特別支援教育におけるロボットを活用した
ソーシャルスキルトレーニング(実証レポート)

2025.01.21

  • ロボティクス
  • 教育機関
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富山県が主催する2023年度の「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」において、三菱総研DCS(以下、DCS)の「教育の充実」をテーマにした提案が、実証実験プロジェクトとして採択されました。
本プロジェクトでは、特別支援学校に通う高校生を対象に、コミュニケーションロボットサービス「Link&Robo for グローイング」を用いたソーシャルスキルトレーニング(以下、SST)を実施。ここでは、SSTによる効果について、検証した内容と実証結果をご紹介します。

<実証実験概要>

特別支援学校に通う高校生を対象に、ロボット相手のコミュニケーションを通じて、非言語を含むソーシャルスキル向上の効果的な手法や、生徒たちのコミュニケーションに対する気持ちの変化を検証しました。定量的なデータによる効果測定を行うため、感情分析ツールのプロトタイプを開発。実証実験では、ロボットを使用したSSTを実施し、効果測定データの有用性評価、これら実証による定量的なSSTの効果測定方法の確立を目指しました。

実証実験の背景と目的

本実証実験で使用した「Link&Robo for グローイング」の機能
本実証実験で使用した「Link&Robo for グローイング」の機能

「Digi-PoC TOYAMA」実証実験プロジェクトは、富山県の地域課題をデジタルで解決する事例の創出を目的とした推進事業です。DCSは「教育の充実」の分野で、地域課題である「障がいのある子どもたちの新たなコミュニケーションスキル向上の手法」をテーマに、コミュニケーションロボットサービス「Link&Robo for グローイング」を用いたSSTの実施と効果測定データの有用性評価、これら実証による定量的なSSTの効果測定方法の確立を提案し、採択されました。

「Link&Robo for グローイング」は、子どもの興味をひきつける授業の支援や、自己表現をサポートし、特別な支援が必要な子どもたちの「できる」という前向きな気持ちを育むことをコンセプトとしたサービスです。
客観的なデータを得る機会が少ないため、実証実験を通じて、特別支援学校における子どもたちや先生、現場の方々に実際に使ってみていただき、率直な感想やご意見をうかがい、今後のサービス向上につながる要素を見つけることを目的としています。
本プロジェクトは、当該サービスの右図の機能を使用して、実証実験を行いました。

実証実験の内容

実施時期

2023年10月〜2024年3月

対象

富山県内の特別支援学校「しらとり支援学校」「高岡高等支援学校」の2校の生徒(4グループ全16名)ならびに各校の教員

実施方法

STEP1:教員が操作するロボットとの会話練習(学校内利用)
STEP2:ロボットを見守り役として、初対面の人との会話練習(学校外交流)

取得データおよび検証手法

1. 参加者による評価(事前・中間・事後に実施)

アンケート、ソーシャルスキルチェックシートおよびヒアリング結果
 • 生徒へのアンケート:ロボットとのSSTへの評価や気持ちの変化など
 • 教員 へのアンケート・ヒアリング:ロボットとのSSTによる生徒のコミュニケーションスキルの変化など

アンケート・ソーシャルスキルチェックシート
アンケート・ソーシャルスキルチェックシート

2. 動画による評価(授業毎に実施)

ロボットの内蔵カメラで撮影した動画を感情分析AIを組み込んだ感情分析ツールで評価
 ・ロボットや初対面の人とのSST中の感情の推移など

集団分析 感情分析ツールの画面イメージ
集団分析 感情分析ツールの画面イメージ

実証実験の結果

サマリー

実証実験から、ロボットはSSTのファーストステップとして有用であり、感情分析データは、生徒への指導・評価への活用が期待できるものであることがわかりました。「Link&Robo for グローイング」と感情分析ツールを併用できるようにサービス提供することが、今後のレベルアップの方向性として見えてきました。

1. ロボットという存在の有用性

  • SSTの相手として、人よりも受け入れやすい存在であり、リラックスして素直な感情を出せる相手ととらえられている。
  • 障がいの程度が重い生徒ほど擬人化してとらえる傾向があり、愛着を感じる対象となっている

2. ロボットとのSSTの有用性

  • 軽度よりは、中程度の比較的障がいが重い生徒の日常生活に必要なSSTに、より有効である
  • ヒューマノイド型であるため、「視線をあわせる」「適度な距離をとる」など、言語外のスキル習得にも効果的である
  • コミュニケーション練習に教員以外の話し相手(ロボット)がいることで、会話の流れを止めることなく適切な支援・指導ができる

3. 感情分析機能の有用性

  • 生徒が言葉で表現しきれなかった気持ちや行動を理解する助けとなり、自分の意思等を表出する指導に役立つ
  • 授業内容と生徒の感情の推移を合わせて確認することにより、授業分析・改善に活用できる
  • 従来の定性的な評価に加えて、定量的な評価軸の可能性に期待が持てる

