社労士

コラム

「ジョブ型雇用の実現」「安全・安心な職場環境の実現」などに
向けて実施すべき事 人事労務関連レポート 2023年1月号

2023 年1 月5 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

ジョブ型雇用の実現に向けて

政府の方針 労働移動の円滑化に向けて

 2022年10月、政府は新たな経済対策を閣議決定しました。「新しい資本主義」の加速を経済対策の柱の一つとし、「賃上げ」「労働移動の円滑化」「人への投資」の3つの課題の一体的改革を進め、構造的な賃上げを実現するとしています。課題の一つである「労働移動の円滑化」については「成長分野に移動するための支援策の整備や、年功制の職能給から日本に合った職務給への移行を個々の企業の実情に応じて進めるなど、企業間・産業間での失業なき労働移動円滑化に向けた指針を2023年6月までに取りまとめる。」と公表しました。
 近年の急速な労働市場、雇用環境の変化に、これまで日本で主流とされてきたメンバーシップ型の人事制度では対応しきれないことが懸念されており、その対応策として職務を定めて必要な人材を雇用するジョブ型の雇用が注目されています。政府はこれまでのメンバーシップ型(職能給)からジョブ型(職務給)への移行を進めるとしていますが、この二つの制度は人と仕事の結びつき方が全く異なるため、全面的な移行をするのは非常に難しく、それぞれの企業の状況に応じた対応が必要なります。


ジョブ型・メンバーシップ型とは

 ジョブ型とメンバーシップ型という言葉は、もともと日本と欧米の雇用システムを対比するために、独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎氏が作った言葉で、下記のように定義されます。

ジョブ型 初めに仕事(ジョブ)があり、そこにふさわしい人をはめ込む仕組み
メンバーシップ型 初めに人(社員)があり、それに仕事をあてがうという仕組み

 濱口氏は「日本以外の社会では、労働者が遂行すべき職(ジョブ)は雇用契約に明確に規定されます。しかし日本では、雇用契約に職務は明記されず、使用者の命令によって定まります。その意味では、日本の雇用契約は、その都度遂行すべき特定の職務が書き込まれる「空白の石版」といえるでしょう。いわば、日本における雇用のベースにあるのは「職務」(ジョブ)ではなく「成員」(メンバーシップ)なのです。これがさまざまな面に影響を及ぼしています。」と指摘しています。

ジョブ型雇用導入の課題

 濱口氏が指摘しているように、ジョブ型移行の流れに飛び乗ろうと、ジョブ型の本質を誤って理解し、具体的な検討をおろそかにしてしまうと、大問題や大混乱を招き、取り返しのつかない事態になりかねません。
 ジョブ型理論の誤った認識の代表例は『単なる成果主義を「ジョブ型」という言葉で代替している』ものです。この誤ったジョブ型理論で一番の問題は「労働時間ではなく成果で評価する」ととらえられている点です。ジョブ型で「成果で評価する」のは、ごく一部のハイエンドジョブ(マネジメント層や高度専門職)に限られ、大部分のジョブ型は査定・評価がありません。ジョブそのものが価値(賃金)とイコールだからです。
 また、もちろんですが、ジョブ型、メンバーシップ型、どちらの制度にもメリット・デメリットがあり、一概にどちらの制度が優れていると言えるものではありません。法律制度や社会的背景、国民の価値観の異なる欧米諸国ではうまくいく制度でも、日本で機能させるためには日本の雇用環境の実態、個々の企業における問題点を十分に把握し、導入に向けて慎重に進めていく必要があります。さらに、政府の目指す外部労働市場の活性化、労働移動の円滑化に向けては、労働移動によって社会全体で雇用維持するという考えのもと、その為の制度を丁寧に作っていく必要があります。

安全・安心な職場環境の実現に向けて

 近年「安心安全な職場環境づくり」が非常に重要なテーマとなっています。職場環境改善の第一歩は「安全・安心」であると考えており、この「安全・安心」は、どの職場においても必要不可欠な前提条件として具備されていなければならないものであり、快適な職場環境の実現と労働条件の改善は、法律上(労働安全衛生法や労働契約法、ハラスメント防止法)明記されている「事業主の責務」であり、法的根拠をもつことからも、事業主はリーダーシップをもって計画的に推進する必要があると言えます。
 また、事業主の「安全配慮義務」の範囲も拡大して捉えられるようになっており、従来よりも広い視野で情報をキャッチし、危険を予見したうえ、適切かつ迅速に対応していくことが求められています。

