Project Story

#02

LINE×Watson

Introduction

近年、ICT領域の中で急速に注目を集めているAI。各方面で研究開発が進められており、近い将来、我々の生活に広く普及浸透してくることが想定されている。実際にすでに実用化されているAIも多く、その一つが「Watson」と呼ばれるものだ。三菱総研DCSは、この「Watson」と、広く利用されているSNSのコミュニケーションツール「LINE」を連動させるサービス開発に取り組んだ。同社における「デジタルイノベーション」事業の象徴的なプロジェクトとはどのようなものだったのだろうか。

銀行取引の問い合わせにAIが答える
AIを学習させて回答精度の向上へ

急速に進化する情報技術。多様化する顧客企業のニーズ。そういった市場の変化に対応するべく、三菱総研DCSは、AIをはじめとしたICT先端領域への取り組みを開始している。AI関連の技術・マーケティング調査に始まり、自立歩行する対話型の小型ヒューノイドロボット「NAO」の技術支援といった形で着手し、人型ロボット「NAO」は、お客様であるメガバンクの銀行窓口に実験的に導入された。そして、ほぼ同じ時期にスタートしたのが「LINE×Watson」によるチャットボットサービスの開発だった。チャットボットとは、人間の代わりにコミュニケーションを自動で行ってくれるプログラム、もしくはシステム全体を指す。「Watson」とは、IBMが開発した質問応答システムの呼称で、国内では企業を中心にその導入が進んでいる。今回のプロジェクトの概要は、銀行のLINE公式アカウントで銀行との取引に関するユーザーからの問い合わせに、Watsonを活用して答えるというもの。このサービスがリリースされた直後から、三菱総研DCSはプロジェクトに参加し、その指揮を取ったのが、人見である。

「単に保守・運用を担当したのではなく、それまでに山積していた課題解決が私たちの役割でした。その一つが回答精度の向上です。利用者からの質問に、Watsonがより正しく答えられるようにするために、会話ログを分析することで、Watsonを学習させて、より賢くさせる作業を定期的に行う必要があったのです」(人見)。

会話ログの分析から導き出される
言葉の揺れを見極め最適な回答を

実際に、サービス提供の現場である銀行に常駐し、その検討を進めていったのが、当時入社4年目の飯塚である。 「よくある問い合わせをホームページに記載する、実際に人が対応する等、銀行のお客様からの問い合わせ対応は以前より様々な形で行っていました。AIによる質問応答はそれら業務の効率化やサービス向上に寄与するものでなければなりません。そのためにも、回答精度の向上は常に追求するテーマとなっているのです」(飯塚)。

問題の一つとなったのが、質問者による“言葉の曖昧さ”だ。飯塚は会話ログを収集して分析し、学習データを改良してWatsonに再学習させ、精度を向上させた。さらに想定される質問は、新商品の発売や新サービスのリリースとともに、常に拡大していくため、その対応も求められた。飯塚とともに銀行に常駐してプロジェクトに取り組んだのが、入社2年目の平野である。

「回答精度を高めるためには、いかに網羅性が高く、偏りがない学習データを作るか、同じ分類クラスに対して適切な言い回しを作成できるかがポイントでした」(平野)。こうした回答精度の向上に向けた取り組みに加え、人見らが取り組んだもう一つの大きなテーマがあった。

プロジェクト概要

LINE連携サービスとWatsonとの中継サーバーを設け、利用者との会話ログをいつでも簡単に検索、ダウンロードできる仕組みを構築。LINEとWatsonを橋渡しする対話応答基盤の構築にはサーバーレスのクラウド技術を採用している。

イノベーションを起こす考え方と技術
あくなきチャレンジが次代のICTを創造

「回答精度の向上の前提となるのが、会話ログの分析です。ではその会話ログはどこに保存されているのかといえば、あるベンダーの元にあり、担当者は会話ログを毎月共有する必要がありました。しかし、それではスピーディな対応ができない。省力化・効率化を徹底するため、我々は新たにLINE連携サービスとWatsonとの中継サーバを設け、利用者との会話ログをいつでも簡単に検索、ダウンロードできる仕組みを構築したのです」(人見)。

注目すべきは、LINEとWatsonを橋渡しする対話応答基盤の構築に際し、クラウド技術を採用し、かつクラウド技術の中でもサーバを必要としない先端技術「サーバレス」を導入したことだ。こうして「LINE×Watson」の新サービスは、わずか4ヶ月という短期間でリリース、お客様から高い評価を獲得した。現在、平野は本社に戻り新たなプロジェクトに参加している。

「一つは社内AI関連案件の技術支援業務です。銀行Watson関連案件のアドバイスのほか、主担当として銀行へのAI業務適用の提案を進めています。また、ロボットによる業務効率化の取り組みであるRPA(Robotic Process Automation)やマーケティングオートメーションツールの企画推進などにも取り組んでいます。やりたいことをやらせてもらえている、そう実感しています」(平野)。

飯塚は平野同様、銀行業務におけるAI導入の各種支援業務を担当している。「先進技術やビジネスの動向をグローバルベースで的確にとらえ、顧客ニーズにマッチしたサービス・商品を創造し、提供していくのが私たちの役割。その意味で、今回のプロジェクトは試金石ともいえるもので、AIという先端技術の知見を蓄えることができました。最先端にいるという手応えがありますし、この仕事ならではの面白さを感じています」(飯塚)。

プロジェクトを率いた人見は、今回の案件は三菱総研DCSにとってもイノベーティブな取り組みだったと言う。「イノベーションを起こすために必要とされる考え方や技術を駆使したプロジェクトだったと感じています。AIやクラウドなど未開拓の新しい技術やサービスを活用しプロジェクトを完遂できたことは、会社としても非常に価値があることだったと思っています。今後も、AI技術領域の開拓に向けて、メンバーとともに新しい技術にチャレンジしていきたいと考えています」(人見)。

今回三菱総研DCSは、AIという未踏の分野に、確かな一歩を記した。人見らが見据える眼差しの先にある、可能性に溢れた次代のICTの世界。それを創造するのが彼らの次のミッションにほかならない。

PROFILE

人見

ビジネスイノベーション本部 副部長
1998年入社
理学部応用数学科卒

飯塚

ビジネスイノベーション本部
2013年入社
工学部情報工学科卒

平野

ビジネスイノベーション本部
2015年入社
システム情報科学府情報学専攻修士課程修了

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