コラム
「これからのテレワークの在り方と企業の人事戦略」
「子ども・子育て支援金制度の財源と施行時期」等、
人事労務関連レポート2025年11月号
2025年11月
企業のテレワークにおける労働時間管理、子ども・子育て支援金制度の財源と施行時期、賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果などについて解説する。
◆トピックス
- これからのテレワークの在り方と企業の人事戦略
- 「子ども・子育て支援金制度」の財源と施行時期
- 日・オーストリア社会保障協定、2025年12月1日発効
- 「スマートフォンのマイナ保険証」スタート
- 長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年度)が公表されました
- 賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)が公表されました
- メンタルヘルスの動向と認証について
これからのテレワークの在り方と企業の人事戦略
1.オフィス回帰を進める企業と働き手のせめぎあい
新型コロナウイルス禍の収束後、オフィス回帰を進める企業と働き手のせめぎあいが強まっています。企業側は、新しいプロダクトや組織風土を生み出すため、コミュニケーションの質を高める必要があると判断して、フルリモートワークから原則週3日程度の出社を求めるように方針を転換する一方、在宅勤務に慣れ親しんだ社員は反発を強めています。コロナウイルス禍収束後もフルリモートを許容するIT企業は、「世界に採用の射程が広がる」、「賃金では及ばない米国の大手テック企業からも人材を取り込める」というメリットを活かして、出社を望まない人材の受け皿となっています。また、若年層を中心に働き方の意識の変化もあり、働く企業を選択する基準として、「勤務場所に融通がきく職場で働きたい」というニーズが高まっています。
2.実態が把握しにくい在宅勤務の労働時間
在宅勤務の場合、労働の時間と家事や育児等の労働以外の時間が混在しがちであり、こうしたことへの対応等のための中抜け時間が細切れに発生する可能性があるため、労働時間を正確に把握するのが難しい点が懸念されています。また、在宅でテレワーク勤務を行う場合には、自宅が職場となるという特殊性から、就業環境の整備やプライバシーへの配慮、仕事と家庭生活が混在し得ること等についても留意する必要があります。
3.労働基準関係法制研究会報告書における検討内容
こうした状況を踏まえて、労働基準関係法制研究会で、今後のテレワーク等の柔軟な働き方に適用できる労働時間管理について、フレックスタイム制の改善や、新たな「みなし労働時間制」の導入可否の検討が行われました。
| 懸念点 | 検討内容 |
|---|---|
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労働基準関係法制研究会報告書P34~37(フレックスタイム制の改善やテレワーク時のみなし労働時間制)
4.今後、企業が検討すべき事項
テレワークの労働時間管理は、中抜け等が頻繁にある場合はフレックスタイム制よりもみなし労働制の方が管理しやすくなります。これまでみなし労働制が適用できるか否かは厳密に判断されてきましたが、「協同組合グローブ事件」の最高裁の判例からも分かる通り、適用に関する判断が緩やかになってきています。従来の考え方では否定されてきたみなし労働制が適用できると研究会でも検討されていますので、テレワークの勤務実態を今一度確認し、会社に適した労働時間管理をすることが求められています。
「子ども・子育て支援金制度」の財源と施行時期
「こども未来戦略 加速化プラン」の実現に向けた、子育て支援を強化するための法改正(令和6年法律第47号)が行われました。特に注目されるのが、「子ども・子育て支援金制度」の創設です。この制度では、医療保険者が国に納付金を支払い、その財源を児童手当などの子育て支援に充てる仕組みとなっています。
医療保険者は、支援納付金を国に納付するための財源を、被保険者等から徴収する保険料に含める形で確保します。より具体的には、以下の仕組みとなっています。①健康保険法において、「一般保険料率」と区分して「子ども・子育て支援金率」を新たに設けます。②支援金率は、政令で定める範囲内で保険者が定めます(実務上は国が一律の率を示す)。③子ども・子育て支援金は令和8年4月分保険料(5月納付分)より一般保険料・介護保険料と合わせて徴収されます。
日・オーストリア社会保障協定、2025年12月1日発効
日本にとっては24番目の社会保障協定です。これにより、日本とオーストリア間で一時的に派遣される企業駐在員等は、原則として派遣元国の年金制度にのみ加入することとなりますので、年金保険料の二重払いが解消されます。また、両国の保険加入期間を通算して年金受給権を確立できるようになり、企業や駐在員の負担も軽減されます。
「スマートフォンのマイナ保険証」スタート
