社労士

コラム

「産業医による就業禁止・休職命令」は適法、東京地裁判定等
人事労務関連レポート 2024年2月号

2024 年2 月9 日

産業医の医学的判断に対する判例、雇用保険の適用範囲拡大など、社労士事務所の見解をお伝えします。

トピックス

産業医による休職措置・復職不可の判断を肯定

 病名診断がなくとも、会社の出した就業禁止・休職命令は適法であり、期間満了退職は有効となる旨の判決が東京地裁で出されました。労働者は入社以来、周囲の人から嫌がらせを受けていると妄想し、朝礼で会社を批判するなどの不適切な言動を繰り返していました。会社は産業医の判断に基づいて、労働者に就業禁止と休職を命じました。その後労働者は精神科を受診し、「病名・診断なし」という診断書を会社に提出しましたが、就業禁止は解除されませんでした。
 その後会社は休職措置をとり、休職満了前に産業医の検診を指示しましたが応じなかったため、休職満了による退職を通知したところ、労働者が違法な措置として裁判を起こしました。
 同地裁は、労働者が支離滅裂なことを話したり、朝礼で突然会社批判の演説を始めるなどの事情から、産業医が就労不可と医学的に判断していたと指摘。産業医判断を踏まえた会社の命令は適法であり、自然退職も有効としました。なお、精神科医による診断書は、労働者の職場での言動などが伝わっていないなかで作成されたものであり、適切な情報提供がない状態での判断であったと評価し、主張を退けています。(東京地判 令5・11・27)

民間企業で働く障害者の法定雇用率が初めて達成されました

 厚生労働省は令和5年12月22日に、同年6月1日時点の民間企業で働く障害者雇用状況の集計結果を公表しました。障害者の雇用が義務付けられている企業の従業員に占める障害者の割合は2.33%となっており、初めて法定雇用率(2.3%)を超えました。企業規模別にみると、43.5~100人未満、100~300人未満、300~500人未満、500~1,000人未満、1,000人以上の全ての企業規模で前年より増加し、民間企業に雇用されている障害者の総数は20年連続で過去最高を記録しました。

厚生労働省 令和5年 障害者雇用状況の集計結果
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001180701.pdf

 なお、民間企業の障害者法定雇用率は今後、令和6年4月に2.5%、令和8年7月には2.7%へと段階的に引き上げられることが決まっています。またそれだけではなく、民間企業を含む事業者は事業を行うにあたってこれまでは努力義務とされていた合理的配慮の提供が令和6年4月1日から義務化されることになっており、多様な人が共生できるようより一層の取り組みが求められることになります。

●合理的配慮の提供とは
 日常において障害のない人は簡単に利用できるものであっても障害のある人にとっては利用が難しく、結果として障害のある人の活動が制限されてしまう場合に、障害者からの要望によりその制限の妨げとなるものへの対処を行うことです。

■合理的配慮の具体例
・車いすの方が飲食店で車いすのままの着席を希望された時に、着席するスペースを確保すること
・文字の読み書きに時間がかかる方が、セミナー参加時にホワイトボードの内容を書き写すことが困難な時、スマートフォン等での撮影を許可すること

 合理的配慮提供の義務化は事業所に過度な負担を強いることは求めていませんが、前例がない・特別扱いはできないといった理由で対応を断ることは合理的配慮提供の義務違反となる可能性があるため、注意が必要です。内閣府から公開されているリーフレット等を参考に事業所ごとに判断していくことが必要です。
内閣府 合理的配慮提供の義務化について
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/pdf/gouriteki_hairyo2/print.pdf

雇用保険の適用拡大 500万人が新規加入へ 失業・出産の安全網拡充

 雇用保険は一定の保険料を支払うことで失業した時や育児休業を取得した時などに給付金を受け取れますが、加入要件の一つとしている週の労働時間について、現在は週の所定労働時間が20時間以上に限っています。これについて厚生労働省は審議会で雇用保険の適用対象を、週の所定労働時間が10時間以上の人にまで拡大する方針を示しました。
 働き方が多様化する中でパートやアルバイトなど短時間勤務で働く人も、失業給付や育休の給付金などを受け取れる対象が広がることになり、対象者は最大でおよそ500万人増える見通しです。この要件緩和でこうした支援を短時間労働者も受けられるようになりますが、企業や個人の保険料負担は増えることになります。
 厚生労働省はこの適用拡大を2028年度中に始める予定で、来年の通常国会で関連法案を提出する方針です。

健康保険組合へも住所届出が必須になります

 健康保険制度では、労働者が被保険者の資格を取得した際、適用事業所の事業主は、被保険者の資格の取得に関する事項を保険者等に届け出なければなりません。
 従来から、この資格取得届には、原則被保険者の住所を記載する必要がありましたが、健康保険組合が管掌する健康保険の被保険者であって、当該健康保険組合が当該被保険者の住所に係る情報を求めないときは、被保険者の住所は記載不要とされていました。
 しかし厚生労働省は健康保険法施行規則を一部改正(令和5年12月8日施行)し、健康保険組合についても、被保険者資格取得届への被保険者の住所の記載を必須としました。
 これは、保険者が新規資格取得者の住所情報を把握し、正確かつ迅速な資格情報の登録を可能にすることが目的です。
※被扶養者については従来から被扶養者異動届に住所を記載することが義務づけられています。
 この「住所」は、個人番号の正確性の確認に用いますので、住民票に記載の住所を記載する必要があります。
※国内に住所を有しない方については、その旨を住所欄に記載する取扱いとなります。
 以上のとおり、「住民票記載の住所」は必須となりますが、健康保険組合によっては、郵送物のために別途、被保険者等の「居所」の住所提出を求めるケースも想定されます。

マイナ保険証へ移行 現行の保険証は12月で廃止に

 政府は現行保険証の発行を令和6年12月2日に原則として廃止することを決定しました。マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」に移行して、医療の効率化を図る方針です。
 廃止後も猶予期間として現行の保険証が利用できるほか、「マイナ保険証」を持っていない人には代わりとなる「資格確認書」が発行されます。有効期間は最長5年まで。無償で発行され、申請がなくても届く仕組みです。
 マイナ保険証利用のメリットとして、顔認証による受付の自動化、限度額適用認定証の提示免除、マイナポータルに基づく特定健診情報・薬剤情報の活用(初診時問診の簡略化)などがあります。
 医療機関がマイナ保険証を読み取る機器の導入率は、全医療機関・薬局の89.6%(令和5年12月24日時点)まで広がっています。一方で、マイナ保険証の利用率は昨年11月の時点で4.33%にとどまります。現行保険証の廃止までに、円滑なマイナ保険証への移行が課題となります。

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大

 現在、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で週20時間以上働く短時間労働者は、厚生年金保険・健康保険(社会保険)の加入対象となっていますが、短時間労働者の加入要件がさらに拡大され、令和6年10月から厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化されます。

●加入対象(短時間労働者)の要件●
 被保険者数51人以上の企業等(特定適用事業所(※))に勤務する以下の条件の全てに該当する方が短時間労働者として加入対象となります。
 ※同一の法人番号を有する適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者数の総数が、常時51人以上である事業所となります。

週の所定労働時間が20時間以上
月額賃金が8.8万円以上
2か月を超える雇用の見込みがある
学生でない

 企業様におかれましては、社内加入対象者の把握と法律改正の内容が確実に伝わるよう社内イントラやメール等の活用、説明会や個人面談の実施を通した社内周知が求められます。
詳しくは、以下日本年金機構のホームページをご覧ください。
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.html