コラム
「職場における治療と就業の両立支援指針について」
「カスハラ・求職者等セクハラ対策義務化の施行日が確定」等、
人事労務関連レポート2026年4月号
2026年4月
職場における治療と就業の両立支援、高齢者や女性の活躍推進、メンタルヘルス対策、ハラスメント対策、年金制度・労災保険料率の改定など、最新の人事労務トピックについて解説する。
◆トピックス
- 治療と就業の両立支援指針が公表
- 「高年齢者の労働災害防止のための指針」が公示されました
- 次期高年齢者等職業安定対策基本方針明らかに
- 建設業の個人事業者等を対象とする保護措置が義務化
- 厚生労働省より「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」が公開
- カスハラ・求職者等セクハラ対策義務化の施行日が令和8年10月1日に確定
- 在職老齢年金制度が改正され基準額が65万円に変更されます
- 令和8年度労災保険料率・雇用保険料率について
- 男女間の賃金差異公表に奨励金(東京都予算案)
治療と就業の両立支援指針が公表
改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、令和8年4月1日から、職場における治療と就業の両立支援の取組が、事業主の努力義務になります。
これまでガイドラインとして企業の取組を促してきましたが、この法改正により、法律に基づく指針に格上げし、公表されました。
◆治療と就業の両立支援指針
1 治療と就業の両立支援の趣旨
現在、高齢者の就労の増加等を背景に、何らかの疾病により通院しながら働く労働者の割合は年々上昇しています。一方、疾病に対する労働者自身の理解の不足や職場の理解・支援体制が不十分であることにより、離職に至ってしまう場合や、業務上の理由で適切に治療を受けられない場合もみられます。このため、企業は本指針に基づき、職場において必要な措置を講じることが望まれます。
2 労働安全衛生法との関係
労働安全衛生法では、事業者による労働者の健康確保対策について規定されています。事業主は、就業により疾病が増悪しないよう、必要に応じて就業上の措置や治療への配慮を行うことが求められています。このため、治療と就業の両立支援は、事業場において労働安全衛生法第69条に基づき行われる健康保持増進措置や対策とともに実施することが望まれます。
3 治療と就業の両立支援を行うに当たっての留意事項
●労働者本人の申出
⇒私傷病の取組であることから、労働者本人からの支援の申出を端緒として取組むことが基本となります。
●労働者との十分な話し合い、上司・同僚等の理解
⇒措置等の検討に当たり、事業主が一方的に判断しないよう、以下の取組が必要です。
- 十分な話合い等を通じて労働者本人の了解を得られるよう努める
- 主治医や産業医等の意見を勘案し、必要な措置を講じて就業の機会を失わせないよう留意する
- 疾病及びその治療に対する誤解や偏見等が生じないよう、上司や同僚等の関係者の理解を促す
●個人情報の保護
⇒労働者本人が安心して申出ができるよう、個人情報保護を含めたルールや体制の整備・明確化が重要です。
4 治療と就業の両立支援を行うための環境整備
●事業主の方針表明 ●研修等を通じた意識啓発 ●相談窓口の明確化、社内の支援体制の整備
●休暇制度・勤務制度の整備(時間単位の有給休暇、病気休暇、時差出勤 等)
5 治療と就業の両立支援の進め方
様式例の活用による、主治医や産業医等と連携した支援フロー
出典:厚労省 治療と仕事の両立について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html
出典PDF 治療と就業の両立支援指針
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001666823.pdf
治療と就業の両立支援は、労働者の健康確保だけでなく、人材の定着やモチベーションの向上にもつながる取組です。
従業員が安心して働き続けられる職場環境を整えることは、人手不足が深刻化する中で企業にとっても重要な経営課題となり、今後は相談体制の整備や社内理解の促進など、両立支援に取り組むことが求められます。
「高年齢者の労働災害防止のための指針」が公示されました
厚生労働省は、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理等、高年齢者の労働災害の防止を図るために事業者が講ずるよう努めるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため、必要な事項について定めた指針を公表しました。令和8年4月1日から適用されます。
【事業者が講ずべき措置】
1. 安全衛生管理体制の確立等
(1)安全衛生管理体制の確立
⇒経営トップ自らが対策に取り組む姿勢を示し、安全衛生方針を表明、実施体制を明確化する。
(2)危険源の特定等のリスクアセスメントの実施
⇒災害事例等から危険源の洗い出しを行い、高年齢者労働災害防止対策の優先順位を検討する。
2. 職場環境の改善
(1)身体機能の低下を補う設備・装置の導入
⇒高年齢者が安全に働き続けられるよう、優先順位を付けて、事業場の施設、設備、装置等の改善に取り組む。
(2)高年齢者の特性を考慮した作業管理
