社労士

コラム

「メンタル不調増加に伴う、傷病手当金と労災保険の申請動向」
「法人役員・個人事業主の社会保険加入の適正化について」等、
人事労務関連レポート2026年5月号

2026年5月

メンタル不調への対応や制度改正など、企業実務に直結する最新の人事労務トピックについて解説する。

トピックス

メンタル不調の増加に伴う、傷病手当金と労災保険の申請動向

 近年、精神疾患を理由とした傷病手当金と労災保険の申請件数は継続的に増加しています。
 令和2年度から令和6年度にかけて、傷病手当金の精神疾患の年齢別請求件数を比較したところ、いずれの年代においても増加傾向が見られ、その件数はおおむね1.6~1.8倍となっています。特に働き方や環境の変化に影響を受けやすい世代を中心に精神疾患を理由とした請求の割合が高い傾向にあります。

年代別 精神疾患を理由とした傷病手当金請求件数(協会けんぽ)のグラフ
R6年度 年代別 傷病手当金構成比(協会けんぽ)のグラフ
年代別 労災保険 精神障害請求件数のグラフ

 【出典】協会けんぽ現金給付受給者状況調査(令和6年度)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/disclosure/statistics/statistical_survey/beneficiary_status_survey/r06/
 【出典】厚労省:過労死等の労災補償状況
 ・令和6年度過労死等防止対策白書
https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/
https://www.e-stat.go.jp/stat-search?page=1&toukei=00450572

 精神障害の原因が業務に起因する場合は労災保険による補償の対象となりますが、労災保険での請求件数も増加傾向にあり、令和6年度は令和2年度と比較して1.8倍となっています。
 一方で、精神障害に関する労災認定は、業務との因果関係の立証が難しく、不支給となるケースや、請求自体を取り下げてしまうケースも少なくありません。実際に令和6年度における精神障害を理由とした労災保険の請求件数3,780件に対し、支給決定となった件数は1,055件(27.9%)にとどまっています。

 職場におけるメンタル不調は、従業員の生活の質に影響を与えるだけでなく、休職や離職による人員不足や、業務の停滞、さらには出勤していても十分に能力を発揮できないことによる生産性の低下など、組織全体にも大きな影響を及ぼします。メンタルヘルス対策は個人の問題として捉えるのではなく、組織が持続的に成長していくための重要な経営課題の一つとして取り組む必要があります。

 これまでの職場におけるメンタルヘルス対策は、こころの不調をいかに防ぐかという点に重きが置かれてきましたが、近年では単に不調を防ぐだけでなく、働きがいや心理的安全性を重視する「0次予防」(人を健康にする環境づくり)という考えも広がっています。
 働きがいのある職場づくりのために、慶應義塾大学教授の島津明人先生の著書である「新版 ワーク・エンゲイジメント : ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を」では、「従業員が個人でできる工夫」「組織ができる工夫」という章を通じて、ワーク・エンゲイジメントを高めるための具体的な考え方が示されています。こうした取り組みを重ねることで、単に不調を防ぐだけでなく、従業員が健康で、いきいきと毎日を過ごせる職場づくりにつながると考えられています。

法人役員・個人事業主の社会保険加入の適正化について

 本来は国民健康保険・国民年金の適用を受けるべき個人事業主等が、実態のない法人役員として社会保険に加入し、報酬を低く設定して、社会保険料を不当に安く抑える「国保逃れ」について、厚生労働省が是正に乗り出すことが分かりました。地方議員でも発覚しており、制度の信頼を揺るがしかねないとして抜け穴を塞ぐ目的があります。先月には、日本年金機構や全国健康保険協会・健康保険組合に対する通達も発出され、「法人の役員である個人事業主等に関わる被保険者資格の取扱いについて」が明確化されました。
 法人役員の社会保険加入については、報酬や業務の要件を明確にし、実態がなければ「違法」と位置づけられます。業務実態がなければ、過去にさかのぼって保険料を請求する方針です。

