社労士

コラム

「労働安全衛生活動推進」「パワハラを理由とする分限免職」の
情報など 人事労務関連レポート 2022年12月号

2022 年12 月9 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

労働安全衛生活動を推進しましょう

職場の安全安心は職場環境改善の第一歩
 労働安全衛生法は「事業者」に法に定める労働災害の防止だけではなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保することを義務付けています。職場の安全と健康と快適な職場環境作りを実践している企業等の取り組みの情報の共有・学びの場として全国産業安全衛生大会が、本年度10月19日から21日まで福岡で中央労働災害防止協会主催で実施されました。
 コロナ前は、1万人程度参加する大規模なイベントで、安全管理活動分科会等14の分科会で活動の報告、質疑応答等活発な活動が3日間行われました。
 参加の多くは製造業、運輸業等危険・有害作業を伴う事業者でしたが、安全、安心、健康についてはサービス産業にとっても取り組むべき重要な課題です。サービス産業の業務は生命や疾病、傷害の危険を伴う作業という認識はありませんが、高齢者活用の拡大に伴って介護福祉施設、飲食業において傷害、疾病の発生が増加傾向にあり、看過できない重要な課題と指摘されています。
 労働安全衛生マネジメントシステムの中でも重要なリスクアセスメントは業務上様々な問題解決に応用ができる有益な手法です。安全活動を単なる「安全」領域に終わらせず、日常活動に対する様々な事故・リスクに対する改善活動につなげて、快適な職場作りと生産性向上を推進できます。
 こうしたことを踏まえるなら、職場環境の改善の第一歩は、安全・安心な職場作りからです。

パワハラを理由とする分限免職

 パワーハラスメントを理由とする分限免職(業務の効率化を目的として、勤務実績や適格性の欠如などを理由に公務員を降格させたり休職させたりする分限処分のうち最も重い免職処分)の有効性が争われた裁判で、9月13日、最高裁第三小法廷は処分を違法とした一・二審の判断を覆し、免職を有効と判断しました。

 山口県長門市消防本部の消防職員であった男性が、部下にパワハラを繰り返したとして任命権者である長門市消防長から分限免職処分を受け、男性がこれを不服として処分の取り消しを求めた事案です。判決によると、男性は2008年4月から2017年7月までの間、消防職員約70人のうち、部下等の立場にあった約30人に対し、約2㎏の重りを放り投げて頭で受け止めさせるなどの暴行、「殺すぞ」「お前が辞めた方が市民のためや」といった暴言、卑猥な言動、プライバシーにかかわる事項を無理に聞き出したりする行為、報復の示唆等約80件のパワハラ行為を行ったとされています。
【一審・二審の判断】
 一審の山口地方裁判所、二審の広島高裁はいずれも処分を違法として取り消していました。消防吏員としての素質、性格等には問題があるが、市の消防組織においては、公私にわたり濃密な人間関係が形成され、ある意味開放的な雰囲気が形成されており、粗野な言動を助長する風潮があったほか、上司が部下に対して厳しく接する傾向にあり、本件の各行為もこうした職場環境を背景として行われたものと判断したものです。今回の処分に至るまで、今日の社会的要請であるパワハラ防止研修を行った事実がうかがわれず、男性に自身の行為を改める機会がなかったことも考慮し、男性個人の簡単に矯正することのできない素質、性格等にのみ起因して行われたものとはいい難いから、処分は重きに失し、違法とされました。
【最高裁の判断】
 最高裁は、以下のように指摘しています。各行為が5年を超えて繰り返され、その数も約80件に上ります。行為の対象となった消防職員も多数であるばかりか、消防職員全体の半数近くを占めています。行為の内容も、刑事罰を科されたものを含む暴行、暴言、極めて卑猥な言動、プライバシーを侵害した上に相手を不安に陥れる言動等、多岐にわたっています。こうした行為に現れた男性の性格につき、公務員である消防職員に要求される適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえず、また、行為の頻度等も考慮すると、性格を簡単に矯正することはできず、指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることも不合理ではありません。さらに、消防組織においては職員間で緊密な意思疎通を図ることが住民の生命や身体の安全を確保するために重要で、男性の報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、男性を消防組織内に配置したまま適正な運営を図ることは困難であるとされました。
 任命権者には一定の裁量権が認められますが、合理性を持つとして許容される限度を超えるものである場合は、裁量権の行使を誤った違法のものであることを免れません。免職の場合は公務員の地位を失うという重大な結果になることから、判断については、特に厳密、慎重であることが要求されます。しかし、度を越え、組織を適正に運営することを困難にするようなハラスメントは看過されるべきものではありません。今回の判決においては、免職という重大な結果を生じるという点を考慮しても、分限免職をした消防長の判断は合理性の範囲内ということができ、裁量権の行使を誤った違法のものであるということはできないとされ、消防組織において上司が部下に厳しく接する傾向等があったとしても、パワハラ行為の違法性には通常の組織の場合と何ら変わることはないと判断されました。

「令和4年版 過労死等防止対策白書」を公表 ~厚生労働省

 政府は、10月21日、過労死等防止対策推進法に基づき、「令和4年版 過労死等防止対策白書」を閣議決定し、これが厚生労働省から公表されました。この白書は、法律に基づき国会に毎年報告を行う年次報告書となっていて、7回目となる今回の白書の主な内容は、以下のとおりです。

