MURC

コラム

一般社員層への
ジョブ型人材マネジメント導入の検討

2024 年3 月13 日

浜野 真滉(はまの まさひろ)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット

HR第1部 ビジネスアナリスト浜野 真滉

新卒で三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社し、主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

一般社員層へのジョブ型人材マネジメントの導入実態

 経営を取り巻く環境変化が加速する中、職能資格制度・終身雇用・年功序列等を特徴とするメンバーシップ型の人材マネジメントから、職務を基準としたジョブ型の人材マネジメントに移行する企業が増加している。日本能率協会が2023年に実施した「当面する企業経営課題に関する調査―組織・人事編―」によると、調査対象企業のうち、全社または特定層問わず何らかの形でジョブ型人材マネジメントを導入している企業は2割超に、大企業では約3割にのぼっている。一方、同調査によると、一般社員層を含む全階層にジョブ型を導入している(または導入中である)企業は全体の1割程度にとどまっており、一般社員層は管理職層に比べてジョブ型人材マネジメントの導入が進んでいないことが分かる(【図表1】)。

【図表1】「ジョブ型」の人事・評価・処遇制度の導入・検討状況(調査対象企業全体と大企業のみ)

図表1:「ジョブ型」の人事・評価・処遇制度の導入・検討状況(調査対象企業全体と大企業のみ)

(出所)一般社団法人日本能率協会『経営課題調査 組織・人事編 2023』
keieikadai_2023_report_hr.pdf (jma.or.jp))をもとにMURC作成

 同調査は「『ジョブ型』の人事・評価・処遇制度を検討中・導入の予定はない理由」も調査しているが、それによると、導入をしない理由として、「『ジョブ型』よりもやや柔軟に運用できる役割等級制度のような制度が妥当と考えたため」や「異動などの人材配置において柔軟に運用することが難しいため」、「社員に対し職務を限定せず多様な経験を積ませることを重視しているため」という理由が挙げられている。これらのうち、「柔軟な人材配置」や「多様な経験の蓄積」は社員の育成に関わる部分であり、育成の観点から一般社員層へのジョブ型導入を見送っていることも上記調査結果の理由の一つと推察できる。
 しかし、経営環境のグローバル化や事業の高度化が進むにつれ、世界的に多くの企業で採用されている人材マネジメントであり、かつ、スペシャリスト型の人材雇用に向いているジョブ型人材マネジメントを、一般社員層にも適用する余地は十分に考えられる。そこで本コラムは、ジョブ型の人材マネジメントを、一般社員層を含む全社員に導入している日系企業3社の事例を参照しながら、「どのような形で一般社員層に適用しているのか?」について概説する。

日系企業3社の事例

 全社員にジョブ型人材マネジメントを導入している日系企業3社(A社、B社、C社)の事例を紹介する。それぞれの企業について、まずジョブ型人材マネジメントの導入に至った背景・経緯を概説する。そのうえで、ジョブ型人材マネジメントのポイントとなるジョブディスクリプション(以降、JDと記述)に焦点を当て、「JDは、どの程度の粒度(JDの作成単位)で、何をジョブとして規定しているか?(JDの記載内容)」を明らかにする。

1. A社の事例
 A社は、グローバル市場での成長のために、多種多様な属性・価値観を持った働き手にマッチしたグローバル共通の人材マネジメント基盤を構築する方針を掲げ、十数年ほど前から段階的に構築・導入してきた。その一環として、社内の職務についてのJDを整備し、基幹人事制度をジョブ型に移行した。
 JDについては、まず職種・階層別(一般社員を含む6階層×75職種)に450種類の「標準JD」を作成し、そのうえで標準JDにもとづいたポジションごとの「個別JD」を作成している。標準JDには、職務名称、職務概要、責任、能力、期待行動、職務知識スキル、資格、経験などが詳細に記載されている(A4用紙2~3枚分)。標準JDにもとづいて当該ポジションが特にカバーすべき領域に関する記述を追記・修正したものが個別JDとなる。社内の全ポジションについてこのような形の個別JDを作成し、人材マネジメントの基盤として運用しているという。
 このように、JDの種類の多さ、記載内容の詳細さを踏まえると、後述する2社と比較してもA社はジョブ型人事制度の原理原則に最も忠実な制度を導入していると言える。

