コミュニケーションロボットによる教育支援~実証実験報告(2019年度)~

2020.04.30

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教育現場でのコミュニケーションロボット活用に向けた実証実験の結果をご紹介いたします。

当社では、以前からコミュニケーションロボットに関する取り組みを行っています。
取り組みの一環で、小学校における学習支援ツールとしてコミュニケーションロボットを活用することをめざし、五島市立奥浦小学校にて実証実験を実施しました。
本稿では、その実施結果を紹介します。

*本稿は、2020年4月30日にプレスリリースを行った内容の詳細について紹介しております。
 ご興味がございましたら、以下フォームよりお気軽にお問い合わせくださいませ。

実証実験の概要

期間

2019年9月24日~2020年2月28日

対象

長崎県五島市立奥浦小学校 全校児童43人

使用内容

・英語教育で設定されているSmall Talk(*1)の実施
・クイズ形式での算数問題の出題、正誤判定

  • 期間および使用内容を実証実験開始時から一部変更しております。

実証実験の風景

英語科授業の様子(3年生)
スキルタイムでの算数クイズの様子(6年生)

本実証実験では、当社のクラウド型対話AIエンジン「Hitomean(ヒトミン)」(*2)とソフトバンクロボティクス株式会社の小型の二足歩行ロボット「NAO(ナオ)」を連携させています。(*3)
児童や教職員がスムーズにロボットを受け入れられるよう、段階的に使用範囲を拡大しながら進めました。
コミュニケーションロボット使用内容の詳細・活用のねらいは、実証実験開始編をご覧ください。

実証実験でわかったこと

コミュニケーションロボット活用の効果を測るため、実証実験後に児童と教職員へアンケート、ヒアリングを行いました。
短期間での実証実験ではありましたが、様々な意見をいただき、活用効果や学習支援への貢献の可能性、更なる活用に向けた課題をとらえることができました。

回答者の属性

アンケートとヒアリングにご協力いただいた、児童と教職員の人数および学年・年代別構成は以下の通りです。

児童の回答者は40名。内訳は1年生8名、2年生5名、3年生9名、4年生2名、5年生10名、6年生6名でした。教職員の回答者は12名。年齢20代1名、30代1名、40代5名、50代4名、60代1名でした。

児童の受容性の高さ

児童へのアンケートから、児童はコミュニケーションロボット(実験中は「なおくん」と命名しました)とのふれあいを楽しみ、関心を持って受け入れていることが明らかになりました。

「なおくんのことは好きですか?」という設問に対し、“すごく好き”または“まあまあ好き”と答えた児童の割合は95%と、非常に多くの児童がコミュニケーションロボットを好意的に受け入れていることがわかります。

質問:なおくんのことは好きですか? 回答(40名):すごく好き31名(77%)、まあまあ好き7名(18%)、ふつう2名(5%)

また、「なおくんといっしょに勉強して、どんなところが楽しいですか?」「なおくんといっしょにやってみたいことがあれば、教えてください。」という自由記述の設問に対しては、

  • いっしょに算数クイズをして、正解したときほめられたりするところがうれしいし、楽しいなぁと感じる
  • なおくんといっしょにあそびたい
  • もっといっしょに話す時間がほしい

「なおくんが学校にきて、勉強で工夫したことや新しくはじめたことはありますか。あれば教えてください。」という設問に対しては、

  • なおくんが分かりやすいように、目線を合わせたり、声のトーンなどに気をつけたりした
  • なおくんがきた時は声がはっきりしてなかったけど、少しはっきりしてなおくんがききやすいようにした

といったように、コミュニケーションロボットと楽しく接し、機能面の制約を受け入れフォローしながら活用できたという回答が多くみられました。

児童の意欲の高まり

また、児童へのアンケートから、コミュニケーションロボットは児童に一緒に学習する仲間として受け入れられ、児童の学習意欲を高めていることがわかりました。

「なおくんといっしょの授業はたのしいですか?」という設問に対し、“とても楽しい”または“楽しい”と答えた児童の割合は95%に達します。

質問:なおくんといっしょの授業はたのしいですか? 回答(39名):とても楽しい28名(72%)、楽しい9名(23%)、ふつう2名(5%)

先述の「なおくんが学校にきて、勉強で工夫したことや新しくはじめたことはありますか。あれば教えてください。」という自由記述の設問に対しても、

  • 英語をおぼえたくなった
  • 苦手なことを自学しようと思った
  • たくさんの意味をしっかり理解して、勉強をするようになった
  • なおくんがしゃべったことをよく聞くようにした

このような回答が多くみられ、学習へ取り組む姿勢が向上していることが掴み取れます。

児童の好奇心の広がり

「なおくんと、もっといっしょに勉強したいと思いますか?」という設問に対し、“とてもそう思う”または“そう思う”と答えた児童の割合は97%におよびます。

質問:なおくんと、もっといっしょに勉強したいと思いますか? 回答(39名):とてもそう思う29名(74%)、そう思う9名(23%)、ふつう1名(3%)

