MURC

コラム

“ベテランの年上部下”とのコミュニケーションにおける
3つのポイント

2024 年12 月13 日

宮本 直樹(みやもと なおき)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット

HR第4部 コンサルタント宮本 直樹

新卒で裁判所に入庁し、家庭裁判所調査官として勤務。
離婚や面会交流等の家庭内紛争の解決支援、少年事件の再非行防止業務に従事。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は、組織内の人間関係の問題解決支援やキャリア開発支援を行っている。

 昨今、ベテランの年上部下を持つ管理職や現場リーダーが増加している。労働力人口総数に占める60歳以上の社員の割合は、1980年に約9.3%であったところ、2022年には約21.5%となっている[1]。少子高齢化社会を背景とした定年延長、再雇用制度等の適用により直結、ベテランの年上部下のさらなる増加が予想される中、そのような人材をうまく活かせるかどうかは企業の競争力に直結する問題である。
 では、ベテランの年上部下を持つ管理職や現場リーダーは一体何に困難を感じているのか。年下上司から年上部下に対する「やりにくい要因」を尋ねた調査[2]では、「年齢への意識が強い」(28.2%)、「距離感が難しい」(27.1%)、「過去の実績にとらわれすぎていて、変化できない」(24.7%)、「指示に従ってくれない、反論ばかりする」(20.0%)などが上位を占めた。筆者がコンサルティングの現場で耳にする声も同様である。本コラムでは、ベテランの年上部下についての課題を、①微妙な距離感、②変化に消極的、③上司に反抗的という3つに集約し、それぞれの打開策となり得るコミュニケーションのポイントを解説していく。

1.「①微妙な距離感」への対応:偉ぶらず、へりくだりすぎない

 「微妙な距離感」と向き合う際には、人生の先輩であることに敬意を示しつつ、一部下として遠慮しすぎないバランス感覚が重要となる。そして、これはベテランの年上部下と関わる上で最も基本的かつ重要なスタンスである。
 ベテランの年上部下の中には、組織から正当に評価されないと感じている方が少なからず存在する。先は長くないのに今さら頑張っても仕方がないと、半ば諦めの境地に立っている方もいる。こうした後ろ向きの気持ちを想定すると、「あなたが必要」というメッセージを伝えることが最もシンプルな動機づけになる。例えば、「○○さん(年上部下)のおかげで」や「力をお借りしたい」、「ご相談なのですが」といった伝え方は効果的である。
 一方で、敬意を表する姿勢ばかりに注意が向いていると、過度にへりくだった態度になり、いざ指示を出す場面でもあいまいな表現が出やすくなる。例えば、「できれば」や「~してもらえませんか?」といった表現は、相手に拒否権があるように受け取られるリスクがあるため、使用を避けたい。丁寧な言葉遣いは大切だが、どんな業務を、何のために、いつまでに取り組んでほしいかは、毅然とした態度で明確に伝える必要がある。なお、「~しないように」という否定的な表現には注意したい。こうした表現には制約のニュアンスが入り、相手に不要な反抗心を抱かせるリスクがある。「遅れないように」取り組んでほしいのであれば、「期日内に」と言い換える方が望ましい。

2.「②変化に消極的」への対応:「是認」と「E-P-E方式での情報提供」で変化を促す

 変化の激しいVUCA時代(先行きが不透明で将来の予測が困難な時代)において「変化に消極的」であることは、組織運営上、痛手となり得る。しかし、長年社会や組織に貢献してきた自負を持つベテランの年上部下に対して、指示的・指導的に関わっても、素直に受け取ってもらえないことは想像に難くない。そこで意識したいのが、「是認」後の「E-P-E方式での情報提供」[3]というアプローチである。
 「是認」とは、相手の強みや頑張っていること、好ましい行為などに言及することである。まず是認するのは、この後の話をスムーズに聞き入れてもらえるような土台を作ることが目的である。「E-P-E方式での情報提供」とは、相手が既に持っている情報と、こちらから情報を提供することへの許可を引き出し(Elicit)、必要な情報を提供したのち(Provide)、情報を受け取った後の考えを引き出す(Elicit)という手法である。この手順を踏むことによって、一方的な指示・指導と受け取られる懸念が緩和され、伝えたい内容を受け取ってもらいやすくなる。

