<導入事例>
AI技術とマネー・ローンダリング防止対策の知見を発揮し、
届出要否判定業務に寄与する予測モデルを開発

株式会社三菱UFJ銀行 様

  • AI
  • 金融向けサービス
  • 金融業
  • データ利活用
写真左から 三菱総研DCS 冨岡嗣頼/富田起世弥 三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 辻野洋志様(PC)/小川温様/池野谷優理様/與儀実泰様/坪井智様 三菱総研DCS 杉本唯/鈴木洸二朗
写真前列左から 株式会社三菱UFJ銀行 箕浦直樹様/中倉賢治様/遠藤眞理様/小坂潤子様/山田雄介様
写真後列右から 株式会社三菱総合研究所(以下、MRI)木村豪一/高橋怜士/三菱総研DCS株式会社(以下、DCS)鈴木直樹/石原達司

テーマ

AI技術の活用により、AML(※1)における「疑わしい取引の届出業務」の効率性向上を支援

期間

2019年~継続中

概要

近年、ますます重要性が高まるAML分野において、業務の高度化・効率化に向けて、AI技術の活用をDCS/MRIの協業体制で支援。AMLの知見を有するDCSとAI技術の知見を有するMRI両社の強みを活かし、AIによる届出確率予測モデルの実現に貢献している。

※1 AML:AML/CFT(Anti-Money Laundering(マネー・ローンダリング防止対策)/ Counter Financing of
  Terrorism(テロ資金供与防止対策)を総括してAMLと表記

POINT 01

長年の常駐経験で得られたAMLに関するDCSの知見とMRIの高度なAI技術を組み合わせ、
疑わしい取引の届出確率予測モデルを構築。

POINT 02

ユーザーの声を聞き、業務の効率化に寄与するソリューションを提供。

POINT 03

適切なモニタリングとチューニングを実行する、信頼度の高い運用体制と改善への取り組み。

資金面から犯罪撲滅をめざすAML業務で取引をモニタリング

FCOJインテリジェンスオフィス モニタリング第一課 調査役 中倉賢治様
FCOJインテリジェンスオフィス モニタリング第一課 調査役 中倉賢治様

中倉様
AMLは、犯罪者やテロリスト等につながる資金を断つ対策を講じることで、資金面から犯罪組織や犯罪行為の撲滅をめざしています。三菱UFJ銀行は、各国の規制当局やFATF(※2)勧告による国際社会の枠組み、金融庁策定の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づき、AMLシステムの開発・運用を通じてグローバル金融犯罪対応を強化しています。

  • 2 FATF(Financial Action Task Force):マネー・ローンダリングやテロリストへの資金供給を防ぐ対策の基準作成や国際協調を推進する政府間機関

当行のグローバル金融犯罪対応の専門家集団である「FCOJインテリジェンスオフィス」のミッションは、犯罪者によって資金洗浄やテロ資金供与等のマネー・ローンダリングに当行の金融サービスが利用されることを防止し、金融システムの健全性や信頼を確保することです。私が属するモニタリング第一課は、日本国内における取引をモニタリングし、疑わしい取引の判定・届出業務を担います。AMLシステムで検知されるアラート(異常取引の疑いがある警報)について、規定に則り「疑わしい取引」かどうかを判定し、当局に届け出る法令対応業務を行っています。

「疑わしい取引の届出業務」の高度化、膨大化にAIの活用を検討

中倉様
麻薬資金、詐欺、脱税などの伝統的な金融犯罪に加えて、近年ではテロリスト活動による脅威やサイバー犯罪の増加にも目を光らせなければなりません。暗号資産等の金融技術やテクノロジーの進歩と拮抗して、金融犯罪の手口も巧妙化の一途をたどっています。AMLの対象範囲が拡大し難易度も上がっていることから、対策の高度化および効率化を図るために最新のテクノロジーの活用が世界的に求められるようになりました。

実際に当行でも、毎月システム検知される大量のアラート(警報)を行員が手作業で確認し、疑わしい取引の届出に対する要否判定を行うため、業務量は膨大です。限られた人員で正確かつタイムリーに当局への届出を行うには、届出確率の高いもの、低いものを予め選別するなど、効率的な判定業務を行うための仕組みが必要です。そこで、AIにより届出確率の予測とその判断根拠を提示し、調査工数や届出のリードタイムの削減を図ることを目的に、常駐するDCSにAI導入について相談したところからプロジェクトが始まりました。

