社労士

コラム

「賃金の引上げに向けた生産性向上支援」
「労働条件明示ルールの制度改正」等
人事労務関連レポート2023年6月号

2023 年6 月5 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

令和5年度 東京労働局行政運営方針

 東京労働局より行政運営方針が発表されました。
 今年度のスローガンは「一人ひとりが光輝く働き方をめざす TOKYOへ」とし、主な重点施策として次の4つを掲げています。

  1. 女性活躍とワーク・ライフ・バランスの推進
  2. 労働移動の円滑化とキャリアアップの促進
  3. 安全で健康に働くことができるディーセント・ワークの実現
  4. 労働保険制度の適正な運営

 上記のうち、気になる点については、3「安全で健康に働くことができるディーセント・ワークの実現」の取り組みの中で、「最低賃金・賃金の引上げに向けた生産性向上等に取り組む企業への支援」を課題とし、「最低賃金制度の適切な運営」や「監督署と連携した同一労働同一賃金の徹底」等を図ることを定めています。
 「監督署と連携した同一労働同一賃金の徹底」の具体策には、管内全18の労働基準監督署で、企業へ定期監督に入る際、パートタイム・有期雇用労働法にかかわる情報収集として、正社員とパートの人数構成のほか、通勤手当や賞与の支給状況の聞き取りを本格的に実施し、管内の労基署と連携して、大手企業を中心に進めてきた同一労働同一賃金に関する指導を強化し、中小・零細企業を含めて規模を問わずに報告徴収を行うこととしています。
 同労働局の雇用環境均等部では、集まった情報から違反状況を判断し、必要に応じて各社を呼び出して1対1で説明を求め報告徴収と是正指導を行うとしています。指導にあたっては、著しい格差などの法違反を指摘し、改善点に気付くように促し、場合によっては勧告などの行政処分にもつなげるとしています。
 また、同労働局の需給調整事業部では、監督署から提供された情報に基づき、指導監督を実施し、正社員と派遣労働者との間の不合理な待遇差等を確認した場合には、是正指導を実施するとしています。
 同一労働同一賃金については、施行から3年目に入り、今までは管内の企業全体に周知が図られていましたが、今後は企業への1対1での対応に力を入れていくようです。
 今一度、社内の賃金制度について同一労働同一賃金について不合理な待遇差がないかどうか再確認をおすすめします。
 東京労働局が開設した「東京働き方センター」によるワンストップ相談窓口においては、関係機関や全国センターと連携を図りつつ、窓口相談やコンサルティング、セミナー実施等に加え、業種別団体等に対する支援を実施する等、きめ細やかな支援を行い、同一労働同一賃金を含めた働き方改革に関する中小企業のお悩み解決を行っています。取り組みにあたっては是非あかつき担当者にご相談ください。

労働条件明示ルールの制度改正について(令和6年4月1日施行)

 令和6年4月より労働条件明示ルールの導入・継続のルールが改定されることになりました。
 改定のタイミングで速やかに対応ができるよう早めの対策をご検討ください。
1.労働条件明示ルールの改正
 労働契約の締結・更新のタイミングの労働条件明示事項が追加されます。

明示のタイミング 新しく追加される明示事項
全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時 1.就業場所・業務の変更の範囲の明示※1
有期労働契約の締結時と更新時 2.更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容※2
無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時 3.無期転換申込機会の明示※3
4.無期転換後の労働条件の明示※4
※1「変更の範囲」とは、将来の配置転換等によって、変更される就業場所・業務の内容を指します。

〈モデル労働条件通知書〉

就業の場所 (雇入れ直後)東京都●●区●● (変更の範囲)東京都内
従事すべき業務の内容 (雇入れ直後)総務業務 (変更の範囲)総務、人事業務
※2最初の契約締結より後に更新条件を新たに設ける場合や最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合は、その理由を有期契約労働者にあらかじめ(更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで)説明をすることが必要になります。
※3「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことのできる旨の明示が必要になります。
※4「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要になります。また、努力義務として「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するにあたって、他の通常の労働者とのバランスを考慮した事項について、有期契約労働者に説明することとしています。

裁量労働制見直しについて (令和6年4月1日施行)

 裁量労働制について、令和6年4月1日以降、導入・継続するときは新たな手続きが必要になります。また、専門型に新たな業務が追加されます。
 裁量労働制は時間配分や業務の遂行の手段を労働者の裁量に委ね、自律的で創造的に働くことを可能とする制度ですが、残業代算定のための実労働時間管理が行われなくなる結果、長時間労働を助長する傾向にあり、要件を満たさない業務や、裁量が与えられていないにもかかわらず適用されるなど、使用者に制度が濫用されるケースが多数ありました。
 今回、裁量労働制は、始業・終業時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを明確化し、労働者の時間配分の決定等に関する裁量が失われたと認める場合は、労働時間のみなしの効果は生じないことに留意することとされました。
 また、裁量労働については、労基法上の「労働時間把握算定義務」が免除されていますが、一方、安全衛生法の健康管理措置で把握が求められている「労働時間の状況」を把握(労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったか)と同一であることが追加されました。矛盾のあるところではありますが、使用者は裁量労働の対象労働者についても生命、身体及び健康を危険から保護すべき義務(いわゆる安全配慮義務)を免れませんので、『健康・福祉確保措置』では、勤務間インターバルの確保、深夜労働の回数制限、労働時間の上限措置、一定の労働時間を超える対象労働者への医師面接指導などが新たに追加されています。

