コラム
「フリーランス法スタート」
「高年齢者労災防止対策」等
人事労務関連レポート 2024年12月号
2024 年12 月13 日
各種法改正の情報や、事業者側が留意すべき事項などを解説する。
◆トピックス
- フリーランス法スタート ~フリーランスに業務委託する事業者の守るべき義務~
- 高年齢者労災防止対策 ~職場環境・作業の改善 努力義務化へ~
- 令和7年4月 高年齢雇用継続給付の支給率変更
- 65歳まで継続雇用認める ~自署の契約書があっても合意退職成立を否定~
- 12月からいよいよ! マイナ保険証を基本とする仕組みへ
- 養育期間特例申出書の添付書類を省略できるようになります
フリーランス法スタート ~フリーランスに業務委託する事業者の守るべき義務~
令和6年11月1日、フリーランス法が施行されました(正式名称「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)。労働者が労働基準法や育児介護休業法等の法律による保護を受ける一方、交渉力等の面で弱い立場におかれやすいフリーランスは、一方的な条件変更や報酬に関するトラブル、ハラスメントなどに遭遇しても仕事に支障が出ることを恐れて泣き寝入りせざるを得ない状況もあるのが実情です。この法律は、多様な働き方の進展を背景に、フリーランスが安心して働くことのできる環境を整備するため、
①フリーランスと企業などの発注事業者の間の取引の適正化
②フリーランスの就業環境の整備
を図ることを目的に制定されました。フリーランス法の適用範囲は広く、多くの企業がこの法律の影響を受けるものと考えられます。自社に対象となる取引(業務委託)はないか、対象となる取引がある場合はどのような義務が生じるのかをご確認ください。違反した場合、行政指導・助言・勧告を受け、勧告に従わない場合には命令・企業名公表、さらに命令に従わない場合は罰金が科されることとされています。
フリーランス法の適用対象
「業務委託事業者」(発注事業者)と「特定受託事業者」(フリーランス)との「事業者間取引」(業務委託)
- * 個人事業主の他、他に役員がなく従業員を使用しない法人のいわゆる一人社長も保護の対象です。
- * 一般的にフリーランスには、従業員を使用したり、消費者を相手に取引をしたりする方が含まれる場合もありますが、この法律における「フリーランス」にはあたりません。
- * 「従業員」には短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含みません。具体的には、「週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」が「従業員」にあたります。
発注事業者に課される義務
発注事業者側の従業員の有無および業務委託期間に応じ、フリーランスに対しての義務の内容が異なります。
詳細はこちらをご参照ください。
フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和6年10月18日改定) https://www.mhlw.go.jp/content/001318001.pdf
高年齢者労災防止対策 ~職場環境・作業の改善 努力義務化へ~
人口動態の変化や高齢者の健康状態の向上等を背景に、雇用者全体に占める高年齢労働者の割合及び労働災害による死傷者数(休業4日以上)に占める高齢者の割合は増加傾向にあります。
※令和5年の労働者死傷病報告
- 60歳以上の男女別の労災発生率(死傷年千人率):30歳代と比較して男性で約2倍、女性で約4倍
- 休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の割合:平成15年約15%→令和5年29.3%
一方で、エイジフレンドリーガイドラインに基づく取組みは浸透していません。厚生労働省の調査によると、高年齢労働者の労災防止対策を行っている事業場割合は2割弱です。取り組んでいない理由について、「自社の60歳以上の高年齢労働者は健康である」と回答した事業場が多くなっています(48.1%)。身体機能の低下による労働災害のリスクへの理解が進んでおらず、その結果、そのような労働災害の防止のための取組が行われないことで、労働災害の増加に歯止めがかからない状況に繋がっていると考えられます。
そのため、厚生労働省は、対策を強化する方針です。現行の労働安全衛生法では、中高年齢者に対する「心身の状況に応じた適正な配置」の措置のみを努力義務としていますが、さらに、身体機能の低下を補う設備・装置の導入など職場環境・作業環境の改善に関する措置を企業の努力義務とする案を示し、11月6日の労働政策審議会安全衛生分科会で労使が大筋で合意しました。厚生労働省は令和7年の通常国会に労働安全衛生法の改正案を提出する方針です。段差の解消や手すりの設置、高齢者の体力や特性に配慮した作業内容の見直し等が求められる見込みです。
※「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」とは・・・令和2年3月に公表された高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境の実現に向け、事業者や労働者に取組が求められる事項を取りまとめたものです。事業者に求められるもの:①安全衛生管理体制の確立等②職場環境の改善③高年齢労働者の健康や体力の状況の把握④高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応⑤安全衛生教育