⇒筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能、認知機能等の低下を考慮して、高年齢者の特性やリスクの程度を勘案し、優先順位を付けて、作業内容等の見直しに取り組む。
3. 高年齢者の健康や体力の状況の把握
(1)健康状況の把握
⇒雇入時及び定期の健康診断を確実に実施する。
(2)体力の状況の把握
⇒体力の状況を客観的に把握し、その体力にあった作業に従事し、自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、体力チェックを継続的に実施することが望ましい。
(3)健康や体力の状況に関する情報の取扱い
4. 高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応
(1)個々の高年齢者の健康や体力の状況を踏まえた措置
⇒必要に応じ就業上の措置を講じる。
(2)高年齢者の状況に応じた業務の提供
⇒職場環境の改善を進めるとともに、働き方のルールを構築するよう努める。業務内容の決定の際は、個々の状況に応じて、安全と健康の点で適合するよう努めるとともに、継続した業務の提供に配慮する。
(3)心身両面にわたる健康保持増進措置
⇒集団及び個々の高年齢者を対象として、身体機能等の維持向上のための取組を実施することが望ましい。
5. 安全衛生教育
(1)高年齢者に対する教育
⇒法令に基づく教育等を確実に実施すること。作業内容とリスクについて理解を得られるよう十分な時間をかけ、再雇用や再就職等により経験のない業種や業務に従事する場合には、特に丁寧な教育訓練を行う。
(2)管理監督者等に対する教育
⇒管理監督者等に対し、高年齢者の特性や高年齢者の安全衛生対策について教育を行うことが望ましい。
次期高年齢者等職業安定対策基本方針明らかに
厚生労働省は、令和8~11年度を対象とする「高年齢者等職業安定対策基本方針」の案を明らかにしました。現行方針が令和7年度で終了するため、高齢者の就業機会増大に向けた新たな数値目標と支援策を盛り込んだ新たな方針を策定し、令和8年4月から適用されました。
65歳までの雇用確保措置が義務付けられた平成18年以降、高年齢者の就業率は増加傾向にある一方、令和3年から努力義務化された70歳までの就業確保措置を講じた企業割合は伸びしろがある状況です。方針案では、令和6年9月に閣議決定した高齢社会対策大綱で示された政策目標と調和するよう、以下の目標を掲げています。
| 項目 | 現状 | 最終目標(令和11年度) |
|---|---|---|
| 60~64歳の就業率 | (令和6年)74.3% | 79.0%以上 |
| 65~69歳の就業率 | (令和6年)53.6% | 57.0%以上 |
| 70歳までの高年齢者就業確保措置実施率 | (令和7年6月)34.8% | 40.0%以上 |
国は、雇用確保措置や就業確保措置に関する指導を行う一方、事業主への支援措置も強化します。
- 処遇改善
- 就業確保措置の周知・啓発
- 創業支援措置
賃金・人事制度を見直し、高齢期の処遇を改善する企業の好事例を発信します。あわせて、これらに取り組む企業への助成措置を強化します。
労働局やハローワークを通じ、制度の趣旨・内容の周知・啓発を徹底します。企業の実情に応じた助言・指導にも積極的に取り組みます。
制度趣旨に反する運用には指導を徹底します。一方で、労使合意に基づく適切な活用事例の情報提供も行い、さらなる活用の拡大を図ります。
今後は、雇用維持に加え、意欲ある高齢者が能力を発揮できる処遇の質の向上がこれまで以上に求められます。
建設業の個人事業者等を対象とする保護措置が義務化
近時の建設アスベスト訴訟の最高裁判決では、労働安全衛生法第22条の有害物等による健康障害の防止措置を事業者に義務づける規定について、労働者だけでなく、同じ場所で働く労働者ではない者も保護する趣旨であるとの判断がなされました。令和8年4月1日施行の法改正では、労働者のみならず個人事業主等による労働災害の防止を図るため、注文者等が講ずべき措置等や個人事業者等自身が講ずべき措置、業務上災害の報告制度等が定められることとなりました。
【注文者等の講ずべき措置等】
建設業、造船業及び製造業の元方事業者は、労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所で行われる場合に、作業間の連絡調整等の措置が必要となりますが、今回の法改正に伴い、その連絡調整の対象が個人事業者等を含む作業従事者に拡大されました。
そのほか、注文者に対し、その指示に従って請負人に係る作業従事者が作業をするならば、労働安全衛生法令違反となる指示を出すことを禁止しています。
【個人事業者等自身による措置】
労働者以外の作業従事者自身が講ずべき措置としては、労働者と同じ場所で就業をする場合に、労働災害を防止するため必要な事項を守らなければならないことが規定されました。
厚生労働省より「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」が公開
令和7年の労働安全衛生法の改正により、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場(「以下、小規模事業場」)におけるストレスチェックの実施が義務とされました。(令和7年5月14日公布。施行日は、公布の日から政令で定める3年以内の日)
