社労士

コラム

「緊急対応の頻度が高い勤務の取り扱い」
「ジョブ型人事指針を公表」等
人事労務関連レポート 2024年10月号

2024 年10 月30 日

人材不足等により、働き方や労働市場環境に変化が起きている。実例を交えて解説していく。

トピックス

緊急対応の頻度が高い宿泊勤務は休憩と睡眠時間も労働時間として取り扱う
~足立労働基準監督署~

 足立労働基準監督署は2024年8月2日、東京メトロに対し、宿泊勤務の労働時間の取り扱いに関する是正勧告を行い、東京メトロは対象となる社員らに対して最大で総額約86億円の清算金を支払う方針を固めました。
 今回の是正勧告に至った背景には、東京メトロ日比谷線の信号やカメラ、電話機などの保守を担当する職場における24時間の宿泊勤務の中で、緊急対応の頻度が増えており、休憩及び睡眠時間が保障されていると言えない状態にあることが挙げられています。
 これまで東京メトロは、上記のような宿泊勤務に従事する中での突発的な緊急対応を行った際には、当該社員に対し、代わりの休憩時間を設けており、それが難しい場合には、早出・残業手当等を支払う対応をしていました。しかし、近年緊急対応の頻度が月約7回ある宿泊勤務のうち3回に1回と増加していることから、宿泊勤務の際に十分な休憩・睡眠の時間が取れているとは言い難い状況となっていました。そのため、今回労働実態に鑑み、午後5時40分以降の休憩及び睡眠時間を労働時間として取り扱い、労働基準法に則り割増賃金を支払うように労基署から指導を受ける形となりました。これは、本来労働から切り離されていることが必要である、休憩・睡眠の時間が、実情として労働から切り離されていないという判断がされた、ということになります。
 これらを受け、東京メトロは足立労働基準監督署より、時間外労働の協定の限度時間を超えて労働させることができる時間を超えて労働させている(労基法第32条第1項及び第2項)及び割増賃金の未払い(労基法37条第1項、第4項)に違反しているため是正するよう勧告されました。
 宿泊勤務や夜勤時間帯の勤務時間全体が労働時間に当たるか否か、一定の時間帯に対していかなる賃金を支払うかについてはこれまでも何度も争点となってきました。
 大星ビル管理事件(最一小判 平14.2.28)では、「実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。」とし「不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。」と判断されています。
 非常時対応が義務付けられている不活動仮眠時間は、非常時対応が極めて稀なケースで拘束性が実質ないと判断されれば休憩時間と認められますが、こうしたケースは例外的で一般的に非常時対応の実績があれば、上記の最高裁判例のように労働時間と判断されることになります。
 前号で示したように不活動仮眠時間が労働時間としても、その時間帯にいかなる賃金を払うかは別の論点として争われることになります。
 現在、宿泊勤務が発生する職種は、東京メトロのようなインフラ系、社会福祉施設のようなサービス職業従事者、宿泊施設や空港といった観光業系、運送業など多岐に渡っています。人手不足等を理由とした、長時間労働の慢性化や、休憩時間確保の困難といった問題は、社会問題となってきていることは明白です。休憩時間、睡眠・仮眠時間、出張の際の移動時間など、どの範囲を労働時間とし、いかなる賃金を支払うかを具体的に決めておくことが必要であり、就業規則等で明示し、使用者・労働者ともに認識を合わせておくことが必要となります。

