コラム
企業内研修を効果的に行うための「仕掛け」づくり
~社員の自律的学習を促進する人材育成施策~
2023 年12 月8 日

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット
HR第1部 コンサルタント小口 智香
新卒でメーカーに入社し、人事部にて給与厚生業務・労務を担当。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。
企業内研修の効果は十分に得られているか
企業の人材育成の方法には様々あるが、従来から階層別研修のような企業内研修の仕組みを設けている企業は多いだろう。ここでは、「研修の効果は十分に得られているか?」という観点から、企業内研修の在り方を見つめ直してみたい。例えば、「社員は過去の研修の内容をどの程度覚えているか?」「研修を通して、または研修がきっかけとなって社員が本当に成長したか?」「研修によって社員の思考や行動が実際に変化しているか?」と考えてみて、十分ではないと感じられる部分があるのであれば、企業内研修の効果を高める余地がまだあるといえるだろう。
企業内研修を効果的に実施するためには、どのようなポイントがあるだろうか。ここでは一つのアイデアとして、「研修外の学習を促進する研修」にすることを取り上げたい。
「研修外の学習を促進する研修」とは
例えば、22歳で企業に入社した社員が60歳まで同じ企業に勤めるとして、その期間のうち企業内研修の時間がどの程度を占めているかと考えると、それはほんの僅かな時間だけでしかない。この限られた時間の中で、業務に必要となるスキル・知識の全てを十分に取り扱うことは現実的ではない。とすると、企業内研修の内容を検討する際は、研修の中だけで学習を完結させるのではなく、「研修外の時間も自発的に学ぶような仕掛けを、研修の中に含めておく」という考え方が有用である。
【図表1】社員が過ごす時間と学習の関係性イメージ
では、「研修外の時間も自発的に学ぶような仕掛け」には、具体的にはどのようなものがあるだろうか。様々考えられるが、まず研修の内容自体に工夫する方法として、「学ぶべき内容の面白さが伝わるようにする」「自身の業務に役立つことがわかるようにする」「多くの人が、一人で学ぶ際にはつまずきやすい内容を特に丁寧に扱う」などが考えられる。また、研修後の学習を支援する方法として、研修内で学んだ事項の復習的内容や発展的内容を、研修外でも学ぶことのできるツールや機会を提供することが有用である。例えば、通信教育・ビジネススキルに関する動画サービスなどの自己啓発ツールの提供や、関連する外部研修・資格の紹介などが考えられる。
【図表2】社員の自発的な学びを促進する仕掛けの例
この方法は、企業内研修と自己啓発支援の仕組みに内容面の繋がりを持たせることで、社員が成長することをより促進するという効果が期待できる。人材育成施策の全体を設計する際は、このように各施策間に繋がりを持たせることで、各施策の効果が一層得られるようになる。
補足として、「学習」という行為における主体はあくまでも学習者であり、教える者は学習者の学習をサポートしているに過ぎない。企業内人材育成施策について検討を行う際には、「社員をどのように育てるか」という観点のみならず、「社員にどのように学んでもらうか」という観点も重要である。
まとめ
企業内研修には、金銭的な費用もかかり、また受講者に一時的に業務を離れてもらわなければならないという点で、受講者本人のみならず現場にも負担がかかるものである。せっかく行う研修であるのだから、実施するにあたっては、その効果をより大きくできるような「仕掛け」を作ることが重要である。
参考文献
- 中原 淳 編著「企業内人材育成入門」(ダイヤモンド社、2006年)
- 眞﨑 大輔 監修「人材育成ハンドブック 新版」(ダイヤモンド社、2019年)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部 組織人事ビジネスユニット
HR第1部 コンサルタント小口 智香(おぐち ちか)
-
経歴
新卒でメーカーに入社し、人事部にて給与厚生業務・労務を担当。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。 -
プロジェクト実績
人事制度改定支援
人材育成ポリシー策定・人材育成体系構築支援
シニア人材活躍施策支援
人事評価者研修講師 等 -
専門領域
組織人事領域全般。特に基幹人事制度設計・人材育成体系構築。