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コラム

中小企業におけるジョブ型人材マネジメント
~採用・異動配置・人材育成のポイント~

2022 年12 月02 日

諏訪内 翔子(すわない しょうこ)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット

HR第3部 コンサルタント諏訪内 翔子

人材マネジメント変革支援、人事制度設計・導入支援コンサルティングに従事

 様々な媒体でジョブ型雇用の人材マネジメント(以下、「ジョブ型人材マネジメント」)が議論されているものの、その内容は職務等級・評価・報酬制度といった基幹人事制度が中心で、かつ大企業にフォーカスされていることが多い。本稿では、基幹人事制度以外の施策(採用・異動配置・人材育成)について、中小企業におけるポイントを中心に解説する。

ジョブ型人材マネジメントとは

 そもそもジョブ型人材マネジメントとは、組織に必要な職務(=ポジション)を定義し、職務ベースで人材を採用・配置・育成し、担う職務の価値に応じて人材を処遇する包括的な取り組みである。(下図参照)

ジョブ型人材マネジメント
(出所) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 作成

 基幹人事制度の検討は重要であるものの、より導入効果を最大化するためには、採用・異動配置・人材育成といった基幹人事制度を取り巻く人事施策もジョブ型人材マネジメントのパラダイムに変えていくことが重要である。
 なお、本稿での説明は省略するが、人材マネジメント施策の前提として、組織設計や風土改革等も重要な取り組みといえる。

採用のポイント

 特に大企業において、これまでは職種非限定の新卒一括採用が主流であったが、近年はジョブ型人材マネジメントのもとで職種別採用や通年採用を導入する企業も見られる。
 一方、中小企業においては従来から中途採用がメインであり、欠員、つまりポジションに空きが出た場合に都度募集を行うケースも一定程度あった。これはジョブ型人材マネジメントの考え方と整合するため、採用方針を大きく転換するというよりは、より内容を高度化していくことがポイントとなる。
 例えば、具体的な職務内容を採用時に書面(簡易的な職務記述書のようなもの)で明示し、それに基づき報酬水準を設定することが考えられる。「社内のXXさんと同じ年齢だから報酬水準はXXさんと同じくらい」といったような年齢等の属性ではなく、あくまで入社後に担う職務に応じた報酬設定をすることがポイントである。特にITやDX人材は労働市場全体で不足していることから、年齢や社歴といった社内公平性よりも外部労働市場価値に見合った処遇設定が採用競争力を高めるために重要だといえる。
 とはいえ、中小企業は大企業に比べて個人別に職務を切り分ることが難しいケースも多い。職務内容を書面に記載する際は、ある程度大ぐくりにして運用しやすいようにするか、最初から様々な業務を行ってもらうことを想定している場合には、業務内容を幅広く記載しておくことも考えられる。その際は、前提として一度社内で業務分担を整理・見直しをすることも重要である。

異動配置のポイント

 メンバーシップ型の組織では、会社主導で職種(部門)をまたぐ異動や、転居転勤を伴う異動が行われることが一般的であった。中小企業においても、大企業ほど職務内容が大きく変わる異動や転居を伴う異動は少ないものの、基本的な考え方は共通しているといえる。
 一方で、ジョブ型人材マネジメントのもとでは原則会社主導の人事異動はない。とはいえ、一足飛びに会社主導の人事異動を廃止するのは非現実的なため、本人の事前同意のもとで異動を行う、毎年の人事評価面談などでキャリア意向を十分に確認しておくこと等が施策として考えられる。
 また、ジョブ型人材マネジメントにおいては「自律的なキャリア形成」がキーワードとなる。そのため、社員のチャレンジを促すような公募の仕組みを検討することも考えられる。社員から手が挙がらない/公募ポジションが限られる等で費用対効果が得られにくい場合は、新しい職務にチャレンジしたいという意向がある社員に対して期間限定で兼務可能とする等、様々な工夫も想定される。

人材育成のポイント

 ジョブ型人材マネジメントのもとでは、年齢や社歴問わずポジションベースで処遇されることから一律の階層別研修は馴染みにくい。したがって、職種別研修の拡充や、自身の目指すキャリアに応じて必要な知識やスキルを自律的に学ぶ機会を整備する(例:e-learning等の自己啓発コンテンツの拡充、費用の一部援助等)ことが重要である。
 特に中小企業は1研修あたりの受講人数が大企業に比べて少ないため、費用対効果の観点で外部の人材育成コンテンツを使うことが想定される。ただし、本人に自由に受講させるのでは効果が薄いため、キャリアプランシートを用いて上司と部下で学習計画を作成し、それに基づきコンテンツを選んでいく等の工夫が必要だろう。人事部としては、キャリアプランシート等のコミュニケーションツールの整備・上司と部下の面談状況の確認・会社としての推奨コンテンツの提示等の側面支援の役割が期待される。

最後に

 本稿で紹介した各種人事施策は一例である。自社のあるべき姿を検討したうえで、必要な施策を検討することが重要である。また、自社の現状から大きく乖離した施策を導入しても現場からの反発や制度の形骸化を招いてしまうため、段階的導入の検討等も必要だといえる。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部 組織人事ビジネスユニット

HR第3部 コンサルタント諏訪内 翔子(すわない しょうこ)

  • 経歴

    三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社入社後、人材マネジメント変革支援、人事制度設計・導入支援コンサルティングに従事

  • プロジェクト実績

    人材マネジメント変革支援
    人事制度設計・導入支援
    人材育成体系構築支援
    ジョブ型人材マネジメント変革支援
    役員指名・報酬制度設計・導入支援

  • 専門領域

    人材マネジメント・人事制度設計全般