社労士

コラム

「女性の活躍と健康課題」
「兼業で過労自殺、初労災認定か」等、
人事労務関連レポート2025年5月号

2025年05月

各種課題点や、健康管理の重要性などについて解説する。

トピックス

女性の活躍と健康課題

女性活躍推進に関連する法改正の動向

 政府は3月11日に、女性活躍推進に関連する労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法の改正案を国会に提出しました。改正法案の主要な内容は以下の通りです。

  • 求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止のために、事業主に雇用管理上必要な措置を義務付け、またその内容を公表することを「プラチナえるぼし」の認定要件とする。
  • 時限立法である「女性活躍推進法」の有効期限を令和18年3月31日まで、10年間延長する。
    • 男女間賃金差異・女性管理職比率の情報公表を、常時雇用する労働者数101人以上の事業主に義務付け。(従来は301人以上)※男女賃金差異分析については、本ニュース3面に関連記事を掲載しているので、そちらをご参照ください。
    • 女性の職業生活における活躍の推進に当たっては、女性の健康上の特性に配慮して行われるべき旨を、基本原則において明確化する。
  • 治療と仕事の両立支援の推進として、不妊治療等に対して必要な措置を講じることを努力義務とし、社内で適切に実施できる根拠規定を整備する。
    今回の改正案の中でも、特に、女性の健康上の特性に配慮すべきとする視点は、働く女性にとって大変重要な課題であるといえます。

働く女性の健康上の特性について

 女性は、思春期、性成熟期、更年期、老年期と生涯を通じて女性ホルモンが大きく変動し、より影響を受けやすいとされています。また、10代から始まる月経や妊娠・出産、比較的若い世代から罹患率が高まる婦人科ガンなど、女性特有の健康課題は様々です。経済産業省の調査(平成29年度「働く女性の健康推進」に関する実態調査)によると、女性従業員の約5割が女性特有の健康課題により「勤務先で困った経験がある」、また、女性従業員の約4割が女性特有の健康課題などにより「職場で何かをあきらめなくてはならないと感じた経験がある」と回答しています。具体的な健康課題・症状としては、月経関連の症状や疾病(月経不順・月経痛など)やPMS(月経前症候群)、更年期障害などがあります。

女性の健康課題に対する企業の取組みや、国による支援策

 企業においては、女性労働者の定着、働きやすさへ寄与するよう様々な取組みが行われています。ある大手製造企業においては、上司・周囲の理解を促進するため、人事部と女性の健康課題に関する事例や課題の共有、管理監督者を対象に生理研修の実施、実際の女性従業員から挙げられる困りごとを基に具体的なコミュニケーションのポイントについてグループディスカッションを行い、実際の業務上でのやり取りについて理解を深める活動やフェムテックサービス(女性特有の健康課題をテクノロジーにより解決する製品やサービス)を展開する企業とセミナーを行い男女双方の理解を深め働きやすい職場を目指す、こういった企業内活動も増加しています。
 また、令和7年度、両立支援等助成金に「不妊治療および女性の健康課題対応両立支援コース」が新設されました。この助成金は、不妊治療と仕事との両立又は女性の健康課題である月経に起因する症状への対応若しくは更年期における心身の不調への対応と仕事との両立に資する職場環境の整備に取り組むとともに、不妊治療のため又は女性の健康課題対応を図るために利用可能な休職制度等を導入し、労働者に利用させた中小企業事業主に対して支給することにより、職業生活と家庭生活との両立支援に関する取り組みを促し、もって労働者の雇用の安定に資することを目的とします。

リーフレット:https://www.mhlw.go.jp/content/001472912.pdf

 厚生労働省が令和7年3月17日に公表した「令和6年賃金構造基本統計調査結果の概況」によると、フルタイムで働く男性の賃金を100とした場合、女性は75.8となり、格差は前年に比べ1.0ポイント縮小しています。働く女性の活躍推進と言葉でいっても、賃金に現れる処遇の改善や、本記事で指摘した女性の健康上の特性に対する配慮が伴わないと女性活躍を前に進めるのは難しいのではないでしょうか。

