コミュニケーションロボットのケーススタディ~介護支援~
2019.09.05
- データサイエンス

当社のコミュニケーションロボットのソフトウェア開発と普及に向けた取り組みをご紹介いたします。
当社の新たな挑戦のひとつとして、「コミュニケーションロボットのソフトウェア開発と普及に向けた取り組み」があります。
本稿では、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、AMED)の平成31年(令和元年)度 「ロボット介護機器開発・標準化事業(開発補助事業)」(*1)に採択された、介護現場でのコミュニケーションロボット活用をめざす開発プロジェクトの内容を中心に紹介します。
開発プロジェクトの背景と目的
日本の高齢者人口は年々増加しており、健康寿命の延伸と介護人材の確保は社会的な課題となっています。

介護施設では、高齢者の遊びやリハビリなどの「レクリエーション」を介護職員が企画・実施しています。
しかし、高齢者へレクリエーションへの積極的な参加を促すことが難しい、レクリエーションの企画に費やす時間を介護職員が十分に確保できない、という課題があります。
当社はこれらの課題に対し、2016年より取り組んできたコミュニケーションロボット活用の知見を活かせるのではないかと考え、2018年より具体的な取り組みを開始しました。
開発プロジェクトでは、コミュニケーションロボットの活用によって、
- 高齢者の要介護レベルの重度化防止
- 介護職員の負荷軽減と専門性の向上
に寄与し、社会的課題の解決に貢献することをめざします。
活用・普及における3つの課題
前述のとおり、介護施設では、高齢者の遊びやリハビリなどの「レクリエーション」を介護職員が担当していますが、レクリエーションへの参加に消極的な高齢者がいたり、レクリエーションを企画する時間を介護職員が十分に確保できなかったりするのが実情です。
この状況に対し、当社はコミュニケーションロボットが活用できるのではないかと考え、介護施設での実証実験やヒアリング、イベントへの出展を通して検証を進めてきました。その結果、コミュニケーションロボットの愛らしい姿は、場を盛り上げ、レクリエーションへの高齢者の積極的な参加を促す効果があることがわかりました。また、レクリエーションの企画や実施にかかる介護職員の負担軽減や、高齢者へのよりきめ細かいサービスの提供にも、コミュニケーションロボットの活用が期待されていることもわかりました。
しかし、数種のコミュニケーションロボットが近年開発、販売されているものの、介護現場において一般的な存在といえるまで普及していないのが現状です。
その原因として、以下の3つの課題があると考えています。
- 操作者である介護職員の不安、抵抗感
・コミュニケーションロボットに限らずICT利用が進んでいない介護現場は多く、未知のICTツールの利用には不安や抵抗感がある
・高齢者向けレクリエーションの充実化だけでは、ICTツール利用への抵抗感の解消に至りにくく、継続的な利用に繋がりにくい - 介護職員の学習負荷
・多忙を極める介護現場にとって、コミュニケーションロボットの操作技術・知識の習得時間を捻出することは難しい
・利用意欲があっても、使いこなせるようになるまでの学習にかかる負担感が、介護職員の利用意欲を減退してしまう - 施設における導入コスト
・コミュニケーションロボットは決して安価ではないため、投資効果が明確でないと導入しにくい

課題に対する当社の取り組み
当社は、従来のレクリエーション機能の充実化に加え、これらの課題を克服し、より現場に受け入れられるコミュニケーションロボットの提供をめざしています。
レクリエーション提供機能の開発
介護職員のレクリエーション企画、実施の負担軽減、高齢者のADL(日常生活動作)の維持向上、ひいては QOL(生活の質)の向上をめざしたプログラムを開発します。
- クイズ
高齢者に共通する過去の体験や知識をテーマとしたクイズを出題 - 体操
日常生活の動作で必要な身体能力の維持向上を図る体操を実施 - 対話
高齢者の心身機能や生活の状況、困りごとなどの個人的な話題について1対1の対話を行う
介護職員を支援するデータ活用機能の開発
コミュニケーションロボットと高齢者間の対話データの活用により、介護職員の主観や慣れ、個人差等による介護記録の偏りや不足の補完をめざします。情報共有のスムーズ化によるチームケアの促進や、介護職員のアセスメントやニーズの深掘りを支援し、介護職員の専門性・提供サービスの向上、業務効率化に貢献します。
また、コミュニケーションロボットが行った体操やクイズなどのレクリエーションの実施記録を出力して、記録の効率化も支援します。
介護職員向け教育プログラムの開発
コミュニケーションロボットの操作ガイドにとどまらず、レクリエーション運営の視点に立ったガイドの提供、効率的で実践的な活用方法が学べる教育プログラムを開発します。実証実験でのフィードバックを踏まえ、教育内容のレベルアップと、定着化に必要な開催頻度や回数等を見極めていきます。
実証実験の実施と効果の可視化
3ヶ所の介護施設、100名前後の高齢者を対象として実証実験を行い、開発機能・プログラムを検証します。以下の効果を測定する指標を設け、コミュニケーションロボットの導入効果を可視化し、導入のベストプラクティスを検討します。
- レクリエーションへの高齢者の積極的な参加の促進
- 高齢者間、高齢者と介護職員間のコミュニケーションの促進
- 介護職員のレクリエーション運営の負荷軽減
- 記録データを活用した介護記録等の補助・補完
- 個別ケアの促進、介護サービスの向上

