社労士

コラム

「無期雇用における同一労働同一賃金に関する最高裁判決」
「パートタイム・有期雇用労働者に関するルール変更」等、
人事労務関連レポート2026年7月号

2026年7月

「同一労働同一賃金」をめぐる最高裁判断や労働時間規制の見直しに向けた議論の動向のほか、パート・有期雇用労働者への対応、障害者雇用、社会保険適用拡大など、企業が取り組むべき課題と方向性について解説する。

トピックス

無期雇用における「同一労働同一賃金」判決が最高裁で判断されました

 雇用期間の定めのないフルタイム勤務の契約社員と正社員との間に不合理な待遇差を設けることは、「同一労働同一賃金」の考え方に反するとの判断を今年4月に最高裁が示しました。

●事案の経緯

 原告は青森県内の50代女性で、場外馬券売り場に勤務していました。2002年に採用されましたが雇用期間の定めはなく(無期)、所定労働日数・所定労働時間は正社員と同じいわゆるフルタイムでした。
 女性は、別の売り場に勤務し同じような仕事をしている正社員と比べて基本給や賞与、住宅手当が少なく、家族手当がない、といった待遇を受けるのは不合理な格差だとして提訴しました。

●ポイント①法律における無期雇用の待遇差

 2020年に改正・施行されたパートタイム・有期雇用労働法(以下「同法」)には、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差を禁止することが定められています。
同法の対象となる非正規社員は、次のいずれかに該当する労働者です。

 ①正社員(通常の労働者)と比較して1週間の所定労働時間が短い労働者
 ②有期雇用(1年や3年など定めがある労働契約)で働く労働者

 したがって、1週間の所定労働時間が正社員と同じであり、雇用期間の定めのない労働者は同法の対象となる非正規社員ではないとみなされ、したがって同法の定める待遇差の禁止にも該当しないことになってしまいます。
 原告も無期フルタイムの契約社員であり、同法の対象外ということになりますが、今回の事案では同法ではなく、労働契約法第3条第2項違反として提訴しました。労働契約法第3条は「労働契約の原則」を謳っており、その第2項では「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定めています。原告側は、現在の待遇は働き方に応じて均衡を考慮しておらず、公序良俗に反していると主張しました。
 会社(被告)側は、「無期雇用間の待遇差に関する法律はない」と反論しました。
 法律に明記されていない正社員と無期雇用社員の待遇差をどのように判断するかが焦点となりました。

●判決

 2025年2月、青森地裁八戸支部は、「無期雇用の労働者間でも不合理な差別は許されない」として、諸手当の差額や正社員の賞与の7割を下回る分、合計約586万円の支払いを会社側に命じ、原告・被告双方が控訴しました。
 2025年9月、控訴審において仙台高裁は、「2020年にパートタイム・有期雇用労働法が施行された後に『同一労働同一賃金』の公序が確立した」と判断、違法とされた期間を2020年以降とし、賠償額を約193万円に減じたものの、無期雇用間でも不合理な待遇差は許されないという結論は変えませんでした。
 原告が上告しましたが、2026年4月、最高裁が上告を受理しない決定を行い、高裁判決が確定しました。

●ポイント②本判決の意義

 法律の「隙間」ともいえる無期雇用社員の待遇についても正社員と比べて不合理であってはならない、という今回の判決は、法律の趣旨を踏まえた判断であり、画期的と言えます。一方、会社としては、今後は社員の処遇について改めて確認・検討する必要があるでしょう。

労働時間制度の規制緩和についての結論が年末まで持ち越されました

【労働時間規制の緩和をめぐる議論の動き】

 発端は、昨年10月21日に高市早苗氏が内閣総理大臣に就任、翌日上野賢一郎氏を厚生労働大臣に指名し、その際に現行の労働時間規制の緩和を指示したことです。その後の議論の動きは下記のとおりです。
この間、労使双方が要望や意見書を提出し、主張を展開しています。

日付 労働時間制をめぐる動き
2025年10月27日 厚労省労働政策審議会労働条件分科会が開催され、労働時間規制の見直し(緩和)に関する議論開始。
2025年12月24日 労働市場改革検討のため、日本戦略会議に労働市場改革分科会を設けることが決定。
2026年3月11日 労働市場改革分科会の初会合。2026年5月にとりまとめ、夏に成長戦略策定をめざすことを決定。
2026年5月27日 第4回労働市場改革分科会開催。
  • 今後は厚労省労働政策審議会で議論するというとりまとめ案を大筋了承。
  • 年末までに結論を出す予定。