<対応が必要な事項>

対応が必要な事項 専門型・企画型
本人同意を得るおよび同意の撤回の手続きの策定
  • 本人同意を得ることおよび同意をしなかった場合に不利益取り扱いをしない旨について労使協定に定める。
    企画業務型では労使委員会の決議に定めることがすでに義務づけ)
  • 同意の撤回の手続きと、同意とその撤回に関する記録を保存することを労使協定・労使委員会の決議に定める。
企画型
労使委員会に賃金・評価制度を説明する
  • 労使委員会に対する説明に関する事項(説明を事前に行うことや説明項目など)を労使委員会の運営規程に定める。
  • 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことを 労使委員会の決議に定める。
労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う
  • 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)を労使委員会の運営規程に定める。
労使委員会の開催頻度
  • 労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすることを労使委員会の運営規程に定める。
定期報告の頻度
  • 労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して初回は6か月以内に1回、その後1年以内ごとに1回になる。
新たな業務 専門型
M&A業務
  • 銀行又は証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務について専門型の対象とする。

 令和6年4月1日以降、新たにまたは継続して裁量労働制を導入する際は、裁量労働制の労使協定等に必要項目を追加し、裁量労働制を導入・適用する日までに管轄の労働基準監督署に協定届・決議届の届出を行う必要があります。(全事業所対象)
継続導入する事業場では、令和6年3月末までに届出する必要がありますのでご留意ください。
参考資料「厚生労働省リーフレット」
https://www.mhlw.go.jp/content/001080850.pdf

新型コロナウイルス感染症が5類感染症に

 新型コロナウイルス感染症は、令和5年5月8日から「5類感染症」になりました。
 主な変更ポイントは下記になります。

  • 政府として一律に日常における基本的感染対策を求めることはない。
  • 感染症法に基づく、新型コロナ陽性者及び濃厚接触者の外出自粛は求められなくなる。
  • 限られた医療機関でのみ受診可能であったのが、幅広い医療機関において受診可能になる。
  • 医療費等について、健康保険が適用され1割から3割は自己負担が基本となるが、一定期間は公費支援を継続する。

時間外労働の上限規制が適用されます(令和6年4月1日施行)

 前号の建設業に続き、その他事業・業務についても猶予期間終了に伴い取扱いが変わります。

事業・業務 猶予期間終了後の取扱い(令和6年4月以降)
自動車運転の業務 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制が適用されません。
時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月までとする規制は適用されません。
医業に従事する医師 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外・休日労働の上限が最大1860時間()となります。
時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されません。
時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月までとする規制は適用されません。 医療法等に追加的健康確保措置に関する定めがあります。
医業に従事する医師の一般的な上限時間(休日労働含む)は年960時間/月100時間未満(例外的につき100時間未満の上限が適用されない場合がある)。
地域医療確保暫定特例水準(B・連携B水準)又は集中的技能向上水準(C水準)の対象の医師の上限時間(休日労働含む)は年1,860時間/月100時間未満(例外的に月100時間未満の上限が適用されない場合がある)。
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業 上限規制がすべて適用されます。
猶予期間中も、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、複数月平均80時間以内とする規制以外は適用されます。

令和5年度「全国安全週間」を7月に実施

 7月1日から1週間、「全国安全週間」が実施されます。(準備期間6月1日から30日)
「全国安全週間」は、労働災害を防止するために産業界での自主的な活動の推進を、職場での安全に対する意識を高め、安全を維持する活動の定着を目的としています。
 令和4年の労働災害については、死亡災害は前年を下回る見込みであるものの、休業4日以上の死傷災害は前年を上回る見込みであり、近年、増加傾向に歯止めがかからない状況となっています。
 特に、転倒や腰痛といった労働者の作業行動に起因する死傷災害、墜落・転落などの死亡災害が依然として後を絶たない状況にあります。また、労働災害を少しでも減らし、労働者一人一人が安全に働くことができる職場環境を築くためには、本年3月に策定された第14次労働災害防止計画に基づく施策を着実に推進するための不断の努力が必要であり、特に初年度となる令和5年度においては、労使一丸となった取り組みが求められています。具体的な実施要綱についてはこちらをご参照ください。
厚生労働省HP「令和5年度全国安全週間実施要綱」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001083685.pdf