社労士

コラム

「特定技能2号の対象大幅拡大」「2024年問題」等
人事労務関連レポート2023年8月号

2023 年8 月10 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

特定技能2号の対象となる産業分野が大幅拡大 ~製造業・外食業など~

  1. 特定技能2号の対象となる産業分野が11分野へ拡大
  2.  令和5年6月9日、閣議決定により、特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(分野別運用方針)が変更され、従来、建設分野及び造船・船用工業分野の溶接区分のみが対象とされていた在留資格「特定技能2号」が11分野に拡大されることになりました。これにより、特定技能制度の対象となっていた特定産業分野のうち、介護を除くすべての分野において特定技能2号の外国人労働者の受入れが可能となります。(介護については別途、専門的・技術的分野の在留資格「介護」が設けられています。)

  3. 特定技能2号とは
  4.  就労可能な在留資格のなかでも、技術・人文知識・国際業務などのような、いわゆる専門的・技術的分野の在留資格により就労が認められた外国人については、我が国の経済社会の活性化や一層の国際化を図る観点から積極的に受入れが推進されてきたところです。
     その後、平成30年に成立した特定技能制度は、これとは目的が異なり、中小・小規模事業者をはじめとした深刻化する人手不足に対応するために一定の専門性・技能を有する外国人を即戦力として受け入れるために設けられました。そのため、特定技能制度は、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材確保が困難な状況にあるため、外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に限って行うこととされており、これが12の特定産業分野として定められています。全ての特定産業分野で元々認められていた在留資格が特定技能1号です。特定技能1号では、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準の技能が求められます。
     今回拡大対象となった特定技能2号では、長年の実務経験等により身につけた熟達した技能が必要とされており、現行の専門的・技術的分野の在留資格を有する外国人と同等又はそれ以上の高い専門性・技能を要するとされています。例えば、自らの判断により高度に専門的・技術的な業務を遂行できる、または監督者として業務を統括しつつ、熟達した技能で業務を遂行できる水準の技能を指します。
     特定技能1号では、当該在留資格での在留期間に通算5年の上限があり、また、原則として配偶者・子には在留資格が付与されません。特定技能2号では、在留期間の更新に上限がなく、また、要件を満たせば配偶者や子にも在留資格が付与されるので、家族とともに日本を拠点として長期的に生活することが可能です。但し、特定技能制度の目的は人手不足の解消であるため、人手不足の状況に変化があれば、関係閣僚会議において在留資格の交付の停止や特定産業分野からの削除などの措置が検討されます。

    特定産業分野


  5. 今後のスケジュール等
  6.  今回の拡大は、おって出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄に規定する産業上の分野を定める法務省令等が改正され、その施行日をもって開始となります。また、実際の受入れの動きは、各特定産業分野を所管する省庁において試験実施要領を定めてから随時開始されます。

     尚、出入国在留管理庁の公表によると、令和4年12月末時点で、元々特定技能2号の対象とされていた建設業、造船・船用工業分野での在留外国人数は、特定技能1号が17,370人であるのに対し、特定技能2号は8名となっており、特定技能2号の制度は十分に活用されているとは言い難い状況です。来春からは特定技能1号での通算在留期間の上限5年を迎える外国人労働者が出てきます。十分な実務経験を積んだ方々が日本での継続的な就労の見通しを立てられるようにするためには、今回拡大対象となった各産業分野での試験の実施要領・日程の公開は待ったなしと言えるでしょう。

「2024年問題」時間外労働の上限規制

 来年からトラック運転手の労働時間規制が厳しくなるなか、大阪に本社を置く運送会社で勤務する男性が、2019年にトラックを運転中に心筋梗塞を発症し死亡しました。長時間労働が原因だとして、遺族が勤務先に損害賠償を求める訴訟を起こしました。当該男性が、亡くなる直前6カ月の時間外労働は、過労死ライン(月平均80時間)を大幅に上回る月平均159時間だったそうです。
 2024年問題とは、働き方改革関連法により、2024年4月1日から時間外労働時間の上限規制が適用されることで、医師、運送・物流業界に生じる諸問題を意味します。具体的には、トラックドライバーなどの時間外労働時間が年間960時間に制限され、物流業界では、人手不足の深刻化や輸送量の減少が懸念されているほか、建設業界でも影響が広がると見込まれています。一般企業では既に施行されている法令ですが、勤務環境の改善を要するため、5年の猶予が設けられていました。
 適用は、建設事業、自動車運転の業務、鹿児島及び沖縄県における砂糖製造業、医師になります。

事業・業務別猶予

 医師の働き方改革では、適正化に向けた取り組みが実行される予定です。医師に対する時間外労働の上限は、次のように3つの水準に応じた上限と、それに伴う健康確保措置が求められることになります。

医師に対する時間外労働の上限

厚生労働省サイト:https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/overtime.html

