指摘を求めてくるチームもあり、ハッとする意見もありました。ただ学生の視点では、相談会があること自体が『この日までに進めておかなくては』というメルクマールになる面もあったようです。
学生からのレジPOSデータに関する質問に対しても、福助様が即日対応してくださることで、学生にもスピーディーにデータ分析を進めてもらうことができました。」(DCS 石口)

コンテスト審査総評

データ分析を「手段」にビジネスアイデアを導いた学生たちを高評価

審査会は2024年3月22日、上智大学 四谷キャンパスで開催され、最優秀賞1組、優秀賞2組が選出されました。
審査員は、上智大学大学院の大原教授、福助社の吉田氏、そしてDCSでデータ分析やデータアナリスト養成に従事し、東京都主催のオープンデータハッカソンでの受賞歴もある中島直樹。
中島は、審査基準である「仮説設定力」「データ分析力」「プレゼン力」の3点に着目しながら、次のように総評を述べました。

三菱総研DCS デジタルイノベーション部 第1グループ 課長 中島直樹
三菱総研DCS デジタルイノベーション部 第1グループ 課長 中島直樹

「まず『福助社の店舗事業の戦略施策』という同じテーマに対し、それぞれのチームが異なるアプローチをとったところが興味深かったです。
例えば『強い所をさらに強くする』アプローチと『弱い所を強くする』アプローチの2つ。これは、3つの審査基準のうちの「仮説設定力」に関する部分です。
目指すビジネスの理想像も「こうしたらいいのでは」という仮説が起点となります。そして実現に向けて理想像と現状のギャップから課題を発見していくプロセスにも様々な視点で仮説設定していくことが非常に重要です。
 データ分析力については、「データ分析を目的化せず、仮説を立証する手段としてデータ分析を使えているかどうか」がポイントとなりました。

本コンテストは、データ分析のコンテストではなく、ビジネス上の課題を解決する『アイデア』のコンテストです。
そのために、オープンデータとレジPOSデータを組み合わせながら『〇〇だから〇〇です』という仮説の証明を積み上げていくのが、本コンテストの主眼。そこを見失うと、データ分析が目的化するおそれがあります。
いわば『データ分析が楽しくなってしまう』のです。データ分析には、セオリーはあっても正解がありません。『こんな見方もできる、あんな見方もできる』と考えているうちに楽しくなる。しかしそれだけだと、データをビジネスに還元して価値のあるものにする決定打にはなかなか辿り着きません。この点では、チーム間で若干の差があった印象です。」(DCS 中島)

一方、「どのチームもレベルが高かった」と中島が語るのはプレゼン力です。他の審査員も意見が一致しました。

「プレゼン資料も、学生とは思えない出来映え。期待以上でした」(上智大学大学院 大原教授)
「わずか10分の発表にも、しっかりしたストーリーが込められていました。短時間の発表でもプレゼン力が素晴らしく、本当に感心しました。」(福助社 吉田氏)

「学生ならでは」の感覚はビジネスの現場でも通用する

審査上、もう1つ重要なポイントがありました。それは「最終的に、ビジネスの現場で、有用性が感じられるかどうか」です。この点について、福助社の2人は次のように評価しました。

「私は日常的に社内データを扱っていますから、データを積み上げて結論を出す難しさはそれなりに理解しているつもりです。
だからこそ、この短期間で、初めて触る会社のデータをもとに、これほどのレベルの仮説、分析、結論が出てくるのかと、驚きました。」(福助社 大森氏)

「初めての試みですから、コンテスト前は学生からどんなアイデアが提案されるのか心配もありましたが、われわれが社会人として働くうちに鈍化してしまった感覚、新しい目のつけどころには期待していました。結果、期待以上の成果が得られたと思っています。
商品開発や販売戦略の部分では、すぐに実行できそうなアイデアや、もっと深堀りしたいアイデアがいくつもありました。率直に言って、審査していて楽しかった。全チームに優秀賞をあげたいぐらい、素晴らしいアイデアばかりでした。」(福助社 吉田氏)

DCS中島も「学生ならではのアイデアの価値。それが一番の発見だったかもしれません」とコンテストを振り返ります。
「社会人になると失われるのは『無邪気さ』です。特に自分の職場のことになると、仮に強烈な仮説を思いついても『こんなの無理』『これは前にやった』などと否定してしまいがち。でも学生の立場だからこそ、『こんなの無理だよ』『これは前にやったよ』からもう一歩、先に進める力がある。その強さが出たコンテストだったと感じました。」(DCS 中島)

