コラム
ウィズコロナ時代に求められる
「多様で柔軟な働き方」実現のポイント
2022 年10 月13 日

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット
HR第1部 コンサルタント加藤 瑛里子
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社入社後、
人材マネジメント変革支援、人事制度設計・導入支援コンサルティングに従事。
2022年6月、政府は経済財政運営の指針である「骨太方針2022」の中で、新しい資本主義に向けた改革方針を打ち出した。新しい資本主義に向けた重点投資分野の冒頭に「人への投資と分配」を掲げ、人的資本投資の取り組みとともに、働く人のエンゲージメントと生産性を高めることを目指した「働き方改革」、および個々人のニーズに基づいた「多様な働き方」の実現と環境整備を目指している。
1. 多様で柔軟な働き方とは
「多様で柔軟な働き方」の確立した定義はないが、特定の雇用形態に依らない「多様性」と職務内容・勤務時間・勤務場所の「柔軟性」を、個々人のキャリア志向やニーズに沿って選択できる働き方、を指すことが多い。
具体的な雇用形態としては、正社員だけでなく、派遣社員や契約社員、パートタイム労働者等の雇用契約による働き方、業務委託・請負契約によるフリーランスの働き方等、多様な働き方がある。また勤務時間の柔軟性を実現できる、みなし労働時間制やフレックスタイム制、勤務場所の制約を克服できるテレワーク、が挙げられる。
観点 | 多様で柔軟な働き方の実現に向けた具体的施策(例) |
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雇用形態/職務内容 |
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勤務時間 |
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勤務場所 |
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本稿では、「多様で柔軟な働き方」の実現に向けた政府の取り組み・支援策を踏まえ、各企業で実現していくためのポイントを考えていきたい。
2. 「多様で柔軟な働き方」の実現に向けた政府の取り組み
~新型コロナウイルス流行前の取り組み
新型コロナ流行に伴い「多様で柔軟な働き方」は大きなトピックとして取り上げられることが増えたが、政府方針としては、第二次安倍内閣の成長戦略、日本再興戦略2013から既に掲げられていた。労働時間法制や労働者派遣制度といった、多様で柔軟な働き方が可能となる法制度の見直しを進めたのがきっかけだ。
政府は2016年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定し、子育てや介護と仕事を両立する人、女性、高年齢者、障害者等すべての人が「多様で柔軟な働き方」を実現できる社会の創造を目指した。誰もが活躍できる一億総活躍社会を創造することで、少子高齢化の進展による労働力不足解消の一助とすることが狙いであり、実現に向けた最大のチャレンジとして「働き方改革」を位置づけた。
2017年3月に公表した働き方改革実行計画の中では、「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」、「賃金引上げと労働生産性向上」、「高齢者の就業促進」等、9つの検討テーマが示された。テーマの1つとして掲げられた「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の中で、これまでは女性活躍や育児・介護・私傷病等と仕事の両立支援の手段の1つだったテレワークが、具体的な対応策の1つとして明示され、積極的な導入が進められた。
~ウィズコロナ時代における取り組み
2017年以降は、未来投資会議において議論が進められた「Society5.0」実現に向けた改革方針としてデジタル化をメイントピックとしつつ、働き方改革実現に向けた取り組みも継続的な検討が進められた。2019年12月から新型コロナが流行すると、「成長戦略2020」においては「新しい働き方の定着」が冒頭に掲げられ、「副業・兼業やフリーランスの環境整備」「リカレント教育」のテーマがクローズアップされ、推進が急がれることとなった。
多様で柔軟な働き方の実現に向けては、以前から継続的な議論がなされてきたため、政府の支援策として、厚生労働省のホームページにガイドラインや参考資料の掲載が充実している。参考にしていただきたい。
具体的施策(例) | 参考にすべきガイドライン(例) |
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パートタイム・有期雇用 | 「多様な働き方の実現応援サイト」ⅰ(正社員との不合理な待遇差の解消、企業の取組事例、法対応チェックツール 等) |
業務委託・請負契約 | 「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」ⅱ |
多様な正社員、ジョブ型雇用(限定正社員) |
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副業・兼業 | 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」ⅳ |
裁量労働制 |
「専門業務型裁量労働制の適切な導入のために」ⅴ 「企画業務型裁量労働制の適正な導入のために」ⅵ |