令和7年4月 高年齢雇用継続給付の支給率変更
「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)の施行により、令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率が変わります。高年齢雇用継続給付は、高年齢者の就業意欲を維持、喚起し、65歳までの雇用の継続を援助、促進することを目的とし、60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の一定の雇用保険一般被保険者に給付金を支給する制度です。
現行の支給率と変更後の支給率は以下の通りです。
- 【現行】 賃金の低下率に応じ、支払われた賃金の15%を限度として支給されます。
-
【変更後】60歳に達した日(満60歳の誕生日の前日。その日時点で被保険者であった期間が5年以上ない方はその期間が5年を満たすこととなった日)が、
令和7年3月31日以前の方は、各月に支払われた賃金の15%(従来の支給率)を限度として支給されます。
令和7年4月1日以降の方は、各月に支払われた賃金の10%(変更後の支給率)を限度として支給されます。
65歳まで継続雇用認める ~自署の契約書があっても合意退職成立を否定~
東京都内の印刷会社で働く定年後再雇用の労働者が、雇用期間の途中で合意退職とされた事を不服とした裁判で、東京高等裁判所は65歳までの継続雇用を認める判決をくだしました。両者は雇用期間を61歳の中途までとする雇用契約書を交わしており、雇用契約書には労働者の自署の署名がありました。
同高裁は、会社は退職の意向を確認せず、面談で辞めてもらう旨を告げており、雇用契約書により退職の合意が成立したとはいえないとする一審判断を支持。65歳までの更新期待を認め、その間のバックペイ支払を命じました。 【令和6年10月17日、東京高裁判決】
12月からいよいよ! マイナ保険証を基本とする仕組みへ
令和6年12月2日以降、現行の健康保険証は新たに発行されなくなり、「マイナ保険証」を基本とする仕組みに移行していきます。今後の運用について、今一度ご確認ください。資格取得届等の様式変更や、健康保険組合により保険証の発行廃止日を独自に設定する動きもありますので、最新情報に注意が必要です。
- マイナ保険証利用のための事前手続は?
①(本人)マイナンバーカード取得
②(本人)保険証利用登録(未登録の場合、医療機関受診時にカードリーダー登録も可)
③(本人→会社→保険者)資格取得時、扶養追加時 マイナンバー登録 - マイナ保険証がないと保険適用できない?!
マイナンバーカードを持っていない方、利用登録をしていない方、その他事情のある方は、「資格確認書」を提示することで保険診療を受けることができます(マイナ保険証のメリットは受けられません)。
【新規加入者の資格確認書の発行】
「被保険者資格取得届」および「被扶養者(異動)届」に「資格確認書発行要否」欄が新たに設けられます。届書の「□発行が必要」にチェックを入れて申請することで資格確認書が発行されます。
※「□発行が必要」にチェックを入れなかった場合でも、マイナ保険証をお持ちでない方などには、申請によらず資格確認書が交付されますが、申請した場合と比べて相当な期間を要する見込みです。
【既存加入者の資格確認書の発行】
令和7年12月2日以降、マイナ保険証をお持ちでない方やマイナンバー未登録の方など、保険者が必要と判断した場合に交付されます。その他、本人が希望すれば申請による発行依頼が可能です。 - 現行の保険証はいつまで使える?
発行済みの保険証は、有効期限までの間、最長1年間使用できます。
※令和7年12月1日までに退職等で資格を失ったときは、保険証の返納が必要です。
※協会けんぽでは、令和7年12月2日以降、自己廃棄可能とされています。 - 今後の受診パターンは?
①マイナ保険証 ②資格確認書(申請等により入手可) ③健康保険証(発行済みの方のみ、最大1年間) ④マイナ保険証 + 「資格情報のお知らせ」やマイナポータルの「わたしの情報」
※④はカードリーダーが使えない医療機関受診時やカードリーダーのトラブル発生時などに有効です。
※「資格情報のお知らせ」は、被保険者資格等の基本情報が記載されているものです。既存加入者には交付済みで、新規加入者にも交付されます。退職等の際に会社へ返納いただく必要はありません。
養育期間特例申出書の添付書類を省略できるようになります
「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」の届出では、原則として「戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書」および「住民票の写し」の添付が求められますが、これまで「住民票の写し」に関しては、申出者と養育する子の個人番号がどちらも申出書に記載されている場合は添付不要とされてきました。
令和7年1月からは、事業主が、申出者と養育する子の身分関係を確認した場合、戸籍謄本の添付が省略できることとなり、申出書の様式変更が予定されています。これに先立ち、11月1日より申出者と養育する子の個人番号を申出書に記載すれば、住民票に加えて戸籍謄本も省略可能となっており添付書類なしで手続可能です。