MURC

コラム

期待される「人事部の働き方」の変化
DCSと三菱UFJリサーチ&コンサルティング共同調査結果

2022 年6 月3 日

熊井 秀臣(くまい ひでおみ)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット

HR第1部 マネージャー熊井 秀臣

国内大手独立系証券会社での富裕層向けウェルスマネジメント業務を経て、
2011年12三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社

サーベイ調査結果レポートのポイント

 昨年、三菱総研DCS株式会社と三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が共同で、人事部の機能、人事部の働き方、人事施策の方針について調査した。
調査では、調査結果を踏まえ人事部として次のような変化が求められていると提言している。

■人事部の機能について

・「人事部」が「事業部門(現場)」と役割分担しながら人事業務を推進している実態が見えてきた。 その背景には、人材を管理統制する役割が強かった「人事部」から、現場主体で人材活用や個性を評価していく「個」を重視した「人事部」への変化があると考えられる。

■人事部の働き方について

・1,001名以上の企業では、コロナ禍を機に取り組みが加速したテレワークをうまく人事部にも取り入れながら、新しい働き方への転換を進めると良いだろう。

■人事施策の方針について

・人事評価や給与計算のデジタル化・システム化を通じて、人事企画機能や人材開発機能の強化に必要なリソースを確保し、事業環境に応じた人事施策を速やかに講じると良いだろう。

前稿(「注目が高まるHRBP」)では「人事部の機能」について解説したが、本稿では「人事部の働き方」をテーマに取り上げる。なお、調査の詳細は、こちらからダウンロードいただきたい。
https://inquiry.dcs.co.jp/hr/dl_murc

人事部の働き方の現状

 調査によれば、企業規模が大きいほど人事部の人員数は多い傾向があり、人数の多さにもかかわらず長時間残業の傾向が見られた。 一方、残業時間に着目すると「人事部に在籍している正社員の平均的な残業時間が月30時間以上」と回答した企業の割合が、企業規模に関わらず10%以上あることが分かった。
 2019年4月には労働基準法の改正に伴い「時間外労働の上限規制」が大企業に適用され(中小企業は2020年4月施行)、青天井の長時間残業には一定の歯止めはかかった。 しかしながら、健康確保やワーク・ライフ・バランス改善を求める社会的要請は今後一層高まっていくことが予想される。こうした環境変化も踏まえ多くの企業で長時間残業の削減に取り組んでいるが、今回の調査結果から、旗振り役の人事部で働き方の転換が進んでいない状況が見えてきた。

新しい働き方への転換に向けた進め方

 働き方の見直しを進める上では「ジョブ型雇用」の考え方が参考になる。「ジョブ型雇用」は近年日本企業で注目度が高まっている職務やポジションを起点とする考え方である。 戦略人事の考え方(※2022年5月「注目が高まるHRBP」参照)も合わせ、人事部における取り組みのアプローチはどうなるだろうか。
 まず自社の事業戦略実現に必要な機能(組織開発と人材開発、センター・オブ・エクセレンス、オペレーション、HRビジネスパートナー)の把握と優先順位付けをする。 その後、機能発揮に必要な組織を構想する。その上で、組織運営に欠かせない職務・ポジションと人数を検討する、といった進め方が一例として考えられる。こうして整理したあるべき姿と現状を照らし合わせることで、 余剰人員数や非効率な業務などが浮き彫りになり、働き方の見直し余地が明らかになるだろう。
 なお、こうした新しい働き方への転換にチャレンジする場合、ペーパーレス化、アウトソーシング、人事給与や人事評価システム等の導入・改修を通じた効率化だけで満足しないよう注意が必要である。 テレワークなど柔軟な働き方がしやすい環境整備、ルールづくりとセットで検討し、生産性向上に繋げる視点を忘れないようにしたい。
(出所)リクルートワークス研究所 2015年12月 works No.133より一部抜粋

自社に合った働き方への工夫

 新しい働き方への転換を進める際、合わせて考えておきたいのが「スパン・オブ・コントロール」である。スパン・オブ・コントロールとは、1人の管理者が直接管理している部下の人数や業務の領域を指す。 この人数や領域を増減させる場合を経営者、管理者それぞれの視点で考えると次のようなケースが考えられる。経営方針や業務特性により1人の管理者が直接管理する部下の人数や業務の領域は増減し得るため、自社の特徴を丁寧に確認しながら適正な人数や領域を見定めていくプロセスが重要である。

経営者視点 管理者視点
増加させるケース 管理者に求められるマネジメントレベルを高めるため、人数規模や業務領域を大きくする。 自社の業務が定型的・均質的であるため、人数規模や業務領域を大きくする。
減少させるケース 管理者への登用機会を増やすため、人数規模を小さく業務領域を限定する。(それによって組織の数を増やす) 自社の業務が非定型的・専門的であるため、人数規模や業務領域を大きくしづらい。

 これまで見てきたように。「人事部の機能」に加え「働き方」の観点からも人事部には変化が求められている。現場主体で人材活用や個性を評価していく「個」を重視した「人事部」への変化とともに、人事部が「新しい働き方への転換」を社内でリードする存在となることを期待したい。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部 組織人事ビジネスユニット

HR第1部 マネージャー熊井 秀臣(くまい ひでおみ)

国内大手独立系証券会社での富裕層向けウェルスマネジメント業務を経て、2011年12三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社

  • 主なコンサルティング実績

    総合サービス業:役員報酬・評価制度の策定支援
    アパレル業:スキルマトリックスの作成・開示支援
    医薬品製造業:人事制度改定・定年延長制度導入支援
    情報通信業:ジョブ型人材マネジメント導入支援
    精密機器製造業:人事制度・基礎的労働条件の統合支援
    不動産販売業:ジョブローテーションの体系化支援
    電設資材製造業:人材育成体系の設計・実装支援
    設備工事業:選択定年制度の設計・導入支援 等プロジェクト実績175件程度

  • 得意領域

    役員・従業員向け人材マネジメント改革全般