コラム
「最低賃金改定の目安公表」
「育児介護休業法改正ポイント」等、
人事労務関連レポート2025年9月号
2025年9月
最低賃金の改定動向、雇用保険制度の変更、育児・介護休業法の改正ポイントなどについて解説する。
◆トピックス
- 2025年度最低賃金の状況~改定の目安を公表
- 2025年10月1日より施行『育児・介護休業法 改正ポイント』のご案内
- 2025年春闘 最終集計 賃上げ率5.25%(中小4.65%)
- 2025年度 決定初任給調査 初任給を「引き上げた」企業は72.0%
- 2025年度予算編成へ論点整理 諮問会議、賃上げ重視
- 雇用保険の基本手当日額の変更 ~2025年8月1日から~
- スポットワークにおけるトラブルが増加しています
2025年度最低賃金の状況~改定の目安を公表
2025年度地域別最低賃金額改定の目安を公表
今年度の地域別最低賃金額改定の目安が厚生労働省中央最低賃金審議会より8月4日に公表されました。経済実態に応じ、全都道府県をABCの3ランクに分けて、引き上げ額の目安を提示しています(下表参照)。
ランク | 都道府県 | 引き上げ額目安 |
---|---|---|
A | 東京都、大阪府、埼玉県等6都道府県 | 63円 |
B | 北海道、京都府、兵庫県等28道府県 | 63円 |
C | 青森県、沖縄県等13県 | 64円 |
仮に目安どおりに各都道府県で引き上げが行われた場合の最低賃金額(全国加重平均)は1,118円となります。また、引き上げ率に換算すると6.0%となり、昨年度の5.1%を上回っています。
審議会は物価高による生計費増を重視し、過去最大の引き上げ額で決着することとなりました。政府は「2020年代に全国平均1,500円」の目標を掲げており、今年度も引き続き賃上げを推し進めたい意向ですが、達成には今年度を含め単純計算で毎年度7.3%の引き上げが必要であり、引き上げ率はまだ下回っている状況です。
最低賃金引き上げの影響
最低賃金の大幅な引き上げは、労働者にとって歓迎すべきことではありますが、マイナスの影響もあります。
一つは実際の給与の引き上げが最低賃金の上昇に追いつかない状況が生じていることです。「最低賃金近傍」という、実際の時給が最低賃金ラインに近い労働者が現在700万人存在し、また影響率(最低賃金額を改正した後に、改正後の最低賃金額を下回ることとなる労働者割合)も高くなっていて、最低賃金を払いきれない企業が増加していることを示しています。日本商工会議所が3月に発表した『中小企業における最低賃金の影響に関する調査』では、現在の最低賃金について、「大いに負担」または「多少は負担」と回答した企業は計76.0%、政府の目標水準への対応について「不可能」または「困難」と回答している企業は計74.2%といずれも7割を超えています。さらには、もし政府目標通りの引き上げが行われた場合「収益悪化により、事業継続が困難(廃業、休業等の検討)」とする企業は15.9%にのぼり、企業ひいては産業の存続までも懸念される事態となっているのです。
もう一つは雇用情勢への影響です。労働者にとって最低賃金の上昇は収入増につながるものの、年収が上がることで所得税や社会保険料の負担が発生することになり収入を扶養の範囲内に収めるための、いわゆる「年収の壁」を意識した「働き控え(就業調整)」が広がる恐れがあります。一方で、最低賃金の上昇により雇用率が減少しているという研究報告もいくつかあります。最低賃金を払いきれないから雇用できないということで、人手不足なのに人を雇用できない、人が必要なのに人を減らさなければならないという非常に困難な状況が実際に生じつつあります。
審議にあたり、労働者側は地方の最低賃金が低すぎることによって都市部へ労働者流出が起きるとして全国一律の最低賃金を求めましたが、使用者は、中小企業、特に地方・小規模事業者の対応は極めて困難であることを踏まえ、実効性のある価格転嫁、および「年収の壁」問題の根底にある第3号被保険者制度の将来的な廃止について、ここ数年、強く要望しています。これらの点に関し、議論を深め早急に具体的な支援策を策定することが望まれます。
2025年10月1日より施行『育児・介護休業法 改正ポイント』のご案内
2025年4月より、段階的に育児・介護休業法と次世代育成支援対策推進法が改正・施行されておりますが、来る2025年10月1日にも改正法の施行があります。新たに事業主に義務付けられる事項とその留意点をお知らせします。
柔軟な働き方を実現するための措置等
3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者にとっての柔軟な働き方を実現するため、事業主が職場のニーズを把握した上で、以下5つの「選択して講ずべき措置」の中から2つ以上の措置を講じ、労働者が選択して利用できるようにする必要があります。
選択して講ずべき措置 (※注②と④は、原則時間単位で取得可とする必要があります) |
各選択肢の詳細 |
