コラム
「障害者雇用は『数』から『活躍』へ 法定雇用率対応と受入体制の構築」
「外国人雇用管理指針の改正について」等、
人事労務関連レポート2026年8月号
2026年8月
人手不足が深刻化する中、多様な人材の活躍を支える環境整備が求められている。本コラムでは障害者雇用や多様な働き方の推進など、企業が取り組むべき課題と方向性について解説する。
◆トピックス
- 障害者雇用は『数』から『活躍』へ 法定雇用率対応と受入体制の構築
- 労働市場改革分科会で議論 柔軟で多様な働き方の実現に向けて
- 外国人雇用管理指針の改正(令和8年6月14日から段階的に適用)について
- 職場における各種ハラスメント対策について
- 高額療養費制度に年間上限が導入されます(令和8年8月1日~)
- 保険料調整制度のご案内
障害者雇用は『数』から『活躍』へ 法定雇用率対応と受入体制の構築
厚生労働省が公表した令和7年障害者雇用状況の集計結果によると、民間企業における障害者雇用数は70万人を超え、過去最高を更新しました。法定雇用率の引き上げや各種支援策を背景に、多くの企業で障害者雇用への取り組みが進んでいます。
一方で、法定雇用率を達成した企業は前年と同率の46.0%にとどまり、半数以上の企業が未達成という状況です。企業規模別にみると1,000人以上規模の企業の実雇用率は2.69%と法定雇用率を達成しているのに対して、40~100人未満では1.94%となっており、企業規模が小さいほど雇用率が低い傾向にあります。
また、ハローワークにおける障害者の職業紹介状況を見ると、新規求職申込件数は増加しているにもかかわらず、就職件数はほぼ横ばいで推移しています。中でも精神障害者は、新規求職申込件数・就職件数ともに増加しているものの、求職者の増加ペースが就職件数の伸びを上回っており、就労ニーズの増加に対して、雇用機会の拡大が十分に追いついていない状況がうかがえます。
【出典】厚生労働省 令和7年度障害者職業紹介状況等
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001713333.pdf
では、なぜ障害者雇用は十分に進まないのでしょうか。募集職種や業務内容が求職者と合わない、配慮事項が不明で採用をためらってしまう、受入体制や業務の切り出しができていない、支援機関との連携が不足している、といった要因が障害者雇用の促進を阻害していると指摘されています。
つまり「人がいない」のではなく、「企業と求職者がうまくマッチングできていない」ことが大きな課題となっています。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査結果によれば一般企業の8割超が「法定雇用率の充足」を重視しているのに対して、「障害者の戦力化」は5割、「社内の中心的な業務に貢献」は3割にとどまっており、障害者雇用が依然として法定雇用率の達成を目的とする傾向がみられます。厚生労働省が公表した令和5年度障害者雇用実態調査においても、企業が障害者を雇用するにあたって最も多く挙げた課題は、「会社内に適当な仕事があるか」であり、「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」「従業員が障害特性について理解することができるか」「採用時に適性・能力を十分把握できるか」「職場の安全面の配慮が適切にできるか」といった課題が続いています。人手不足が深刻化する中、今後は雇用の「数」だけでなく、「活躍できる環境を整えること」に取り組み、活躍を前提とした雇用への転換が求められるでしょう。
「障害者雇用」と聞くと、車いす利用者や視覚・聴覚障害者を思い浮かべる経営者も少なくありません。しかし、現在ハローワークに登録する障害者求職者の約6割は精神障害者であり、障害者雇用の実態は大きく変化しています。従来の障害者像を前提に採用活動を行っていると、実際の求職者層との間に大きなミスマッチが生じます。障害者の採用と定着を進めるためには、身体障害者を想定した対策だけではなく、精神障害者の特性を理解し、業務設計や職場でのコミュニケーション、定着支援を含めた受入体制を整備することがこれまで以上に重要になっています。厚生労働省が公開している「障害者が活躍できる職場づくりのための望ましい取組のポイント」や各種機関のサービスを活用しながら、自社に適した受入体制の構築を検討してみてはいかがでしょうか。
労働市場改革分科会で議論 柔軟で多様な働き方の実現に向けて
政府は5月27日、日本成長戦略会議の労働市場改革分科会(以下:分科会)の第4回会合を東京都内で開催し、これまでの議論を踏まえた取りまとめ案について議論を行いました。労働時間制度の見直しをめぐっては昨年末の分科会設置以降議論が進められており、人手不足が深刻化する中で多様な人材が能力を発揮できる労働環境の整備や、生産性向上につながる労働市場改革の方向性について意見が交わされました。特に注目されたのが、「柔軟で多様な働き方の実現に向けた労働時間法制等」に関する取り組みです。近年は、育児や介護との両立、テレワークの普及、副業・兼業の拡大などにより、働く人々のニーズが大きく変化しています。そのため、従来の画一的な労働時間管理ではなく、個々の事情に応じた柔軟な働き方を可能にする制度の整備が求められています。
