工事現場の昼食難民を予測
東京都主催オープンデータハッカソンで最優秀作品賞獲得

2022.12.08

  • データ活用・アナリティクス
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戸田建設株式会社と三菱総研DCS株式会社は、『都知事杯OpenData Hackathon2021(*1)』に共同チーム「ToDCS」として共同参加しました。最優秀作品賞を獲得した、工事現場の昼食難民とキッチンカーの出店をマッチングするサービス『PECO navi TOKYO』の取り組みをご紹介します。

戸田建設株式会社(以下、戸田建設)と三菱総研DCS株式会社(以下、当社)は、『都知事杯OpenData Hackathon2021(*1)』に参加し、<最優秀作品賞>を獲得いたしました。そのサービス開発に至った背景から開発内容について紹介します。

最優秀賞を喜ぶ 戸田建設 斎藤寛彰氏と三菱総研DCS 中島直樹
左:戸田建設株式会社 斎藤寛彰氏/右:三菱総研DCS 中島直樹
(撮影場所:戸田建設株式会社様 本社ビル)

『都知事杯OpenData Hackathon』とは、行政の保有する公開データ(オープンデータ)を活用して、行政課題の解決や都民のQOL向上に繋がる新しいサービスの創出を目的に、シビックテックや民間企業等が競う東京都主催のハッカソンです。開催初年度となる2021年度は41チームが参加し、3か月にわたってサービス開発に取り組みました。
戸田建設と当社は、本ハッカソンにて共同チーム『ToDCS』として参加し、工事現場の昼食難民と需要の高いエリアに出店したいキッチンカーをマッチングを促すサービス『PECO navi TOKYO』を開発しました。
本サービスは、エッセンシャルワーカーの抱える課題解決に資することや、オープンデータを活用した工事現場における就労人数予測モデルの独自性が評価されました。

『PECO navi TOKYO』の概要

サービス概要

『PECO navi TOKYO』は、工事現場で働く技能労働者の人数や嗜好を予測し、キッチンカー事業者に“売れる場所”を示すことで、一時的に昼食需要が増加する大規模な工事現場と、柔軟な移動が可能なキッチンカー事業者とのマッチングを促すサービスです。

『PECO navi TOKYO』の画面イメージ
『PECO navi TOKYO』の画面イメージ

サービス開発に至った背景

本サービスは、工事現場で起こる「現場作業員の昼食における課題」をきっかけに検討をスタートしました。
本サービス開発を主導した戸田建設の斎藤寛彰氏は、現場作業員の昼食の選択肢が少ないとかねてより感じていました。大規模な工事現場では、多くの技能労働者が集まり、かつ休憩時間も固定のため、一時的に周辺のコンビニや飲食店等の食事の供給を上回る需要が発生します。飲食店に入っても混雑のためすぐ食べることができず、コンビニでも人気の惣菜はすぐに売り切れており、結局毎日カップ麺を食べているといった技能労働者も少なくありません。実際に、現場の技能労働者100人にアンケート調査を実施したところ、約85%が“工事現場で食事に困った経験がある”と回答しました。
他方、外食産業はCOVID-19の影響により苦境を強いられ、従来のように顧客が来店するのを待つだけでなく、店頭販売や移動販売などの販路開拓といったニューノーマルへの対応も必要となってきました。そこで、工事現場に応じた食事ニーズを満たすことで、建設業界のみならず、外食業界の課題解決にも貢献できるサービス実現を目指しました。

標識設置届を活用した工事現場の昼食需要予測

工事現場の看板情報 (標識設置届):工事に関する詳細な情報が 記載されたデータ
工事に関する詳細な情報が記載されたデータ:工事現場の看板情報(標識設置届:看板を設置する際に自治体に提出される書式)

本サービスの大きな特徴は、キッチンカー事業者が”売れる工事現場”を知ることができる点です。どこで工事があり、その現場の需要がどの程度か外部からは通常わかりません。本サービスでは、そうした各現場の需要に加え、嗜好を予測・可視化し、柔軟な食事供給が可能なキッチンカー事業者に提供することで、現場周辺での食事供給を促進しています。
このような機能の提供には、そのエリアの工事現場に「どのくらい人が集まり、昼食需要が発生するか」を予測する必要があります。予測機能を開発するうえで、地域で発生している工事の情報をどう収集するかが課題になりました。各現場の需要予測のために、着目したのが工事現場の標識(右図:標識設置届)でした。

工事現場の前を通りかかるときに、誰もが一度は目にしたことがあろうこの標識には、建物の名称や建築主名のほか建築面積や工期といった情報も記載されています。延べ面積が1,000㎡を超え、かつ高さが15mを超える中高層建築物の各工事現場では事前にこうした情報を自治体に報告し、現場に標識を設置する義務があります。戸田建設でも標識設置届を提出していることもあり「標識を見れば工事の規模感がわかる。これを就労者数予測に活用できないか」と考えました。

