社労士

コラム

「時間外労働時間上限規制開始」等
人事労務関連レポート 2024年1月号

2024 年1 月16 日

「2024年問題」と総称される、時間外労働時間の上限規制猶予期間終了について、改めて範囲の振り返りなど。社労士事務所の見解をお伝えします。

トピックス

適用猶予事業・業務への時間外労働時間上限規制開始
~いよいよ迫る2024年問題~

2024年問題とは

 2024年においての労働法令関連での大きな動きは、なんといっても、今まで適用が猶予されてきた事業・業務への時間外労働時間の上限規制の適用開始でしょう。その影響は社会や経済へ大きなインパクトを与えることになると予想されるため、「2024年問題」と総称され、さまざまな論議を呼びメディアでも多く取り上げられています。
 2024年3月まで時間外労働時間の上限規制が猶予されてきた事業・業務とは、以下4つです。
 (1)工作物の建設の事業
 (2)自動車運転の業務
 (3)医業に従事する医師
 (4)鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業

 いわゆる「働き方改革」の一環として労働基準法が改正された際に、時間外労働時間の上限規制が規定されることとなりました。2019年4月から大企業、2020年4月から中小企業に適用され、来年の適用猶予事業・業務の猶予期間が終了することで、ほぼすべての事業・業務に規制が適用されることとなります(※)。
 ※新技術・新商品等の研究開発業務については引き続き適用除外となっています。
上記(1)~(3)の2024年4月以降の時間外労働規制の内容は下表のとおりです。

《時間外労働の上限》

適用事業・業務 適用開始時期 主な内容
大企業(下記事業・業務以外) 2019年4月 ●36協定にて特別条項を定めた場合
①時間外労働が月45時間、年720時間以内
②時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
③時間外労働と休日労働の合計について2~6ヶ月平均80時間以内
④時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6回まで
 中小企業(下記事業・業務以外) 2020年4月
 建設の事業 2024年4月 ●36協定にて特別条項を定めた場合、上記①~④と同様
※ただし、災害時における復旧及び復興の事業に限り②③は引き続き適用除外とする 
自動車運転の業務 2024年4月 ●36協定にて特別条項を定めた場合
①時間外労働が年960時間以内
※上記②~④は適用除外
※1日の拘束時間、1ヶ月の拘束時間等について別途定めあり
 医業に従事する医師 2024年4月 ●36協定にて特別条項を定めた場合
①時間外労働が年960時間以内
※ただし、諸事情により止むを得ず超えてしまう場合は都道府県の指定により、年1860時間にできる
※医師の健康確保措置の追加をおこなう
※上記②~④は適用除外

 建設の事業と自動車運転の業務については、旧労基法でも36協定特別条項の限度基準の適用除外となっており、他の業種・事業とは異なる取扱いとなっていました。その理由は、これらの事業は、業務内容や業態の特殊性から他業種と比較して著しく勤務時間が長く勤務シフトも不規則であり、休日も取りにくい実態があるためでした。また、医師についても著しい長時間勤務を前提とした勤務体制が確立しており、労働時間の上限規制は非常に難しい状況です。加えてこれらの事業・業務は社会のインフラや安全に欠かせない役割を担っており、労働力が不足すると社会・経済に大きな混乱が生じる可能性があるため、労働者の労働環境よりも社会基盤の維持を優先せざるを得ないという面があったと思われます。しかし、改正労基法は、これらの事業・業務にも労働時間の上限規制を設けました。これは、「過労死ゼロ」を実現するとともに誰もが働きやすい社会に変えていくためには、「長時間労働の是正が喫緊の課題である」という点が法改正の趣旨であるからです。つまり、例外なくすべての労働者の健康と働き方の改善を第一に考え、業界や事業主は、業務・業態の特殊性を言い訳にせず現状を改善するための取り組みを強力に推進することを求めたということです。上限時間は一般の事業よりはかなり長く、引き続き適用除外されている項目もありますが、それでも具体的に上限時間を定められたのは大きな一歩でしょう。

各事業・業務の規制内容詳細及び取り組み状況

◆建設の事業

 建設業では深刻な担い手不足もあり、国土交通省が「建設業働き方加速化プログラム」を策定し、5年の猶予期間を待たずに少しでも早く長時間労働の是正に取り組むよう業界に働きかけました。これを受けて2017年から日本建設業連合会(日建連)が取り組みを開始し、2022年3月には自主規制目標の前倒しを含む「時間外労働削減ガイドライン」を発出するなど、官民合わせて推進の強化を図ってきました。
 しかしながら、日建連の会員企業の従業員の時間外労働時間の調査結果を見ると、2022年時点で非管理職の22.7%もの割合が適用後の上限時間(720時間)を超えている状況でした。この点から労働集約的な作業や重層下請構造といった問題が解決しない中で2024年の適用開始時期の目標達成は厳しいと予想されます。

