MURC

コラム

職場内での長期的な能力開発施策とは?
~On the Job Development(OJD)の取り組み~

2024 年8 月14 日

中山 由依(なかやま ゆい)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット

HR第1部中山 由依

新卒で大手鉄道会社に入社し、人事部門にて新卒採用・教育業務を担当。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

 近年、労働人口減少や人材獲得競争激化を背景に、「いかに若手人材を将来的な戦力として育成できるか」が、人手不足に悩む企業を中心に大きな課題となっている。この解決策の一つが、“On the Job Development”(OJD)である。大企業を中心に統合報告書やホームページにOJD施策を公開するケースが増えており、今後さらに注目を集めていくと考えられる。

1. On the Job Development(OJD)とは?

 OJDは人材育成手法の一つであり、「職場内能力開発」を意味する。経営戦略に沿って能力開発を行い、中長期的視点でキャリアパスを明確化することでマネジメント能力や知識を習得させ、社員が自律的に育つ職場の構築を目指す仕組みだ。具体的には、上司・部下間でコミュニケーションを取りながら中長期的目標やキャリアプランを立て、定期的にその達成状況や進捗を確認していく手法がある。

 従来から企業内人材育成の取り組みとして耳にすることが多い“On the Job Training”(OJT)との違いとして、大きく以下の4点が挙げられる。どちらの手法が優れている、ということではなく、育成目的を見極めた上で適切な手法を組み合わせていくことが重要である。

【図1】OJTとOJDの特徴比較

【図1】OJTとOJDの特徴比較

出所:MURC作成

 多くのメンバーシップ型の日本企業では、これまで終身雇用や年功序列の考え方が浸透していた。そのため「社内で必要な業務遂行能力や実務スキル」を身に付けることに重点を置いた、OJTによるスキル教育を行うことが一般的であった。しかし近年、人材を単なる労働力としてではなく企業の持続的な成長のための「資源」や「資本」ととらえ、個人の持つ能力や経験を最大限に活かすための戦略を策定する動きが広まっている。その中でスキル教育のみならず個人別かつ長期的なキャリア形成の支援が不可欠になり、社員の主体的な成長を促す人材育成手法の一つとしてOJDに着目する企業が増えているのだ。また、育成を通じて本人のキャリアに寄り添いながら社内で活躍するビジョンを描かせることができるため、エンゲージメント向上や離職率低下といった効果が期待できることも、注目される要因の一つであるといえる。

2. OJDに対する取り組みの現状

 帝国データバンクが2019年に実施した調査(※注1)において、「生産性向上に最も効果がある人材育成方法」を尋ねたところ、短期間(1年以内)の生産性向上に効果がある方法では「職場内における教育訓練(OJT)」が60.1%と突出して高い状況だった。一方、長期間(1年超)の生産性向上に効果がある方法としては「職場内における教育訓練(OJT)」、「職場外での教育訓練(Off-JT)」、「職場内における能力開発(OJD)」がいずれも20%台となっており、各社とも様々な方法を組み合わせ、効果的な施策を模索していることがわかる。一方、調査の中で「OJT と OJD の併用が望ましいが、現状ではOJTが中心で、OJD まで手が回っていない状況」との意見があり、特に人的リソースが不足する中小企業を中心に、「OJDに取り組みたいが現実的に難しい」との悩みを抱えているケースも多いのだろうと推測する。

3. 今後の展望

 OJDは近年日本企業の中でも徐々に普及している傾向にある。しかし育成担当者の指導スキルや長期の育成期間を要するため、特に中小企業においては人的・時間的負担がネックで導入できないケースも見込まれる。また、すぐに目に見えた育成効果が出にくいことも導入ハードルが高まる要因の一つになっているといえる。
 その中で、まずは社員本人に「5年後・10年後にどうなりたいか」を考えさせ、キャリアビジョンについて話す機会を設けるだけでも、社員が能力を高めながら主体的に自身のキャリアを構築し、将来的に会社の経営を背負って立つ人材となるための取り組みの第一歩になりうるだろう。優秀な人材の確保が難しいと感じている企業こそ、OJDを通じた人材育成に長期的な視点で取り組むことが求められるのではないだろうか。

参考文献
● (※注1)株式会社帝国データバンク「2019年の雇用動向に関する企業の意識調査」
● (2019年度の雇用動向に関する企業の意識調査 | 株式会社 帝国データバンク[TDB]

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット

HR第1部 アソシエイト中山 由依(なかやま ゆい)

  • 経歴

    新卒で大手鉄道会社に入社し、人事部門にて新卒採用・教育業務を担当。
    三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

  • プロジェクト実績

    基幹人事制度構築支援
    シニア人材活躍施策推進支援
    人件費・人員・報酬水準分析
    人事評価者研修講師 等

  • 専門領域

    組織人事領域全般。特に基幹人事制度設計・人材育成体系構築。