そして、「なおくんといっしょにやってみたいことがあれば、教えてください。」という自由記述の設問には、

  • なおくんのできることをプログラミングして動かしてみたい
  • ダンスを自分たちで考えて、それをおどってほしい
  • 算数だけではなく、他の教科もクイズにしてほしい

など、児童から多種多様な回答が寄せられており、コミュニケーションロボットをきっかけとした児童の好奇心の広がりも、アンケート結果からとらえられました。

児童の学習面への貢献の可能性

本実証実験は短期間であったため、教職員へのアンケートやヒアリング結果を学習面での数値的なデータの代替としました。その結果から、学習面においても、コミュニケーションロボットが貢献できる可能性をくみ取ることができました。

以下に内容を一部紹介します。

児童の学習意欲や取り組む姿勢について

  • 前のめりになるくらい興味をもってくれる。英語をいつもよりしっかり聞きとろうとする
  • 全員がとても真剣にむかっていました。NAOの言葉を少しもききもらすまい!と、一生けんめい耳をすませていました
  • ロボットは子どもが興味を持ち、関心を寄せる媒体なので、ロボット活用によって楽しい学習を体験することができると思います

コミュニケーションロボットならではの活用について

  • 同じことを何度でもくりかえすことができるところがいい
  • 英語科での活用に期待です。自身の英語の発音にあまり自信がないこともあり、ネイティブの発音で話してくれるところに魅力を感じます
  • 「聞く」「理解する」「自分の知識に照らし合わせて考える」「声に出して回答する」の一連の流れは、紙面で問題を解くよりも高度なことであり、算数などの学習内容の定着化にも効果的なのではないかと思う

実運用における課題

一方で、継続的な活用については、複数の課題も明らかになりました。

  • Wi-Fi環境が不安定で、操作画面が表示されなかったり、ロボットの応答が遅延してしまって使えなかったりすることがあり、使用に不安があった
    (影響)
    ・画像による個人識別は通信量が多く、処理を待つことで児童の利用意欲が減退してしまうため、本実験では使用を中止した
    ・ロボットが稼働しなかった場合に備え、授業プランを2通り用意することになると、教職員の負担がかえって増大してしまう
  • 短い業間休み(5分)の中で、NAOのセッティングを終わらせるのはあわただしい
  • ロボットを取り入れた授業デザインを現場だけで企画するのは負担が大きい

特に一点目については喫緊の課題であり、ネットワーク通信量の軽量化や、一部オフライン稼働の実現など、現在の学校現場のネットワーク環境に即した改良を進める必要があります。

まとめ

今回の実証実験では、もっとも効果的な活用が想定されていた英語科での活用とともに、他教科(算数)への広がりについても検証し、一定の評価を得ることができました。また、ヒューマノイド型ロボットの身体性がもたらす特徴として、「人」よりも話しかけやすく、また電子教科書にある動画のような「ツール」よりも真摯に向き合う姿勢を引き出すことがわかり、今後のコンテンツ拡充のひとつの視点を得ることができました。

実証実験の実施にあたり、アドバイザーとしてご協力いただいた獨協医科大学情報基盤センター 教授・センター長 坂田 信裕先生からも、コメントをいただいております。

獨協医科大学情報基盤センター 教授・センター長 坂田 信裕先生のコメント

今回の授業において、ヒューマノイド型ロボットは、その「存在感」を活かし、単なるツールではなく、生徒たちや教員の間に入る仲間的な存在になっている様子が窺えました。生徒たちがロボットの発話内容を聞き漏らさないようにと集中する様子や、時にロボットがうまく反応しない場合でも、どのように対応したら良いかを自ら考えている姿も見受けられました。ロボットという新たな存在が教室内にいることで初めて起きる、従来にはない視点での学びの側面もあったと思われます。
また、教員にとっては、ロボットを利用することで、一人一人の生徒の学びの状態を観察できる機会にもなっていたと思います。これは、教員一人だけで授業を行う場合には難しいことだと思います。
今後の検討によって、生徒への教育効果が明らかになっていくことや、教員の支援にも繋がる新たな「ロボットのいる学びの場」の環境としての展開が進んでいくことに期待しています。


当社では今後、今回の実証実験で得た結果をもとに、システム基盤とコンテンツ両面のレベルアップ、活用方法のモデル化を進めていく予定です。

児童への新たな教育機会の創出と教職員の働き方改革の両面に貢献するべく、教育現場でのコミュケーションロボットの活用検討について、引き続き取り組んでまいります。

  • Small Talkとは、小学校高学年の外国語教育にて行われる活動です。2時間に1回程度、あるテーマのもとで、指導者のまとまった話を聞いたり、ペアで自分の考えや気持ちを伝え合ったりします。学んだ表現を繰り返し使用してその定着を図ることと、対話を続けるための基本的な表現の定着を図ることが目的です。(参考:『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック(平成29年7月文部科学省作成・Webページ掲載)』)
  • 「Hitomean(ヒトミン)」は、日本国において登録された三菱総研DCS株式会社の商標です。
  • 当プロジェクトは、ソフトバンクロボティクス株式会社の「NAO」を活用し、当社が独自に実施しています。

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