MURC

コラム

シニア社員の戦力化に向けた
職務面からのアプローチ

2024 年2 月22 日

友野 雅樹(ともの まさき)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット

HR第1部 アソシエイト友野 雅樹

新卒で三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社。
入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

シニア社員の戦力としての活用

 少子高齢化が加速している日本では、労働力の確保が最重要課題の1つである。その対応として、「高年齢者の雇用促進」が注目されており、高年齢者雇用安定法の改正や国家公務員の定年延長実施を受けて、各社が対策を講じている。

 具体的な雇用促進の手法として定年延長・定年後再雇用制度の導入・見直しが図られている一方で、実際のシニア社員(60歳以降の社員を想定)を、真に戦力として活用できている企業は多くは無い。雇用確保のために処遇を切り下げ、担務業務の質・量を従前から減少させるといった対応が散見される。結果として、シニア社員のモチベーションやパフォーマンスが高まらないといった声がよく聞かれるところである。70歳までの雇用が努力義務化している日本においては60歳から10 年間の勤務期間がある中で、この10年間を有効に活用することが日本企業の生産性向上に直結する。
 シニア社員の真の戦力的活用としては、マインドセットの変革や評価・処遇、リスキリングも含めた人材マネジメント全般に亘る検討が必要となるが、本コラムでは、どんな業務を担ってもらうのが適切かという「職務面からのアプローチ」について解説する。

シニア社員を戦力化するための職務切り出し・割り当て

 シニア社員の本格的な戦力化のためには、健康状態を考慮し職務遂行能力や労働意欲に応じて職務の切り出し・再構成を行い、その上で家庭環境や価値観の変化などを踏まえて、職務を割り当てることが望ましい。

図1:職務切り出しの考え方

図1:職務切り出しの考え方

(MURC作成)

シニア社員の状況に応じた職務の切り出し方

 職務を切り出すうえで、まず初めに「60歳前と質・量の両面に鑑みて同様の職務を遂行できるか」の観点で切り分ける。この点に問題が無い社員には、シニア社員となっても同様の職務を担ってもらうことができる。一方で、同様の職務遂行が難しい場合は「その原因が体力面にあるのか、その他諸事情(家庭環境・働き方の多様化など)にあるのか」によって対応が異なる。

 従前と同様の職務を維持できない原因が体力に起因する場合は、可能な範囲で体力負担を軽減させる方法がある。さらに60歳前にマネジメント・プレイヤー業務のどちらを担っていたのかによって対応は変わる。

 組織マネジメント業務を担っていた場合は、マネジメント業務の経験を踏まえ検討を進める。管理監督者には時間に縛られることなく管理監督責任を負う必要があるものの、体力的にその責任を全うすることが難しくなるケース、また組織の若手登用を進める会社の都合によって、役職離任するケースが想定される。
想定される職務は、①マネジメント経験を活かしたマネジメント補佐、②組織幹部としての経験を活かした内部監査、③部下への指導経験を活かした教育・研修業務、④マネジメントを担う前までの経験を活かしたプレイヤー業務などが挙げられるだろう。

 プレイヤー業務を担っていた場合は、これまでの業務から変更は行わないものの、体力面の負荷を軽減させる対応が考えられる。例えば、シフト制の場合は深夜業務を減らす、あるいは固定的な勤務時間とする、現場作業が必要となる場合は現場業務の割合を減らす、あるいは内勤の職務を任せるなどが挙げられる。

 職務を維持できない原因が体力ではなく、その他諸事情(家庭環境・価値観・考え方の変化など)に起因する場合には一層の工夫が求められる。例えば、目標値を下げたうえでプレイヤーとして業務を継続いただく、あるいは本社や支店・支社の事務処理の一部を担っていただくなどがありうる。外注していた事務処理を内製化し、シニア社員に任せることなども一考の余地がある。処遇に応じた働きができているのか確認するためにも、成果・プロセスを測定でき、かつ会社として必要な業務を任せたい。

 ここまでで列挙した対応は、現役社員にしわ寄せが出る懸念もあるため、シニア社員のみではなく職場単位での負荷のバランスや納得感醸成などにも配慮が必要となる。

シニア社員の職務の割り当て時のポイント

 上記でシニア社員に担っていただく職務を検討した。これらをシニア社員に割り当てる際には「役割遂行の期待度合い」「職場・本人の意向」の2点を確認すべきである。「役割遂行の期待度合い」は現役時代の等級や直近数年の評価、保有する能力などを踏まえて、シニア社員となった後にどの程度の職務を担うことができるのかを確認する。「職場・本人の意向」は各部署の定員数や職場の社員・本人との面談を通して確認する。これらを総合的に勘案して、シニア社員に職務を割り当てていくことがよいだろう。

最後に

 シニア社員の職務において「人手不足であるため現役同様の職務とする」、「シニアには負担が大きい仕事は避け簡易な作業のみを依頼する」など、これまでの経緯からシニア社員の職務について手厚い検討がされていない状況では、シニア社員を真に戦力化できていないと懸念される。想定される職務パターンを設け、シニア社員に適切に職務を割り当てることで、労働力のロスを縮小させ、企業の生産性向上に繋げていくことが大切である。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット

HR第1部 アソシエイト友野 雅樹(ともの まさき)

  • 経歴

    新卒で三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社入社。入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

  • プロジェクト実績

    人事制度改定支援(再雇用制度改定、定年延長を含む)
    役員マネジメント体系構築支援(役員報酬改定、スキルマトリックス策定等)
    人的資本経営・開示支援

  • 専門領域

    組織人事領域全般。現在は、特に「人事制度改定支援(定年延長実施支援)」「役員マネジメント体系構築支援」に注力