社労士

コラム

「年収の壁対策」「労働安全衛生調査の概況」等
人事労務関連レポート2023年11月号

2023 年11 月15 日

人手不足解消の打ち手として期待される年収の壁対策、職場内でのストレス増加など。社労士事務所の見解をお伝えします。

トピックス

「年収の壁」対策 決定される

 人口減少に伴い、人手不足が深刻化している中、パート従業員が「年収の壁」を意識して、労働時間を抑制する現状を打開する必要があります。今回の対策はそのための措置として注目されています。
 最低賃金が今月から大幅に引き上げられたことに伴い、これまで以上に労働時間を抑えるケースが増え、働き控えにより人手不足がさらに加速することが懸念されています。
 こうした中で厚生労働省は先月、「年収の壁」問題への対応策を示した「支援強化パッケージ」を公表し、10月から対策を実施すると発表しました。
 以前お知らせしましたが、今回正式に公表された具体的な内容は以下の通りです。
「106万円の壁」対応策としては、パート・アルバイトで働く方の、社会保険の加入に併せて手取り収入を減らさない取り組みを実施する企業に対し、労働者1人あたり最大50万円を支給するとし、「130万円の壁」対応策としては、パート・アルバイトで働く方が、繁忙期に労働時間が増加し、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、最大2年間、引き続き被扶養者認定が可能となるとしました。

年収の壁 就業調整するパート従業員の「年収の壁」の意識 年収の壁対策 ※最大2年
年収
106万
厚生年金・健康保険に加入するため保険料負担がかかる
※101人以上の企業
賃上げ・手当の支給、従業員の保険料を会社が肩代わり
国から従業員1人あたり最大50万円の補助金支給
年収
130万
扶養から外れてしまい、国民年金・国民健康保険に加入するため保険料負担がかかる 年収130万円以上でも、連続2年まで被扶養者として認定される

※詳細は厚生労働省ホームページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html

 上記の対応策により、これから年末に向けて繁忙期を迎える中、パート・アルバイトの方が、年収の壁を意識することなく残業したり、賞与で報われたりすることが可能となり、即効性があるのではと期待されています。
 ただしこの「年収の壁・支援強化パッケージ」は現状の深刻な人手不足を解消し、早急に人材確保を達成するためのものであり、2025年の年金制度改革に向けた、「過渡期の補填策」という位置づけの「時限措置」として定められています。

 一方で、課題や懸念の声も多くあります。

  • 一時的な「時限措置」のため、長期的な見通しや期待が持ちにくい。
  • 制度が複雑で、対策内容の周知や、円滑な運用が難しい。具体的に、「どのくらい超えてもよいのか」「本当に大丈夫か」など、理解や制度が追い付かず、混乱を招くのでは。
  • 個人事業主や共働き世帯、単身パートの方との「給付と負担」の公平性の観点からみると、恩恵を受けていない人にとっては不満を感じるような策とも考えられる。
  • パート労働者本人よりも、企業側への支援の意味合いが濃いため、収入を増やすために働きたいのに、そもそも介護や育児などで限られた時間(壁の範囲内)しか働けない人が、物価高に苦しんでいる状況には対応できていないという別の視点も。
 働き方や世帯構成が多様化していく中で、不公平感のない、新しい時代に合った仕組みに期待したいところです。国民にとって納得のできる、持続可能な制度への移行について、十分な検討が望まれています。

労働安全衛生調査の概況 仕事のストレス53%から82%に

 厚生労働省では、このほど、「令和4年労働安全衛生調査(実態調査)」の結果を取りまとめ公開しました。令和4年は事業所が行っている安全衛生管理、労働災害防止活動及びそこで働く労働者の仕事や職業生活における不安やストレス、受動喫煙等の実態について、常用労働者を 10 人以上雇用する民営事業所から無作為に抽出した約 14,000 事業所に雇用される常用労働者及び受け入れた派遣労働者から無作為に抽出した約 18,000 人を対象として調査を行っています。

 現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は82.2%【令和3年調査53.3%】となっています。ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者について、その内容(主なもの3つ以内)をみると、「仕事の量」が36.3%【同43.2%】と最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が35.9%【同33.7%】、「仕事の質」が27.1%【同33.6%】となっています。
 続いて、現在の自分の仕事や職業生活でのストレスについて相談出来る人がいる労働者の割合は91.4%【令和3年調査92.1%】となっています。
 その内、実際に相談したことがある労働者の割合は、69.4%で【同69.8%】となっており、その中で相談した相手(複数回答)をみると、「同僚」が63.5%と最も多く、次いで「家族・友人」が62.0%【同71.5%】となっています。男女別にみると男性は「上司」が62.2%と最も多く、次いで「同僚」が60.8%、女性では「同僚」が66.4%と最も多く、次いで「家族・友人」が64.7%となっています。
※詳細はこちらのURLでご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r04-46-50_gaikyo.pdf

