社労士

コラム

「変化する時代の多様な働き方に向けて」
  「職業安定法施行規則の一部を改正する省令案」等
人事労務関連レポート2023年7月号

2023 年7 月12 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

労働政策審議会労働政策基本部会 報告書
~ 変化する時代の多様な働き方に向けて ~

 2023年5月12日、労働政策審議会の労働政策基本部会が報告書を取りまとめました。この報告書は、「加速する社会・経済の変化の中での労働政策の課題~生産性と働きがいのある多様な働き方に向けて~」を大テーマとして、2022年2月より9回にわたり、今後の労働政策の課題について、労働政策基本部会委員・有識者のプレゼンや、企業のヒアリングを交えながら議論を深め、その成果について取りまとめたものです。報告書は「社会・経済の現状と課題」、「働き方の現状と課題」、「今後の労働政策の方向性」についてまとめたものです。
 労働政策の中長期的展望を示すもので、今後取りまとめた内容について労働政策審議会の関係分科会や部会等で必要な施策が検討されることになります。
 少子高齢化が進む中、生産年齢人口が大きく減少することが見込まれ、女性や高齢者等をはじめ多様な人材の活用が望まれています。また、産業構造においてサービス業を主とする就業構造は引き続き拡大されると見込まれますが、特にAIやDXの発展により大きく就業内容が変化すると予想されています。いわゆるハードからソフトを中心とする「知」が重要なキーであると示されています。そこでこうした点から、社会全体で職場における働き方に新たなキャリア形成が求められると同時に、そのための能力の取得のためにリスキリングが求められることが示されています。このため、国・企業は労働者がキャリア形成・リスキリングすることを支援すること、個々の労働者は目的意識的にこれらについて行動することが強調されています。

 本報告書の中の「働き方の現状と課題について」は(1)生産性の向上に向けた雇用管理についてと(2)人事制度について報告がまとめられています。(1)は人材育成とデジタル技術への対応・リスキリングについて述べられています。本あかつきNewsで度々取り上げてきたジョブ型人事については、(2)の人事制度についての中でまとめられているますので、以下その点について報告します。

 ジョブ型人事(職務給制度)を新しく導入する動きがある現在、欧米ではブルーカラーを中心に使われていますが、日本においてはホワイトカラーを中心とした職務と処遇の明確化といった観点からの導入の動きがあります。「日本においてはジョブ型人事と呼ばれるような人事制度を導入している企業であっても、採用や人事異動・配置については、いわゆる欧米のジョブ型雇用とは違い、①新卒採用の際には職務遂行能力ではなく潜在能力を重視し、採用後一定期間研修を行う、②本人の希望による公募制を行いつつも、最終的な人事異動の権限は会社に残るなど、いわゆる「メンバーシップ型人事」と「ジョブ型人事」の間でバリエーションのあるものが多かった」と指摘しています。いわゆる「ジョブ型人事」「メンバーシップ型人事」の日本的なハイブリッド制度を主とした活用の方法となっているのが特徴です。このことについては6月6日に政府が今進めようとしている新しい資本主義制度の確立に際して「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版案」の中で、年内に「職務給(ジョブ型人事)の日本企業の人材確保の上での目的、ジョブの整理・括り方、これらに基づく人材の配置・育成・評価方法、ポスティング制度、リスキリングの方法、従業員のパフォーマンス改善計画、賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係、休暇制度などについて、事例を整理し、個々の企業が制度の導入を行うために参考となるよう、多様なモデルを示す」とされています。

 濱口労働政策研究・研修機構労働政策研究所長が指摘しているように、戦後職務給の導入を進めていたものの途中で頓挫してしまった経緯があります。今回は中途半端に終わることの無いよう、企業及び労働者にとって働きやすい環境整備と矛盾なく日本型制度として定着することを期待しています。そのためには労使間で十分な協議を経た上で導入を進めていくことが望まれます。

職業安定法施行規則の一部を改正する省令案について

 職業紹介時や労働者の募集時において、求職者等に対し、明示しなければならない以下の項目が追加される予定です。見直しの背景は、2024年4月1日から労働契約締結の際の労働条件明示事項が追加されたこと、さらに雇用・労働総合政策パッケージの中で、労働市場の強化・見える化を推進するためとされております。「2024年4月1日から労働契約締結の際の労働条件明示事項が追加」につきましては、5月号に詳しく載せておりますのでご確認ください。

