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コラム

経営と現場をつなぐ目標管理の実践ポイント

2026年3月

小谷 彩華(こたに あやか)写真

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット

HR第2部小谷 彩華(こたに あやか)

新卒で三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社。主に中堅・中小企業を中心とした戦略策定、人事制度改定や組織開発・人材育成まで幅広く従事。

経営と現場をつなぐ目標管理の実践ポイント

 目標管理の運用に課題を抱える企業は多い。上位目標との連動、目標難易度のばらつきによる評価の公平性、達成基準の明確さなど、課題は多岐にわたっている。
 目標管理は本来、戦略実行に向けた経営手法である。全社→部門→個人へとブレイクダウンする構造は、戦略を個々の行動に落とし込む枠組みと一致しており、正しく機能すれば、個々の行動を戦略実行に直結させる強力な仕組みになり得る。
 それにもかかわらず、人事制度設計の現場でしばしば耳にするのは、「上位方針が見えない」という声だ。ここでの「見えない」とは、年度目標や部門目標を設定してはいるものの、それが現場の業務に十分に反映されていないことを意味する。

 階層ごとに求められる役割や目標の粒度は、【図表1】の通り大きく異なる。経営層は全社視点でのビジョンや戦略を描き、部長層はそれを部門戦略に落とし込む。課長層はさらに現場で実行可能な業務レベルに分解し、メンバー層は具体的な業務遂行を担う。
 上位目標を現場の業務に結び付けるには、各階層が自らの業務や役割に合わせて目標を具体的な言葉に「翻訳」し、次の階層へと「接続」していく必要がある。

【図表1】階層ごとに求められる役割と目標例

階層 役割イメージ 目標例(営業部門の場合)
経営層 ビジョンおよび中長期的な経営戦略を策定し、最終的な結果責任を負う
  • 全社売上高90億円/営業利益率15%
  • 新商品Aを主軸とした営業モデルへの転換
部長層 経営戦略を実現するための部門戦略を策定し、資源の再配分と組織全体の最適化を図る
  • 部門売上15億円/営業利益率20%
  • 顧客製造現場の省人化ソリューションとして新商品Aの導入促進
課長層 部門戦略を実行可能な現場業務に落とし込み、進捗管理およびメンバーの育成を担う
  • 課売上5億円/新規受注率30%
  • 標準提案書の整備による提案書策定工数30%削減
メンバー層 担当業務を遂行し、学習と改善を通じて個人の成果を高め、組織に貢献する
  • 個人売上1億円
  • 食品メーカーへの新規訪問件数100件
  • 受注・失注要因の分析と共有

 そして、これらの「翻訳」と「接続」は、経営層とメンバー層の間に位置し、両者をつなぐ役割を果たす、部長・課長といったミドルマネジメント層が主導して担う必要がある。
 そこで本コラムでは、ミドルマネジメント層による組織目標の設定において、目標の「翻訳」と「接続」のプロセスで生じやすい課題と対策例を整理する。

 1つ目の課題は、「解像度不足」だ。
 例えば、「DX推進」や「お客様満足度UP」といった抽象的な目標は、受け手によって解釈が分かれる。DX推進と聞いて、ペーパーレス化をイメージする人もいれば、生成AIの業務活用をイメージする人もいるだろう。このような抽象的な目標は、目指すゴールもそこに至る手段もばらつく要因となり、成果につながりにくい。
 対策としては、SMARTの法則(※)などを活用した目標設定研修はもちろん、目標項目を具体化するためのフォーマットの工夫が有効である。例えば、該当する上位目標を選択し、その上位目標から行動計画に落とし込むような仕組み(【図表2】参照)が考えられる。

※:SMARTの法則とは、目標の明確性と達成可能性を高めるために使われるフレームワーク。Specific(具体性)、Measurable(測定可能性)、Achievable(達成可能性)、Relevant(関連性)、Time-bound(期限)の頭文字を取ったものである

【図表2】組織目標管理フォーマット例

組織目標管理フォーマット例の図

 2つ目の課題は、「ストーリーの不在」だ。
 例えば、「今期は売り上げ10%増を目指す」といった数値目標だけが与えられた場合、現場は「なぜ10%なのか」「どのような方針や戦略の下で設定された数字なのか」が分からず、単なるノルマとして受け止めてしまう。結果として、目標達成のための工夫や自発的な行動が生まれにくくなる。
 この課題に対しては、ミドルマネジメント層が上位目標の背景や意図を理解し、それを自分の言葉で次の階層や現場に伝えることが重要となる。例えば、自部門の売り上げが伸び悩んでいる要因や、重点顧客へのアプローチが必要な理由を、具体的なデータや事例を交えて説明し、重点顧客の売上構成比〇〇%を目指すべき状態として共有する、といった取り組みだ。
 このように、「なぜその目標なのか」「どう進めるのか」「目指すべき状態は何か」を一貫して語るストーリーがあると、目標は単なるノルマではなくなり、納得感と自律的な行動につながる。

 3つ目の課題は、「情報の非対称性」だ。
 組織目標は年初に一度発表するのみ、といった企業も多いのではないだろうか。しかし、人間は一度や二度では情報を十分に理解し記憶することはできない。学生時代、覚えたての数学の公式をすぐに使いこなせただろうか。応用問題を繰り返し解き、時には先生に不明点を質問することで理解が深まったと実感した人は、筆者だけではないはずだ。
 組織目標を浸透させるためには、何度も繰り返し伝え、対話によって理解を深めることが大切だ。説明会に加え少人数での質問会を複数回開催する、定例会などの場を通じて目標と進捗率を定期的に伝える場を設ける、といった対策が挙げられる。

 本コラムでは、上位目標との連動性を軸に、ミドルマネジメント層が目標の「翻訳」と「接続」を主導するための、課題と対策を整理した。上位目標と個人目標がつながり、目標を具体的な行動に落とし込むことができれば、取り組みの納得感は高まる。
 また、解像度不足やストーリーの不在といった課題は、個人目標にも共通する。ミドルマネジメント層が自ら正しく目標を立て、その考え方や手順を理解し共有することで、部下の目標設定を支援できるようになる。
 目標管理を単なる制度運用で終わらせず、上位目標と現場の業務が連動する「見える」仕組みを根付かせることが、最終的には組織全体の成果や成長につながるのではないだろうか。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット

HR第2部小谷 彩華(こたに あやか)

  • 経歴

    新卒で三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社。主に中堅・中小企業を中心とした戦略策定、人事制度改定や組織開発・人材育成まで幅広く従事。

  • プロジェクト実績

    基幹人事制度(等級制度・報酬制度・評価制度)の策定
    中期経営計画の策定
    営業力強化支援、人材育成推進など

  • 専門領域

    人事制度構築・運用支援
    組織開発・人材育成支援