FCOJインテリジェントオフィス リスクコントロール課 調査役 小坂潤子様
FCOJインテリジェントオフィス リスクコントロール課 調査役 小坂潤子様

小坂様
私は、グローバル金融犯罪対応を目的とする様々なシステムやモデルの管理、運用強化、高度化推進を主業務とするチームに属しています。グローバルかつ領域横断で、AMLのKYC(Know Your Customer:本人確認業務)リスク評価および取引モニタリングシステムの自動シナリオの企画を推進しています。

大量に生成されるアラートすべての取引内容につき、疑わしい取引の届出要否判定を行うには、大変な負荷がかかります。現部署に配属当初、私自身がマネー・ローンダリングの尺度を理解するのに少し時間を要したこともあり、より分かりやすい物差しを用いた分類が必要だと考えていました。前職で「貸倒確率モデル」を作成した経験があり、それに近いモデルができないかと検討していたところ、AI開発の話を聞きプロジェクトに加わりました。

届出確率で取引を3区分し、判定の迅速化と効率化を図る

小坂様
最近のAIは、大量のデータで頻繁にモデリングする機械学習により、現実とモデルの乖離を小さくしています。しかし、今回の予測モデルは、算出した届出スコアの判断根拠を提示しなくてはならないため、モデリングにおいて以下の要素を組み込みました。

  • サンプルを「個人」「法人」「外為」「預為」の4つの母集団にセグメント化し、変数の要約で類似関係を明確にする
    (例:法人を従業員数、資本金などをもとに企業規模をセグメントする)
  • Light GBM、Random Forest、ロジスティック回帰など、複数のアルゴリズムでのテストを実施
  • モニタリング項目の充実化、過学習を防ぐためクロスバリデーションの実施
    これらの取り組みにあたり、当行のAML業務に精通するDCSとAIに詳しいMRIのサポートは大変心強く、
    モデル開発にも知見を存分に発揮していただきました。

中倉様
モデルのイメージは、まずKYCリスク評価と届出確率予測により、アラートを「高リスク」、「中リスク」、「低リスク」の3段階に区分します。高リスクと判断された取引は原則として「届出」、低リスクについては原則「届出不要」としつつ、AIの判断根拠を確認して最終的に届出の要否を判定します。中リスクの取引は、AIによる判断結果の内容を精査し必要に応じて追加調査を行います。スキルや熟練度の高い行員が「中リスク」を判定し、「低リスク」「高リスク」は比較的経験年数の浅い行員が担当するイメージを想定しました。

現在、「高リスク」と「低リスク」の届出確率予測は概ね良好な結果が出ていますが、「中リスク」ゾーンではAIの判断による届出確率予測と、人間による最終的な届出要否判定が一致しないケースがあります。またAIの判断根拠として示される文言や数値が、判定者の肌感覚と合わないケースもあります。システムの稼働から日が浅いこともあり現時点では判定の参考にとどまっていますが、的確なトリアージ(※3)とタイムリーな届出をめざして、DCS、MRIとともにしっかり調整していく必要があります。

  • 3 トリアージ:特定の基準に従い、優先順位を決めること。ここでは、疑わしい取引に関するアラートを判定者に振り分ける作業を指す

AIによる届出確率予測が客観的な指標に

グローバル金融犯罪対策部 オペレーショングループ テクノロジーチーム 遠藤眞理様
グローバル金融犯罪対策部 オペレーショングループ テクノロジーチーム 遠藤眞理様

遠藤様
私は、国内AML分野におけるレグテック(※4)の導入推進を担当しています。特に、疑わしい取引の届出業務は人手を要する部分が多く、テクノロジーの適用による業務効率化の推進が喫緊の課題です。今回のAI導入においては、既存システムとの協働の観点からプロジェクトに参加しています。

  • 4 レグテック(Reg Tech):Regulatory×Technologyから生まれた造語。金融業界において、規制に対しテクノロジーを駆使することで、迅速かつ効率的で高品質な金融規制遵守をめざす取り組み

疑わしい取引の届出業務では、AMLシステムで検知されるアラートについて属性、取引並びに取引原資、相手先情報が必要です。これらの情報を行内から収集する業務は、2018年にRPAを導入し、業務効率が著しく向上しました。しかし、RPAは人の手による作業の置き換えは可能ですが、判定コメントまでは作成できませんので、結局のところ人が介在します。RPAとAIのハイブリッドによる判断の高速化、高度化が今求められている課題と認識し、その実現にDCSと一緒に取り組んでいます。DCSは長年のAML常駐経験でデータや判定基準を理解しており、私たちが実現したいことを同じ視点でとらえてくれます。そこに、MRIの豊富なAI知識が加わり、非常に仕事がしやすい環境で開発に取り組めています。現場では、徐々に望む成果に近づいている実感があります。