コンテストの成果と今後

データ活用の道もオープンイノベーションで拓けると確信

コンテストを終えた今、どんな成果を手にしたのでしょう。あらためてDCS、上智大学、福助社の3者に聞きました。

「オープンデータは、外部環境などを捉える良いデータであると改めて自信をもてました。ですがそれ以上の収穫は、社外と交流することの大切さ。
例えば、当社が用意した『全国』ベースのオープンデータに対し、学生が自身で取得したオープンデータを組み合わせて、『地域ごとに違う傾向が見られる』という着眼点が得られました。こうした意見は産学連携含め、社外との交流の場ならでは。データセキュリティなど解決すべき課題は多々あっても外部との交流は続けていくべきだと、思いを新たにしました。」(DCS 石口)

「学生たちがどのレベルの発表を用意してくるか、内心は心配していたのですが、ある程度みなさんの期待に応えられたようでほっとしています。また、参加した学生の話を聞いても皆が『すごくためになった』と。
データ分析から施策を考えビジネスに落とし込む際の苦労は、通常の授業では決して得られないものです。店舗まで足を運んで仮説立案のヒントを得ていた学生もいました。また機会があれば、ぜひ学生にはどんどんコンテストに参加してもらいたいと思います。」(上智大学大学院 大原教授)

「今回のイベントを経て、私たちがあらためて価値を見出したのが、『仮説を立てる』部分と『提案する』部分です。学生たちが発表した仮説は、どれもデータに基づいた根拠のある仮説でした。また提案する際も、データ分析をもとに聞く人を納得させるストーリーを語っていました。
私たちの業務プロセスでもこれらをおろそかにせず、より精度を上げて実践していくことができれば、経営に対しても現場に対しても、より説得力のある提案ができると強く感じました。チャンスがあれば、コンテストに参加してくれた学生をインターンに招いたりして、さらに詳しい意見交換をさせていただきたいですね。」(福助社 吉田氏)

こうした感想を受けて、本コンテストを企画したDCS石口は、次のように話します。

「このような機会は、企業にとっても学生にとっても大きな学びとなることが、みなさんのお話を聞いてよくわかりました。
オープンイノベーションが当たり前の時代だからこそ、社内に閉じこもらず、こういった社産学連携や社外の企業との連携企画を継続していきたいと考えています。」(DCS 石口)

コンテスト最優秀賞を受賞した学生からのコメント

『コンテストを通じて、エビデンスに基づくビジネス課題の特定から、仮説の立案、仮説検証のためのデータ分析、そして施策の提案に至るまで、実務に近い経験を積むことができました。特に、実ビジネスの加工されていないPOSデータの分析や、設計した特徴量に適するオープンデータの探索など、学生時代にはなかなかできない貴重な経験をすることができました。さらに、我々はチームとして参加したため、チームでのプロジェクト運営や、データ構造の理解のための相互連携を経験し、データ分析プロジェクトにおけるチームワークの大切さを再認識しました。
本コンテストへの参加を通じて得られたこれらの経験は、今後のキャリア形成においても大いに役立つものであると感じています。改めて、このような貴重な機会を提供してくださった福助様、三菱総研DCS様に御礼申し上げます。』

(上智大学大学院 応用データサイエンス学位プログラム 修士1年 宮部紅子、田中理佳、染葉舜介)

共催 大学・企業について

1913年にカトリックのイエズス会によって設立された総合大学。多様な文化や価値観を受け入れ、グローバル社会の発展に寄与するリーダーの育成に取り組んでいます。世界83ヶ国・地域の400を数える大学と協定を結び(2024年3月時点)、学術面での交流や在学生の相互交換を積極的に進めています。英語による学位プログラムや、国際機関やグローバル企業との協働、多彩な留学プログラムの他、国内外でのインターンシップ科目の充実にも注力しています。

1882年(明治15年)に足袋装束店として創業。「心とカラダに『福』を。~今日の感動を未来の文化へ~」を企業理念に、140余年もの長い歴史の中で培った技術で、お客様に「福」を感じていただけるようなモノづくりやサービスを目指すレッグ・インナーウエアメーカーです。

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【前編】Snowflakeでデータレイクを構築してみた!
<データ共有編>

DCSブログにて、担当者の執筆による「Snowflake構築」をご紹介します。
※後編は 2024/5/9 公開予定です。

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