【図表1】自主性のない若手が悪いとして、若手育成に関与しない年上部下との対話例

発言者 発言内容
年上部下A Bさんは若いメンバーを育てろと言うけど、あっちから話してこないからどうしようもないよ。そういう自主性のなさが、営業先のお客さんとの雑談を疎かにしているところにもつながっているんだろうな。
年下上司B 若手の課題をしっかりと見てくださっていて、ありがたいです(是認)。若手の方から話しかけてこない理由は何か思い当たりますか?(Elicit
年上部下A 何だろうね、ただやる気がないんじゃないの。
年下上司B なるほど。私には他にも思い当たることがあるのですが、お伝えさせていただけますか?(Elicit
年上部下A どんなことかな。
年下上司B X社のアンケート調査によると、近頃の20代が日常的に使うコミュニケーションツールは、対面や電話よりも圧倒的にSNSだそうです。なので、世代全体の特徴として、自分から声を掛ける行為を苦手にしているようです。こうした特徴から、私としては是非Aさんから若手にお声掛けいただきたいのですが、どう思われますか? (Provide,Elicit
年上部下A 時代が違うんだな。こっちから工夫するしかないのかもね。

(MURCにて作成)

3.「③上司に反抗的」への対応:評論家的な態度を逆手に取る

 「上司に反抗的」で、何かにつけて難癖を付ける年上部下の存在も度々耳にする。こうした態度は、あえて逆手に取ることを推奨する。例えば、年下上司のチーム運営について、年上部下が「あれじゃダメだ」と陰口を叩いていたとしよう。この場合の一つの対処法は、ミーティング場面等でチーム全員に問い掛けることである。「私のチーム運営について、改善点があれば是非意見を伺いたいのですが、いかがですか?」と問い掛け、当の年上部下が意見を述べてくれれば、問題を表立って解消するチャンスが訪れる。逆に当の年上部下が意見を述べなかった場合、他のチームメンバーは「この人は陰でしか言わないのか」と半ば呆れた気持ちになる。こうした対応を中長期的に継続することで、チーム全体への悪影響は緩和されていく。
 もう一つの対処法は、問題の解消に向けた役割を担わせることである。チーム運営に対する批判の詳細を聴き出し、本人に改善方法まで言及させ、そのための一翼を担ってもらうことで、傍観者から責任者に転じさせることができる。もちろん、実際に行動してくれた時には然るべき評価を行う必要があり、それがインセンティブにつながるような制度やルールを整備しておくことも大切である。

まとめ

 年上部下とのコミュニケーションには様々な難題が付きまとう。しかし、特に人材不足の企業は、ベテラン人材・シニア人材の再戦力化なくして業績を上げることは困難な環境に置かれている。コミュニケーションの観点で改善を要する場合には、本コラムを参考にしていただきたい。

引用文献
● [1]総務省統計局「労働力調査」統計局ホームページ/労働力調査(詳細集計) 年平均結果 (stat.go.jp)

● [2]マンパワーグループ「年上の部下との仕事のやりやすさ、やりにくさの実態とは?」https://www.manpowergroup.jp/client/jinji/20210901.html

● [3]濱田佳代子ほか「リーダーのための動機づけ面接 実践編」(幻冬舎、初版、2022年)

参考文献
● 濱田秀彦「『年上の部下』をもったら読む本」(きずな出版、初版、2018年)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット

HR第4部 コンサルタント宮本 直樹(みやもと なおき)

  • 経歴

    新卒で裁判所に入庁し、家庭裁判所調査官として勤務。
    離婚や面会交流等の家庭内紛争の解決支援、少年事件の再非行防止業務に従事。
    三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は、組織内の人間関係の問題解決支援やキャリア開発支援を行っている。

  • プロジェクト実績

    社内コミュニケーション改善支援
    自律型人材育成支援
    人材アセスメント
    階層別研修担当(新入社員、中堅社員、主任・係長クラスなど)

  • 専門領域

    組織人事領域全般。特に社内コミュニケーション改善支援、自律型人材育成に注力。
    保有資格:公認心理師、DiSC®認定ファシリテーター、インバスケット認定トレーナー 等