【労使の意見・要望等の内容】

●使用者側:労働時間に関する諸制度を緩和し、より柔軟な活用を要望

 5月19日に経団連が発表した裁量労働制の拡充を求める提言によると、厚生労働省の調査等では、裁量労働制適用者の8割が適用に満足と回答し、また多くが「メリハリをつけて自分のペースで働ける」「業務を通して自分の知識や経験・スキルを伸ばせる」といったメリットを感じているとして、裁量労働制のニーズが高いことを示しているが、現行制度では一部でも非対象業務に従事している場合は裁量労働制が認められていないため制度を活用できていないことが問題であり、健康確保を大前提に、対象業務を拡大すべきと提言しています。そして、新たに「課題解決型提案業務(特定の顧客向け商品・サービスの企画・立案・調査・分析および開発・提案の業務・他社の事業の運営に関する業務)」を裁量労働制の適用業務にすることを求める提言もしています。
 また、第3回日本戦略会議労働市場改革分科会では、いくつかの中小企業団体が変形労働時間制の実状における問題点の指摘と運用改善を要望しました。その内容は、下請けなどの中小企業では突発的な発注や依頼に対して柔軟で臨機応変な対応が必要となり、現行の労働時間制度だと運用が難しいこと、特に建設業・サービス業において天候や繁忙期、工期の制約など不確定要素が多く、時間外労働の規制などを厳格に守ることが困難であること、労使合意を経て30日前までに勤務カレンダーを定める運用について、日々変わる現場の状況では活用できないこと、等です。

●労働者側:労働者保護の観点に立った労働時間規制の見直しを要請

 労働法制中央連絡会と全国労働組合総連合(全労連)は、5月15日公表の「裁量労働制の実態調査結果」で、裁量労働制の適用上必要な裁量(遂行手段・時間配分)が与えられていない人がいる、裁量労働制になっても長時間労働は解消されていない、裁量労働制が残業代逃れの賃金抑制に使われている、労使協定の内容を適用者・労働者に明示・周知することが十分にできていない、等の問題点が調査から見えてきた、としています。
 また、連合は厚生労働大臣に対し「働く者の声を尊重した労働時間法制の実現を求める緊急要請」を実施し、①上限規制の強化など「働き方改革」の定着・推進に向けた法改正に取り組むこと②裁量労働制の対象業務の安易な拡大や要件緩和は行わないこと③変形労働時間制の要件緩和などは行わないこと④労働基準法の強行法規制を堅持すべきこと⑤労働基準監督署における厳格な指導・監督は維持すべきことを要請しています。

 異なる視点からの主張により対立する労使。年末まで持ち越された結論がどのようになるのか、今後の動向が注目されます。

パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります

 パートタイム・有期雇用労働者の待遇改善を進めることを目的とし、下記のルールに追加・変更が行われました。(令和8年10月1日施行)

ルール 追加・変更点
①雇入れ時の労働条件明示事項 「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる」旨の明示を追加。
②同一労働同一賃金ガイドライン 「賞与・退職手当」「無事故手当」「家族手当」「住宅手当」「福利厚生施設」「病気休職」「夏季冬季休暇」「褒賞」を追加。
③雇用管理の改善などに関する措置 合計8つの工夫点や留意点等の変更。

 ③は、「パートタイム・有期雇用労働者にも職業能力開発法の適用があることに留意する」「公正な評価に基づき賃金を決定する」等が変更されました。

■詳細はこちらをご覧ください。

 パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります
https://www.mhlw.go.jp/content/001698010.pdf

障害者雇用率、段階的に引き上げへ(令和8年7月以降)

 厚生労働省は、障害の有無にかかわらず誰もが働きやすい共生社会の実現に向け、民間企業に義務付けられている障害者の法定雇用率を段階的に引き上げる方針を示しています。
 法定雇用率は令和5年度の2.3%から、令和6年4月に2.5%へ引き上げられ、さらに令和8年7月には2.7%となります。
 これに伴い、雇用義務の対象となる企業規模も拡大し、従業員数の基準は43.5人以上から40.0人以上、さらに37.5人以上へと順次引き下げられます。
 企業は毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークへ報告する必要があり、令和8年の報告では法定雇用率の2.5%で達成状況が確認されます。また、障害者の採用や定着を進めるため、企業内に「障害者雇用推進者」を選任することが努力義務とされています。
 厚生労働省やハローワークは、助成金や相談支援を通じて企業の取り組みを後押しし、障害者が働き続けられる環境づくりを進めていくとしています。

産業医の解任等に関する報告が義務化されます(令和8年8月1日以降)

 労働者数が常時50人以上の事業場では、労働安全衛生法に基づき産業医を選任することが義務付けられており、産業医を選任した時は、遅滞なくその旨を所轄の労働基準監督署に報告しなければなりません。
 一方でこれまで、産業医の解任等があった場合には報告義務が課されていませんでしたが、令和8年8月1日より、解任等があった場合にも所轄の労働基準監督署への報告が義務付けられることになりました。
 なお、これまでと同様に、新たな産業医の選任と同時に前任の産業医の解任等の報告を行った場合は、別途解任等の報告は不要です。