精神障害の労災認定 認定基準等の明確化により迅速審査へ

 厚生労働省は、精神障害の労災認定基準の見直しに向けた専門検討会の報告書を公表いたしました。同検討会では近年の社会情勢の変化や精神障害の労災認定の請求件数増加を踏まえ、精神障害事案の審査をより適切・迅速に行うため、2021年12月から開催し、認定基準の全般について検討が行われていました。
 今回の報告書では業務による心理的負荷評価表の明確化等により、より適切な認定、審査の迅速化、請求の容易化を図ることが示されています。
 具体的な基準等の見直しのポイントは次のとおりとなります。
 厚生労働省は報告書をもとに早ければ年内にも基準を見直す方向としています。

      ① 業務による心理的負荷評価表の見直し
      ■具体的出来事の追加、類似性の高い具体的出来事の統合等
       追加:「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)
       追加:「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」
      ■心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充
      ・パワーハラスメントの6類型すべての具体例、性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含むことを明記
      ・一部の心理的負荷の強度しか具体例が示されていなかった具体的出来事について他の強度の具体例を明記
      ② 精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
      (現行)悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」(生死に関わる業務上の事故や病気といった等の特に強い心理的負荷となる出来事)があった場合にしか業務起因性を認めていない
      (検討後)悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「強い心理的負荷」が症状悪化の原因になったと判断できる場合は業務起因性を認める
      ③ 医学意見の収集方法を効率化
      (現行)専門医3名の合議による意見収集が必須な事案【例:自殺事案、「強」かどうか不明な事案】
      (検討後)特に困難なものを除き専門医1名の意見で決定できるよう変更
 今回の見直しにより、労災認定の幅は広まることになりますが、企業としては使用者責任を問われるリスクが高まる可能性がありますので、今以上に労働者への適切な安全配慮が求められることになります。

「年収の壁」解消へ

 パート労働者の年収が一定額に達すると社会保険料の負担が生じて手取りが減る、いわゆる「年収の壁」問題の解消に向け、政府が具体的な検討に入ったことがわかりました。前回の検討では、壁を越えて長く働くことで生じる労働者の保険料負担を肩代わりする企業に対して助成金を出すという本人の手取りが減らない案が示されていましたが、今回では企業の負担軽減を重視した方針となっています。
 具体的には、一定規模以上の企業で社会保険料などの天引きが始まる「年収106万円の壁」向けの措置として、基本給の増額や労働時間の延長を実現した企業に1人当たり最大50万円を助成する方針で、保険料負担を軽減するために基本給とは別に手当を支給した場合、社会保険料の算定から除く措置も講じるとされています。他にも扶養から外れる「年収130万円の壁」向けの措置としては、年末の繁忙期を念頭に年収130万円を超えても一時的な収入増であれば、扶養にとどまる場合があると明示し、健保組合などに通知する方向としています。
 政府はこうした対策を「支援強化パッケージ」として今秋にもまとめ、年末に策定する「こども未来戦略方針」に盛り込むとされています。一方で今回の措置は当面の対応という位置づけで、本格的な対応は次回の年金制度の見直しにあわせて検討がされることになっています。

資格取得届への被保険者の個人番号等の記載義務を法令上明確化

 「健康保険法施行規則等の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第81号)」が公布され、令和5年6月1日から施行されました。この改正省令は、「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」の中間とりまとめ(令和5年2月)において、保険者の迅速かつ正確なデータ登録への対応として、

・ 資格取得届への被保険者の個人番号等の記載義務を法令上明確化すること
・ 保険者は、事業主による届出から5日以内に被保険者等の資格情報等の登録を行うこと

とされたことを踏まえ、健康保険法施行規則、船員保険法施行規則、国民健康保険法施行規則及び高齢者の医療の確保に関する法律施行規則について、所要の改正を行うものです。
 これにより、たとえば、適用事業所の事業主が健康保険の被保険者の資格取得に関する届出を行う際に、個人番号の記載がない場合、適用事業所の事業主は、被保険者に対し、個人番号の提出を求め、又は記載事項に係る事実を確認することができることとされています。

「永年勤続表彰金」の社会保険上の取り扱いについて

令和5年6月27日に、「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の一部改正についてという事務連絡が発出され、次の内容が追加されました。

事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。
永年勤続表彰金については、企業により様々な形態で支給されるため、その取扱いについては、名称等で判断するのではなく、その内容に基づき判断を行う必要があるが、少なくとも以下の要件を全て満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして、原則として「報酬等」に該当しない
ただし、当該要件を一つでも満たさないことをもって、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、事業所に対し、当該永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断すること。

≪永年勤続表彰金における判断要件≫

      ①表彰の目的
      企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。
      なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
      ②表彰の基準
      勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
      ③支給の形態
      社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。