◆自動車運転の業務

 2024年問題は特に物流・運送業界への影響が大きいと言われています。業界の取り組みとしては全日本トラック協会(全ト協)が働き方改革実現に向けたアクションプランを策定し、さまざまな取り組みを行っています。例えば、荷主に対して荷待ち時間の削減及び作業削減などへの協力を依頼し、一方で消費者には再配達を減らす配慮や運送回数の削減を求めるなど、発注者も含めた関係者と連携して作業効率の向上を目指しています。
 しかし、2023年3月に発表されたモニタリング調査によれば、時間外労働時間が適用後の上限時間である960時間を超えるトラック運転手は2021年10月に27.1%でしたが2022年10月には29.1%とむしろ微増となりました。2022年度末は25%、2023年度末は20%、2024年度末に10%という全ト協の目標からは遠のいた印象です。

◆医師

 医師の時間外労働時間は原則年960時間ですが、下表のような事情により時間外・休日労働時間が年960時間をやむを得ず超えてしまう場合には、都道府県が医療機関の指定を行うことで、上限1860時間とできる枠組みが設けられました。他の業種と比べても非常に長い時間外労働が許されることになるため、医師の健康を確実に確保するための追加的健康確保措置が規定されています。
 医師の長時間労働は長く問題となってきましたが、現実には、地域医療の確保や、救急医療の必要性、医師の人材育成などを犠牲にすることはできず、医療界が検討した結果、大幅に長い時間外上限時間となりました。ただし1860時間はあくまで暫定措置であり、10年後の2036年度までには原則の960時間にする目標が掲げられています。今後少子高齢化により医師不足と高齢者増になる中、医師の長時間労働解消は、労働者としての医師の健康確保のみならず、医療提供体制の継続のためにも喫緊かつ重要な課題となっています。

医師の時間外労働時間上限

応援手当支給へ助成 育休取得時で最大125万円

 令和6年1月1日に両立支援等助成金に新コース「育休中業務代替支援コース」が追加される見込みが立ちました。両立支援等助成金は職業生活と家庭生活が両立できる職場環境づくりのために厚生労働省主導で実施されている制度です。
 主に中小事業主を対象として、今までは「出生時両立支援コース」(男性育休者が生じた中小企業を対象)や「育児休業等支援コース」(育休復帰支援プランを作成し労働者の円滑な育休取得、職場復帰に取り込んだ中小企業を対象)がありました。
 新コースでも同様に中小企業を対象としていて、主に育児休業取得者の業務を代替する労働者に応援手当(業務代替手当)などを支給した場合や代替要員の新規雇用(派遣含む)の実施を想定しています。
 育休取得者1人につき、制度利用者1人当たり、業務体制整備の経費(原則5万円)のほか、応援手当額の4分の3(最大120万円)を助成することとなり、合算すると最大125万円となり得ます。このように育児休業に対して中小事業主の負担を少なくすることで、さらなる育児休業取得の後押しがなされています。

令和6年4月1日施行 裁量労働制について

 令和6年4月1日に予定されている裁量労働制の法改正まであとわずかとなりました。改めて改正点と注意のポイントについてお知らせいたします。

~裁量労働制とは~
・業務の性質上、本人にその裁量(手段や時間配分など)を大幅に委ねる必要がある業務
・専門業務型(20種)と企画業務型の2種類に区別
・柔軟で多様な働き方を可能とする一方、問題点として長時間労働を助長しやすい

~改正のポイント~

改正のポイント

~裁量労働制の導入及び継続に関する注意ポイント~
裁量労働制が長時間労働を招く傾向があることから、
① 労働時間の状況を把握していない
② 労使協定に定められた健康確保措置を実施していない
③ 努力規定の適用除外をする仕組みが協定に定められていない
など、安全配慮義務に関する部分での指摘をされた例があります。導入、継続に当たり、十分な検討と確認が必要な事項と言えます。

労災認定の基準見直し-「過労死ライン未満」の残業でも労災認定-

 令和2年8月に食品製造業の工場でパートとして働いていた東京都の男性=当時(71)が心筋梗塞で死亡したことに対し、青梅労働基準監督署は発症前1カ月の残業が100時間とする過労死ラインに達しないことなどを理由に、労災を認めていませんでした。
 しかし、令和5年11月17日付で国の労働保険審査会は労働基準監督署の判断を覆し、労働災害にあたると裁決しました。理由として、令和3年9月に厚生労働省は労災認定の基準を見直しし、過労死ラインに達しなくても発症直前から1週間以上の短期間に過重な業務が集中した場合なども認定すると明記していた点や、暑さ対策が不十分な作業環境といった労働時間以外の負荷も考慮されています。