●裁量労働制の活用
柔軟な働き方を実現する制度の1つとして、裁量労働制があります。これは実際に働いた時間ではなく、労使協定等であらかじめ定められた時間を働いたものとみなし、その分の賃金を支払う制度です。主に研究開発職や企画業務など、業務の進め方や時間配分を労働者自身の裁量に委ねられる職種で活用されています。
裁量労働制のメリットは、働く人が自ら業務の進め方を調整できる点にあります。一方で、実際の労働時間が見えにくくなり、結果として長時間労働につながる可能性も指摘されています。こうした課題を踏まえ、令和6年4月には裁量労働制の見直しが行われました。改正では、制度導入時の手続きを厳格化するなど、制度の適正な運用を確保するための仕組みが強化されています。分科会においては、まずは令和6年改正後の運用状況を十分に把握し、その効果や課題を検証することが重要であるとの意見が示されました。
■詳細はこちらをご覧ください。
厚生労働省
裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です
https://www.mhlw.go.jp/content/001080850.pdf
●変形労働時間制による柔軟な勤務体制
変形労働時間制も、多様な働き方を支える重要な制度です。これは、一定期間内で労働時間を柔軟に配分し、業務の繁閑に応じて法定労働時間の範囲内で調整できる制度であり、1週間単位、1か月単位、1年単位、フレックスタイム制があります。これらの制度を活用することで、企業は業務量に応じた人員配置を行いやすくなります。また、フレックスタイム制など労働者に一定の裁量が認められる制度では、個々の事情に応じた柔軟な働き方を実現しやすくなります。分科会では、同制度は繁閑に応じて労働時間を柔軟に配分できるため、労使の話し合いを通じて労働時間の短縮や法定労働時間枠の有効活用につながるとの意見が示されました。一方で、取引先からの急な要請などによって業務量が大きく変動する業種では、現在の制度が十分に実態に対応できていないとの指摘もありました。そのため、1年単位の変形労働時間制では勤務日を30日前までに確定しなければならないといった要件の見直しや、確定後の勤務日の変更を認めるなど、より柔軟な制度設計を検討すべきであるとの意見が出されました。
●労働基準監督署による時間外労働の指導運用の見直し
柔軟な働き方の実現に向けては、制度の整備だけでなく、その運用を担う行政の役割も重要です。分科会では、労働基準監督署による指導の在り方についても議論が行われました。労働基準監督署による指導が画一的かつ硬直的になっているとの指摘や、時間外労働が月45時間を超えた場合、法令上は認められる範囲内であっても指導が行われているケースがあるとの意見も示されました。一方で、労働基準法は労働者の生命と健康を守るための最低基準を定めた法律であることから、行政は引き続き厳格な対応を維持すべきだという意見も出されました。
柔軟で多様な働き方の実現は、単に労働者の働きやすさを向上させるためだけではなく、人手不足が深刻化する中で多様な人材の活躍を促し、企業の生産性向上や競争力強化につなげるという側面もあります。その一方で、制度の柔軟化が長時間労働や健康被害につながらないよう、労働者の健康確保や適切な労務管理も欠かせません。
今後は労働政策審議会に議論の場が移り、労使双方にとってより良い働き方の実現に向け、年末に示される結論が注目されます。
外国人雇用管理指針の改正(令和8年6月14日から段階的に適用)について
「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」が改正され、令和8年6月14日、10月1日、令和9年4月1日の3段階で段階的に適用されることになりました。この指針は事業主が守るべき法令や努めるべき雇用管理の内容を定めたものです。令和8年6月14日から適用された内容のポイントは以下の3点です。
①同一労働同一賃金ガイドラインが外国人労働者にも適用されることへの留意
②外国人労働者およびその家族の日本語学習支援等への配慮
③外国人雇用状況届出の厳守・在留カード等読取アプリの活用推進
近年、人手不足を背景に外国人労働者を雇用する企業が増加しています。一方で、「指示がうまく伝わらない」「報告・連絡・相談が不足する」「定着しない」といった課題を抱える企業も少なくありません。外国人を採用するだけでなく、定着し活躍してもらうためには、日本語でのコミュニケーションが不可欠です。日本語学習支援は福利厚生の一環ではなく、安全性や生産性の向上、人材定着につながる経営課題として取り組むことが求められています。
【業務の遂行を円滑にし、安全性・生産性が高まる】
指示を正確に理解することで業務効率が向上し、作業ミスや労働災害の防止につながります。また、報告・連絡・相談が円滑に行えることでトラブルを未然に防ぐことができます。