コミュニケーションロボットの稼動の仕組みと特徴
開発プロジェクトでは、クラウド型対話AIエンジン「Hitomean(ヒトミン)」(*2)と、ソフトバンクロボティクスの小型二足歩行ロボット「NAO(ナオ)」を連携させ、コミュニケーションロボットを活用したレクリエーション、高齢者との対話などのコミュニケーション記録データをみえる化するソフトウェアを開発します。(*3)

Hitomeanについて
当社が開発した「Hitomean」は、AIを搭載したクラウド型対話エンジンです。学習データをもとに、表現の揺れを吸収し、自然言語での対話を実現します。
NAOについて

「NAO」は、ソフトバンクロボティクス株式会社が提供する世界で最も普及しているソフトバンクロボティクスの小型二足歩行ロボットです。多数のセンサーやカメラ、マイク、LEDが搭載され、言語、顔、感情などを認識し、幅広いコミュニケーションが可能です。ネットワークや各種APIとの連携が可能で、AIを活用した自然対話を行うことができます。
コミュニケーションロボットの特徴と介護現場における期待効果
開発プロジェクトの今後の展望
ソフトウェア開発と複数の介護施設での実証実験を経て、2021年のサービス提供開始をめざします。並行して、地方自治体と連携した新たな利用モデルの構築を模索し、地域高齢者の介護予防や介護レベルの重症化防止についても活用を検討していきます。
教育現場でのコミュニケーションロボットの活用
当社では、介護現場のみならず、教育現場でのコミュニケーションロボット活用についても検討をはじめています。こどもの学力向上と、教職員の働き方改革への貢献をめざし、以下の効果をねらったソフトウェアの開発を行っています。
- コミュニケーションロボットをきっかけとした、こどもたちの知的好奇心育成
- 英語での会話デモなどによる、ネイティブな英語との接点増加
- クイズ形式での繰り返し学習による、学習内容の定着支援
- 個人の正答率やその推移をみえる化し、個別の指導へ活用

教育現場を対象とした実証実験も行います。その中で、現場の要請にあったアプリケーションの改修や新たなニーズを発掘し、より価値のあるサービスを創出していきます。
これまでの取り組み
当社は、2016年からコミュニケーションロボットに関する取り組みを開始しました。2018年から、先述の介護現場、教育現場における活用を検討する方向に舵を切りました。
2016年 |
コミュニケージョンロボットの取り組みをスタート 企業の受付業務をサポートするサービスを検討開始 |
複数の企業様に受付NAOを常設 | |
2018年 | 高齢者、こども向けレクリエーションサービスとしてのニーズを発掘 サービス化に向けた取り組みを開始 |
2019年 |
某病院様特別養護老人ホームにて実証実験を実施 |
大阪人間科学大学で体験授業を実施 大阪人間科学大学のサイトで紹介されました 1回目:NAOが介護を学ぶ学生の授業に来てくれました! 2回目:NAOと一緒に認知症カフェに参加しました! |
|
開発プロジェクトがAMEDの「ロボット介護機器開発・標準化事業(開発補助事業)」に採択 | |
N県小学校にて実証実験を実施 |
当社はコミュニケーションロボットの活用と普及に向け、引き続き取り組んでまいります。
本件に関する問い合わせはこちらからお願いいたします。
- AMED「ロボット介護機器開発・標準化事業(開発補助事業)」について
経済産業省と厚生労働省が連携して策定した重点分野について、介護現場のニーズに基づいて介護の質を向上し、自立を支援するロボット介護機器の開発補助を行う事業です。公募対象となるロボット介護機器は、重点分野のうち、平成29年10月の改訂で追加された、移動支援(装着移動)、排泄支援(排泄予測、排泄動作支援)、見守り・コミュニケーション(コミュニケーション)、介護業務支援(業務支援)の4分野5項目のいずれかの機器になります。(AMEDホームページより引用)
今年度採択された事業者は7社のみで、当社はその中の1社になります。 - 「Hitomean(ヒトミン)」は、日本国において登録された三菱総研DCS株式会社の商標です。
- 当開発は、ソフトバンクロボティクスの NAO を活用し、当社が独自に実施しています。
- 記事の内容は、編集・執筆当時の情報です。