コラム
「技能実習制度を廃止 新たな制度を創設する方針を決定」
「同一労働同一賃金の遵守徹底に向けた取り組み」等
人事労務関連レポート 2024年4月号
2024 年4 月9 日
政府は技能実習に代わる外国人材受け入れの新制度「育成就労」創設に向けた技能実習適正化法と入管難民法の改正案を閣議決定しました。新しい制度についての解説と、留意すべき事項をまとめました。
◆トピックス
- 技能実習制度を廃止 新たな制度を創設する方針を決定
- 「同一労働同一賃金」の遵守徹底に向けた取り組みの実施
- がん患者・経験者の仕事と治療の両立支援の推進について
- 障害者の法定雇用率引き上げと支援策の強化(令和6年4月より)
技能実習制度を廃止 新たな制度を創設する方針を決定
令和5年11月30日に法務大臣に提出された外国人の技能実習制度のあり方を検討する有識者会議での最終報告書が提出され、政府は3月15日、技能実習に代わる外国人材受け入れの新制度「育成就労」創設に向けた技能実習適正化法と入管難民法の改正案を閣議決定しました。
●最終報告書での三つの視点(ビジョン)と四つ方向性について
三つの視点(ビジョン)
- ① 外国人の人権が保護され、労働者としての権利性を高めること。
- ② 外国人がキャリアアップしつつ活躍できる分かりやすい仕組みを作ること。
- ③ 全ての人が安全安心に暮らすことができる外国人との共生社会の実現に資すること。
見直しの四つの方向性
- 1 技能実習制度を人材確保と人材育成を目的とする新たな制度とすること。
- 2 外国人材に我が国が選ばれるよう、技能・知識を段階的に向上させたうえでその結果を客観的に確認できる仕組みを設けることによりキャリアパスを明確化し、新たな制度から特定技能制度への円滑な移行を図ること。
- 3 人権保護の観点から、一定要件の下で本人意向の転籍を認めるとともに、監理団体等の要件厳格化や関係機関の役割の明確化等の措置を講じること。
- 4 日本語能力を段階的に向上させる仕組みの構築や受入れ環境整備の取り組みにより、共生社会の実現を目指すこと。
●技術移転による国際貢献から人材確保と人材育成を両立する制度に
技能実習制度 | 育成就労制度 | |
---|---|---|
制度の目的 | 人材育成による国際貢献 | 人材確保と人材育成 |
在留期間 | 最長5年 (特定技能への移行は限定的) |
基本3年 (同じ業務の特定技能に移行で延長可能) |
転籍の可否 | 原則不可 | 同一の受入期間での就労が1年超 |
一定の技能と日本語の能力で同じ分野に限り可能 | ||
日本語能力 | 要件なし | 就労開始前に基礎的能力が必要 |
特定技能 への移行 |
移行できない職種あり | 全て移行可能 (技能と日本語試験に合格が条件) |
家族帯同 | 試験合格→特定技能1号(不可)→2号(可能) |
※専門の知識が求められる特定技能制度へのつながりを重視し、受け入れる職種を介護や建設、農業などの分野に限定
また実習生の実質負担となっている仲介手数料について日本の受入企業と費用を分担する仕組みを導入
新しい制度では専門の知識が求められる特定技能制度へのつながりを重視し、受け入れ職種を介護や建設、農業などの分野に限定されているため、新制度で受入できない職種が発生する可能性があります。また政府は育成就労制度の創設にあたり激変緩和措置として3年間の移行期間を設ける予定となっており、新制度が始まる前に就労を開始した技能実習生については実習期間満了までの就労が認められています。
「同一労働同一賃金」の遵守徹底に向けた取り組みの実施
厚生労働省が、令和5年4月~11月に実施したパートタイム・有期雇用労働法への対応状況に関する実態調査の結果についてまとめた報告「同一労働同一賃金の遵守徹底に向けた取り組みの実施状況」によると、報告徴収を行った7983社のうち、不合理な待遇差の禁止を定めた同法第8条に抵触しているとして、1702社(調査企業の21.3%)を是正指導している。令和4年度1年間で是正指導した144社(同4.1%)を大幅に上回りました。
厚生労働省は、令和4年12月より、労働局が新たに労働基準監督署と連携し、同一労働同一賃金の遵守を徹底するとともに、働き方改革推進支援センターによるコンサルティング等も活用し、非正規雇用労働者の待遇改善を支援する取り組みを開始したことが結果につながったとみています。
~パートタイム・有期雇用労働法の報告徴収の例~
※諸手当・福利厚生の是正事例:手当・福利厚生の性質や支給・付与目的に照らし、事案ごとに不合理な待遇差かどうかを判断。不合理と認められれば是正指導を行っています。
通勤手当 | 精皆勤手当 | 食事手当 | 慶弔休暇 | |
---|---|---|---|---|
支給(付与)目的 | 通勤費用補填 | 特定の業務に従事する従業員の皆勤を推奨するため | 食事の補助 | 仕事から離れて慶弔行事に参加するため |
是正前の待遇 | 正社員には実費を支給、有期は1日あたり定額を支給 | 正社員のみに支給。パート・有期には支給していない | 正社員とフルタイム有期に支給、パートには支給していない | 正社員のみに付与、有期には付与されていない |
