社労士

コラム

「長時間労働が疑われる事業場の42.6%で違法な時間外労働」「業務改善助成金の制度」等
人事労務関連レポート2023年10月号

2023 年10 月12 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

厚生労働省、長時間労働が疑われる事業場の42.6%で違法な時間外労働を確認

 厚生労働省 過重労働特別対策室(通称「かとく」)は、令和4年度に長時間労働が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した、監督指導の結果を取りまとめ、監督指導事例等と共に公表しました。この監督指導は、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月あたり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場を対象として実施されたもので、主な目的は①違法な長時間労働を取り締まり是正すること②過重労働による健康障害を防止することにあります。
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34504.html)
 対象となった33,218事業場のうち、労働基準関係法令違反が認められた事業場数は26,968事業場(81.2%)でした。このうち違法な時間外労働があったものは14,147事業場(42.6%)、賃金不払残業が3,006事業場(9.0%)、過重労働による健康障害防止措置が未実施のものが8,852事業場(26.6%)となっており、違反率はいずれも前年度を上回る結果となりました。コロナ禍で雇用を抑制していた後の経済活動回復による人手不足が一因と考えられ、業種別では接客娯楽業の違反率が86.6%で最も高く、次いで運輸交通業86.2%でした。労働基準関係法令違反は行政指導や罰則を受けるだけでなく、企業名公表制度もあり、送検や訴訟に発展し、企業の社会的信用失墜につながるリスクもあります。法令違反がないかを定期的にチェックし、違反を生じさせない体制づくりが重要です。

◆送検事例1◆
飲食業:店舗の従業員3人に対し、1か月100時間以上の時間外労働をさせたとして送検
同社においては、別の従業員(店長)から、多い月で175時間を超える時間外労働が原因で、適応障害を発症したとして、損害賠償と未払い賃金の支払いを求める訴訟も起こされています。

◆送検事例2◆
食料品製造業:従業員12人に対し、月100時間、複数月平均80時間を超えて働かせ送検
1か月の時間外労働が最長で231時間15分に上り、12人中9人が100時間を超え、そのうち4人が200時間に達していました。労基署は定期監督で違法な時間外労働を確認、労働時間があまりにも長すぎるとして、是正指導を挟まずに送検しました。

◆送検事例3◆
電子部品製造請負業:従業員4人に月100時間以上の時間外労働をさせたとして送検
同社は特別条項付きの36協定を締結していて、協定上の「限度時間を超えて労働させる場合における手続き」として定めていた「労働者の過半数代表者に対する事前通知」を怠ったまま限度時間を超えて労働させていたため、特別条項は無効の状態でした。

◆送検事例4◆
縫製業:外国人技能実習生10人に違法な時間外・休日労働を行わせたとして送検同社が届け出ていた36協定は、締結当事者となる労働者の過半数代表者が選挙などの方法で選出された者ではなく、使用者の意向に沿う形で選出されていたため、選出が適法でなく、36協定は無効の状態でした。


【チェックポイント】

  • 時間外・休日労働協定(36協定)を適切に締結し、届出しているか
  • 時間外・休日労働協定(36協定)で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせていないか
  • 36協定に定める休日労働の回数を超えて休日労働を行わせていないか
  • 時間外・休日労働時間数が月100時間以上または2~6か月平均で80時間を超えていないか
  • 時間外・休日労働をさせた場合には法定の割増賃金を支払っているか
  • 過重労働による健康障害防止措置を実施しているか(医師による面接指導、ストレスチェックの実施等)
  • 労働時間の把握が適切に行われているか(把握方法の妥当性、過少申告がないか)

業務改善助成金の制度が拡充されます!

 業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を引き上げ、設備投資等を行った中小企業・小規模事業者等に、その費用の一部を助成する制度です。

【拡充のポイント】

  1. 拡充事業場の拡大
    事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内から50円以内の事業場に拡充
  2. 賃金引き上げ後の申請
    従来は申請書類として、賃金引き上げ計画、事業実施計画(設備投資等の計画)が必要でしたが、2023年4月1日から12月31日までに賃金の引き上げを実施していれば、賃金引き上げ計画の提出は不要となります。
    ※賃金引き上げ結果と事業実施計画の提出は必要になります。
  3. 助成率区分の見直し
    各最低賃金額に対する助成率区分が引上げとなりました。

心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正概要

【改正の背景】
 精神障害・自殺事案については、2011(平成23)年に策定された「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に基づき労災認定を行っておりました。近年の社会情勢の変化や労災請求件数の増加等に鑑み、最新の医学的知見を踏まえて「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」において検討を行い、2023年7月に報告書が取りまとめられたことを受け、認定基準の改正を行うこととなりました。

【改正のポイント】
□業務による心理的負荷評価表の見直し

  • 具体的出来事の追加、類似性の高い具体的出来事の統合等
    「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント) 「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」
  • 心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充
    パワーハラスメントの6類型すべての具体例、性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含むことを明記
    一部の心理的負荷の強度しか具体例に示されていなかった具体的出来事について、他の強度の具体例を明記
□精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
  • 【改正後】悪化前おおむね6カ月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める。
□医学意見の収集方法を効率化
  • 【改正後】特に困難なものを除き専門医1名の意見で決定できるよう変更

厚生年金施行規則等の一部改正(マイナンバーと基礎年金番号について)

 厚生年金保険及び国民年金に係る届出に関して、基礎年金番号又は個人番号を記載事項として求めているもののうち、基礎年金番号を有しないものが届出する場合があるもの(資格取得届等)について、被保険者が基礎年金番号を有しないときは、個人番号の記載を求めることを明確化しました。

育児休業等の期間が1カ月を超えない場合の賞与保険料の納入告知

 育児休業等の期間が1カ月を超えない場合の賞与保険料は免除となりませんが、そのうち、育児休業等終了日の翌日が育児休業等開始日の属する月の翌月となる場合については、当該ケースを反映した保険料計算を行うことに時間を要するため、翌月の保険料とあわせて告知(保険料計算)されます。

賞与保険料の納入告知

 上記ケースに該当した場合、7月に支給した賞与にかかる保険料が8月分保険料とあわせて、告知(9月末日納期限)されます。

雇用保険の基本手当日額の変更 ~令和5年8月1日から~

 令和5年8月1日から雇用保険の「基本手当日額」が変更になりました。
 今回の変更は、令和4年度の平均給与額が令和3年度と比べて約1.6%上昇したこと及び最低賃金日額の適用に伴うものです。具体的な変更内容は下記のとおりです。

【具体的な変更内容】
①賃金日額・基本手当日額の最高額の引上げ

賃金日額・基本手当日額の最高額の引上げ


②基本手当日額の最低額の引上げ
基本手当日額の最低額の引上げ