社労士

コラム

「精神障害の労災認定が7年連続で過去最多 ハラスメント防止と職場環境改善が重要に」
「地域間賃金格差15万円超となり約20年間で最大に」等、
人事労務関連レポート2026年9月号

2026年9月

本号では精神障害の労災認定の動向やシフト制労働者への対応、改正労災保険法など、人事労務担当者が押さえておきたい最新情報を解説する。

◆トピックス

精神障害の労災認定が7年連続で過去最多 ハラスメント防止と職場環境改善が重要に

 厚生労働省は、仕事によるストレスが原因で精神障害を発症した事案について、令和7年度の労災請求件数が4,958件(前年度比1,178件増)、労災認定件数が1,082件(同26件増)と公表しました。精神障害に関する労災認定件数は7年連続で増加し、過去最多を更新しております。ただし、認定率をみると、令和4年度の35.8%をピークにその後は減少が続き、令和7年度は28.2%となり、直近5年で初めて30%を下回りました。
 労災認定された1,082件のうち、自殺や自殺未遂に至ったケースは76件あり、認定要因別では「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメント」が222件で最も多く、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(カスタマーハラスメント)」と「セクシュアルハラスメント」がそれぞれ127件と続いています。
 厚生労働省は、認定件数の増加について、報道やハラスメント防止施策の推進により、業務上のストレスによる精神障害への社会的認識が広く浸透したことが背景にあると分析しています。

表2-1 業務災害に係る精神障害の労災補償状況

表2-1 業務災害に係る精神障害の労災補償状況を示す表です。

 【出典】厚生労働省 業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001723467.pdf

 また、精神障害の労災認定は、医療・福祉分野や専門・技術職を中心に発生しており、40代の働き盛り世代で多くみられています。認定事案を時間外労働時間別にみると、「20時間未満」が57件、「40時間以上60時間未満」が55件となっており、必ずしも長時間労働だけが要因ではないことに加え「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」場合の認定率は、68.2%となっていることに留意することが必要です。
 このような状況を踏まえ、過重労働の抑制に加え、ハラスメントの防止や円滑なコミュニケーションの促進など、心理的負荷を軽減する職場環境づくりが一層重要になってきています。

業種別(支給決定件数)のグラフです。医療・福祉292件、製造業158件、卸売業・小売業116件。
年齢別(支給決定件数)のグラフです。19歳以下11件、20代236件、30代243件、40代294件、50代244件。
時間外労働時間別(支給決定件数)のグラフです。

 【出典】厚生労働省「令和7年度 業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況」を基に作成

 令和7年の法改正により、令和8年10月からカスタマーハラスメント防止措置が事業主の義務となっており、厚生労働省は、企業に対してハラスメント対策の強化と働きやすい職場環境の整備を呼びかけています。

「シフト制労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」改正

 近年、人手不足や労働者のニーズの多様化、季節的な需要の繁閑への対処等を背景として、“労働日や労働時間を一定期間ごとに調整し、特定する働き方”いわゆる「シフト制」により就業する労働者が増加しています。しかし、その時々の事情に応じて柔軟に労働日・労働時間を設定できるというメリットがある一方、労働紛争に発展するケースも生じています。
 そのため、厚生労働省は令和4年に「いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」を作成しており、このたび、令和8年6月に主に「シフト制労働者の年次有給休暇取得」に関する事項について改正を行いました。

●所定労働日数に応じた比例付与も含めた、年次有給休暇の付与日数

 シフト制労働者の場合であっても、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤したときは、労働基準法所定の日数の年次有給休暇を付与しなければなりません(労働基準法第39条第1項、第2項)。また、所定労働日数が少ない労働者についても、所定労働日数に応じた日数分の年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条第3項)。この場合、参照される「所定労働日数」とは、基準日(継続勤務6か月経過日から1年ごとの各期間の初日)に予定されている1週間の所定労働日数であり、週以外の期間によって所定労働日数が定まっている場合は、1年間の所定労働日数となります。

通常の労働者及び週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の年次有給休暇の付与日数を示す表です。

 【出典】厚生労働省 年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf

●所定労働日数を算定しがたい場合の取扱い

 シフト制で働く労働者の場合、あらかじめ所定労働日数が定められていないことにより所定労働日数の算出が困難なケースが発生しておりました。今回の改正により、次の日数を、基準日における1年間の所定労働日数とみなして年次有給休暇の付与日数を算出して差し支えないとされました。

1.雇入れ6か月経過後の年次有給休暇の付与に当たっては、雇入れから6か月間の労働日数の実績を2倍した日数

2.雇入れ1年6か月経過後以降の年次有給休暇の付与に当たっては、前年の労働日数の実績

●年次有給休暇取得時に支払われる賃金の計算方法

 労働者が年次有給休暇を取得した日については、労働者の就労義務が消滅する一方で、使用者は、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」など、あらかじめ就業規則等で定めた一定の賃金を支払わなければなりません(労働基準法第39条第9項)。
 「シフト制」にて就業する労働者は、今後さらに増加していく可能性が高いと考えられます。今回取り上げた「年次有給休暇」以外の事項も含め、改めて自社での管理方法について見直してみる良い機会かもしれません。

 【出典】厚生労働省 いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22954.html

2025(令和7)年 国民生活基礎調査の結果が公表されました

 厚生労働省は、2025年「国民生活基礎調査」の結果を公表しました。国民生活基礎調査は、保健、医療、福祉、年金、所得など国民生活の基礎的事項を調査し、厚生労働行政の企画、立案に必要な基礎資料を得ることを目的に1986年から行われています。2025年調査から見える日本社会の主要な特徴として以下が挙げられます。