厚生労働省より、小規模事業場においてストレスチェックが円滑に実施されるように、労働者のプライバシーが保護され、現実的で実効性のある実施体制・実施方法を示したマニュアルが公開されました。正式な施行期日はまだ決まっていませんが、この改正によりストレスチェックの実施が義務化される事業場などにおかれましては、本マニュアルを参照することが望まれます。
マニュアルは企業規模として労働者数50人未満の事業場を念頭に置いていますが、商工会や商店街などでもマニュアルを参照しつつ共同でストレスチェックを行う、営業所や工場などでもマニュアルを参考にしながら本社と連携して対応する等の形で活用できることが記載されています。ぜひご参考ください。
【ストレスチェック制度を実施する意義】
- 労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止し、人材の損失を防ぐことにつながります。
- 職場のメンタルヘルス対策に取り組むことで、働きやすい職場の実現を通じて、生産性の向上や人材の確保・定着、企業価値の向上といった、持続的な経営につながります。
- 事業者は、メンタルヘルス対策を経営課題として位置付け、ストレスチェック制度にしっかり取り組んでいくことが重要です。
詳細は以下をご覧ください。
厚生労働省 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_69680.html
カスハラ・求職者等セクハラ対策義務化の施行日が令和8年10月1日に確定
カスタマーハラスメント対策及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策の義務化について、施行日が令和8年10月1日に確定し、事業主の講ずべき措置について厚生労働省より指針が公表されました。
【事業者が講ずべき措置】
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 相談体制の整備
- 事後の迅速かつ適切な対応
- 対応の実効性を確保するために必要なカスタマーハラスメントの抑止のための措置 ※カスハラ防止措置のみ
- そのほか併せて講ずべき措置(プライバシー保護や不利益取扱の禁止等)
本件に関しては厚生労働省から指針の内容に関するリーフレットが公表されています。
詳細は以下をご覧ください。
厚生労働省 カスタマーハラスメント対策の義務化
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662580.pdf
在職老齢年金制度が改正され基準額が65万円に変更されます
在職老齢年金制度では、令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)に基づき、令和8年4月から、年金が減額になる基準額(賃金と老齢厚生年金の合計)が月51万円から65万円に引き上げられます(下図参照)。在職老齢年金とは、働きながら年金を受給する高齢者について、一定額以上の報酬がある方には年金の支給を調整する仕組みです。
今回、平均寿命・健康寿命が延びる日本社会において、働くことを選択する高齢者の方の活躍を後押しし、年金額調整を避ける働き控えを解消し、高齢者の方がより働きやすい仕組みとすることが、改正の趣旨です。
出典元:日本年金機構 在職老齢年金制度が改正されました
https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/zairoukaisei.html
令和8年度労災保険料率・雇用保険料率について
労災保険料の算出に用いる労災保険率は、それぞれの業種の過去3年間の災害発生状況などが考慮され、原則として3年ごとに改定されています。労災保険料率は令和6年度に改定されているため、令和8年度の労災保険率、労務費率、第2種特別加入保険料率に変更はありません。
厚生労働省 令和8年度の労災保険率等について
https://www.mhlw.go.jp/content/roumuhiritu_r05.pdf
また、令和8年度の雇用保険料率は、一般の事業で1.35%に引き下げられます。これは令和7年度の1.45%から0.1%の引き下げとなります。この変更は、令和8年4月1日から適用されます。
男女間の賃金差異公表に奨励金(東京都予算案)
東京都は、令和8年予算案において、中小企業等における女性が活躍しやすい職場環境づくりを進めるため、「女性の活躍推進に向けた職場環境改善プロジェクト」を掲げ、行動計画の策定・公開や、女性従業員の処遇改善に取り組む企業に奨励金を支給する案を盛り込みました。
本予算案が可決されれば、東京都内の従業員数100人以下の企業に対し、女性活躍に向けた行動計画の策定や、男女間賃金差異等の公表等を要件として20万円の「女性活躍情報公開促進奨励金」が支給される見通しです。女性活躍推進法に基づく行動計画の策定義務は、従業員101人以上の企業に義務付けられており、また、男女間賃金差異の公表義務は、令和8年4月から101人以上の企業に対象が拡大されます。本予算案の奨励金は、法律上これらの義務がない従業員100人以下の企業を対象としています。
また、東京都内の従業員数300人以下の企業に対し、役職の新設や女性役員の増加等ならびに情報公開や社内研修等の実施を要件とした、「女性の活躍推進に向けた職場環境改善奨励金」が支給される見通しです。
