Project Story

#01

Financial System

Introduction

国際業務を営む銀行を対象に統一規制ルールを協議するバーゼル銀行監督委員会。ここでは銀行の健全性を維持するための自己資本比率基準やリスク管理指針などを定めている。世界的な金融危機の反省から、バーゼル委員会は、2010年に自己資本比率規制をより厳しくした新バーゼル合意(バーゼルⅢ)を公表。これを受け、お客様企業では、社内で使用しているシステムの新たな構築が必要となり、三菱総研DCSでは、2つの大規模開発プロジェクトが立ち上がった。

大規模プロジェクトに潜む
3つの難題

三菱総研DCSは、その生い立ちから、とくに金融分野に高い実績を誇っている。長年にわたって培ったノウハウと高い技術力と問題解決力を強みとして、これまで国内外のシステム開発で多くの実績を重ねてきた。しかし、得意とする金融関連システムにも拘らず、2つのプロジェクトの統括プロジェクト・マネージャー(PM)を任じられた高藤がまず抱いたのは「えらいことになった」という危機感であった。

理由は主に2点ある。1点目は求められる専門性の高さだ。新バーゼル合意は金融市場安定化策のひとつとしてマーケット・リスクのリスク量の計測とリスクに備えるための資本賦課の見直しを求めている。マーケット・リスクとは、金融機関が保有する為替、債券、株式等の資産が価格の変動によって損失を被るリスクのことであり、日々の市況からリスク量を把握し、適切にコントロールする必要がある。リスク量の計測には極めて高度な数理モデルが用いられるため、メンバーが精通する金融業務とはまた次元の異なる知識が求められることは明白だった。2点目は開発規模の大きさだ。今回は2つのプロジェクトを同時並行で進めていく。お客様先にはすでに自社内に既存の市場リスク管理システムが稼働していたが、ここに新たな機能を加える改修プロジェクトがひとつ。もうひとつは、グループ会社共通で統一したリスク量を計測する新リスク管理システムの開発プロジェクト。連動する2つのプロジェクトには合わせて200名以上のメンバーが参画する。システム連携はもちろん、開発チーム間の緊密な意思統一といった懸念材料には事欠かない。

「課題は山積していましたが、一方で、これはチャンスだとも感じていました。適切な市場リスク管理は金融システムの安定には不可欠なファクター。そのシステム開発に先んじれば当社にとって新たな市場開拓になると」(高藤)。
そうして2016年に、不安と希望を抱えた2つの大規模プロジェクトが始動した。

MRIのユーザー視点
DCSのモノづくりの視点

統括PMとして高藤が最初に手がけたのはプロジェクト体制編成だった。
「一般に大規模プロジェクトでは機能ごとにチームを組んで開発を進めます。このプロジェクトにはリスク管理に係わる高度な専門性を持った三菱総合研究所(MRI)のメンバーも多く参画していたのですが、彼らをひとつのチームにまとめるのではなく、各チームに配置することでMRIとの強力な連携体制をとりました。その結果、市場リスク管理の知識を深めながらお客様の高度な要求に応えるプロジェクト体制を構築することができました」(高藤)。

高藤と同時期にプロジェクトに参加し新市場リスク管理システム開発のPL(現PM)を務めた浅沼も、MRIとの連携のメリットを次のように語る。
「MRIはユーザー視点から市場リスク管理の在り方を考えることに長けています。一方DCSはモノづくりの視点で最適なシステム化を実現することを得意とします。今回のプロジェクトではMRIとDCS、それぞれの視点を融合することで最適解を導き出すことに成功しました。また、互いに刺激しあうことで勉強会も盛んに行われるようになり、メンバーの知識とスキルが磨かれ、さらにMRIとDCSの横断的な体制を築くことにも繋がりました」(浅沼)。

実際、プロジェクトを通して自身の成長を実感したメンバーも多い。既存市場リスク管理システム改修の詳細設計フェーズからプロジェクトに参画した新井もそのひとりだ。
「私自身はそれまで市場リスク管理分野の開発経験がなかったため、設計フェーズでは知識不足からお客様の潜在的ニーズや想いをなかなかくみ取れず、システム設計に苦戦していました。しかし規制要件に関する資料を読み込み、プロジェクトメンバーと勉強会を実施することで知見を広げ、開発フェーズ以降では、お客様から業務に関する相談を頂けるまでの信頼関係を築くことができました」。新井の言うお客様とは市場リスク管理部門。リスク管理のプロフェッショナルと対等に話せる知識とスキルを、新井は身につけたわけだ。

プロジェクト概要

各金融機関の市場リスク管理システムは、各金融機関のフロントシステムからマーケットデータ等を収集し、リスク計測に必要な計算用データ(グループで統一された形式)を作成、そのデータを新市場リスク管理システムに配信する。新市場リスク管理システムでは、そのデータからグループ全体のリスク量を算出する。

メンバーそれぞれが得た自信を
次のステージへ

もちろん、大規模システムならではの問題は“想定どおり”に発生した。
「たとえばチーム間の機能結合もそのひとつでした」と述懐するのは、新市場リスク管理システム開発で画面チームのリーダーを務めた清水だ。
「複数のチームが機能を分担して開発したため、データの受け渡し方法ひとつをとっても認識相違がありました。そこでプロジェクト統括チームを中心に、チームを横断したワーキンググループを運営することで、チーム間の課題を管理・調整・検討し、早期に解決に導くことができました」(清水)。

ステークホルダーの多さも開発を難航させた要因のひとつだ。
「新市場リスク管理システムは既存市場リスク管理システムをベースに開発していますが、グループ配下の金融機関毎に重要視されるリスクが異なります。それぞれの金融機関のニーズに応じて収集する市況データに不備がないかをチェックする画面の作成にはとても苦労しました」(清水)。

メンバーそれぞれがさまざまな課題と向き合った既存市場リスク管理システムの改修案件と新市場リスク管理システムの新規開発案件は、予定通り無事リリースを迎えた。しかしこれで開発が完了したわけではなく、現在も機能拡充等に伴う変更対応を進めている。

最後にそれぞれのメンバーにプロジェクトを通して何を得たかを聞いてみた。
「新市場リスク管理システム開発は課長として初めて臨んだプロジェクトであり、部下をどう成長させていくかという課題を持って挑んだプロジェクトでした。現在はグループ運営を担当する立場として、プロジェクトでの経験を活かし、仕事の中でグループメンバーの成長を促し、組織として成熟させていきたいと思っています」(浅沼)。

「Webアプリケーション開発のトレンドであるSPA(Single Page Application)などの新しいアーキテクチャーに触れ、自身の知見やスキルを高めることができました」(清水)。

「お客様といちばん近い位置で、こちらから提案をするチャンスに恵まれました。貴重な経験を通し、信頼関係を構築するには何が必要かを学ぶことができました」(新井)。

「DCSとして、またひとつ金融システム構築案件における実績を残すことができました。今後も継続して確実に開発案件を遂行し、安定的な運用を実現することで、市場リスク分野で最初に声が掛かるSIerをめざし、チャレンジを続けたいと思います」(高藤)。

それぞれが得た自信を胸に、メンバーはそれぞれ次なるステージへと挑んでいく。

PROFILE

高藤

金融事業本部
1998年入社
理工学部数学科卒

浅沼

金融事業本部
2005年入社
情報処理学科卒

清水

金融事業本部
2008年入社
法学部法律学科卒

新井

金融事業本部
2015年中途入社
工学研究科修了

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