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①始業時刻等の変更 |
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②テレワーク等(10日以上/月) | 一日の所定労働時間を変更せず、月に10日以上利用できるもの |
③保育施設の設置運営等 | 保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与をするもの(ベビーシッターの手配および費用負担など) |
④就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇 (養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年) |
一日の所定労働時間を変更せず、年に10日以上取得できるもの |
⑤短時間勤務制度 | 一日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むもの |
また、子が3歳になるまでの適切な時期に、事業主は個別の労働者に対し、上記の表で選択した制度(対象措置)に関する以下の事項の周知と制度利用の意向の確認を行わなければなりません。
※ 利用を控えさせる個別周知と意向確認は不可
周知時期 | 労働者の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間 (1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで) |
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周知事項 |
①事業主が上表で選択した対象措置(2つ以上)の内容 ②対象措置の申出先(例:人事部など) ③所定外労働(残業免除)・時間外労働・深夜業の制限に関する制度 |
個別周知・意向確認の方法 |
①面談 ②書面交付 ③FAX ④電子メール等 のいずれか 注:①はオンライン面談も可能。③④は労働者が希望した場合のみ |
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
事業主は、労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た時と、労働者の子が3歳になるまでの適切な時期に、子や各家庭の事情に応じた仕事と育児の両立に関する以下の事項について、労働者の意向を個別に聴取しなければなりません。
意向聴取の時期 |
①労働者が本人又は配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき ②労働者の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間 (1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで) |
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聴取内容 |
①勤務時間帯(始業及び終業の時刻) ②勤務地(就業の場所) ③両立支援制度等の利用期間 ④仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等) |
意向聴取の方法 |
以下①~④のいずれか(※③④は労働者が希望した場合に限る) ①面談(オンライン面談可) ②書面交付 ③FAX ④電子メール等 |
2025年春闘 最終集計 賃上げ率5.25%(中小4.65%)
連合(日本労働組合総連合会)は、2025春季生活闘争の第7回(最終)回答の集計と結果を公表しました(2025年7月3日)。
これによると、平均賃金方式で回答を引き出した5,162組合の定昇相当込み賃上げの加重平均は、規模計で16,356円・5.25%(昨年同時期比1,075円増・0.15ポイント増)となりました。300人未満の中小組合(3,677組合)では、12,361円・4.65%(同1,003円・0.20ポイント増)となっています。
規模計と中小組合のいずれも、昨年同時期を上回っています。しかし、中小組合では賃上げ率が5%を超えることができず、企業規模による格差の是正が課題といえます。詳細は以下URLをご確認ください。
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/2025/yokyu_kaito/kaito/press_no7.pdf?6328
2025年度 決定初任給調査 初任給を「引き上げた」企業は72.0%
産労総合研究所は、「2025年度 決定初任給調査」を実施しました。本調査は1961(昭和36)年から毎年実施されています。
この調査によると、2025年度の決定初任給額(2025年4月時点で確定した初任給)は、大学卒(一律)で23万9,280円(対前年度比5.00%増)、高校卒(一律)で19万8,173円(同5.37%増)となり、いずれも前年を大きく上回りました。