待遇差の理由 | 有期は近隣からの通勤者が多く、通勤費用があまりかからないため(実際は、遠方にも採用情報を掲載しており、自己負担している者あり) | 正社員はパート・有期よりも早く出勤し、その時間で正社員のみが行える特定の業務を行っているため(ただし、特定の業務に従事しない正社員にも同様に支給) | 1日一定時間以上勤務する者を対象としており、パートはその時間数に満たないから(昼食時間を挟んで勤務するパートあり) | 職務内容が異なるから(正社員:日定型、有期:定型業務)(なお、正社員と同じ週所定労働日数であり、勤務日振替は難しい) |
不合理な待遇差 と判断 |
労働契約に期間の定めがあるか否かによって異なるものではなく、費用負担が生じるものであるため | 特定の業務に従事していない正社員にも手当を支給していることから、パート・有期に支給しないことは雇用形態を理由とするものであるため | 食事の負担補助という目的に照らすと、食事をとる必要性については正社員も短時間パートも変わるものではなく、所定労働時間が短いことを理由とすることは、パートであることを理由とするため | 付与目的に照らせば、職務内容によって慶弔行事に参加するために労働から離れる機会を与える趣旨や時間が変わるものではないため |
是正指導の内容 | 正社員と同一基準での支給とするよう指導し是正 | 勤務日数・時間に応じて正社員と同一基準で支給するよう指導し是正 | 労働時間の途中に昼食のための休憩時間があるパートに対しても、正社員と同一の支給とするよう指導し是正 | 正社員と同一基準で付与するよう指導し是正 |
がん患者・経験者の仕事と治療の両立支援の推進について
<国が両立支援を推進する背景>
がん患者の3人に1人は、20代から60代でがんに罹患し、仕事を持ちながら通院している方が多くいます。また、がんと診断を受けて退職・廃業した人は就労者の19.8%、そのうち、初回治療までに退職・廃業した人は56.8%となっており、本人が診断時から治療と仕事の両立についても、気軽に相談できる体制づくりが求められます。そうした状況の中、近年の医療診断技術・治療方法の進歩により、職場環境を整備することで、離職を防止することのハードルが低くなりつつあります。
厚生労働省では、治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みを構築し、がんになっても生きがいを感じながら働き続けることができる社会づくりに取り組んでいます。
<誰もが当事者になりえる>
今後、定年の引上げが見込まれる中、働く高齢者も増えてくることから、職場の中で病気を抱えた労働者が増加傾向になる事が予想されます。自分は関係ないと思っている人が、いざ当事者になってみると、治療に対する不安以外に、自分自身のキャリアや人生設計、収入等に大きな影響がある事を認識し、ことの深刻さに気づくと考えられます。すべての人が自分事として考え、積極的に取り組む課題ととらえるよう意識変革が必要です。
<部下や同僚から相談されたら>
労働者本人(患者)と関係者間(職場、主治医)の連携が重要になります。留意点としては、①適切な個人情報の取扱い、②労働者本人(患者)への配慮のあり方、③組織として両立支援に取り組む、があります。
<今からすぐに始められること>
次の点については、企業ですぐに始められることです。
・社内の両立支援体制の確認(相談を受けた際の対応手順、関係者の役割、相談窓口等)
・各種支援制度の確認(時間単位の年次有給休暇、傷病・病気休暇、時差出勤・短時間勤務、在宅勤務)
・気軽に相談できる職場の雰囲気を醸成する
<各種サポート情報>
ポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」(*)には、関連情報がまとまっています。サイトには、次のような情報も掲載されています。必要に応じて参照する事をお勧めします。
・治療と仕事の両立を支援する公的機関
・両立支援に取り組む企業への助成金情報
・労働者(患者)の治療費を支援する制度
・労働者(患者)の生活を支援する制度
(*)https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/
障害者の法定雇用率引き上げと支援策の強化(令和6年4月より)
- 障害者の法定雇用率引き上げ
- 一部の週所定労働時間20時間未満の方の雇用率への算定の変更
- 障害者雇用のための事業主支援の強化
障害者雇用の促進等に関する法律施行規則等の改正により、障害者の法定雇用率が段階的に引き上げられます。
現行 | 令和6年4月~ | 令和8年7月~ | |
---|---|---|---|
法定雇用率 | 2.3% | 2.5% | 2.7% |
障害者雇用の 対象事業主 |
従業員43.5人以上 | 従業員40人以上 | 従業員37.5人以上 |
週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者及び重度知的障害者について、雇用率上、0.5カウントとして算定できるようになります。
① 雇入れや雇用継続に関する相談支援、助成金の新設
・雇入れや雇用継続を図るために必要な雇用管理に関する相談援助を原則無料で受けることができるようになります。
・加齢により職場への適応が難しくなった方に職務転換のための能力開発、業務の遂行に必要な設備・施設の設置を行った場合に助成が受けられます。
② 既存の障害者雇用関係の助成金を拡充
・障害者介助等助成金(障害者の雇用管理のための専門職や能力開発担当者の配置、介助者等の能力開発への経費助成の追加)や職場適応援助者助成金(助成単価や支給上限額、利用回数の改善等)の拡充、職場実習・見学の受入助成を新設します。