社労士

コラム

「不合理な待遇差の禁止に対応するための見直し状況」
「時間外労働の割増賃金率の引き上げ」
人事労務関連レポート 2023年2月号

2023 年2 月3 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

不合理な待遇差の禁止に対応するための見直し状況

 2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)より、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間の不合理な待遇差が禁止されました。その対応状況を調査した「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の概況」が2022年11月に厚生労働省から公表されました。不合理な待遇差の禁止に対応するための見直し状況と見直しが行われた内容について確認します。
 不合理な待遇差の規定に対応するための企業の見直し状況は、「見直しを行った」企業の割合が28.5%、「待遇差はない」が28.2%、「見直しは特にしていない」が36%となっています。もともと待遇差がないか見直した企業が6割近くを占めましたが、「見直しは特にしていない」と回答した企業は、企業規模が小さくなるほど割合が高く、5~29人の企業規模では37.4%となっています。
 「見直しを行った」企業のうち、その実施内容(複数回答)をみると、「パートタイム・有期雇用労働者の待遇の見直し」が 19.4%と最も高くなっています。「正社員の待遇の見直し」「正社員の職務内容等の見直し」については、企業規模ごとにみてもあまり差がない状況となっています。

不具合な待遇差の禁止に対応するための見直し状況別企業割合


 「パートタイム・有期雇用労働者の待遇の見直し」を行った企業のうち、見直した待遇(複数回答)の内容については、「基本給」が45.1%と最も高く、「有給の休暇制度」が35.3%、「賞与」が26.0%と続いています。企業規模別にみると、企業規模が大きくなるほど「扶養手当」「その他の手当」は高くなっていますが、逆に「基本給」は低くなっています。
 再度検討を考えている会社は、今回の調査結果も参考にしながら検討を進めてはいかがでしょうか。

パートタイム・有期雇用労働者の見直した待遇別企業割合


 また、正社員と職務が同じであるパートタイム・有期雇用労働者の有無についてみると、「正社員と職務が 同じであるパートタイム・有期雇用労働者がいる」企業の割合は 21.5%となっており、正社員と職務が同じであるパートタイム・有期雇用労働者がいる企業について、1時間当たりの基本賃金(基本給)を正社員と比べてみると、「正社員と同じ(賃金差はない)」企業の割合は 46.9%、「正社員より低い」企業の割合は 41.3%、「正社員より高い」企業の割合は 7.4%となっています。また、「正社員より低い」企業のうち、正社員と比較した場合の1時間当たりの基本賃金(基本給)に対する割合をみると、「正社員の8割以上」が 20.9%と最も高く、次いで「正社員の6割以上8割未満」 17.6%、「正社員の4割以上6割未満」2.7%、「正社員の4割未満」0.2%の順となっています。

 出典:厚生労働省 令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の概況
    (パートタイム・有期雇用労働法の施行後の状況)

中小企業の月60時間超 時間外労働の割増賃金率の引き上げ

 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率50%以上適用義務について、本年4月1日以降は大企業だけでなく中小企業も割増賃金率引き上げの適用対象となります。月60時間超の時間外労働時間の算定には、法定休日の労働時間は含まれませんが、法定休日以外の所定休日に行った時間外労働は含まれます。
 また、1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金率及び1か月の起算日については、就業規則の変更が必要となる場合がありますので、早めにご準備ください。
 時間外、休日及び深夜の割増賃金について労働基準法 3 7条で規定されていますが、主に下記の3種類となり、以下の通りとなります。

種類 支給条件 割増賃金率
時間外労働 法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えたとき
※法定労働時間外労働が月60時間以下の場合
25%以上
法定時間外労働が月60時間を超えたとき 50%以上
深夜労働 法定労働時間内の深夜(22:00~5:00)労働 25%以上
法定時間外労働が月60時間以下の場合 50%以上
法定時間外労働が月60時間を超えたとき 75%以上
休日労働 法定休日に勤務したとき
※法定時間外労働が月60時間超えても割増賃金率は変更なし
35%以上
法定休日の勤務が深夜に及んだ場合
※法定時間外労働が月60時間超えても割増賃金率は変更なし
60%以上

 月60時間を超える時間外労働を行った場合には、労働者の健康を確保するため、引き上げ分の割増賃金の支払の代わりに有給休暇(代替休暇)をあたえることができます。代替休暇制度導入にあたっては、以下の4つの事項について労使協定を締結する必要があります。

  労使協定で定める事項

      ①代替休暇の時間数の具体的な算定方法
      ②代替休暇の単位
      ③代替休暇を与えることができる期間
      ④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

 また、代替休暇制度は、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務づけるものではなく、個々の労働者の意志により決定する制度となりますのでご注意ください。

雇用保険料0.2%引き上げされ原則の1.55%に変更

 厚生労働省は、新型コロナウイルス禍に伴い雇用調整助成金の利用が増えたことで圧迫している雇用保険財源を安定させるため、一般の事業の雇用保険料率を2023年4月から現在より0.2%引き上げて1.55%にする方針を固めました。労働者の負担は現在の0.5%から0.6%へ、事業主は0.85%から0.95%へ上がることとなります。

出産育児一時金4月から引き上げ、後期高齢者保険料も引き上げに

 子育て世帯の負担を軽減させるため、子どもが生まれた時に支給する出産育児一時金が、2023年4月から原則42万円から、50万円に増額されます。併せて出産育児一時金を増額するための財源を確保するため、後期高齢者が7%分を負担する仕組みが導入されます。
 それに加え75歳以上の後期高齢者の一部について、2024年度から保険料を引き上げる方針を固めました。
 保険料は激変緩和のため、2024年度から2段階で引き上げられます。2024年度は年収211万円超、2025年度は年収153万円以上の人の保険料が増額となります。
 また、高所得者が支払う保険料の年間上限額も現在の年額66万円から2024年度は73万円、2025年度は80万円に引き上げられます。

医療保険改革案ポイント

健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額の特例改定(特例措置)が終了

 令和2年4月から、新型コロナウイルス感染症の影響による休業により著しく報酬が下がった方について、事業主からの届出により、健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額を、通常の随時改定(4か月目に改定)によらず、翌月から改定を可能とする特例措置が延長されながら実施されていましたが、令和4年12月までを急減月とする改定をもちまして、終了になりました。令和5年1月以降を急減月とする特例措置はありません。