兼業で過労自殺、初労災認定か ~健康管理の重要性再認識~

 令和3年5月、岐阜大学の研究者と、航空測量会社の技術者を兼務していた60歳の男性が自殺しました。
 名古屋北労働基準監督署は、2つの職場での心理的な負荷が重なったことが原因として、労災認定しました。
 令和2年に、複数事業労働者が安心して働くことができるよう、それぞれの事業における業務上の負荷のみでは、業務と疾病等々の間に因果関係が認められない場合に、複数事業労働者を使用する全事業の業務上の負荷を総合的に評価するよう、労災法等の改正が行われました。
 法改正後、複数事業での心理的負荷を合算して過労自殺を労災認定したのは、初めてと見られています。
 岐阜大学では研究員として国際貢献のプロジェクトに携わっていましたが、亡くなる直前までの1か月あまりの間、上司が相談に適切に応じず厳しい指導を受けていました。
 航空測量会社では、橋梁調査の業務全般を1人で担当し、職場の十分な支援や協力体制のないまま、業務負担が増していました。また、男性の入社経緯や期待する役割を理解する幹部が事業場からいなくなり、社内評価が適切に実施されず、孤立感を強めていった事情もあったとされています。
 労基署は、それぞれの職場での心理的負荷は「中」だったが、総合的には「強」に当たると判断し、労災認定しました。
 複数業務要因災害に関する保険給付は、それぞれの就業先の業務上の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が認められないことから、いずれの就業先も労働基準法上の災害補償責任は負わないとされています。
 しかし、労働契約法第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とされており(安全配慮義務)、副業・兼業の場合には、副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者が安全配慮義務を負っています。
 厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においても、労働者の健康保持のために、下記のような健康確保措置を実施することが適当である、と述べられています。

  • 健康保持のため自己管理を行い、心身の不調があれば都度相談を受けることを労働者に伝えること。
  • 働きすぎにならないよう、例えば、時間外、休日労働の免除や抑制を行うなど、それぞれの事業場において適切な措置を講じることができるよう、労使で話し合うこと。
  • 労働者が、副業・兼業先の業務量、自らの健康の状況等について報告をすること。

 以上のことから分かるように、副業・兼業を行うにあたっては、労使間のコミュニケーションが非常に重要です。
 今後、高齢化や労働力不足が深刻化する中で、副業・兼業を希望する方の増加も見込まれます。
 企業として、どのように対応していくか検討することが望まれます。

病気復職時の配転命令は有効と判断
~会社が配転の必要性を見極めるのは困難、産業医の意見優先 東京地裁~

 病気休職した労働者が復職時の配置転換は違法と訴えた裁判で、東京地方裁判所は労働者の主張を退け、会社側の配転命令は有効と判断しました。
 労働者は大学病院内の清掃業務である原職復帰を希望していましたが、主治医が就業上の配慮は必要なしとする一方、産業医は業務上さまざまな感染症に罹患するリスクがあり、安全配慮義務を考慮した場合、倉庫業務への異動が必要と判断しており、主治医と産業医の意見が分かれた事案です。
 会社側は双方の医師と面談し、意見を聴取しましたが、異なる意見に対し、より安全な選択という観点で倉庫業務への異動を決め、辞令を発しました。それに対し、労働者は別の事業所の倉庫業務への異動を拒否、配転命令を不服として裁判を起こしました。
 東京地裁は使用者が従業員の健康状態を考慮して配転を行うことは、事業の合理的運営に寄与するため、配転命令の業務上の必要性の存在を肯定すべき事情に当たると指摘し、労働者に対する安全配慮義務を考慮した同社の対応には合理性が認められるとしました。また、同社が主治医と産業医の意見のどちらが正しいか判断するのは「事実上困難であった」と述べています。[令和7年2月18日、東京地裁判決]

 復職においては、元の職場に復帰させるのが原則となっていますが、病気復職時はその状況に応じて慎重な判断が必要です。厚生労働省が公表している職場復帰支援の手引きには、「主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要です。」と記載されています。

出典:厚生労働省「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き

厚労省から男女間賃金差異分析ツールが公開

男女間の賃金差異の国際比較 2021年 スウェーデン:7.3% フランス:11.6% ドイツ:13.7% イギリス:14.2% カナダ:16.7% アメリカ:16.9% 日本:22.1% 韓国:31.1%