【追加事項】

  1. 従事すべき業務の変更の範囲
  2. 就業の場所の変更の範囲
  3. 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は更新回数の上限を含む)

少子化対策で「こども特例公債」発行へ…財源確保までの穴埋め

 6月1日に首相官邸において開催された「第5回 こども未来戦略会議」において、議長である岸田首相は次のようにコメントしています。

  • 次元の異なる少子化対策としては、「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造・意識を変える」「すべてのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する」この3つを基本理念として政策を強化する。
  • 少子化対策の財源は、まずは徹底した歳出改革等によって確保することを原則とする。
    既定予算を最大限活用することで実質的に追加負担を生じさせないことを目指す。
  • 経済成長の実現に取り組みつつ、歳出改革等を複数年にわたって積み上げていくことで安定財源を確保していくが、2030年の節目までに、前倒しで速やかに実施する。
 上記少子化対策において取り上げられた「こども未来戦略方針」(案)として様々な施策が発表されています。主なものとしては、以下の通りです。

  • 児童手当の拡充(2024年度中)
      所得制限を撤廃し、高校卒業までの支給期間延長、第3子以降3万円に増額
  • 年収の壁への対応(本年度中)
      年収106万円を超えても手取り収入が逆転しないよう、企業への支援を行う。
  • 男性育休の取得促進(2025年度)
      出生時育休を念頭に給付率を8割程度(手取りで10割相当)へ引き上げる。
  • 雇用のセーフティネットの構築(2028年度までに)
      週20時間未満の労働者への雇用保険の適用拡大。

 また、「次元の異なる少子化対策」の財源を巡っての議論も本格化しています。その財源の枠組みとして、「支援金制度」(仮称)を構築し、2028年度までに安定財源を確保する方針が発表されました。社会保険料を引き上げて財源とするものです。
 それまでのつなぎとして、国債の一種である「こども特例公債」(仮称)を2年程度にわたって発行するという方針も固まりました。
 社会保険料の引き上げに関しては経済界からの反対意見も多く、消費税の増税の議論も避けられないと言われています。一方で岸田首相は「消費税の引き上げは考えていない」と強調していて、見通しは暗中模索の様相を呈しています。

新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の申請について

 厚生労働省保険局保険課事務連絡(2022年8月9日)により、全保険者統一的なものとして臨時的な取り扱いが行われてきましたが、今般、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」が廃止され、2023年5月8日から感染症法の5類感染症に位置付けられたことを踏まえて、当該臨時的な取り扱いを終了することとされました。
 新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金については、臨時的な扱いとして、療養担当者意見欄の証明の添付を不要としておりましたが、申請期間(療養のため休んだ期間)の初日が2023年5月8日以降の傷病手当金の支給申請については、他の傷病と同様に、傷病手当金支給申請書の療養担当者意見欄に、医師の証明が必要となります。
 また、全国健康保険協会および各健康保険組合で、申請書の様式や申請方法が変更となっておりますので、協会・各組合のHP等をご覧いただき、2023年5月7日以前の申請、2023年5月8日以降の申請についてのお知らせをご確認ください。

算定基礎届の提出について

 算定基礎届提出の時期が近づいて参りました。提出期限は、2023年7月1日(土)から7月10日(月)迄です。適用拡大の短時間労働者を含めて、7月1日現在のすべての被保険者の標準報酬月額の届出が必要になります。但し、以下の方は定時決定(算定基礎届)の対象外です。

  1. 6月1日以降に資格取得した方
  2. 7月改定の月額変更届を提出する方
  3. 8月または9月に随時改定が予定されている方

最近の年金事務所等の調査傾向では、下記のような指摘をされることが多いようです。

  • 算定基礎届、月額変更届が正しく届出されているか
  • 賞与支払届が正しく届出されているか
    ※年末年始手当、期末手当、繁忙手当など賞与性のもので年に3回以下支給されるもの
  • 資格取得時の標準報酬月額が正しく届出されているか(残業見込や各手当を含めて届出ているか)