≪令和4年版過労死等防止対策白書の主な内容≫
  1. 「過労死等の防止のための対策に関する大綱(令和3年7月30日閣議決定)」に基づき、新型コロナウイルス感染症やテレワークの影響に関する調査分析等について報告
  2. 長時間労働の削減やメンタルヘルス対策、国民に対する啓発、民間団体の活動に対する支援など、昨年度の取組を中心とした労働行政機関などの施策の状況について詳細に報告
  3. 企業における長時間労働を削減する働き方改革事例やメンタルヘルス対策等、過労死等防止対策のための取組事例をコラムとして紹介

 昨今の長期化する新型コロナウイルス感染症の対応は、引き続き、労働環境にも大きな影響を及ぼしていて、人手不足による過重労働が一部の職場で明らかになっていることから、過労死等が発生しないよう、その対策をより一層推進する必要があり、また一方で業種によっては、所定外労働時間に減少傾向がみられたが、ウィズコロナ・ポストコロナ時代を迎えるに当たり、生産性を高めつつ、労働時間の短縮等を含む働き方改革を実現していくことが重要であると述べています。
 さらに、「新しい働き方」として広がってきたテレワークは、労働者にとって、働く時間や場所を柔軟に活用できる働き方であり、通勤時間の短縮による心身の負担の軽減が図れ、また、使用者にとっても、育児や介護等を理由とした労働者の離職の防止や、遠隔地の優秀な人材の確保ができる等のメリットがある一方で、仕事と生活の時間の区別が曖昧となり労働者の生活時間帯の確保に支障が生じるおそれがあること、労働者が上司等とコミュニケーションを取りにくい、上司等が労働者の心身の変調に気付きにくいという状況となる場合もあることや、ハラスメントが発生するおそれがあることにも留意する必要があるとして、都道府県労働局・労働基準監督署においては、長時間労働の削減に向けた取組の徹底、過重労働による健康障害の防止、メンタルヘルス・ハラスメント防止の対策について、引き続き重点的に取り組むとしています。

協会けんぽ 健診自己負担額軽減、対象年齢拡大

 全国健康保険協会(協会けんぽ)は、一般健診の自己負担軽減措置を令和5年度より開始することを決定しました。黒字が続いたことで積みあがった準備金の還元策として検討が進められ、令和6年度実施予定となっていましたが、事業主代表委員からの早期開始を求める意見を受け、一年前倒しで開始されることになりました。具体的な内容は次の通りです。付加健診についても変更があります。

令和5年度より 自己負担割合の軽減
  • 生活習慣病予防健診(一般健診) 現在の38%から28%に引き下げ
  • 生活習慣病予防健診(乳がん検診・子宮頸がん検診)・肝炎ウイルス検査
    現在の30%から28%に引き下げ
  • 付加健診 現在の50%から28%に引き下げ
令和6年度より
  • 付加健診 対象年齢 40歳、50歳 → 40歳から5歳刻みで70歳までに拡大

 協会けんぽはこれらの措置の年間所要額を250億円ほどと見積もっていますが、財政的な影響は軽微なものであり、直ちに保険料率に影響するようなものではないとしています。今回の措置は、健診実施率の向上ひいては疾病の早期発見を狙いとしています。昨今の高年齢労働者の増加に伴う従業員の健康確保強化の必要性から、これを機に健診の確実な実施とより充実した健康管理措置の検討をおすすめします。

中小企業の月60時間中小企業の月60時間超 時間外労働の割増率引き上げ超 時間外労働の割増率引き上げ

 令和5年4月1日から、中小企業の月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50パーセントに引き上げられます。平成22年4月1日から大企業には適用されていましたが、中小企業には猶予措置が取れていたものです。これまでより一層、労働時間の適正な把握が企業に求められます。また、割増賃金率の引き上げに合わせて就業規則の変更が必要となりますので、早めにご準備ください。
(※)中小企業に該当するかは、①また②を満たすかどうかで企業単位で判断されます。

業種 ①資本金の額または出資の総額 ②常時使用する労働者数
小売業 5000万円以下 50人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
上記以外のその他の業種 3億円以下 300人以下

オンライン事業所年金情報サービス(仮称)

 日本年金機構は、令和5年1月より毎月の社会保険料額等の情報※をオンラインで受領・確認できるサービスの開始を予定しています。(※社会保険料額情報、増減内訳書、届出に必要な被保険者データ等)
GビズIDでe-Govから電子申請を利用されている方は、サービス開始後、すぐにご利用できます。

≪メリット≫
  1. オンラインで情報を取得できる
    各種情報の受領・確認がオンライン上で完結するため、電話による郵送依頼や毎月の社会保険料額の確認は不要です。 初回の利用登録以降は、定期的に受領できます。
  2. 早期に確認できる
    毎月の社会保険料額を納入告知書等が到着する前に確認できます。
  3. データの取得がスムーズ
    電子申請に活用できる被保険者データをオンラインで取得できます。

デジタル給与2023年春解禁

 キャッスレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用するニーズも一定程度見られることから、賃金の通貨払の原則の例外としてこれまで認められていた口座振込等に加え、一定の要件を満たした場合には、労働者の資金移動業者の口座への賃金支払を可能とすることとなります。
 資金移動業者の口座への賃金支払を行う場合には、労働者が銀行口座又は証券総合口座への賃金支払も併せて選択できるようにするとともに、当該労働者に対し、資金移動業者の口座への賃金支払について必要な事項を説明した上で、当該労働者の同意を得なければなりません。