社労士

コラム

労使協定 きちんとした方法で締結できていますか?

2020 年1 月8 日

協定のない計画年休は無効という裁判例

 2019年の10月9日に、東京高裁において、英会話教室で講師を務めるイギリス人男性の雇止めが無効となる判決が出ました。 この男性は有給休暇の残日数がないのに有給取得を理由に長期休暇に入ったとして、会社から無断欠勤等を理由に雇止めされていました。 英会話教室は法定を上回る年休を付与しており、それらも含めて会社が時季指定を行う計画年休を実施していましたが、裁判では、 そもそも労使協定を締結していなかったため、会社が時季指定した有休は使用されたものとみなされず、無断欠勤の事実はなかったとして、当該雇止めは無効と判断されました。 これにより、原職復帰と数百万円のバックペイ支払が命じられたとされています。
 労使協定の締結について対応を誤ると、このように大きな労務リスクを負う事になります。 今更と思われるかもしれませんが、労使協定についての正しい知識を持った上で対応するために、もう一度労使協定とは何かについて再確認してみましょう。


労使協定とは

 労使協定とは、簡単に言うと、<元々労働法違反となる点について、労使の協定によって、法違反になることを避けられる>効果を生じさせるものです。 36協定を取ってみれば、1日8時間、1週間40時間を超える労働をさせることはそもそも労基法上違法です。 36協定を締結することにより、表現は正しいかわかりませんが、かろうじて法違反にならずに済んでいるわけです。 そのため、もしこの36協定が無効と判断されることとなった場合、極端な話1分でも残業をさせていた場合は、即、法違反になる事となります!! 法に反する個別の同意は無効ですので、協定事項について個々の労働者と同意書を取り交わしていたとしても基本的に違法となります。 労使協定の重要性をご理解いただけたでしょうか?


締結の有無だけがリスク?

 冒頭の裁判例は労使協定自体を締結していない事例でしたが、最近労使協定の有効性の判断において、締結の有無だけではなく協定の中身労働者代表の選出方法等についても厳密に見られる傾向が強くなってきています。 今年の4月以降の締結分から大企業に義務付けられている新36協定に関して発行された指針においてもその流れが強く反映されているように思います。 みなさんの日常においても、例えば以下のようなリスクがあるかもしれません。

  • 時間外命令を拒んだ労働者に対して懲戒に処したが、そもそも36協定の締結方法に瑕疵が有り、残業命令自体が違法であり懲戒処分が無効になった(船橋東郵便局事件.人事院判.平12.3.30、トーコロ事件.最二小判.平13.6.22)
  • 専門裁量労働者が退職と同時に会社に対して訴訟を起こし、専門裁量の労使協定の労働者代表の選出方法に瑕疵が有り、みなし労働時間自体の適用が否定され、過去に遡って多額の残業代の支払いを命じられた(京色彩中嶋事件.京都地裁.平29.4.27)


では何をすればよい?

 この内容を見て肝を冷やされたお客様も多いのではないでしょうか?上記のリスクはあくまでも一部であり、列挙しようと思えばまだまだ例示することも可能です。 このような恐ろしいリスクを最小限にするため、いま一度みなさまの会社の労使協定の締結状況と、加えて締結方法等を次のように再確認頂くことをおすすめします。

  • 労働者代表はその事業場の労働者(パート/アルバイトや契約社員も含む)の過半数の信任を得られている?(労働者代表が選任されているという裏付けが確認できるようになっているのか)
  • 締結した労使協定は労働者が見られるように周知している?
  • 労使協定の記載内容に不足はない?
  • 労使協定の中で会社が果たすべきルールを記載した場合きちんと履行している?
  • 監督署に提出が必要な労使協定はきちんと期間開始前に監督署に出せている?
  • 36協定や専門裁量の協定の更新のタイミングで締結漏れはない?

