社労士

コラム

「労働条件明示のルール変更等」
「人的資本に関する開示状況」等
人事労務関連レポート2023年12月号

2023 年12 月8 日

人事部が留意すべき労働条件明示のルール変更など、新しい働き方に対応していくために必要な事。社労士事務所の見解をお伝えします。

トピックス

10月12日新通達 労働条件明示のルール変更等について

 「労働基準法施行規則」と「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」の改正に伴い、令和6年4月1日から労働条件明示事項等が変更になります。変更時期が近づきつつあるため改めてお知らせ致します。

  1. 新しく追加される明示事項と明示タイミング
  2. 新しく追加される明示事項と明示タイミング

  3. 新しく追加される明示事項について
  4. 『就業場所・業務の変更の範囲』
     変更の範囲とは、今後の見込みも含め、労働契約期間中における就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲をいいます。労働契約期間中における変更範囲の明示のため、有期労働契約を更新した後の契約期間中に命じる可能性がある就業の場所や業務についてまでの明示を求めているものではありません。
     また、就業場所の変更の範囲には一時的にテレワークを行う場所は含まれません。(常時の場合は含まれます)

    『更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容』
     更新回数の上限は、契約当初から数えた回数の明示でも残りの契約更新回数の明示でも、労働者と使用者の認識が一致する内容であれば問題ありません。例えば、契約の当初から数えた更新回数又は通算契約期間の上限を明示した上で、現在が何回目の更新契約であるか等を併せて明示する方法もわかりやすいかもしれません。

    『無期転換申込機会・無期転換後の労働条件の書面明示』
     無期労働契約への転換を申し込むことができる権利を行使しない旨を表明している有期契約労働者に対しても、無期転換申込機会の明示を行う必要があります。

    『更新上限を定める場合等の理由の説明』
     有期労働契約の締結後、その有期労働契約の変更又は更新の際に、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数について、上限を定め又はこれを引き下げようとするときは、あらかじめ、その理由(「プロジェクトが終了することになったため」「事業を縮小することとなったため」など)を労働者に説明しなければなりません。
     説明は、特定の方法に限られたものではありません。文書を交付した個々の面談等による説明だけでなく、説明会等において複数の有期契約労働者に同時に行う方法でも差し支えないとされています。

※厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書には、「就業規則を確認できる場所や方法」欄が追加されていますが、労働基準法施行規則の改正に基づくものではありません。就業規則については、労働基準法第106条において「労働者に周知させなければならない」と定められており、労働者が必要な時に容易に確認できる状態である必要があります。具体的には就業規則を備え付けている場所等を労働者に示すこと等により、就業規則を労働者が必要なときに容易に確認できる状態である必要があります。

人的資本に関する開示状況について(2023年3月期有価証券報告書より)

 2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書より「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、「従業員の状況」において「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」といった女性活躍推進法等に基づく人的資本指標の開示の拡充が求められることになりました。そこで2023年3月期の有価証券報告書に基づき、それらの指標を開示している企業の開示状況をご紹介します。

◆人的資源に関する記述量 ~日本生産性本部レポートより~
 人的資本に関する記述文字数は、1,000字~1,499字が19.9%と最多であり、続いて500字~999字が19.0%、1,500~1,999字が15.6%と2,000字未満が全体の約6割を占めていました。記述における頻出語(出現回数)をみると、「人材」が9,455回と最多であり、「育成」「環境」と続いていました。「女性」「健康」「多様」などの多様性、健康経営などにつながりを感じられる頻出語もみられました。

グラフ16:人的資本に関する記述文字数

「令和5年度版 過労死等防止対策白書」を公表 ~厚生労働省

 政府は、10月13日、過労死等防止対策推進法に基づき、「令和5年版 過労死等防止対策白書」を閣議決定し、それが、厚生労働省から公表されました。白書の主な内容は以下の通りです。

  1. 「過労死等の防止のための対策に関する大綱(令和3年7月30日閣議決定)」に基づく調査分析として睡眠の不足感が大きいと疲労の持ちこし頻度が高くなり、うつ傾向・不安を悪化させ、主観的幸福感も低くなる傾向があること、芸術・芸能分野における働き方の実態、メディア業界や教職員の労災事案の分析結果等について報告。
  2. 長時間労働の削減やメンタルヘルス対策、国民に対する啓発、民間団体の活動に対する支援など、令和4年度の取組を中心とした労働行政機関等の施策の状況について詳細に報告。
  3. 企業や自治体における長時間労働を削減する働き方改革事例やメンタルヘルス対策、産業医の視点による過重労働防止の課題など、過労死等防止対策のための取組事例をコラムとして紹介。