短時間労働者の社会保険加入拡大 実務対応のポイント

令和8(2026)年10月、「年収106万円の壁」は撤廃予定。
週20時間以上働く方の社会保険加入は、より身近なテーマになります。

 パート・アルバイトなどの短時間労働者について、社会保険の加入対象がさらに広がる見込みです。現在、短時間労働者が健康保険・厚生年金保険に加入するには、月額賃金8.8万円以上、週20時間以上、企業規模51人以上、学生でないことなどの要件があります。今回の大きなポイントは、令和8(2026)年10月に「賃金要件」が撤廃される予定であることです。

 令和7年度の地域別最低賃金は、全ての都道府県で時給1,023円を超えました。最低賃金以上で週20時間働く場合、月額賃金は8.8万円以上となるため、現在の賃金要件を自動的に満たすことになります。つまり、今後は「週20時間以上働くかどうか」が、実務上ますます重要な確認ポイントになります。

●現在の加入要件と、これから変わる点

 「106万円の壁」とは、短時間労働者が社会保険の加入対象になる目安として意識されてきた月額8.8万円以上という賃金要件を指します。この要件が撤廃されると、月額賃金が8.8万円未満かどうかではなく、週の所定労働時間や企業規模、学生でないことなどを中心に加入対象を判断することになります。
 現在は、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業が対象です。しかし、年金制度改正法に基づき、対象となる企業規模は段階的に小さくなっていきます。これまで対象外だった中小企業でも、今後はパート・アルバイトの社会保険加入対応が必要になる可能性があります。

対象となる会社 現在は、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業。今後、企業規模要件は段階的に縮小されます。
対象となる人 週の所定労働時間が20時間以上、学生でない短時間労働者。
賃金要件 現在は月額8.8万円以上。令和8(2026)年10月に撤廃。
例外・補足 最低賃金の減額特例の対象者など、一部は取扱いが異なる場合があります。
現在 51人以上
2027年10月〜 36人以上
2029年10月〜 21人以上
2032年10月〜 11人以上
2035年10月〜 10人以下も対象へ

●会社が今から確認しておきたい3つのこと

  • 週20時間以上勤務するパート・アルバイトの人数を把握する
  • 雇用契約書・シフト実態・所定労働時間に差がないか確認する
  • 社会保険料の会社負担額を試算し、採用・人件費計画に反映する

職場における熱中症防止のためのガイドライン

 熱中症のおそれのある全ての作業を対象に、職場における熱中症による労働災害等の防止を図ることを目的としたガイドラインが今年3月に厚生労働省から発表されました。

●熱中症リスクの評価(WBGT値の把握)

有害性の要因の特定 湿球黒球温度の値(WBGT値)の把握 熱中症リスクの評価・検討
熱中症リスクとなり得る、暑熱に関する要因があるか特定
  • 高温・多湿な作業環境
  • 通気性や透湿性の低い衣服や保護具
  • 身体作業負荷の大きい作業や連続した作業 等
作業場所にWBGT指数計を設置し、湿度や気温、輻射熱を総合した暑さ指数(WBGT値)を測定・点検 作業場所のWBGT値の低減を検討・予防対策の実施
  • WBGT値に基づき、作業環境の管理を行う
  • 高齢者や熱中症発症リスクに影響を与える疾病や障害をもつ作業従事者に対して、作業時間の短縮等を検討

●熱中症リスクに応じた措置

①労働衛生管理体制の確立等 衛生委員会等を活用し、熱中症防止対策について話し合い、その内容を労働者に周知
②作業環境管理 冷房付き休憩場所の確保等、多量の発汗を伴う場所では飲料水や塩飴の備え付けを義務
③作業管理 「暑熱順化(熱に体を慣らす)」のプログラム実施、こまめな休憩、作業時間の短縮
④健康管理 疾患(糖尿病や高血圧など)を持つ従業員への就業上の配慮、作業前の体調確認の徹底
⑤労働衛生教育 熱中症予防管理者や作業従事者に対する、定期的な労働衛生教育の実施
⑥異常値の措置 本人が「大丈夫」と言っても放置せず、単独行動を避けて救急処置と専門機関への相談
⑦その他 夏季の屋外作業は熱中症となる可能性が高いことから、経費や工期・納期に十分に配慮を行う 等

 気候変動の影響により猛暑日の増加が続く中、職場における熱中症対策の重要性はますます高まっています。
皆様におきましてもガイドラインを参考に、熱中症防止対策を検討・実施してみてはいかがでしょうか。