 厚生労働省から、主に中小企業向けに、男女間賃金差異の要因を分析できる簡易なツールとして「男女間賃金差異分析ツール」が公開されました。男女間賃金差異は依然として大きく、一般労働者(常用労働者のうち短時間労働者を除いた労働者)の男性の平均賃金水準を100としたときに、一般労働者の女性の平均賃金水準は、令和5年で74.8と約7割でした。長期的には縮小傾向にあるものの、先進諸外国と比較すると、その差異は依然として大きくあります。
 ツールによって、産業分類と企業規模の参考値を確認したり、自社の男女間賃金差異と参考値を比較したりすることができます。自社の分析をする場合には、直近1事業年度の賃金、人事データを入力することにより、(1)男女間賃金差異の現状を分析(雇用形態・役職・勤続年数階級別)、(2)男女間賃金差異が生じる要因を分析(正規雇用・非正規雇用別)することができ、さらに参考値との比較から、5つの類型に当てはめて課題が提示されます。5つの類型の課題解決のため、「男女間賃金差異分析ツール 活用パンフレット」には改善へのアドバイスが記されています。人材活用や採用の戦略に、是非ご活用ください。

男女間賃金差異分析ツール
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001429611.xlsx

男女間賃金差異分析ツール 活用パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001429616.pdf

東京都カスタマーハラスメント防止条例が施行されました

 4月1日から、客からの迷惑行為などのカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」を防ぐための全国初の条例が、東京都などで施行されました。
 カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客が企業に対して理不尽なクレームや言動をすることをいい、正当なクレームとカスハラの違いは、要求内容の妥当性や、要求を実現するための手段・態様の相当性に照らして判断されます。

 例えば以下のような行為は、カスハラにあたる可能性がある行為として例示されています。

  • 店員を怒鳴りつける
  • 店員に土下座を要求する
  • 不手際のお詫びに、店舗の商品を無料で提供するようにしつこく要求する
  • 顧客自ら商品を壊した上で「商品が壊れていた」とクレームを入れる
    など

 東京都カスハラ防止条例では、「カスハラは働く人を傷つけるのみならず、商品やサービスの提供を受ける環境などの継続に悪影響を及ぼすものとして、社会全体で対応しなければいけない」との理念を掲げており、各主体(都・顧客等・就業者・事業者)の責務を以下の通り定めています。

顧客等 カスハラへの問題に対する関心と理解を深め、従業員に対する言動に注意を払うよう努めなければならない
従業員
(就業者)
客の権利を尊重し、カスハラ防止に資する行動をとるよう努めなければならない
事業者 カスハラの防止に主体的かつ積極的に取り組み、従業員がカスハラを受けた場合は、安全を確保するとともに、客にやめるように伝えるなど、必要な措置をとるよう努めなければならない
一方で、正当なクレームは不当に制限されないことなど、事業者や公的機関が消費者や住民の権利
を侵害しないとしています。

東京都カスハラ防止に関する指針(ガイドライン)
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharashishin/

介護補償給付・介護料 最低保障引上げへ

 厚生労働省は、労災保険法に基づく介護(補償)等給付の最低保障額の引上げなどを盛り込んだ労災保険法施行規則および一酸化炭素中毒症に関する特別措置法施行規則の改正案要綱を労働政策審議会に諮問し、「妥当」との答申を受けました。施行は2025年4月1日です。
 介護(補償)給付の最低保障額は、最低賃金の全国加重平均額を参考に見直しを行っていますが、令和6年度の最賃改定を受け、引き上げることとしました。常時介護を要する者については、現行よりも月額で4,200円高い8万5,490円、随時介護を要するものは同2,100円高い4万2,700円に引き上げます。
 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法に基づく介護料の最低保障額も改定し、常時監視および介助を要する者については、4,200円高い8万5,490円にします。
 業務災害・通勤災害などで死亡した労働者の遺族や、重度の障害を負った労働者の家族への学費を補助する労災就学援護費の額も見直し、小学校に通っている場合の支給額を1,000円引上げ、1万6,000円とします。中学~大学に通っている場合の支給額や、保育費用を対象とする労災就労保育援護費の支給額は現行額を維持します。

育児休業給付を受給中に離職した場合の取扱い変更について

 育児休業給付は、育児休業終了後の職場復帰を前提とした給付金です。育児休業の当初からすでに退職を予定している方は、育児休業給付の支給対象となりません。
 この趣旨に沿った上で、育児休業給付を受給中の方が、2025(令和7)年4月1日以降にやむを得ず離職することとなった場合は、図のとおり離職日まで支給対象とするよう取扱いを変更しました。

変更前は、育休開始日が4月25日で、離職日が8月15日の場合、7月25日から8月25日は不支給でしたが、変更後は、7月25日から離職日の8月15日まで支給されます。