2. B社の事例
 B社は、経営環境の変化が激しいVUCAの時代にも持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためには、人材こそが重要であると考え、抜本的な人材マネジメント改革を断行した。その中で、基幹人事制度を職能資格制度から、社員をジョブ基準で格付け職務と成果に報いるジョブ型の人事制度に移行した。
 JDについては、管理職層の約700のポストすべてについて作成した一方、一般社員層はチームやジョブファミリーなど一定の職務のまとまりごとに約700種類のJDを作成している。それぞれのJDにはポスト名、グレード、職務概要、職務詳細(必要なスキル・知識、マネジメント範囲、職務規模・インパクト)が記載されている。
 このようにB社は、A社と比較すると、一般社員層のJDの記載粒度は粗く、“やや緩やかなジョブ型”であると言える。B社が属する業界の特徴として、特定の分野に秀でたスペシャリストを育てるだけではなく、営業、契約業務、コーポレート部門などの異なる領域を経験することが重要であるため、ジョブローテーションを円滑に行いやすいようにすることが理由の一つとして考えられる。

3. C社の事例
 C社は、事業のグローバル化に伴い、人材マネジメントの在り方もグローバル化する必要が生じてきたため、既に管理職層で運用が進むジョブベースの人事制度を一般社員層にも適用することとした。ただし、一般社員層に対しては、いきなり欧米のような原理原則的なジョブ型ではなく、日本型の人事慣行への影響を考慮した緩やかなジョブ型人材マネジメントの運用からスタートしている。
 JDについては、管理職層はポジションごとに作成している一方、一般社員層はグループ(課)ごとに作成している。それぞれのJDには、職務概要、成果責任、職務の目的、主要な業務内容、職能要件が記載されている。職能要件とは、具体的には職務遂行に必要となる専門能力やスキル・知識のことである。C社ではこの職能要件を、職務レベルと並んで等級格付けや報酬水準、評価決定のものさしとして重要視している。
 このように、一般社員層のJDの作成粒度がグループ(課)単位であること、職務遂行能力が職務レベルと並んで等級格付けや報酬水準、評価決定のものさしとして重要な意味を持っていることから、ジョブ型人事制度と職能資格制度のハイブリッド型の人事制度を導入していることが分かる。

【図表2】A社・B社・C社における一般社員層へのジョブ型導入事例

図表2:A社・B社・C社における一般社員層へのジョブ型導入事例

(出所)MURC作成

まとめ

 A社、B社、C社の事例をみると、一口に「一般社員層にもジョブ型を導入している」といっても、その導入の仕方や運用方法は三社三様であり、必ずしもジョブ型の原理原則に従って導入しているとは限らないことが分かる。
 人材マネジメントに関する戦略・コンセプトにマッチする制度としてジョブ型を導入していることは3社に共通していても、「どの程度ジョブ型の原理原則に則って導入するか?」や「どの程度柔軟に運用できる余地を残すか?」については、業界の特徴やビジネスモデル、現状の人材マネジメントシステムからの改定の程度等を考慮して決定している。このように、ジョブ型人材マネジメントを一般社員層に導入することを検討する際には、人材戦略という上流の概念からバックキャスティングで検討するトップダウン的なアプローチと、自社の置かれた環境や社内の状況を踏まえたボトムアップ的なアプローチの両方の視点を持ち、「自社に最適な形態はなにか?」を考えることが必要不可欠である。

参考文献
● 労務行政研究所編「先進企業9社に学ぶ『ジョブ型人事制度』」(労務行政、2023年)
● 一般社団法人日本能率協会『経営課題調査 組織・人事編 2023』(keieikadai_2023_report_hr.pdf (jma.or.jp)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット

HR第1部 ビジネスアナリスト浜野 真滉(はまの まさひろ)

  • 経歴

    新卒で三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社入社し、主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

  • プロジェクト実績

    人事制度改定支援
    専門職に対する職務等級人事制度の導入支援など

  • 専門領域

    組織人事領域全般。特に基幹人事制度設計