 長時間労働と過労死(特に脳・心臓疾患)の発生には、関連性があるとされています。

 富山県滑川市で中学校教諭(当時40歳代)が平成28年にくも膜下出血を発症後死亡したのは、長時間労働が原因として遺族が賠償を求めた裁判でも、過労死の認定がされ、令和5年7月5日富山地方裁判所から市と県に対し、合わせて8300万円余りの支払いを命じる判決が出ました。
 令和6年4月より、医師、建設の事業、運送・物流業界にも時間外労働時間の上限が適用されることで、今後、深刻な人材不足が懸念され、人材確保が喫緊の課題です。人材確保の強化のためにも労働環境改善や働きやすい職場環境の形成が求められます。
 厚生労働者では、毎年11 月を「過労死等防止啓発月間」と定め、シンポジウム開催やキャンペーンを行っており、過労死等防止のための取組として、①長時間労働の削減、②働き過ぎによる健康障害の防止、③ワーク・ライフ・バランスの推進、④勤務間インターバル制度の導入促進、⑤職場におけるメンタルヘルス対策の推進、⑥職場のハラスメントの防止のための取組、⑦新しい働き方の導入、⑧相談体制の整備等の8項目について、「事業主の取組」及び「労働者の取組」の見出しをつけたポスター等の媒体も活用し、周知をしています。

 企業としても労働者の健康保持増進対策、メンタルヘルス対策、過重労働防止対策、安全管理など、積極的な取組を行っていくことが求められています。

ネット通販大手の配達員
労災認定とフリーランスの労災特別加入の追加検討に

 ネット通販大手でフリーランスとして働く配達員の配達中の事故について、全国で初めて労災が認定され、50日分の休業補償が給付されることとなりました。
 現在、フリーランスで働く人が業務で怪我をした場合、補償を受けることができる労災保険特別加入制度について、利用できるのが、一部の業種に限られていることから、厚生労働省は、対象者の範囲や保険料率の水準、加入手続きを担う特別加入団体のあり方などを論点に、議論を始めました。
 厚生労働省は10月4日に開いた労働政策審議会労災保険部会で、事業者からの委託により業務に従事するフリーランスを、労災保険の特別加入制度の対象に加える方針を示しました。
 今年4月に成立したフリーランス新法の附帯決議では、希望するすべてのフリーランスを労災の特別加入対象とする適用拡大に向けての取り組みが求められており、これを受け、今回の見直しが検討されています。
 フリーランス新法は、個人で働くフリーランスの労働環境保護を目的として令和5年4月28日に法案が可決され、令和6年秋頃までに施行が予定されており、「義務規定」と「禁止規定」そして「就業環境の整備規定」の3つの柱からなる法律です。例えば、「就業環境の整備規定」には中途解約の予告の規定なども含まれています。

「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を公表

 厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症等の影響による生活様式の変化など、働く人の働き方に対する意識等が個別・多様化している背景を踏まえ、働き方や職業キャリアに関するニーズ等を把握しつつ、新しい時代を見据えた労働基準法制の課題と方向性など検討していた有識者会議「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を取りまとめ、公表しました。この中で、新しい時代に即した労働基準法制の方向性が、以下の7つの視点でまとめられています。

  • ① 変化する経済社会の下でも変わらない考え方を堅持すること
     企業を取り巻く環境や、働く人の選択や希望が個別・多様化する中においても労使対等の原則、均等待遇、男女同一賃金原則、強制労働の禁止など労働基準法制の基本原則は変わらない基盤であること
  • ② 働く人の健康確保
  • ③ 働く人の選択・希望の反映が可能な制度
     労働者の健康を確保することは企業の責務である。対して労働者自身も自分の健康状態を知り、健康保持・増進に主体的に取り組むことが重要となること。また働き方の変化に伴い、制度の趣旨・目的を踏まえ時代に合わせた見直しが必要であること
  • ④ シンプルでわかりやすく実効的な制度
     労働基準法制が守られ労使双方の納得性が得られる実効性のあるものにするために、法制度をシンプルでわかりやすくすることも必要であること
  • ⑤ 労働基準法制における基本的概念が実情に合っているか確認すること
     リモートワークなど多様な働き方が進展するなかで、事業場を単位とするなど労働基準法制における基本的概念についても変化に応じたあり方を検討していくこと
  • ⑥ 従来と同様の働き方をする人が不利にならないように検討すること
     どのような働き方であっても働く人の労働条件、健康確保が後退することのないよう労働基準法制を設計・運用していく必要があること
  • ⑦ 労働基準監督行政の充実強化
     働き方が個別・多様化するなかでも効果的・効率的な監督指導の在り方を検討していくこと

 行政による法整備に加え、企業には「ビジネスと人権の視点」を持って活動を行っていくこと、「人的資本投資」を積極的に行うことなどを期待するとし、「働く人」には環境変化を乗り越えながら、自らのライフスタイルや人生設計とのバランスを意識しつつ、働き方を自ら選択し、働きがいを持って仕事に取り組み、自発的にキャリアを積み重ねていく姿勢を持つことが重要であるとして「自己管理能力(セルフマネジメント力)」を高めることが求められているとの見方も示しています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001160064.pdf

被保険者資格:基礎年金番号を有しない者は個人番号必須に

 厚生労働省は厚生年金保険法施行規則を一部改正し、厚生年金保険に係る届出に関して基礎年金番号又は個人番号を記載事項として求めている資格取得届において、20歳未満等の基礎年金番号を有しない者を届出する場合には個人番号の記載を求めることを明確化する改正を行いました。この改正を受け、日本年金機構は基礎年金番号とマイナンバーのいずれの記載もない資格取得届については返戻するとしています。これにより20歳未満等の基礎年金番号がない被保険者はマイナンバー記載が義務となりました。(改正省令の施行は9月29日)