11 人事給与コンサルタントレポート 男女間賃金格差の分析のススメ~管理職比率や平均勤続年数だけで賃金格差を説明しうるか?~ | 2023年| 人事コラム
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コラム

男女間賃金格差の分析のススメ
~管理職比率や平均勤続年数だけで賃金格差を説明しうるか?~

2023 年10 月12 日

納見 一輝(のうみ かずき)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット 兼 女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室

HR第1部 コンサルタント納見 一輝

■専門領域
組織人事領域全般。現在は、特に「役員マネジメント体系構築支援」
「女性活躍・ダイバーシティ&インクルージョン推進支援」に注力。

“男女間で賃金格差が生じている原因は、女性管理職比率が低いことと、女性の平均勤続年数が短いことにあります。そのため、賃金格差の解消に向けて、女性管理職比率および女性の平均勤続年数の引き上げに取り組みます。”

 女性版骨太の方針2022[ⅰ]の一丁目一番地に、女性活躍における積年の課題である「男女間賃金格差への対応」が掲げられた。その一環として、男女間賃金格差の開示が一定の企業において義務化[ii]され、該当企業による開示が順次進められている。
 冒頭の文章は、男女間で賃金格差が生じている企業が、賃金格差の理由としてよく記載している内容を一般化したものである。違和感を覚えるような内容では決してない。本コラムをお読みいただいている方の多くもそう思われただろう。ただ、次のような疑問を持たれた方もいたのではないだろうか。

 「女性管理職比率が5割になり、平均勤続年数の男女差がなくなれば、賃金格差もなくなるのだろうか?」

 もちろん女性管理職比率や平均勤続年数が賃金格差に与える影響が大きいことについては疑いの余地がない。ただ、冒頭の文章は、「役職や勤続年数等の条件が同じであれば、男女間の賃金格差はない」という前提の下で初めて成り立つものであろう。はたして、それはしっかりと検証されたうえで置かれた前提だろうか。
 本コラムでは、厚生労働省の統計調査のデータを基に、「役職や勤続年数等の条件が同じであれば、男女間の賃金格差はない」という前提が、一般的に成り立つと言えるか否かを検証する。


使用するデータ
データソース 令和4年賃金構造基本統計調査[iii]に関する統計表
企業の条件 企業規模 :企業規模計(10人以上)
産業     :産業計
労働者の条件 雇用形態 :雇用期間の定め無し
就業形態 :一般労働者
学歴     :大学卒
年齢     :20~59歳  ※年齢計も20~59歳に調整
賃金の種類 所定内給与額


データの処理方法
男女間賃金格差の算出 各区分における男性の所定内給与額の平均を100とした場合の、女性の所定内給与額の平均の値を整数で表示(小数点以下は四捨五入)
グラフの出所 全てのグラフについて、上記データソースを基に、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社にて作成


男女間賃金格差の検証結果
 対象データ全体の男女間賃金格差を見ると“75”であった。つまり、女性の賃金水準は男性の75%の水準、ということである。
 この後、役職や勤続年数等の条件を揃えることで、男女間賃金格差が解消されるか否かを検証していく。

検証1. 役職を揃えた場合の賃金格差
 役職を揃えた場合、各役職は、全体比で賃金格差が大幅に(特に上位の役職ほど)小さくなった。一方、非役職は、各役職ほど小さくならず、賃金格差が解消されたとは言えない結果となった。

【図表1】役職別の賃金格差

役職別の賃金格差


検証2. 勤続年数を揃えた場合の賃金格差(非役職)
 非役職について勤続年数を揃えた場合、勤続年数が短い区分では勤続年数計よりも賃金格差が小さくなった。一方で、勤続年数が長い区分では勤続年数計と同程度にとどまり、賃金格差が解消されたとは言えない結果となった。