2025年9月19日より、スマートフォンを健康保険証として利用できる「スマートフォンのマイナ保険証」制度が開始されました。これは、マイナンバーカードの健康保険証利用登録を済ませたうえで、スマートフォンにマイナンバーカード情報を追加することで、医療機関や薬局でカードを取り出すことなくスマホをかざして本人確認ができる仕組みです。
利用には、対応機種(Android/iPhone)と、実物のマイナンバーカード、最新のマイナポータルアプリ、暗証番号、健康保険証利用登録が必要です(登録はマイナポータルアプリから)。利用可能な医療機関・薬局は厚労省の検索ページで確認でき、事前に対応状況を確認することが推奨されています(詳しくは、厚生労働省ウェブサイト「スマートフォンのマイナ保険証利用について」にてご確認いただけます)。
長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年度)が公表されました
厚生労働省は令和6年4月から令和7年3月までに長時間労働が疑われる26,512事業場に対し、監督指導を実施し21,495事業場(81.1%)で労働基準関係法令違反が認められたと発表がありました。
この監督指導は、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場を対象としています。
| 【主な違反内容】 是正勧告書を交付した事業場 |
|---|
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※違法な時間外労働:11,230事業場 (42.4%) |
| 賃金不払残業:2,118事業場(8.0%) |
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過重労働による健康障害防止措置が未実施 :5,691事業場(21.5%) |
| 【主な健康障害防止に関する指導の状況】 指導票を交付した事業場 |
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| 過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したもの:12,890事業場(48.6%) |
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労働時間の把握が不適正なため指導したもの :4,016事業場(15.1%) |
※違法な時間外労働のうち時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数割合
月80時間超:5,464事業場(48.7%)、月100時間超:3,191事業場(28.4%)
月150時間超:653事業場(5.8%)、月200時間超:124事業場(1.1%)
長時間労働を認めた事例として、卸売業で「労働者1人が36協定や労働基準法の上限を超える、最長で月127時間の違法な時間外・休日労働を行っていた。また、残業申請時間とICカードの打刻記録に最大1日3時間の乖離があり、その理由が確認されていなかった。」などが挙げられております。
過重労働による健康障害を防ぐために、当該労働者の勤務状況・健康状況を把握し、これに応じて本人に対する指導を行うとともに、その結果を踏まえた事後措置を講じる必要があります。
参考URL(厚生労働省HP内)
長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59983.html
賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)が公表されました
厚生労働省は令和6年に賃金不払が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導(立入調査)の結果を取りまとめ、監督指導での是正事例や送検事例とともに公表しました。
今回公表された賃金不払事案の件数、対象労働者および金額は以下の通りです。
| 令和5年 | 令和6年 | 増減 | |
|---|---|---|---|
| 件数 | 21,349件 | 22,354件 | 前年比1,005件増 |
| 対象労働者数 | 181,903人 | 185,197人 | 同3,294人増 |
| 金額 | 101億9,353万円 | 172億1,113万円 | 同70億1,760万円増 |
業種別の指導状況について金額に着目すると、運輸交通業が令和5年では、5.2億円(全体の金額に対して5.1%)であったのに対して、令和6年では、70.2億円(全体の金額に対して41%)と大幅に増加しています。
上記表に記載した不払事案のうち、令和6年中に労働基準監督署の指導により21,495件(96.2%)使用者が賃金を支払い解決されております。(不払い賃金額の一部のみを支払ったものも含まれます。)