【外国人労働者の能力を十分に発揮してもらえる】
特定技能の在留資格を取得する際にも一定の日本語能力が求められており、日本語能力の向上は職務の幅の拡大やキャリア形成につながります。
【職場内コミュニケーションが円滑になる】
日本語によるコミュニケーションが活発になることで、信頼関係を築き、相互理解が深まります。外国人労働者が孤立しにくくなり、職場への定着や離職防止の効果が期待できます。
【家族を含めた生活の安定・定着を促すことができる】
外国人労働者本人だけでなく、その家族が日本語を学ぶことは、生活基盤の安定や地域社会への適応につながり、安心して生活できる環境づくりに寄与します。また、このような環境整備は離職防止や長期定着にもつながります。
なお、6月14日から在留カードの券面様式が変更され、また特定在留カード(在留カードとマイナンバーカードが一体化)の運用が開始されています。これまでの在留カードと比較して「在留資格」などの記載位置が変わっていることにも注意が必要です。出入国在留管理庁が提供する在留カード等読取アプリケーションを使用することで、在留カード等の真正性を確認することができますので、ご活用ください。
■詳細はこちらをご覧ください。
厚生労働省
外国人雇用管理指針改正の主なポイント
https://www.mhlw.go.jp/content/001707303.pdf
職場における各種ハラスメント対策について
令和8年10月1日より、すでに事業主に対策が義務付けられているハラスメントに「職場におけるカスタマーハラスメント」「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」が追加されます。これに伴い、厚生労働省の「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」が更新され、規程例や周知文書のサンプルが掲載されました。
ハラスメント対策は規程を整備しただけで十分となるわけではありません。また、会社により有効な対策が異なります。自社の実情に応じて、階層別研修等による定期的な周知・啓発を行うほか、周知文書を社内ネットワークに掲載した際にはその旨をメール等で全労働者に周知することも重要です。社内アンケートを活用して従業員の意識や実態を把握し、未然防止や働きやすい職場環境の整備につなげましょう。
■詳細はこちらをご覧ください。
厚生労働省
事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
高額療養費制度に年間上限が導入されます(令和8年8月1日~)
将来にわたり医療保険制度を持続可能なものとするため、「健康保険法等の一部を改正する法律」が令和8年5月29日に成立しました。改正事項の一つとして、高額療養費制度の見直しがあります。
高額療養費制度とは、長期入院などによる医療費の負担を抑えるため、医療機関や薬局の窓口で支払った額が自己負担限度額(年齢や所得に応じて決定)を超えた場合に、その超過額が払い戻される制度です。また、1年間に高額療養費に該当した月が3か月以上ある場合、4か月目以降の自己負担限度額がさらに軽減される「多数回該当」という仕組みもあります。
令和8年8月からは、従来の月単位の自己負担限度額に加え、新たに年単位の自己負担上限額が導入されます。これにより、高額な医療費負担が長期間続く方への配慮が強化され、長期療養者の負担軽減が図られることになります。また、一部の所得区分では月ごとの自己負担限度額が引き上げられます。さらに、令和9年8月からは応能負担の観点から、所得区分の細分化や低所得者への配慮強化が予定されています。
保険料調整制度のご案内
保険料調整制度は、令和8年10月から開始される社会保険適用拡大に伴う支援制度です。新たに健康保険・厚生年金保険の加入対象となる短時間労働者について、事業主が保険料の一部を一時的に負担することで、従業員の保険料負担を通算3年間軽減する仕組みです。
対象は、令和8年10月1日以降に任意特定適用事業所になる事業所および令和9年10月1日以降に適用拡大される事業所において、短時間労働者として加入する、標準報酬月額が126,000円以下の被保険者です。軽減割合は報酬額に応じて異なりますが、制度利用1~2年目は従業員負担を大幅に抑えることができ、3年目は軽減割合が半減します。これにより、社会保険加入による手取り収入の減少を緩和し、「年収の壁」を意識した就業調整の解消を後押しすることが期待されています。
なお、事業主が追加負担した保険料は一定期間経過後に調整されるため、最終的な事業主負担は増加しません。また、従業員が将来受け取る年金額にも影響はありません。従業員にとっては少ない負担で社会保険の保障を受けられ、事業主にとっては人材確保や定着促進につながる制度として位置付けられています。
■詳細はこちらをご覧ください。
日本年金機構
保険料調整制度のご案内
https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/hokenryochosei.html