令和6年8月28日、内閣官房、経済産業省、厚生労働省は連名で「ジョブ型人事指針」を公表

 政府が掲げる三位一体の労働市場改革においては、①リ・スキリングによる能力向上支援 ②個々の企業の実態に応じた職務給の導入 ③成長分野への労働移動の円滑化を三位一体で進めていくことを目指しています。
 従来の日本の雇用制度については、新卒一括採用が中心で異動は会社主導のため「従業員による自律的なキャリア形成」が行われにくいシステムであり、今後日本企業の競争力維持の為には「個々に必要となるスキルを設定し、自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していくジョブ型人事を導入する必要がある」とし、ジョブ型人事指針を策定する旨を令和6年6月には閣議決定していました。
 今回公表された「ジョブ型人事指針」は、三位一体の労働市場改革における「②個々の企業の実態に応じた職務給の導入」の一環として、すでにジョブ型人事を導入している企業の事例を具体的に掲載したものです。内容としては第1章として「三位一体労働市場改革とジョブ型人事指針の意義」が述べられた上で、第2章では20社の導入事例が掲載されています。
 当該指針は、個々の企業の実態に合った制度の導入を検討するための参考となるよう、それぞれ導入の目的、経営戦略上の位置づけ、導入範囲・等級制度・評価制度・報酬制度など制度の骨格、採用・人事異動・キャリア自律支援・等級変更などの雇用管理制度、人事部と各部署の権限分掌の内容や労使コミュニケーション等の導入プロセスについても紹介しています。

≪富士通株式会社の導入事例≫「2020年度から管理職に、2022年度から一般職に導入。」

  • 職務給(ジョブ型人事)の導入目的
     25~35歳の社員の外資系企業への転職が増加する一方で、経験者採用は進まず、育成した人材の流出が大きな経営課題となっていた実態があり、社員のエンゲージメントを高め「外部労働市場で競争できる人事制度」へ変革を掲げ導入。

  • 人材の配置・育成・評価方法
     職種と等級ごとの役割を定義した上で、ジョブ(職責)ごとに職務記述書を作成し、ポスティング(社内公募制度)等を活用することで、適所適材の人材配置を実施。「リ・スキリング」「上司との1on1ミーティング」「キャリアカウンセラー配置」など、キャリア形成の支援体制を整備。管理職の報酬はジョブに紐づき、年功的な運用ができない仕組みへ転換。「行動」、「学びと成長」、社会や顧客への「インパクト」の項目で個人を評価し、今後の職務アサインメントや成長支援を考慮した評価結果を報酬に反映しやすい制度を導入。

  • 導入後の効果の考察
     導入前は離職率が高まることを想定したが、実際は変わらず、転職を考える社員が社内の別の職務に挑戦するケースもあり、採用権限を持つ各部門がより魅力的な職場づくりに取り組み、内部労働市場が活性化した。また、外部労働市場における人材獲得能力も高まり経験者採用は前々年度比で2.7倍となった。富士通株式会社においては、内部労働市場が活性化し有能な人材を外部からも獲得できたことからジョブ型人事制度は一定の成果があったといえよう。

都道府県別の男女間賃金格差を提示

 政府は9月2日、「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム(PT)」の会合を首相官邸で開き、男女間の賃金格差について都道府県別ランキングを公表しました。格差が最も大きかったのは栃木県で、最も小さかったのは高知県でした。
 賃金格差は2023年の厚生労働省調査に基づき、基本給を中心とする「所定内給与」について、男性を100%とした場合の女性の賃金の割合を示したもので、格差が最大の栃木県は71.0、最小の高知県は80.4%でした。男女共同参画白書令和6年版によると、経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進国の平均は 約88%で、日本全体でなお開きは大きい状況です。

9月は健康診断実施強化月間です

 厚生労働省は毎年9月を「職場の健康診断実施強化月間」に定め、労働安全衛生法に基づく定期健康診断の実施、その結果についての医師の意見聴取及びその意見を踏まえた就業上の措置等への実施を事業者に呼びかけています。

≪2024年度の重点項目≫

(1)健康診断及び事後措置等の実施の徹底
(2)健康診断結果の記録の保存の徹底
(3)一般健康診断結果に基づく必要な労働者に対する医師又は保健師による保健指導の実施
(4)高齢者の医療の確保に関する法律に基づく医療保険者が行う特定健康診査・保健指導との連携
(5)健康保険法に基づく保健事業との連携
(6)小規模事業場における地域産業保健センターの活用

 定期健康診断の実施、有所見者に対する医師からの意見聴取、医師の意見を勘案した必要な事後措置の実施は、全て労働安全衛生法に基づく事業者の義務です。特に小規模事業場での実施率が低くなっていますが、事業場の規模にかかわらず、事後措置の実施までを徹底することが重要です。