 一方で、社会保険に加入すべき法人の役員が、加入をしていないというケースもあります。特に注意が必要なのが、複数の会社で役員を兼務する場合です。社会保険はそれぞれの事業所ごとに加入要件を満たすかどうかを判断し、要件を満たせばそれぞれで加入することになります。
※「二以上事業所勤務者」と呼びます。
(法人の理事、監事、取締役、代表社員はもちろん、社団または組合の総裁、会長、組合長なども同様です。)

 法人の役員の被保険者資格は、以下を判断基準とし、実態を踏まえて総合的に判断されます。
 ① その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であるか。
 ② その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるか。

役員として社保加入するケース 役員と認められないケース(国保加入)
  • 業務について指揮監督する従業員や他の役員がいる
  • 経営に関わる事案に対して意見を言える立場にある
  • 役員として社会通念上の報酬がある
  • 指揮監督権や決裁権がない
  • アンケート回答や勉強会参加程度しかしていない
  • 役員報酬を上回る会費を法人に納めている
  • 役員会等への出席について支払われる報酬のみ
  • 旅費など実費弁償的な支払いのみ

詳しくは、以下をご覧ください。
法人の役員である個人事業主などに係る被保険者資格の取扱いについて:
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000190457_00024.html

36協定:適正な代表者選出を

 過半数代表者の選出方法が適正でなかったために36協定が無効とされ、その結果「労働者に1カ月当たり最大1時間の時間外労働をさせた」として、書類送検される事案がありました。36協定を届け出ていましたが、会社側が過半数代表者を一方的に指名していたため、36協定が無効と判断されました。

労働者代表の選び方の要件

適正 無効となる例
誰が決めたか 労働者からの推薦や立候補 会社からの指名
選出方法 投票・挙手 指名(業務命令)・慣例
対象 一般従業員(アルバイト・受出向も含む) 管理職・請負・派遣
記録 書面・メール・Web記録あり 記録なし

健康保険被扶養者認定:130万円の壁の取扱い変更(4月から)

 被扶養者の認定要件である「年収130万円の壁」への対策として、令和8年4月から年収要件を緩和する取扱いが開始しました。被扶養者認定審査において給与収入のみの場合、原則として時間外手当を除外して計算することが可能になり、手取り減少を避けるための働き控えを解消し、深刻な人手不足の緩和につなげる狙いです。雇用契約書や労働条件通知書で示された労働条件で算出された年間収入の見込み額で判断されることになります。特に時間外手当を原則含まない点が大きな変更となりますので、今後雇用契約を締結する際は、この取扱いも踏まえた契約内容の検討が必要になります。

①「給与収入のみで、雇用契約書・労働条件通知書で労働条件が明示されている場合」
 時給、労働時間、日数、交通費などを用いて算出された年間収入見込額で判断されます。

詳しくは、以下をご覧ください。
労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定 における年間収入の取扱いに係るQ&A(第2版)について:
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260310S0010.pdf

被扶養者認定時の給与収入 令和8年3月31日以前 令和8年4月1日以降
基本給・家族手当などの諸手当、通勤手当 含める 含める
時間外手当 時間に応じた時間外手当・休日・深夜割増 含める 含めない(原則)
固定残業手当 含める 含める
賞与 含める 含める

②「給与収入以外に年金収入、事業収入その他の収入がある場合」や、「労働契約の内容を確認できない場合」、「シフト制等により労働条件が明確でない場合」などの①に該当しないケース
 従来通りの方法により、臨時収入を含めた今後の収入見込みにより判断されます。

 なお、認定後、契約書の賃金や労働時間を不当に低く記載していた場合や、恒常的な時間外労働があり130万円以上あることが判明した場合、扶養認定が取消・扶養削除となる可能性がありますので注意が必要です。実際の審査や確認の方法についての詳細は、各健保組合により異なりますので、健保組合にお問い合わせください。

