MURC

コラム

中堅・中小企業におけるトータルリワード再設計のポイント
~ミドルシニア層の流出を防ぐために

2026年2月

五十嵐 歩(いがらし あゆみ)写真

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット

HR第1部コンサルタント 五十嵐 歩

専門商社の人事部門にて採用・教育を中心とした人材開発施策のマネジメント業務、およびその他人事施策全般の企画・運用業務を担当。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

 ミドルシニア層*の転職者数は増加傾向にある[1]。人材不足の状況にある中堅・中小企業にとって、経験豊富なミドルシニア層の流出は、事業運営に大きな影響を及ぼしかねない。
 転職のきっかけとしては、役職定年に伴う処遇変動や、昇格頭打ちによる報酬の伸び悩みなどが考えられる。他の企業から現年収よりも高いオファーを提示されると、年収アップ=目先の実入りが増えるという分かりやすさに引かれ、意思決定してしまうことが少なくない。本コラムでは、こうしたミドルシニア層の流出を抑制するために、金銭・非金銭報酬の双方を含む総合的な報酬=トータルリワードを再設計し、自社の価値を伝えるポイントを紹介する。
*本コラムでは、45~59歳を「ミドルシニア層」とする

1.ミドルシニア層の流出抑制にトータルリワードを活用する理由

 企業が従業員に提供する報酬は、年収以外にも退職給付や福利厚生、働き方、成長機会、職場環境など多岐にわたる。しかし、その全体像が十分に伝わっていないと、転職検討の際の比較軸が「年収」だけになってしまう。特にミドルシニア層は、組織において期待される役割や自身の健康面の変化、介護の発生といった公私の状況変動が同時期に生じやすいことから、「長期的な安定」「キャリアの意味付け」「ライフイベントとの両立」など、複合的な価値を重視する傾向がある。
 よって、トータルリワード——企業が労働の対価として社員に提供する総合的な価値——を整理し伝えることで、ミドルシニア層に対して、“自社で長く働くことの意義”を共有することが有効と考えられる。

2.トータルリワード再設計の3ステップ

STEP1.トータルリワードの棚卸

 まずは、自社が従業員に提供している価値を改めて把握するために、現状の棚卸を行う必要がある。トータルリワードの対象範囲・内容は企業によって異なるため、ここでは、厚生労働省が提案する「魅力ある職場づくり」における従業員の視点・関心[2]を参考に、自社が提供している取り組み内容を整理する。

【図表1】「魅力ある職場づくり」における従業員の視点・関心と取り組み例

従業員の視点・関心 「魅力ある職場づくり」の取り組み例(一部抜粋)
賃金等処遇
  • 働き続けても収入が増えない
  • 成果を上げても賃金が上がらない
  • 能力評価制度の導入
  • スキルや成果に応じた報酬制度の制定
  • 人事評価シートによる客観性の高い人事考課制度
  • 賃金表の整備
  • 諸手当制度の導入
  • 退職金制度の導入
  • 事業場内で最も低い労働者の賃金の引き上げ
労働時間・休暇
  • 長時間勤務が解消できない
  • 業務が忙しくて年休が取れない
  • 生産性の向上による労働時間の短縮の実施
  • 生産性の向上による年次有給休暇の取得促進
多様な働き方(制度)
  • 家庭の事情で、フルタイムや出勤して働くことが難しい
  • テレワークの導入
  • 仕事と家庭の両立支援の制度の導入
キャリアパス
  • ずっと同じ業務・職責で、ステップアップが見込めない
  • 自分の成長が感じられない
  • 仕事についての色々な悩みを相談したい
  • メンター制度の導入
  • 1on1ミーティングの導入
  • 非正規雇用労働者の正社員転換、処遇改善
  • 計画に沿った職業訓練の実施
  • 教育訓練休暇制度の導入
福利厚生
  • 福利厚生制度がない
  • 人間ドックの導入
労働環境
  • 仕事の内容や従業員の事情に配慮した労働環境になっていない
  • 労働環境改善のための機器の導入

([2]より引用しMURCにて作成)

STEP2.強化すべき施策の検討

 次に、自社が強化すべき施策の検討を行う。ここで重要な点は、やみくもに制度を増やすのではなく、自社の経営・人材戦略に沿った施策を設計することである。例えば、ミドルシニア層から若手層への技術継承を重要テーマとする場合は、役職定年後も専門性を生かせるキャリアパスの設計と、その職務に応じた報酬水準の設定、長期勤続の優位性を高める退職給付の調整などが対象となる。
 また、中堅・中小企業の強みは、長期的に確保したい人材の個別ニーズに沿って、柔軟に施策を運用しやすい点にある。例えば、介護や健康状態を踏まえた個別の働き方の調整や、個人のキャリアビジョンを踏まえたリスキリング支援など、従業員一人ひとりが置かれた状況に寄り添う運用が、他社との差別化につながる。

STEP3.制度の見える化

 最後に、制度があっても伝わらなければ意味はない。そのため、日常的に社員が自社の価値を意識できる仕組みづくりが重要である。例えば、イントラネットでライフイベント別のシミュレーションを公開する、社内報で制度活用事例を紹介するなど、継続的な伝達や告知が効果的である。また、前述した柔軟な運用を実現するためには、キャリア面談や1on1ミーティングなどを通じて、人事や上司が個人のニーズを常に把握できていることが不可欠となる。

3.まとめ

 ミドルシニア層の流出は、「年収額」だけの問題ではない。中堅・中小企業こそ、トータルリワードを“自社流”に再設計し、総合的な報酬価値を高めることが、離職抑制の第一歩につながるのではないだろうか。

参考文献

引用文献

  • [2]厚生労働省『取り組みませんか?「魅力ある職場づくり」で生産性向上と人材確保』
    001491253.pdf)最終確認日:2026-01-29

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット

HR第1部コンサルタント 五十嵐 歩(いがらし あゆみ)

  • 経歴

    専門商社の人事部門にて採用・教育を中心とした人材開発施策のマネジメント業務、およびその他人事施策全般の企画・運用業務を担当。
    三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

  • プロジェクト実績

    人材マネジメント施策の構築支援
    基幹人事制度構築支援
    人事評価者研修講師 等

  • 専門領域

    組織人事領域全般。特に基幹人事制度設計構築。