 また、厚生労働省が発表している第14次労働災害防止計画では、健康確保対策として、以下の支援事業の案内が掲載されております。メンタルヘルス対策にお役立て下さい。

【産業保健活動総合支援事業】
□産業保健総合支援センター  ※47都道府県に設置
産業保健スタッフ、事業主等に対して、産業保健研修や専門的な相談への対応などの支援を実施

  • 産業医等産業保健スタッフ向け専門的研修、事業主等向け相談対応
  • メンタルヘルス対策や両立支援の専門家による個別訪問支援
  • 事業主・労働者等に対する啓発セミナー
□地域産業保健センター  ※産業保健総合支援センターの下、全国約350カ所に設置
産業医、保健師を配置し、小規模事業場への支援を実施
  • 長時間労働者、高ストレス者に対する面接指導
  • 健康診断結果についての医師からの意見聴取
  • 労働者の健康管理(メンタルヘルスを含む)に係る相談
    ※詳細はこちらのURLでご確認ください。
    https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001116306.pdf

キャリアアップ助成金の支給要件が緩和されます

 厚生労働省は有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者(以下「有期雇用労働者等」)を正社員に転換した企業を助成するキャリアアップ助成金(正社員化コース)の要件を2024年度に緩和します。
 企業内キャリアアップを促進するための取組を実施した事業主を助成するキャリアアップ助成金の拡充により、正社員転換を希望する有期雇用労働者等の正社員化の促進、処遇の改善を後押しすることが目的です。

 主な変更点は以下の通りです。

【対象となる有期雇用労働者等の要件緩和】
 対象労働者の範囲を拡大し、これまで対象外だった雇用期間が3年を超える有期雇用労働者等も対象とします

対象となる
有期労働者等
の雇用期間
現行 2024年度~
6カ月以上3年以内 6カ月以上

通算5年を超えた有期雇用労働者は、転換前の雇用形態を無期雇用労働者とみなし、
「無期→正規」として助成対象とする。


【助成金の金額】※有期→正規の場合の助成額。無期→正規の場合は下記の半額。
企業規模 現行 2024年度~
中小企業 57万円 60万円
※2人目以降は50万円
大企業 47万7,500円 45万円
※2人目以降は37万5,000円

 ※この他、多様な正社員制度規定に係る加算措置(「勤務地限定・職務限定・短時間正社員」制度を新たに就業規則等に規定し、当該雇用区分に有期雇用労働者等を転換等した場合)の助成金額も拡充されます。

両立支援等助成金が拡充されます

 厚生労働省は中小企業の育児と仕事を両立しやすい職場づくりを促進することを目的として、両立支援助成金に新たなコースを設け、2024年度中にスタートさせる予定です。
 子育て中の従業員に時差出勤など柔軟な働き方を複数用意して選べる制度を導入した中小企業や、育休取得者の仕事を代替する従業員に手当を支給する中小企業を支援します。

 働き方の選択制の導入支援はテレワークや短時間勤務、法を上回る看護休暇の導入等、柔軟な働き方に関する制度を導入し、育児期の労働者と面談して個別の支援計画を作成した事業主が対象となります。
 制度を2つ導入した場合は利用者1人につき20万円、3つ以上導入で同25万円が支給されます。
 (※1年度5人まで)

令和5年度地域別最低賃金改定状況について

 令和5年10月より令和5年度地域別最低賃金が改定されました。
埼玉、千葉、愛知、京都、兵庫が初の時給1,000円超えとなり、時給1,000円を超える都道府県は東京、神奈川、大阪を含めた8都府県となりました。全国加重平均での上昇額は43円(昨年度は31円)で、制度開始以降最高額です。最低賃金額及び発行年月日は、以下の通りです。

最低賃金額及び発行年月日

令和5年分年末調整の変更点について

 令和5年度税制改正により、令和5年分の年末調整は主に次の通り変更されます。

【源泉所得税関係】  非居住者である親族の確認書類について
令和5年1月から非居住者である親族について、扶養控除の適用時の確認書類が次の通り改正されています。確認書類の詳細については、国税庁HPをご覧ください。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0022009-107_01.pdf

非居住者である親族の確認書類


【法定調書関係】  源泉徴収票等の電子交付の承諾について
給与所得の源泉徴収票及び給与等の支払明細書について、従業員から電子交付の承諾を得ようとする際に、「承諾期限までに回答がない場合には承諾があったものとみなす」旨の通知を事前に従業員に対して行い、この期限までに従業員からの回答がなかった場合には、電子交付の承諾があったものとみなされることになりました。