グローバル金融犯罪対策部 オペレーショングループ テクノロジーチーム 調査役 山田雄介様 

山田様
私は国内のコルレスチームで、国内顧客に関する取引モニタリング、KYC、コルレス取引モニタリングに関わるシステム開発および保守メンテナンスを担当しています。

本プロジェクトは、「個人顧客について発生したアラートの届出確率を生成する AIプロジェクトフェーズ1」として、2021年8月にリリースされました。これに先立ち、実際に業務を担う部門にパイロット版を使用してもらい、アンケートを実施しました。

アラートの担当振り分け作業については、「効率的に行える」との回答が多数ありました。特に新規アラートについて、以前は参照できるアラートや指標がなかったため振り分けに時間を要していたところ、AIによる届出確率が客観的な指標となり、効率化に寄与しているとの声もありました。また、疑わしい取引の届出業務については、大部分のケースにおいて「参考になった」との回答を得ました。本業務とAIの親和性を実際の業務から確認でき、今回のAIモデルが業務効率化に資するとの評価を得たと考えています。

システムを構築するにあたり、業務効率化に関する業務現場目線での意見を十分考慮することも、大切なプロセスです。DCSは長年の経験から、現場の業務にも精通しており、共通言語でプロジェクトを進めていけるパートナーとして信頼しています。

ナレッジを活かし、ベストソリューションを共に追求する

中倉様
届出確率予測は、時間の経過やトレンドの変化に合わせた再学習などが必須であり、DCSには継続してモデルの精度維持向上のためのモニタリングやチューニングをお願いしています。今後は、米国基準のGlobal Standard対応も踏まえた判定コメントの自動生成にも挑戦したいという思いもあります。さらに、既存のAMLプロセスで検知できていない領域も含め、異常性の高い未知のリスクを保持する口座や取引などの特定にも、AIを活用していけたらと思っています。次のバージョンのリリースに向けて、課題は山積みです。今後もDCS、MRIとともに、システムをよりブラッシュアップしていくつもりです。

小坂様
届出確率予測モデルリリースにより、一つ一つのアラートが同じ尺度の物差しで測ることが可能となり、アラート全体を俯瞰してみることができるようになりました。本システムの活用により、過去に起こったできごとだけでなく、今後起こりうる犯罪などを未然に検知できるAIシステムの構築へとつなげていければと思います。そのためには、DCSのAML知識およびシステム開発能力やMRIによる最新のAIなどの活用手法が必須です。これからも共に取り組んでいきたいと考えています。

山田様
疑わしい取引の届出業務とAIには親和性があります。今後は業務効率化の観点のみならず、当局宛の届出を実施する資料の作成を、より品質の高いものにすることが、AIの活用によって可能になるのではないかと思っています。DCSとMRIには、引き続き手厚いサポートを期待しています。

グローバル金融犯罪対策部 オペレーショングループ テクノロジーチーム 次長 箕浦直樹様
グローバル金融犯罪対策部 オペレーショングループ テクノロジーチーム 次長 箕浦直樹様

箕浦様
AIを適用すること自体が目的ではありませんが、銀行のデジタル・トランスフォーメーションを推進する立場として、適材適所でその活用には積極的に取り組みたいと思っています。特に、大量のデータ分析も伴う金融犯罪対策領域では、業務高度化にテクノロジーの有効活用が必須であり、AIとの親和性も高いため、先の展望も持ちながら戦略的に進めていきたいと考えています。

DCSとは、長年先進的な取り組みや重要プロジェクトを協働して手掛けており、今回のAIプロジェクトもその一環です。AIの豊富なナレッジを有するMRIにも加わっていただき、2021年8月にリリースし、2022年5月には適用範囲を拡大、現状はさらなる機能拡充も進めており、着実にシステムが育っています。ディープラーニングをはじめとするAIの世界は進化が激しいため、その技術動向は注視しつつ、プロジェクト内で蓄積したナレッジを活かしてAML以外の領域に展開していくことも視野に入れ、共にベストソリューションを追求していきたいと考えています。

2022年5月取材
所属・肩書は取材当時のものです

企業プロフィール

株式会社三菱UFJ銀行 様

三菱UFJフィナンシャル・グループは「世界に選ばれる、信頼のグローバル金融グループ」をめざす姿に掲げており、三菱UFJ銀行は商業銀行としてその中核を担います。

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