社労士

コラム

「新年度からの変更点」「電子申請の対象拡大等」
人事労務関連レポート2023年4月号

2023 年4 月5 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

日本におけるジョブ型雇用とその課題

 今年年頭の総理の施政方針演説において更なる経済成長を生むための鍵として賃上げの重要性が挙げられました。そこでは賃上げを実現する為に人への投資等を行うだけではなく、企業においては従来の年功賃金から職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することが、企業の成長の為にも急務であるとしています。この職務給への移行についてよく出てくるキーワードとしてメンバーシップ型・ジョブ型があります。内閣府ではメンバーシップ型雇用・ジョブ型雇用をそれぞれ以下のようにまとめられています。

メンバーシップ型雇用 ジョブ型雇用
基本的な考え方 人の出入りは原則無い
結果の公平性
会社と従業員の関係:保護者と被保護者
人の出入りがある(内部労働市場と外部労働市場がシームレスに接続)
機会の公平性
会社と従業員の関係:パートナーの関係
人事制度 等級:職能
報酬:年功、内部貢献
人事権:昇給賞与は中央管理
等級:役割×職種
報酬:職務別市場価値
人事権:昇給賞与は各部門
人事マネジメント 採用:新卒一括中心
異動:会社主導
採用:職務別採用中心
異動:社内公募(ポスティング制度)の機会

出典:内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局


 こうしたメンバーシップ型雇用と称される日本型雇用システムについて、経団連は社員の高い定着率やロイヤルティの醸成、自社に適した人材の育成などの面でメリットがあり、多くの大企業を中心に長きにわたり導入されている一方、新卒時以外の入社機会が限られることや働き手自身のスキルアップや自己啓発への意欲を阻害している可能性があることを課題として挙げており、日本型雇用システムの持つメリットを活かしつつ、多様な人材の活躍推進といった観点から必要な見直しを行い、各企業にとって自社の事業戦略や企業風土に照らし、最適な自社型雇用システムの確立を目指すことが必要だとしています。この自社型雇用システムの確立に向けて年功に編重した賃金制度を、「成果や業績を適切に処遇へ反映する仕組みづくりが肝要である」ことやジョブ型雇用の活用等を挙げています。
引用:2022年度版 経営労働政策特別委員会報告

 また、このジョブ型雇用について労働政策研究・研修機構 研究所長の濱口佳一郎氏は自署「ジョブ型雇用社会とは何か」でジョブ型が成果型であるという誤った理解があるとしています。同著においてジョブ型ではまず、最初に職種(ジョブ)があり、そこにその職務を遂行できる人をはめこみます。人に対する評価はそのはめこむ際に実施され、その後はその職種がきちんと遂行されているかどうかだけの確認が行われ、メンバーシップ型とは異なり、一部の経営層等を除いて評価を行われることはありませんとしています。雇用システムの見直しを実施するうえで本質的な雇用システムの理解に注視していくことも必要ではないでしょうか。

企業の障害者雇用率段階的に引き上げ・障害者雇用の助成金減額について

 厚生労働省は、企業が雇用すべき障害者の割合(障害者雇用率)を現行の2.3%から段階的に引き上げ、令和8年に2.7%(国及び地方公共団体等は3.0%(教育委員会は2.9%))とすることを決めました。
 企業で働く障害者は年々増加していますが、雇用率を達成した企業は半分以下にとどまっています。厚生労働省は今後、障害者の雇用を増やす企業への助成金を拡充するなどの対応も進めることにしています。
 助成金を拡充する一方で、助成金の減額も検討されています。
 厚生労働省は、民間企業に法律で義務付けられている障害者の雇用割合(法定雇用率)を達成した上で、さらに多く雇う企業に対する助成金(障害者雇用調整金・報奨金)について、令和6年度から減額を検討していると明らかにしました。障害者雇用調整金・報奨金については、法定雇用率に達しなかった企業が支払う「障害者雇用納付金」を原資としていますが、企業で働く障害者が増え、支給額が膨らみ助成金財政が厳しくなっていることが理由です。

障害者の割合(障害者雇用率)


雇用関係助成金ポータルがオープンします

 令和5年4月より、電子申請できる雇用関係助成金の対象が拡大します。
受付開始は令和5年4月3日を予定しております。
詳しくは、厚生労働省HPをご覧ください。
厚生労働省:事業主の方のための雇用関係助成金