 残念ながら裁判になったら、「その労働者は合意していた」「いままで何も言われなかった」「そんなこと他の会社ではいくらでもやっている」という言い訳は基本的に通用しません。 労使協定に係る注意点は上記以外にも色々あります。 労使協定が無効になったら即労働法違反になる、という点を念頭に置き、不安な点があれば、弊社の担当者にご確認をする等万全の対応をお勧め致します。



パワハラ指針案、了承も課題が残る

 厚生労働省は、パワハラの定義や具体例を盛り込んだ指針案を労働政策審議会(以下「労政審」)に示し、指針案(素案)の修正案が11月20日に開催された第22回雇用環境・均等分科会にて了承されました。 パブリックコメントを実施した上で、年内にも指針を最終決定し、大企業では関連法施行の来年6月から、中小企業では令和4年4月から適用されます。
 本レポートでも取り上げてきましたが、関連法や指針案では、パワハラを(1)優越的な関係に基づく(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(3)労働者の就業環境が害されるもの -と定義しました。防止策を講じる労働者には正社員だけでなく、パートや契約社員などの非正規雇用者も含まれます。 また最終案ではパワハラを「①身体的攻撃」「②精神的攻撃」「③人間関係からの切り離し」「④過大な要求」「⑤過小な要求」「⑥個の侵害」の6つのパターンに分類し、それぞれに「パワハラに該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」を例示しました。
 しかし、指針案(素案)の内容には、審議会の委員や日本労働弁護団から「パワハラ認定するための定義が狭いのではないか」といった指摘など指針案・定義への疑問の声が出ていました。
 例えば、指針案(素案)では、パワハラの定義である「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動であるかの判断にあたって、「個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係が重要な要素となることについても留意が必要である」とされています。
 しかし、労働者の行動に問題があったからといって、暴行や人格を否定する言葉を伴う指導が許容されるわけではありません。 過去の裁判例では、同僚を誹謗中傷した労働者に対する叱責や、他部署から勤務態度の問題点を指摘されたり、ミスや期限徒過、不提出等の問題行動がある労働者に対する叱責であっても、パワハラと認められています。 あたかも労働者の行動の問題性が高ければ、指導・叱責がパワハラに該当しなくなるかのような指針の表現は、誤解を招きかねないといわれています。
 「該当しない例」については、抽象的で、幅のある解釈が可能であるため、加害者・使用者による責任逃れの弁解に悪用される危険性が懸念されています。他にも、パワーハラスメントの判断に際しては、女性活躍・ハラスメント規制法成立時の付帯会議では「平均的な労働者の感じ方」を基準としつつ「労働者の主観」にも配慮するよう求められていますが、指針案にその旨の記載はなく、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者の多くが、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とする 」として、むしろ「労働者の主観」は排除されており、懸念点が指摘されています。
 上記の指摘を受け、今回の修正案では、一部次のように修正がされています。パワハラに「該当すると考えられる例」「該当しないと考えられる例」においては、例示が修正および削除されており、例えば、該当する例にあった「怪我をしかねない物を投げつけること」は怪我をするかどうかは関係なく「相手に物を投げつけること」に変更されています。 他にもパワーハラスメントの判断においての「労働者の主観」については、「主観」という言葉は使われていませんが「相談を行った労働者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識に配慮しながら、相談者及び行為者の双方から丁寧に事実確認等を行うことも重要である」など修正がされています。
 パワハラ問題はデリケートな問題であり、パワハラ判断基準においてもグレーゾーンが多く、指針案では明確に示すことが難しい部分もあります。指針案を文字通りに解釈するのではなく、会社と労働者が共有の認識をもち、パワハラ問題に取り組むことが重要かと思われます。


外国人技能実習生の監理団体許可取り消し

 法務省と厚生労働省は、外国人技能実習適正化法が義務付けている実習生送出機関と不適当な内容の協定書付属覚書を諦結したところから、監理事業を適正に遂行することができる能力を有しないとし許可を取り消しました。これまで、虚偽の入国講習実施記録の提出などを行ったことが発覚し、許可が取り消された事案はありましたが、今回のように不適正な契約を結んだことで許可を取り消されたのは初めてです。取り消しについては、技能実習法第37条で、監理事業を適正に遂行することができる能力を有していないとされた監理団体は許可を取り消すとしています。
 ここで改めて外国人技能実習制度とはなにか、『我が国で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、その開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とする制度』と定義されています。 つまり、日本の技術や知識を習得して母国に帰ってからも役立ててもらう趣旨の制度ということになります。また、受け入れる側は、人手不足の解消や会社の活性化など多くのメリットがありますが、劣悪な労働環境や、実習生が関係する事件・事故、失踪などの問題点や課題が指摘されているのも事実です。
 外国人技能実習制度は日本の技術力を世界に発信する国際貢献の制度であることをまず認識し、外国人労働者も日本人労働者と変わらない権利を持っています。これは法律により規定されています。外国人労働者であるから不当な扱いをしてもよいという理由にはなりません。
 これから先、日本人労働者だけでは社会を回せない時代が来ると言われています。外国人労働者を上手に活用し、来るべき人材不足に備えるためにも、制度の問題点や課題を認識し、不幸の連鎖を断ち切らなければならないと思われます。