しらとり支援学校高等部1年生のグループにおける実証実験結果の一例

ここでは具体的な成果の一例として、しらとり支援学校高等部1年生のグループから、ある生徒の感情分析結果をご紹介します。

実施内容

あいさつ、自己紹介、好きな食べ物や音楽など、事前に決められたシナリオに沿った会話練習の中でロボットを活用しました。

実施結果

このグラフは、ある生徒の「ロボットとの初対面時」と「人との初対面時」での感情分析結果を表したものです。

ロボットと初対面のときの生徒Bの感情分析結果
ロボットと初対面のときの生徒Bの感情分析結果
人と初対面のときの生徒Bの感情分析結果
人と初対面のときの生徒Bの感情分析結果

ロボットと初対面のときは、ポジティブな感情が大半を占めています。(「オレンジ色:楽しい」「黄色:笑顔」「紫色:驚き」)人と初対面のときは、表面的には随所に笑顔を見せながら、落ち着いた応答ができていました。しかし、分析結果を見てみると、ポジティブな感情表現が減少し、ネガティブな感情が出現しています。(「青色:不安」 /赤丸箇所)
緊張しながらも懸命に取り組んでいる、生徒のコミュニケーション行動が分かる分析結果です。
こうした分析結果から、SSTの相手として、人よりもロボットの方が不安が少なく、前向きな気持ちで取り組みやすいのではないかと考えることができます。

この他の実証実験でも、興味深い結果が出ています。実証実験の詳しい結果は以下リンクでご報告しています。ぜひご一読ください。

有識者の評価

栗林睦美氏|国立大学法人富山大学 教育・学生支援機構 学生支援センター アクセシビリティ・コミュニケーション支援室 特命准教授
栗林睦美氏
国立大学法人 富山大学 教育・学生支援機構
学生支援センター アクセシビリティ・コミュニケーション支援室 特命准教授

本実証実験の結果は、特別支援教育を専門とする富山大学の栗林特命准教授にも、ユニークな取り組みとして、以下の講評をいただきました。

1. ロボットとのSSTの有用性

  • ロボットは、見た目のフォルムや動きなどに親しみを感じやすく、相手の感情に気を遣わずに関われる存在と思われる。生徒にとって、ロボットとのSSTは、ファーストステップとして取り組みやすいのではないか
  • コミュニケーション相手であるロボットと、コミュニケーション行動の分析ができる機能がそろうことで、より活用効果の高いサービスとなる

2. 感情分析機能の有用性

  • 想像以上におもしろい結果が得られた
  • 生徒のコミュニケーション行動がつぶさに表現されている。たとえば、初対面の人とのトレーニング時、ノートを確認する場面と発言した場面に、ネガティブな感情が出ているが、間違わずに適切な言葉で話そうとしているための緊張状態ではないか。相手が自分に対して返答している場面には、笑顔などのポジティブな感情がでている。相手に対して好意的にとらえるとともに、会話の内容に興味をもって聞いているのではないか。ほどよい緊張感の中で、初めて会った人とのコミュニケーションが成立している姿であると思われる
  • 障がいのある児童生徒は、コミュニケーションに課題を抱えていることが多い。言語表出が少なかったり限定的であったりする。場面の動画と合わせて参照することによって、教員が児童生徒の行動の意味を考えるきっかけとなり、児童生徒への理解に役立つのではないか
  • 授業の流れ、動画と合わせて参照することで、指導効果の振り返りなど教師へのフィードバックにつながり、授業を分析する一つの手段として授業改善に活かせるのではないか

3. 今後の改善点

  • 今回は実証実験として対象者や場面などが限られており、データとしてまだまだ少ない。感情分析についてはさらに、対象者や場面などデータを増やし、信頼性や妥当性を検証する必要がある。その中でよりよい分析方法が見出せるとよい
  • 教育現場では、児童生徒の興味関心は勿論、教員の使いやすさが大切。限られた人数や時間の中で行う教育活動で、ロボットにどのような役割を持たせるか、工夫が必要である

今後の展開

今回の実証実験で、ロボットをSSTに活用することに一定の評価が得られました。今後、ますますコミュニケーションロボットサービス「Link&Robo for グローイング」を教育現場に普及すべく、操作性の向上や初期導入支援、ナレッジの共有に力を入れてまいります。
効果測定方法については、更なるレベルアップに取り組み、教員が使いやすく、生徒の指導・評価の手助けとなるツールとしてのサービス化を目指します。

資料ダウンロード

本実証実験に関する詳細資料をご用意しています。ご希望の方は、以下よりダウンロードください。

関連するソリューション

※Aldebaranの小型二足歩行ロボット「NAO」を活用し、三菱総研DCSにて独自にサービス提供をしています。
※「NAO」はAldebaranの登録商標です。

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