【図表2】非役職の勤続年数別の賃金格差

非役職の勤続年数別の賃金格差


検証3. キャリアパスを揃えた場合の賃金格差(非役職)
 非役職で賃金格差が生じている原因をより深く探るために、男女でキャリアパスを揃えて賃金を比較し、賃金格差がどのタイミングでどの程度生じるか検証する。検証には、22歳で新卒入社して非役職のまま60歳で定年するキャリアパスを使用する。
 検証結果をまとめた図表3を見ると、入社1~3年目に該当する区分(年齢 :22~24歳、勤続年数 :0~2年)では賃金格差がほとんど生じていない。ただし、その後年齢を重ねるにつれて賃金格差が拡大し、42~44歳に該当する区分で最大となる。以降は定年まで緩やかに縮小していく。おそらく、同一企業内で「昇給」における男女間格差が生じており、それが年齢とともに累積しているのだろう。アンコンシャスバイアスやいわゆるマミートラックによって女性の役割が限定され、評価が高くならず、昇格が遅れてしまうことが主な原因と考えられる。

【図表3】非役職の年齢別・勤続年数別の賃金格差(22歳新卒入社のキャリアパス)

非役職の年齢別・勤続年数別の賃金格差(22歳新卒入社のキャリアパス)


検証4. 年齢を揃えた場合の中途入社直後の賃金格差(非役職)
 検証3とは違う視点からも非役職の賃金格差の原因を探りたい。検証4では、中途入社直後(勤続年数0年)の賃金を、男女で年齢を揃えて比較し、転職時に賃金格差が生じるか検証する。
 検証結果をまとめた図表4を見ると、中途入社時の年齢が高いほど賃金格差が大きくなる傾向にあることがわかる。
 検証3で挙げたようなアンコンシャスバイアスやマミートラックが、企業内のみならず社会全体にも生じているため、年齢による賃金格差の累積が転職時にも影響しているものと考えられる。

【図表4】非役職の中途入社直後の賃金格差

非役職の中途入社直後の賃金格差

まとめ

 厚生労働省の統計調査のデータを基に、「役職や勤続年数等の条件が同じであれば、男女間の賃金格差はない」という前提が、一般的に成り立つと言えるか否かを検証した。今回はその検証結果から、「その前提は一般的とまでは言えない」と結論づける。
 検証1と検証2では、女性管理職比率や女性の勤続年数といった指標を改善するだけでは、賃金格差は解消されない懸念があることが示唆された。
 また、検証3と検証4では、数値には現れにくい要素が賃金格差の原因となっている可能性が示唆された。
 男女間賃金格差の解消に向けて、女性管理職比率や女性の勤続年数の向上が重要であることは言うまでもない。ただし、短絡的に数字に表れやすい指標に賃金格差の原因を求めてしまうと、その他の原因を取り逃がすことになりかねない。女性管理職比率などの指標とは別に、男女間賃金格差の開示が求められているそもそもの背景を踏まえ、数字には表れにくい原因(アンコンシャスバイアス等)があるのではないか、といった視点を持って、自社の賃金格差の算出・開示について対応したい。
 今後、自社の男女間賃金格差を算出される際には、単なる「算出」にとどまるのではなく、男女間で様々な条件を揃えたうえで賃金を比較し、賃金格差の原因をより深く「分析」されることをおすすめする。そうすることで、自社の女性活躍推進に向けた課題が、賃金格差の根深い原因として浮き彫りになるはずである。

注釈

  1. 「女性版骨太の方針2022(本文)」(2022年6月3日、厚生労働省)
    https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/pdf/jyuten2022_honbun.pdf
  2. 具体的には、2022年7月に女性活躍推進法に基づく省令が改正され、常用労働者数301人以上の事業主について、男女間賃金格差の把握・公表が義務化された。さらに、2023年1月には企業内容等の開示に関する内閣府令が改正され、有価証券報告書への記載・開示についても義務化された。
  3. 「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(厚生労働省)
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット 兼 女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室

HR第1部 コンサルタント納見 一輝(のうみ かずき)

  • 経歴

    新卒で三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社。
    入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

  • プロジェクト実績

    人事制度改定支援(再雇用制度改定、定年延長を含む)
    役員マネジメント体系構築支援(役員報酬改定、スキルマトリックス策定等)
    女性活躍・ダイバーシティ&インクルージョン推進支援
    人的資本経営・開示支援
    人材育成支援
    経営理念の再構築支援

  • 専門領域

    組織人事領域全般。現在は、特に「役員マネジメント体系構築支援」「女性活躍・ダイバーシティ&インクルージョン推進支援」に注力。