2025年4月入社者の初任給を「引き上げた」企業は、前回2024年度調査比3.6ポイント減少し72.0%となり、これは調査開始以降で2番目に高い水準です。「据え置いた」は23.8%、「引き下げた」企業は、前回に引き続きありませんでした。
引き上げた理由(複数回答)は「人材を確保するため」が最多で71.1%を占め、次いで「在籍者のベースアップがあったため」48.3%(前回43.4%)が続いており、人材獲得競争の激化を反映した結果となっています。
2025年度予算編成へ論点整理 諮問会議、賃上げ重視
政府は今年7月28日、経済財政諮問会議を開き、2026年度予算の編成に向けた論点整理を進めました。賃金の安定的な上昇による成長型経済への移行を重視し、6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」の着実な実行を改めて確認し、民間議員からは、教育無償化など政府の歳出増につながる施策は安定財源を確保しつつ実施するよう求める意見が出ました。
経団連の筒井義信会長ら民間議員は、「本格的な人口減少や米国の関税政策が日本経済の下振れリスクになっている」と指摘し、「賃金や所得の継続的な増加に向け、中小企業も含めた適切な価格転嫁の徹底や、最低賃金の引き上げのための政府による支援を求め、備蓄米売り渡しなどの物価高対策は必要性や効果を十分に検討すべきだ」と訴えました。
財政健全化を巡っては、基礎的財政収支(プライマリーバランス)について「25~26年度を通じて可能な限り早期の黒字化を目指す」とした骨太方針の目標を改めて確認し、物価上昇を上回る賃上げの実現に向け、公定価格の引き上げなど物価動向を適切に予算に反映させることも要望しました。
雇用保険の基本手当日額の変更 ~2025年8月1日から~
2025年8月1日から雇用保険の「基本手当日額」が変更となりました。
雇用保険の基本手当とは、労働者が離職した場合に、失業中の生活を心配することなく再就職活動ができるよう支給されるものです。「基本手当日額」は、離職前の賃金を基に算出した1日当たりの支給額で、離職理由や年齢などに応じて給付日数が決定されます。
今回の変更では、令和6年度の平均給与額が2023年と比較して約2.7%上昇したこと及び最低賃金日額の適用に伴うもので、基本手当日額の最高額と最低額が引き上げられました。
【具体的な変更内容】
基本手当日額の最高額の引き上げ
◆年齢区分に応じた賃金日額・基本手当日額の上限額
離職時の年齢 | 賃金日額の上限額(円) | 基本手当日額の上限額(円) | ||
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変更前 | 変更後 | 変更前 | 変更後(前年度増減) | |
29歳以下 | 14,130 | 14,510 | 7,065 | 7,255(+190) |
30~44歳 | 15,690 | 16,110 | 7,845 | 8,055(+210) |
45~59歳 | 17,270 | 17,740 | 8,635 | 8,870(+235) |
60~64歳 | 16,490 | 16,940 | 7,420 | 7,623(+203) |
【例】29歳で賃金日額が17,000円の人は、上限額 (14,510円)が適用されますので、令和7年8月1日以降分の基本手当日額(1日当たりの支給額)は、7,255円となります。
基本手当日額の最低額の引き上げ
◆賃金日額・基本手当日額の下限額
年齢 | 賃金日額の下限額(円) | 基本手当日額の下限額(円) | ||
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変更前 | 変更後 | 変更前 | 変更後(前年度増減) | |
全年齢 | 2,869 | 3,014 | 2,295 | 2,411(+116) |
基本手当日額の下限額は、年齢に関係なく、2,411円になります。
スポットワークにおけるトラブルが増加しています
近年利用者が増加しつつある短時間・単発の仕事「スポットワーク」を巡り、急なキャンセルなどのトラブル相談が相次いでいます。
厚生労働省は、この現状に対して「スポットワーク」における留意点等を取りまとめたリーフレットを労働者、使用者向けにそれぞれ公表しました。それに伴い、経済団体及び「スポットワーク」の雇用仲介を行う事業者が加入する一般社団法人スポットワーク協会に対して当該リーフレットの周知を要請しました。
リーフレットには労働契約締結時における注意点や事業主都合の休業の場合は、休業手当を支払う必要がある旨、通勤や業務時間に怪我をした場合には労災保険給付を受けられることなどが記載されています。
使用者向けのリーフレットにつきましては、下記をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001512297.pdf