フレックスタイム制 | 「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」ⅶ |
週休3日制 | 「多様な働き方の実現応援サイト」(週休3日制) |
転勤有無の選択 | 「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」ⅷ |
テレワーク | 「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」ⅸ |
3. ウィズコロナの時代において、各企業で「多様で柔軟な働き方」を実現するためのポイント
~新型コロナ流行に伴う変化(企業のテレワーク導入・浸透、社員の意識変化)
多様で柔軟な働き方の実現に向けて、以前から政府の取り組みは進められてきたものの、法律やガイドラインの整備にとどまり、各企業での導入・浸透は不十分な面が大きかった。この環境を大きく変えたのが、新型コロナの流行だった。新型コロナ流行の影響を受けて、各企業における社員の働き方や、働き方に合わせた人事実務には大きな変化があった。出社制限やテレワークの実施に伴い、多くの企業では、ルール作りやオンラインでの業務が可能な環境整備、オンライン環境下での労務管理や業務指示を含むマネジメントスタイル変革の必要に迫られた。
新型コロナ流行に伴い、社員の働き方に対する意識も変化した。内閣府の調査(第5回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査2022ⅹ)によると、新型コロナ流行前の2019年12月と比較して、働くうえで重視するようになったものとして、テレワーク経験者の約40.9%が「柔軟な働き方ができること」を選択した。新型コロナ感染拡大への対応策としてだけでなく、社員が働きやすい環境を整備することが、社員の定着・活躍を促す大きなファクターの一つを占めるようになってきたと言えるだろう。
~新型コロナ流行に伴う変化に対し、各企業はどのように対応すべきか?
テレワークを中心とした多様で柔軟な働き方は急激にその導入・浸透が進んだが、急場しのぎの対応があり、各企業の事業・組織運営や社員ニーズに合致した対応まで検討する余裕がなかったことが想定される。今後もウィズコロナ時代が続くことが想定されるため、まずは自社の人事課題を整理したうえで、「多様で柔軟な働き方」の目指す姿や実施の目的を明確化することが重要である(下記Step1)。経営の方針を整理したうえで、社内ニーズをアンケートやインタビューにより調査し、実施の根拠づけや明確化を図りたい(Step2)。目指す姿や社員ニーズに沿って、実施すべき施策の優先順位づけを行ったうえで、各施策の設計を進めていくことが望ましい(Steap3/4)。
【参考】多様で柔軟な働き方の実現に向けた検討ステップ

近年、クライアントから「ジョブ型雇用を含む人事制度の改定」、「テレワーク環境下での人材育成・人事評価」、「人事異動・転勤方針や、勤務時間・勤務場所を選択できる柔軟な働き方」、「コロナ禍での離職率の高まりへの対応」について相談を受けることが増えてきた。こうした取り組みテーマは、一見するとそれぞれが異なる取り組みのようにも見えるが、各クライアントの悩みを聞くと、似たような人事課題を抱えていることも多い。人材マネジメントの一連の取り組み(採用、異動配置、人事制度・就業条件、育成、代謝まで)が相互に関連しているため、全体を俯瞰したうえで検討を進めない限り、根本的な課題解決に至らない可能性が高い。
ウィズコロナの時代に突入し、緊急事態宣言下に発生した実務的・即物的な対応だけでなく、長期的な視点をもって、人材マネジメント全体を俯瞰した検討を進めていくことが今後一層求められる。各企業において、取り巻く事業環境を踏まえ、自社の組織運営に合った形で、社員それぞれが多様で柔軟な働き方を選択・活躍できる環境づくりを目指していただきたい。
ⅱフリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)(令和3年3月26日)
ⅲ勤務地などを限定した「多様な正社員」の円滑な導入・運用に向けて(厚生労働省・都道府県労働局)
ⅳ副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省)(令和2年9月改定)
ⅴ専門業務型裁量労働制の適切な導入のために(東京労働局・労働基準監督署)
ⅵ企画業務型裁量労働制の適正な導入のために(東京労働局・労働基準監督署)
ⅶフレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き(厚生労働省・都道府県労働局)
ⅷ転勤に関する雇用管理のヒントと手法(厚生労働省 雇用均等・児童家庭局)(平成29年3月30日)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部 組織人事ビジネスユニット
HR第1部 コンサルタント加藤 瑛里子(かとう えりこ)
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経歴
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社入社後、人材マネジメント変革支援、人事制度設計・導入支援コンサルティングに従事
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プロジェクト実績
人材マネジメント変革支援
人事制度設計・導入支援
定年延長・再雇用制度導入支援
組織改革・人材育成支援コンサルティング -
専門領域
人材マネジメント・人事制度設計全般