是正事例・送検事例としては、職能手当などを割増賃金の算定から除外、週40時間を超える時間外労働に対する割増賃金未払、使用者の指示による作業に対する賃金不支給、定期賃金の全額を所定支払日に支払っていないことなどが、労働基準監督署の指導・事業場の対応と共に記載されております。労働時間の考え方や適正な把握方法については、厚生労働省が公表している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に記載されています。適切な労務管理は、従業員との信頼関係を築く第一歩です。今一度ガイドラインをご確認いただき自社が適正に管理できているか点検されてはいかがでしょうか。
詳細については以下URLよりご確認ください。
賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_60431.html
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html
メンタルヘルスの動向と認証について
メンタルヘルス対策に取り組む企業は約6割
厚生労働省が2025年8月に公表した「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、国内の事業所のうち、メンタルヘルス対策に取り組んでいる割合は63.2%と、全体の6割強にとどまっています。とくに企業規模による差が大きく、従業員50人以上の事業所では9割以上が対策を講じている一方、30~49人の事業所では69.1%、10~29人では55.3%と、事業所の規模が小さくなるにつれて取り組みが後手に回っている実情が浮き彫りになりました。
一方、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安・悩み・ストレス(強いストレス)になっていると感じる事柄がある労働者の割合は68.3%にのぼり、前年調査(82.7%)から大きく減少しているものの、3人に2人以上が何らかの強いストレスを抱えていることがわかりました。ストレスの主な要因は「仕事の量」が最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」、「仕事の質」が続いています。
また過去1年間(2023年11月1日~2024年10月31日)に、メンタルヘルス不調で連続1カ月以上の休業または退職した労働者がいた事業所の割合は12.8%(前年比0.7ポイント減)でした。このうち、休業者がいた事業所割合は10.2%、退職者がいた事業所割合が6.2%で、それぞれ前年より0.2ポイント減っています。メンタルヘルス不調による長期の休業や退職の割合に大きな変化はないものの、全体としてはわずかながら減少傾向にあることがうかがえます。一定の改善が見られる一方で、依然として10社に1社以上がメンタルヘルス不調による長期離脱や離職を経験している状況から、引き続き職場における予防的な取り組みや、早期対応の体制整備が求められます。
「個性的な心の健康対策を実施する優良企業認証」のご案内
このように企業としてはメンタルヘルスに配慮した職場づくりがますます求められる一方で、「形だけの取り組みに見られがち」「社員にちゃんと伝わっているか不安」といった声も多く聞かれます。こうした中、弊所では企業が取り組むメンタルヘルス対策をより前向きに「見える化」する認証制度として、「個性的な心の健康対策を実施する優良企業認証(通称:さんぽほう認証)」をご案内しています。
「さんぽほう認証」は日本産業保健法学会が構築した、新しい視点の認証制度です。従来のように不足や不備を指摘する方式ではなく、企業ごとの創意工夫や強みに着目し、加点主義で評価するのが特徴です。「形式的な取り組み」よりも、「実際に社員の安心や働きやすさに寄与しているかどうか」を重視し、職場に根ざしたメンタルヘルス対策を積極的に評価します。
認証に際しては労務や産業保健の専門家がヒアリングを行い、他社と比較して優れている点や改善の可能性などを具体的にフィードバックします。また、従業員に対して匿名でWEBアンケートを実施することで、「制度が現場にどの程度浸透しているか」「社員一人ひとりがどのように受け止めているか」を具体的に把握できます。これにより、管理職と現場の認識のズレや、制度の理解度・活用状況をしっかりと確認することができ、組織改善や離職防止、エンゲージメント向上に取り組むことができます。
認証にあたって複雑な手続きは極力省き、通常1~2か月程度で認証まで完了します。全社単位ではなく、一部の部署のみでの導入も可能ですので、「まずは試してみたい」「忙しくてリソースが限られている」という企業様にもご利用いただけます。
厚労省の調査でも明らかになったように、今やメンタルヘルス対策は「企業規模にかかわらず求められる経営課題」といえます。ただし、義務や形式としてではなく、企業文化や人事戦略の一部として、創意工夫をもって取り組むことこそが、採用力や定着率の向上に直結するポイントです。