  • 令和5年4月から開始となる助成金
    -キャリアアップ助成金(正社員化コース)/トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
  • 令和5年6月から開始となる助成金
    -労働移動支援助成金/中途採用等支援助成金/トライアル雇用助成金(一般トライアルコース以外)
    -地域雇用開発助成金/人材確保等支援助成金/通年雇用助成金
    -キャリアアップ助成金(正社員化コース以外)/両立支援等助成金
    -人材開発支援助成金

令和5年4月から各種助成金の変更が予定されています

 雇用、雇用後の教育・環境整備・賃金の見直し等に関する助成金は年度ごとに見直しをされます。令和5年度に変更が予定されている主な助成金を記載します。詳しくは下記URLをご参照ください。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000248980

Ⅰ.雇用保険法施行規則関係
1.65歳超雇用推進
助成金
生産性要件を廃止
2.労働移動支援
助成金
早期雇入れ支援コースの暫定措置(新型コロナウイルス感染症関係の加算)の廃止
3.特定求職者雇用
開発助成金
生涯現役コース奨励金の廃止に伴い、特定就職困難者コース助成金の対象に65歳以上の労働者を追加、被災者雇用開発コース助成金の廃止、就職氷河期世代安定雇用実現コース助成金の対象者の変更
4.トライアル雇用
助成金
新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース助成金の廃止
5.両立支援等助成金 生産性要件を廃止 一部コースについて、支給要件や助成額を変更
6.キャリアアップ
助成金
生産性要件を廃止 一部コースについては助成額を見直し
7.人材開発支援
助成金
生産性要件を賃上げに係る要件に切替、コースの統合
8.産業雇用安定
助成金
新型コロナウイルス感染症等の影響で急激に事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対して、事業再構築支援コースの新設
9.高年齢労働者処遇改善促進助成金 賃金増額割合などの支給要件、助成率の見直し
Ⅱ.労働施策推進法施行規則関係
1.職業転換給付金(特定求職者雇用開発助成金) 対象となる労働者に65歳以上を追加

70歳までの就労確保措置実施 令和4年の実施率は27.9%

 厚生労働省から公表されている令和4年「高年齢者雇用状況等報告」(6月1日現在)の集計結果によると、70歳までの高年齢者就業確保措置を実施している企業(常用労働者21人以上)は、前年調査から2.3ポイント増の27.9%でした。中小企業では28.5%(2.3ポイント増)、大企業では20.4%(2.6ポイント増)となっています。
 「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、令和3年4月1日から、70歳までを対象として、「定年制の廃止」や「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」という雇用による措置や、「業務委託契約を締結する制度の導入」「社会貢献事業に従事できる制度の導入」という雇用以外の措置の「いずれかの措置を講じるように努めなければならない」としています。
 実施された措置の内訳としては、「継続雇用制度の導入」21.8%(前年比2.1ポイント増)で最も多く、「定年制の廃止」3.9%、「定年の引上げ」2.1%、「創業支援等措置の導入」は0.1%でした。

新型コロナウイルスが5類に マスク着用と新型コロナワクチンの今後

 令和5年5月8日より新型コロナウイルスの感染法上の取り扱いが、2類から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられる予定です。分類の移行に先立ち、感染症対策としてのマスク着用の考え方が見直され、3月13日からはマスクの着用は個人の判断に委ねられることとなりました。原則は個人判断になりますが、企業が感染対策や事業場の理由等によって、従業員に着用を求めることは許容されています。
 新型コロナワクチンについて、厚生労働省は無料接種を令和6年3月31日までとし、令和5年度は特例臨時接種の実施期間を延長することとなっています。医療費についても自己負担となるなどの見直しがされる予定です。

令和5年度の年金額改定について

 「令和4年平均の全国消費者物価指数」を踏まえ、令和5年度の年金額は、
新規裁定者(67歳以下の方)は前年度から2.2%の引き上げとなり、既裁定者(68歳以上の方)は前年度から1.9%の引き上げとなります。
 しかし物価上昇分(2.5%)に追い付かず、実質的には新規裁定者は0.3%の目減り、既裁定者は0.6%の目減りとなります。

令和5年度雇用保険料率

 令和5年4月1日から令和6年3月31日までの雇用保険料率は以下のとおりです。

雇用保険料率


介護保険料本人負担平均 過去最高

 厚生労働省は、40~64歳の人が負担する介護保険料の推計が、令和5年度は平均で1人当たり月6,216円になり、前年度から111円増加する見通しを公表しました。
高齢化により介護サービスの利用者が増加し過去最高の更新が続いており、制度開始の令和2年度は月2,075円で、3倍近く膨らんでいます。
 なお、金額は企業や公費による負担分を含むものとなります。