社労士

コラム

「2024年春闘 賃上げをめぐる動向」
「育児・介護休業法等の一部を改正する法律案作成」等
人事労務関連レポート 2024年3月号

2024 年3 月13 日

経団連は経労委報告の中で2023年は賃金引上げにおける起点・転換の年になり、30年ぶりの高い水準になったと発表した。継続的な賃上げを実現するために、生産性の向上、適切な価格転嫁などが重要とされる。今後注目されていく賃上げについて、必要な事を解説していく。

トピックス

2024年春闘 賃上げをめぐる動向

●経営者側の動向

 経団連は1月16日に2024年春闘の経営側の指針となる「経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」を発表しました。2023年は賃金引上げにおける起点・転換の年になり、経団連の調査によれば月例賃金引上げは大企業で13,362円・3.99%(前年比5,800円増、1.72ポイント増)、中小企業で8,012円・3.00%(同2,976円増、1.08ポイント増)と、いずれも約30年ぶりとなる高い水準を記録しましたが、2024年版経労委報告では物価高で実質賃金がマイナスで推移する中、物価上昇に負けない賃金引上げとするため昨年を上回る賃上げ率を目指すとしています。また、経労委報告では日本経済の最大の課題であるデフレからの完全脱却に向けて、「構造的な賃金引上げ」と「分厚い中間層」形成に貢献し、「成長と分配の好循環」の歯車を加速させることが極めて重要であるとしています。「構造的な賃金引上げ」の実現には生産性の改善・向上が不可欠であり、そのためには働き方改革の継続・深化、「DE&I(Diversity, Equity & Inclusion)」のさらなる推進、社内外における「円滑な労働移動」、労働力不足への対応、地方経済活性化を担う地元企業・中小企業の生産性の改善・向上が肝要であるとしており、我が国全体の賃金引上げの機運醸成につながる国内の労働者の7割近くを雇用している中小企業の構造的な賃金引上げには、その原資の確保が不可欠であり、労務費の増加分を含めた適正な価格転嫁・価格アップを社会全体で受け入れる意識改革が必要であるとしています。

●労働者側の動向

 一方で連合は経労委報告に対して評価できる点としては(1)四半世紀に及ぶデフレからの完全脱却をはかる年とする決意(2)中小企業の賃金引上げと適正な価格転嫁、相違点は(1)物価上昇に負けない賃金引上げの意味合い(2)持続的な賃上げと月例賃金へのこだわり(3)支払い能力偏重からの転換(4)成長に見合った分配の実現との見解を表明しています。昨年は賃上げ分を3%程度、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含む賃上げを5%程度とするとしていましたが、今年は昨年を上回る賃上げをめざし、賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上の賃上げを目安とするとしており、すべての働く人の先頭に立って「未来づくり春闘」を推進していくとしています。

●賃上げのカギは中小企業の動向次第

 生産性を向上させ賃金原資を確保していくことは王道ですが、中小企業にとっては非常に難しい課題でもあります。賃金を引き上げる原資確保には、人件費の増加分を適正に価格転嫁できるかどうかが重要な課題であり、経団連は適正な価格の取引をしていく意識改革が必要であるとしています。
 ここ数年来最低賃金が大幅に引き上げられ、中小企業にとって正規雇用及び非正規雇用者への賃金引き上げはかなり厳しい状況となっています。そのため中小企業における賃金引き上げの実行にあたっては、官民の知恵を絞り実現させていかなければなりません。政府は賃金引き上げを実施する支援策として助成金の支給や一定の賃金を引き上げた企業に対して税負担の軽減策を実施しています。無理のない賃金引き上げのために、中小零細事業者にとって税よりも負担の大きい社会保険料の負担を軽減させる等、大胆で即効性のある施策の導入も考えられます。今春闘は中小企業の賃上げの動向が注目されます。

育児・介護休業法等の一部を改正する法律案作成へ

 厚生労働省の労働政策審議会は、2024年1月30日に諮問された育児・介護休業法の一部を改正する法律案要綱について、同日、厚生労働大臣におおむね妥当と答申しました。
 厚生労働省は、これを受けて法律案を作成し、今通常国会に提出する予定としています。
 育児・介護休業法については、以下のような改正案が盛り込まれており、2025年4月以降に施行される予定となっています。

●看護休暇、小3まで延長 育児と介護、両立支援

 子どもが病気になった際、年5日まで利用できる看護休暇の取得期間を現行の「小学校入学前まで」から「小学校3年生まで」に延ばします。
 看護休暇は子ども本人の病気ではなく、学級閉鎖や、卒園式・入学式などの行事でも利用できるようにします。3歳から小学校入学前までの子どもを育てる親には、在宅でのテレワークや時差出勤、短時間勤務といった働き方の選択肢を二つ以上設けて選べるようにします。
 家族の介護を理由にした離職を減らすため、家族を介護する必要がある従業員に対し、介護休業など仕事との両立支援制度を従業員に周知することも企業に義務付けます。家族の介護が必要になったとの相談を受けた場合は育児休業と同様に制度利用の意向を個別に確認します。

●残業免除拡大 2025年4月から小学校入学前までに

 育児をしながら働く人が残業の免除を申請できる期間について、3歳に満たない子を養育する労働者から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者へと拡大します。子育てと仕事の両立支援を強化する狙いです。