ペイペイで賃金払い可能に 厚労省、初の事業者指定

 厚生労働省は2024年8月9日、指定申請した4社から仮に経営破綻しても入金された賃金の残高分を担保できるかどうかなど1年以上かけて検証し、賃金のデジタルマネー払いに使うスマートフォン決済アプリの事業者として「PayPay(ペイペイ)」の運営会社を指定しました。
 デジタル払いの制度は昨年4月に解禁されましたが、事業者が指定されるのは初めてとなります。今後は労使協定を結べば、ペイペイで賃金の支払いと受け取りが可能になります。
 ペイペイの運営会社を含むソフトバンクグループ10社は同日、従業員が希望すれば、9月分の賃金からペイペイで支払うと発表しました。従業員が受け取り金額を最大20万円まで指定できます。各社は「受け取り方法の選択肢を増やすとともに、グループ全体でペイペイ経済圏の拡大を推進していく」としています。
 制度は、成長戦略としてキャッシュレス決済の普及を掲げる政府方針などに基づき導入が進められ、昨年4月の改正省令施行で解禁されました。賃金の支払先となる決済アプリの口座残高は上限100万円。従業員はアプリでそのまま買い物や家族への送金ができます。

雇用保険の基本手当日額の変更 ~8月1日から実施~

 2024年8月1日から雇用保険の「基本手当日額」が変更となりました。
 雇用保険の基本手当は、労働者が離職した場合に、失業中の生活を心配することなく再就職活動できるよう支給するものです。「基本手当日額」は、離職前の賃金を基に算出した1日当たりの支給額をいい、今回、令和5年度の平均給与額が令和4年度と比べて約1.7%上昇したこと及び最低賃金日額の変更により、基本手当日額の最高額と最低額が引上げられました。※育児休業給付、高年齢雇用継続給付、介護休業給付の支給限度額も変更となります。

◆年齢区分に応じた賃金日額・基本手当日額の上限額

離職時の年齢 賃金日額の上限額(円) 基本手当日額の上限額(円)
変更前 変更後 変更前 変更後(前年度増減)
29歳以下 13,890 14,130 6,945 7,065(+120)
30~44歳 15,430 15,690 7,715 7,845(+130)
45~59歳 16,980 17,270 8,490 8,635(+145)
60~64歳 16,210 16,490 7,294 7,420(+126)

◆賃金日額・基本手当日額の下限額

年齢 賃金日額の下限額(円) 基本手当日額の下限額(円)
変更前 変更後 変更前 変更後(前年度増減)
全年齢 2,746 2,869 2,196 2,295(+99)

労働者死傷病報告事項が改正、電子申請が義務化

 令和7年1月1日から労働者死傷病報告の報告事項が改正され電子申請が義務化されます。
 労働者が労働災害等により死亡し、又は休業したときには、事業者は所轄の労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出しなければなりません(労働安全衛生規則第97条)。

令和7年1月1日より、労働者死傷病報告のほか、以下の報告も電子申請が義務化されます。

  • 総括安全衛生管理者/安全管理者/衛生管理者/産業医の選任報告
  • 定期健康診断結果報告
  • 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告
  • 有害な業務に係る歯科健康診断結果報告
  • 有機溶剤等健康診断結果報告
  • じん肺健康管理実施状況報告

 電子申請に当たっては【労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス】を活用いただくことでスムーズに申請できます。

 労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス (mhlw.go.jp)
https://www.chohyo-shien.mhlw.go.jp/

社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック

 令和6年(2024年)10月からは、従業員数51人以上100人以下の企業についてもパートやアルバイトといった短時間労働者の社会保険の加入が義務化されます。
 対象者は次の全ての項目に該当するかたです。いま一度対象者のご確認をお願い致します。
①週の所定労働時間が20時間以上 ②所定内賃金が月額8万8千円以上 ③雇用期間が2か月を超える見込みがある ④学生ではない