サービス産業における「安全確保」の取り組み

 様々な業種において、「安全確保」の取り組みが求められていますが、今回はサービス産業(第三次産業)における「安全」の視点の重要性について、解説していきます。従来「安全」というと、大きな危険を伴う業種で意識するものであり、サービス産業とは結び付きにくいものでした。しかし、近年の労働災害発生状況をみると重大(死亡)事故は横ばいであるものの、全体の労働災害発生件数は増加傾向にあり、特にサービス産業の労働災害発生件数は5年間で1.4倍、直近1年では1.2倍ほど増加しています。
 これまでの衛生委員会による衛生管理に関する活動だけでは不十分であることが示されており、早急に手を打たなければならない大きな課題となっています。労働災害増加の原因の一つとして、高齢者の雇用拡大に伴い「墜落・転落、転倒」が増加したことが挙げられます。こういった日常的に起こりうる様々な危険(身の回りに潜むいろいろな危険)を未然に防ぐため、「安全衛生委員会」を設置し、力を入れて安全確保に取り組むべきと言えるでしょう。

労働者死傷病報告
労働者死傷病報告

   出所:令和3年 労働者死傷病報告

 課題に真摯に向き合い、どんなリスクにどのように備えるべきか、そして実際に備えられたかどうか、「ふりかえり確かめていく」「検討を重ねて改善していく」「評価しながら強化していく」というリスクアセスメント手法が非常に有益です。大きな危険に備えるだけの「安全」にとどまらず、「労働安全衛生マネジメントシステム」を活用し、多様な業務上のリスクに対して、継続的に対応できる管理・運営に生かし、労働生産性の向上につなげていきましょう。

育児休業取得状況の公表の義務化へ

 男性の育児休業取得促進のために、常時雇用する労働者※が1,000人を超える事業主は育児休業等取得率の公表が義務付けられました。
 育児休業は「子を養育するための休業」であり、男女がともに育児に主体的に取り組むために、労働者が希望するとおりの期間の休業を申出・取得できるよう、事業主は上司・同僚の理解も含めて育児休業を取得しやすい雇用環境を整備することが重要です。
 公表内容は以下のとおりになります。詳細は下記URLの労働局資料をご参照ください。
(図内の注釈につきましてもこちらをご参照ください。)
育児休業の取得の状況の公表について


公表内容


※「常時雇用する労働者」とは、雇用契約の形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者を指すものであり、次のような者は常時雇用する労働者となります。

  • 期間の定めなく雇用されている者。
  • 一定の期間を定めて雇用されている者又は日々雇用される者であってその雇用期間が反復更新されて事実上期間の定めなく雇用されている者と同等と認められる者。
    (すなわち、過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者又は雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者)

子育て時短勤務に現金給付

 政府は、育児休業明けで子育てのため勤務時間を短くして働く人向けに、新たな現金給付制度を創設する方向で検討に入りました。給付は雇用保険加入者が対象で、賃金の一定割合の金額を雇用保険から拠出し、上乗せする案で調整を行っています。
 時短勤務には、育児休業の期間が終わった後にも仕事を続け、徐々に本格的な復帰を目指してもらう目的がありますが、育児と仕事の両立に不安を抱え、賃金も減ってしまうため働く意欲が低下し、離職に繋がりやすいことが課題としてあります。今回の給付金の目的は、金銭面での不安を解消させ、働く意欲の低下を防ぐことによってその課題を解決し、就労継続を促すことだと考えられています。
 本件については令和6年の通常国会に提出を目指しており、正式に発表され次第またお知らせいたします。

協会けんぽ 申請書の様式が変更されます

 全国健康保険協会(協会けんぽ)は令和5年1月に、より分かりやすくすること、より記入しやすくすること、より迅速に給付金をお支払いすること等を目的として、各種申請書の様式を変更します。
 なお、令和5年1月以降に旧様式で申請された場合、事務処理等に時間要することがありますので、新様式のご使用をお願いします。
 詳細はこちらをご参照ください。
申請書の様式変更について

様式を変更する主な申請書

国税庁 令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&Aを公表

 給与等及び公的年金等について、国外居住親族に係る扶養控除等の適用を受ける場合には、その親族に係る親族関係書類や送金関係書類の提出又は提示をすることとされています。
 また、令和5年1月からは、国外居住親族に係る扶養控除の適用を受ける一定の場合には、「留学ビザ等書類」や「38万円送金書類」の提出又は提示も必要とされました。国税庁では、この国外居住親族に係る扶養控除等に関する事項を、Q&Aとして取りまとめ、公表しました。
詳細はこちらをご参照ください。
国外居住親族に係る扶養控除等Q&A

雇用調整助成金の特例措置(コロナ特例)の経過措置について
<令和4年12月以降>

 雇用調整助成金の助成内容は令和4年12月以降、通常制度となりますが、業況が厳しい事業主については一定の経過措置が設けられます。経過措置の対象範囲に該当する場合の令和4年12月1日から令和5年3月31日までの助成内容等は以下のとおりとなります。

助成内容等

経過措置の詳細はこちらをご参照下さい。
雇用調整助成金の特例措置(コロナ特例)の経過措置について