育児休業給付金 実質手取り10割の給付 案提示

 厚生労働省は、両親共に育休を取った場合、育児休業給付を手取りの実質8割から10割へ拡充する方針に関して、14日以上の育休取得を条件とする案を提示しました。給付日数は最大28日間とします。育休取得は女性に偏っており、男性の取得率向上を狙います。
 厚生労働省は育休給付の拡充を少子化対策の一環として掲げており、2025年度からの開始を目指しています。
 育休明けに時短勤務をする労働者向けの給付制度を新たに設け、育児中の世帯の経済的負担軽減を図る支援策についても検討。厚生労働省は、対象となる時短勤務の労働時間や日数に、制限を設けない方針を示しました。

来年度の協会けんぽの健康保険料率 東京は9.98%

 2024年度の協会けんぽ東京支部の健康保険料率は、0.02%引き下げられて10.00%から9.98%になり、介護保険料率は全国一律で1.82%から1.60%に引下げになりました。2024年3月分(4月納付分)の保険料額から適用されますのでご注意ください。

外国人労働者、200万人を突破

 厚生労働省は2024年1月26日、外国人労働者数が2023年10月末時点で204万8,675人だったと発表しました。前年比で22万5,950人増加し、届出が義務化された2007年以降、過去最高を更新、対前年増加率は12.4%と前年の5.5%から6.9ポイント上昇しました。
 外国人労働者数を国別にみると、ベトナムが最も多く51万8,364人で全体の25.3%を占め、次いで中国が39万7,918人(全体の19.4%)、フィリピンが22万6,846人(全体の11.1%)の順となっています。
 外国人労働者数の対前年増加率を在留資格別にみると、「専門的・技術的分野の在留資格」が最も伸び24.2%増の59万5,904人でした。なかでも「専門的・技術的分野の在留資格」のうち、「特定技能」の増加は顕著であり、対前年増加率は75.2%増の13万8,518人となっています。

●「特定技能」とは?

 「特定技能」とは、特定産業分野(人材を確保することが困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野として法務省令で定めるものをいう)において、一定の専門性・技能を有する外国人に対して就労活動を認める在留資格であり、人手不足の深刻化を背景に2019年4月1日に創設されました。「特定技能」の在留資格は、「相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務」を対象とする「特定技能1号」と「熟練した技能を要する業務」を対象とする「特定技能2号」に分けられます。

●厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(2023年10月末時点)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37084.html

●出入国在留管理庁 外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組
https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf

●東京労働局職業安定部 外国人の雇用に関するQ&A(2023年度発行)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001469262.pdf

技能実習制度を廃止 新たな制度を創設へ

 2022年12月から16回にわたり開催された技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議での議論を踏まえた最終報告書が、2023年11月30日、関係閣僚会議の共同議長である法務大臣に提出されました。
 最終報告書では、制度の見直しに当たって国際的にも理解が得られ、我が国が外国人材に選ばれる国になるよう三つの視点(ビジョン)と四つ方向性が示され、特に技能実習制度については、現行の技能実習制度を発展的に解消し、「人材確保と人材育成」を目的とする新たな制度を創設することなどが提言されています。

●技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議
https://www.moj.go.jp/isa/content/001407013.pdf

2024年1月から両立支援等助成金に「育休中等業務代行支援サービス」を新設しました

 厚生労働省は2024年1月から両立支援等助成金に「育休中等業務代替支援コース」を新設し、育児休業や育児短時間勤務を取得・利用する方の業務を代替する体制整備に対する支援を強化します。
 支給対象としては以下のものがあります。

(1)手当支給等(中小企業事業主が周囲の労働者に手当等を支払って代替させた場合)

 育児休業を取得した労働者や育児のための短時間勤務制度を利用した労働者が行っていた業務について、周囲の労働者に手当等を支払った上で代替させた場合に、支払った手当額に応じた額を支給します。

(2)新規雇用(代替する労働者を新規雇用)

 育児休業を取得した労働者が行っていた業務を代替する労働者を新規に雇い入れた場合(新規の派遣受入れを含む)に、業務を代替した期間の長短に応じた額を支給します。

 ≪既存制度との併用≫
 育休中等業務代替支援コースは、同一の育児休業について、既存の両立支援等助成金「出生時両立支援コース(第1種)」及び「育児休業等支援コース(新型コロナウィルス感染症対応特例以外)」と併用可能です。
 両立支援等助成金につきましては下記URLをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/001082091.pdf

介護保険料 月6,276円 当初の3倍超

 厚生労働省は、40~64歳の人が負担する介護保険料が、2024年度は平均で1人当たり月6,276円になるとの推計を公表しました。この金額は2023年度から60円増加して過去最高を更新し、制度開始当初の2000年度(月2,075円)の3倍を上回ります。高齢化によってサービスの利用が増え、介護費用が膨らんだことが影響し、負担額が増加したと見られています。

 40~64歳の保険料は毎年度改定し、65歳以上の保険料は自治体ごとに3年に1度見直します。2021~2023年度の全国平均は月6,014円で、低所得者を除き公費負担はありません。2024年度以降の全国平均額は5月ごろ発表の見通しです。