振替休日の有効性について

 シフト制で働くスポーツジムのトレーナーが休日出勤等に対する割増賃金を求めた判決で、東京地裁はシフト表には「公休」の記載があるだけで、どの労働日の振替休日なのかが特定されていないことから休日振替の要件を欠くとして、休日振替は認められず、割増賃金等の支払いを命じました。
 本件は休日振替の有効性が争われた事件で、会社は「シフト表で休日(公休)を示しており、休日の割り振りは事前に決まっている」と主張していましたが、休日振替を行うには「就業規則に根拠規定がある」、「事前に振替日を特定している」、「法定休日を確保している」「遅くとも振替日の前日までに本人に予告している」という要件を満たす必要があります。

振替休日 代休
意味 あらかじめ休日と労働日を入れ替える 休日出勤をした後で別日に休みを与える
実施のタイミング 事前に休日と労働日を指定 事後に休みを取得
休日出勤扱い 扱いにならない 扱いになる
割増賃金 原則不要 原則必要(法定休日なら35%以上)
代表的な例 休日に出勤→ 別の日を事前に休日に設定 休日に急きょ出勤 → 後日休みを取得
実務での注意点 就業規則の規定や事前の振替通知が必須 割増賃金の支払い漏れに注意

 「休日振替」については、会社側の裁量であいまいに処理できるものではなく、労働者が理解できる形で明確にされる必要があります。そのため、裁判所は単なる公休表示ではなく、休日と労働日の入れ替えが分かる特定があったかを重視しています。結果として、休日振替が成立しない場合は、法定休日に労働させた事実はそのまま「休日労働」と評価され、会社が別日に公休を与えていたとしても、その日は代休にとどまり、休日労働として割増賃金の支払いが生じることになります。
 シフト制の現場では運用の柔軟性が求められますが、適法に休日を振り替えるには、上記要件に該当しているか改めてご留意のうえ、ご対応ください。

現物支給(食事・住居)の価額が改正されます

 食事の現物給与価額は令和8年4月1日から変更、住宅の現物給与価額は令和8年10月1日から変更になります。現物給与価額の改正は、固定的賃金の変動に該当しますのでご注意ください。

■非課税限度額変更

令和8年4月1日 食事 非課税限度額 月額3,500円 → 月額7,500円
国税庁:https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/44.htm

■社会保険 現物給与の価額変更

令和8年4月1日 食事 1カ月当たり → 1日当たり、朝食・昼食・夕食のみに変更
令和8年10月1日 住宅 居住面積1畳当たり →総面積1m2当たりに変更
厚生労働省:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150511.files/2026.pdf

期限切れ健康保険証 令和8年7月末まで利用可能です

 従来のすべての健康保険証は令和7年12月1日をもって有効期限が切れ、令和7年12月2日以降、健康保険証の利用登録がなされたマイナ保険証または資格確認書による資格確認を基本とした運用となっていますが、運用の切り替えにあたり厚生労働省は令和8年7月末まで暫定的な対応を継続すると発表しました。
 この特例措置は、当初、令和8年3月末まで医療機関の受診や薬局の窓口で期限切れ保険証が利用可能としていましたが、3月19日の閣議後に令和8年7月末まで延長する方針が示されました。令和8年7月末で、特例措置は完全終了の見込みとなっております。

身体をほぐして、職場での怪我や事故を未然に防ぎましょう

 高年齢者の労働災害の防止を図るために事業者が講ずるよう努めるべき措置について4月から適用が始まりました。運動機能・感覚機能の低下などにより、自分の意識と実際の差との間に齟齬が生じて作業中に転倒し、思わぬ怪我や事故が起きるケースがあります。中央労働災害防止協会では、職場での安全衛生や事故防止のために、作業を始める前にはストレッチなどをして身体をほぐすことが効果的と呼びかけています。

 従業員が安全に働ける取り組みとしては、ストレッチ以外にも、
 ●身体を傷めないために正しい荷物の持ち上げ方を身につけ身体への負荷を軽くする
 ●重量物は小分けにする
 ●台車などを活用して運搬する などがあげられます。
 新年度は心身ともに疲れも出やすく、注意力も低下しやすい時期ですので、身体と気持ちのリフレッシュのために作業前にストレッチを取り入れてみてはいかがでしょうか。