※技能実習制度については、前回でも記載しています。



子の看護・介護休暇、時間単位取得へ

 厚生労働省は、現状、労使間の協定がない限りは、1日または半日単位での取得しかできない子の看護休暇および介護休暇について、原則1時間単位で取得できるように育児・介護休業法の施行規則などを改正する方針を決めました。改正により1日単位でしか介護休暇が取得できない所定労働時間4時間以下の労働者や実際には半日もかからない予防接種やケアマネージャーとの打ち合わせなど様々な場面で柔軟に対応が可能となります。



厚生年金保険パート適用拡大 ~対象企業「500人超」から「50人超」へ~

 厚生労働省はパートなどの短時間労働者への厚生年金の適用拡大に向け、企業規模要件を緩和する方針を固めました。 現行の「従業員501人以上」から2024年10月に「51人以上」に引き下げるとした上で中小企業の経営に配慮し、経過措置として22年10月に「101人以上」と段階的に引き下げる案が有力視されています。厚生年金の適用拡大はパートらの老後の年金水準を充実させるとともに、年金の財政基盤を強化する狙いがある一方で、保険料は労使折半になるため、中小企業は保険料負担が増し、経営への影響が懸念され反発が強く調整の難航が想定されます。



2020年4月より 高年齢保険者の雇用保険料の免除がなくなります!!

 平成29年1月1日の雇用保険の適用拡大により、65歳以上の方も雇用保険の適用の対象となりましたが、65歳以上の方については平成31年度までは保険料が免除されることになっておりました。 このため、2020年3月までは保険料は免除となっておりましたが、2020年4月からは65歳以上の方についても、被保険者の区分に関わらず雇用保険料の徴収対象となります。
 65歳以上で雇用保険に加入している方がいらっしゃいましたら、2020年4月分以降の給与については、雇用保険料を控除していただく形でご対応ください。 また、来年行われる令和2年度の年度更新につきましては、確定保険料と概算保険料で集計内容や記入様式が異なることが見込まれますので、ご留意ください。



2020年より健康保険 被扶養者・国民年金 第3号被保険者の認定基準が追加されます

 平成31年2月15日に提出された、「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律案」が可決され、令和2年4月より、被用者保険の被扶養者等の要件について、一定の例外を設けつつ、原則として、国内に居住していること等が追加されることとなりました。本件に関する施行規則(厚生労働省の省令)につきましては、現時点では公布されていませんが、健康保険の被扶養者・国民年金の第3号被保険者になるために追加される要件は、以下の通りとなる見込みです。

▪日本国内に住所を有するもの
▪次に掲げる、国内居住要件の例外に該当するもの
  • ①外国において留学をする学生
  • ②外国に赴任する被保険者に同行する者
  • ③観光、保養又はボランティア活動その他就労以外の目的で一時的に海外に渡航する者
  • ④被保険者が外国に赴任している間に当該被保険者との身分関係が生じた者
  • ⑤①から④までに掲げるもののほか、渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる者

 つきましては、来年4月以降は、健康保険被扶養者異動届/国民年金第3号被保険者関係届をご提出いただく際に、添付書類が変更・追加される可能性がございますので、ご留意ください。
 また、今回の法改正により、健康保険の被扶養者・国民年金の第3号被保険者に該当しなくなる方については、健康保険の認定抹消、第3号被保険者の非該当の届出が必要となり、また、要件を満たすことが確認された方についても、その旨の届出が必要となる見込みです。つきましては、国内に住所を有しない被扶養者がいらっしゃる従業員の方には、上記②の国内居住要件の例外に該当するか否かをお尋ねいただき、個々の状況に応じて必要なお手続きの準備を進めて頂ければと存じます。
 尚、既に健康保険の被扶養者・国民年金の第3号被保険者である方について、要件を満たさなくなる場合/満たす場合それぞれの届出につきましては、法施行日より前に受理が可能とされておりますので、可能な限り、事前に準備を進めていただけるとよいかと思います。 詳細なスケジュールや届出様式、必要な添付書類については、今後、日本年金機構・各健康保険組合から周知される案内をご参照いただくか、ご不明であれば個別にお問合せください。
 また今の時点では、令和2年4月1日時点で保険医療機関に入院されている方については、入院中は、健康保険被扶養者・国民年金第3号被保険者の資格が継続されることとなる見込みです。