●少子化・単身化の進行

 全国の世帯数は5,505万8千世帯となり、平均世帯人員は2.17人となっており、世帯の小規模化が継続しています。世帯構造は単独世帯35.4%が最も多く、「一人で暮らす世帯」が日本の最大世帯類型となっています。また、児童のいる世帯は917万4千世帯、全世帯の16.7%となっており、長期的には減少傾向となっています。児童のいる世帯割合の低下や単独世帯割合の上昇から、少子化と単身化の進行がうかがえます。

●高齢者世帯に占める単独世帯・老老介護の増加

 母数となる高齢者世帯は、1,754万6千世帯で31.9%まで上昇しており、高齢者世帯に占める単独世帯割合(53.2%)は横ばいであるものの、高齢者世帯そのものが増加しているため、高齢者世帯に占める単独世帯の実数は増加しています。そうした中、要介護者等と同居の主な介護者の年齢組み合わせでは、60歳以上同士79.0%、65歳以上同士61.9%、75歳以上同士37.1%と高齢者同士の割合が上昇しており、老老介護が増加しています。

●所得改善と生活不安の併存

 全世帯の平均所得金額は2022年から2024年にかけて上昇し、2024年は575.2万円となり、前回調査から増加しました。その一方、生活が「苦しい」とする世帯は2025年で55.4%と過半数となっており、所得は改善したものの、生活が苦しいと感じる世帯が依然として多い状況です。
 今回の調査からは、少子高齢化や世帯構造の変化が引き続き進む一方、所得の改善が必ずしも生活実感の向上につながっていない実態がうかがえます。

地域間賃金格差15万円超となり約20年間で最大に

 厚生労働省の賃金構造基本統計調査の分析により、2025年の月額賃金の平均について、1位の東京都と比較し、最も低かった地域の差が、現在の推計方法に変更された2020年以降で初めて15万円を超えたことが分かりました。
 調査によると、25年の東京都の月額賃金は平均41万8,300円で、全国では34万600円。最も低かった青森県は26万3,900円で東京との差は15万4,400円で、2番目に低かった宮崎県との差も15万円となりました。都市部への大企業の集中や賃上げが東京に集中していることが地域間格差へ反映された可能性があり、賃金の低い地域からの人口流出を懸念する声が上がっています。

2026年最低賃金の状況 改定の目安を公表

 今年度の地域別最低賃金額改定の目安が厚生労働省の中央最低賃金審議会より7月28日に公表されました。都道府県の経済実態に応じ、全都道府県をABCの3ランクに分けて、引上げ額の目安を提示していますが、Aランク(東京都、大阪府、埼玉県等6都府県)54円、Bランク(北海道、京都府、兵庫県等28道府県)56円、Cランク(青森県、沖縄県等13県)56円となっています。今後は各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定することとなりますが、仮に目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合の最低賃金額(全国加重平均)は1,176円となります。この場合、全国加重平均の上昇額は55円(昨年度は66円)となります。また、引上げ率に換算すると4.9%(昨年度は6.3%)となります。
 なお、厚生労働省の中央最低賃金審議会が示した目安どおり、東京地方最低賃金審議会は8月5日に東京都の最低賃金を現行の時給1,226円から54円(4.4%)引き上げ、1,280円とするよう東京労働局に答申しました。東京都では、早ければ10月1日に改定後の最低賃金が適用されることになります。

改正労災保険法が成立

 遺族補償年金の支給要件の男女差解消・一部保険給付請求権の消滅時効期間の延長や小規模な農林水産事業への労災保険の強制適用などを柱とした改正労災保険法が7月10日、参院本会議で可決、成立しました。施行は令和9年4月1日ですが、小規模農林水産業に係る労災保険の暫定任意適用事業の廃止については、公布の日(令和8年7月17日)から5年以内に政令で定める日に施行される予定です。

●遺族補償年金における支給要件等の見直し

 労災保険法の遺族補償年金等、石綿健康被害救済法の特別遺族年金等について、夫にのみ「妻の死亡時に55歳以上又は一定の障害の状態でなければ受給権が生じない」という要件が課せられていました。
夫と死別した女性による生活維持は困難という考えが背景にありましたが、女性の就業率向上や共働き世帯の増加を踏まえ、男女格差の解消を図るためこの要件が撤廃されます。

●労災保険給付請求権等の消滅時効期間の見直し

 療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付等の給付を受ける権利は、これらを行使することができるときから2年間を経過したときは時効により消滅します。
保険給付の事由となる疾病が、その性質上、労災保険法上の災害補償事由に該当するかどうかを容易に判断できない疾病である場合に、消滅時効の期間を現行の2年から5年に延長します。
対象となる疾病は政令で定められますが、脳・心臓疾患や精神障害、石綿関連疾病などが想定されています。

●労災保険の適用事業に関する暫定措置の廃止

 労災保険は原則、労働者を雇用すれば強制適用されます。しかし、小規模な農林水産業は実態把握が困難といった理由から、「暫定任意適用事業」として任意での加入が認められていました。
近年、農林水産業の小規模な事業においても重大事故がみられ、労働者保護の必要性が高まっていることから暫定措置を廃止し、労災保険の適用事業となります。

 【出典】厚生労働省 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)について
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001725425.pdf

短時間労働者の社会保険加入拡大

 今年10月に短時間労働者の社会保険加入要件から賃金要件が撤廃されます。現行の規定では、「所定内賃金が8.8万円以上であること」という要件が定められていますが、最低賃金の上昇により、週20時間以上働く従業員は、自動的に月額賃金が8.8万円以上となるため、賃金要件を意識する必要がなくなります。社会保険の加入条件を再度確認し、社会保険に加入すべき短時間労働者の加入漏れがないかどうかご確認ください。