工事ごとの就労者数推移カーブ:建設会社がもつ独自データ10年分を教師データとして活用(450件)
工事ごとの就労者数推移カーブ:建設会社がもつ独自データ10年分を教師データとして活用(450件)

また、戸田建設では過去の自社工事における就労者数のデータを保有しており、このおかげでどのような工事に対して何人程度作業員が必要なのかがわかりました。そこで、当社では東京都が保有する標識設置届の情報と戸田建設者の工事実績データを組み合わせることで、東京都で行われる大規模工事の就労者数や推移を予測する機械学習モデルを構築しました。
今回構築したモデルでは、機械学習を用いて過去の類似する工事を抽出することで、予測値の算出を行っています。大規模な工事では、工期ごとに就労者数が大幅に変化しますが、工事ごとの就労者数推移カーブ(右図)の違いに着目して工事間の類似度の算出を行っています。

外部データ活用のむずかしさ

実際のデータ活用においては、必要なデータをすぐに入手・活用できるケースばかりではありません。今回は外部データを利用するということで、特に難しい部分が二点ありました。
第一に電子データが入手できなかったことです。標識設置届の情報を得るために、工事現場を巡るのは現実的ではなく、提出先である自治体から入手を検討しました。しかし、各自治体に問い合わせたところ、情報公開についてのポリシーや手続きは自治体によってバラバラで煩雑でした。そこで都内の大規模な工事現場(延べ面積10,000㎡)についての届け先である東京都に絞って、標識設置届の情報を入手しました。当時は電子データ化されてはいなかった(*2)ので、都庁に直接足を運び、対象となる設置届(年間約100件)をコピーして持ち帰り、自社で電子データ化しました。
第二に自社データとの相違についてです。ようやく入手したデータについても、自社データとの親和性や費用対効果の検討、EDA(*3)など、実際に利用価値のあるデータかを精査する必要があります。特に自社データとの親和性については、自由記述となっていた「建物の用途」欄については各社によって書き方が異なるため、自社の基準に照らし合わせるためのマスタ整備を丹念に行いました。これまで多数の企業のデータ利活用を推進し、ハッカソンのメンバーでもある当社の中島直樹も「データからどのように最終活用イメージにつながるかという目線で検証を行うことが重要です」と目的や価値を意識したデータ分析を強調します。

データを活用した新サービス検討にあたって

データを活用したサービス検討で大事なのは、データありきではなく、あらかじめ課題を設定したうえで、その解決のためにどんなデータを利用できるか検討することです。前述したように、標識設置届は電子データ化されておらず、オープンデータとしては公開されていませんでした(*2)。あくまで「工事現場の昼食難民」という課題の解決のために、どんなデータを活用できるか広く探したところ、標識設置届の活用に至りました。
また、新サービスの検討にあたっては不明瞭な部分もあるため、やってみなくてはわからないことも多くあります。本サービスでは、現場労働者への食事アンケートの実施や戸田建設の自社現場に実際にキッチンカーを呼んで集客が見込めるかなど、思いついた仮説に対しては積極的に検証を行いました。チームの強い推進力に加えて、「上長に説明を行ったら、よしやってみようとなった」と新しい取り組みにポジティブな戸田建設の組織文化も本サービス開発を後押ししました。

本サービスは2022年3月にβ版リリース後、サービス化に向けての取り組みを続けています。(*4)

開発ポイント・オープンデータ活用へのアドバイス

最後に、チーム『ToDCS』で中核を担った二人に本サービス開発のポイントやオープンデータ活用のアドバイスを語ってもらいました。


戸田建設株式会社 斎藤寛彰氏

戸田建設株式会社 斎藤寛彰氏

「通常安全管理に使われている工事現場の就労人数実績データを、今回全く異なる文脈の課題に応用するアイディアを着想し、実装しました。オープンデータのみでも、自社データのみでも出せない価値を提供することができたと思います。データビジネスを検討する際には、データを眺める前に、しっかり課題に向き合う姿勢が肝要です。」

三菱総研DCS株式会社 中島直樹

三菱総研DCS株式会社 中島直樹

「作ったサービスが“すごいね”で終わらないよう、どんな価値に繋がるか、貢献できるかを考えました。そのために、アイデア段階からビジネス目線や社会課題目線で最終活用イメージを周囲と共有しながら進めることが大事だと感じます」

まとめ

本レポートでは、『都知事杯OpenData Hackathon2021』での取り組みについて紹介しました。
データを活用した新サービスの開発では、データ活用スキルに加えて、ビジネス目線をかけ合わせて推進する必要があります。
当社ではデータアナリティクスサービスの一環でPoCの支援も行っていますので、これから自社や外部データを活用して新規サービス開発を検討していく方、現在取り組んでいる中でお困りになっている方はぜひ当社にご相談ください。
『PECO navi TOKYO』についても、ぜひご利用ください。

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