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コラム

「戦略的な人への投資」「長時間労働が疑われる事業場への対応」の情報など 人事労務関連レポート 2022年11月号

2022 年11 月4 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

戦略的な人への投資についての重要性の高まり

 これまで企業価値とは主に財務状況を指標として測られてきており、その中で人材はコストとみなされてきました。しかし近年、働き方の多様化や技術革新が進む中で企業や機関投資家の間では、人材とはコストではなく、企業の価値を生み出す重要な資本とみなすという考え方が広がってきており、そのような中でいかに人材に対して投資をし、企業価値を高めていくかに焦点を当てた人的資本経営が重要視されるようになってきました。
 既に、海外では人的資本についての情報開示が義務付けられました。ヨーロッパでは2017年以降に企業に対して人的資本に関する情報の開示が義務付けられ、アメリカでは2020年に、証券取引監視委員会が人的資本の開示を義務化する規制が追加されました。
 我が国においても今年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2022」いわゆる「骨太方針2022」が閣議決定され、その中で今年中に人的資本などの非財務情報の開示ルールを策定するとされています。また、経産省・金融庁支援のもと、今年8月に「人的資本経営コンソーシアム」が発足しました。ここでは、リスキリング(学び直し)や副業・兼業の支援など「人への投資」について先進事例の共有や企業間での協力に向けた議論、効果的な情報開示の検討等が行われる予定となっており、企業価値の向上につなげる「人的資本経営」を官民一体で推し進められています。

人的資本への投資について直近の動き

 岸田首相が提唱している新しい資本主義の第一の柱として強調していることは、官民で連携し学び直しの取り組みで、人への投資を企業経営の中核に据えリスキリングを進めるということです。
 非連続なイノベーションの実現、長年にわたり大きな賃上げが実現しないという構造的な課題に対応するためには、リスキリングがカギになると主張しています。これを受けて、人への投資にこれまで3年で4千億円としてきたところ、5年で一兆円に拡充することが発表されました。この取り組みを含めて、賃上げと労働移動の円滑化、人への投資という3つの課題の一体的解決を進めるとされています。
 こうしたことを受けて、厚生労働省が今年8月にまとめた令和5年度の予算案には、新しい資本主義の実現に向けて成長と分配の好循環を図る人への投資に関する施策が多く盛り込まれています。主な施策としては、労働者の学び直しを支援する観点からジョブカードを活用したキャリアコンサルタントの機会を提供するキャリア形成・学び直し支援センター(仮称)を全国20か所に設置する新事業の要求、雇用保険の教育訓練給付金の対象講座を拡充してデジタル関連分野など成長分野の訓練機会の増強、労働者のスキルアップを目的とする観点からスキルアップ支援コース(仮称)の新設等があります。

 リスキリングに関しては、下記の通り本年6月にガイドラインが作成されました。カイドラインの内容を参考に取り組まれることをお勧めします。


【職場における学び・学び直し促進ガイドラインの策定(令和4年6月)】

 職場における人材開発(人への投資)の抜本的強化を図るため、労使双方で取り組むべき事項等を体系的に示すため、ガイドラインが策定されました。ガイドラインは、変化の時代における労働者の「自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直し」の重要性と、学び・学び直しにおける「労使の協働」の必要性を強調し、労使双方で実践に資するよう、①基本的な考え方、②労使が取り組むべき事項、③公的な支援策の3部で構成しています。


https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/guideline.html
人的資本への投資の動きが活発になっていく中、企業もより人的資本の重要性と理解を深めていくことが求められています。

長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導

 厚生労働省では、令和3年度に長時間労働が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した、監督指導の結果を監督指導事例と共に公表しました。この監督指導は、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場を対象としています。
 対象となった32,025事業場のうち、10,986事業場(34.3%)で違法な時間外労働を確認したため、是正・改善に向けた指導を行いました。なお、このうち実際に1か月当たり80時間を超える時間外・休日労働が認められた事業場は、4,158事業場(違法な時間外労働があったもののうち37.8%)でした。
 また、今年度より、11月の「過重労働解消キャンペーン」期間中に重点的に実施した監督指導結果も本公表で集計を行い、より分かりやすく公表することになりました。
 厚生労働省では、今後も長時間労働の是正に向けた取組を積極的に行うとともに、11月の「過重労働解消キャンペーン」期間中に重点的な監督指導を行います。11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、過労死等をなくすためにシンポジウムやキャンペーンなどの取組を行います。この月間は、「過労死等防止対策推進法」に基づくもので、過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し、関心と理解を深めるため、毎年11月に実施しています。月間中は、国民への啓発を目的に、各都道府県において「過労死等防止対策推進シンポジウム」を行うほか、「過重労働解消キャンペーン」として、長時間労働の是正や賃金不払残業の解消などに向けた重点的な監督指導やセミナーの開催、一般の方からの労働に関する相談を無料で受け付ける「過重労働解消相談ダイヤル」などを行います。

有期契約労働者の無期転換権、企業へ対象者に通知義務化へ

 厚生労働省は、就業期間の期限があるアルバイトや契約社員が無期雇用に切り替えやすくなるよう制度を見直します。同じ企業で有期労働契約が5年を超えて更新され、無期転換の権利を得る労働者に、企業側が個別に通知するよう義務付ける方向で検討に入る予定とされています。「無期転換ルール」を知らずに有期雇用で働き続ける人が一定数いるとみられ、周知を徹底することが狙いです。
 これに伴い、労働条件の明示を定める労働基準法の省令が年度内にも改正される見通しです。無期転換を申し出る権利があることのほか、行使した場合の待遇など労働条件の通知を義務付ける予定で、通知時期については権利発生後最初の契約更新時のほか、その後の契約更新ごとに都度、また権利発生前から十分な説明を求める意見もあるとのことです。契約更新回数などに上限を設定し、数年で契約を終える運用をしている場合も、上限の有無を事前に労働者側に明示することも義務化し、上限の有無が不明確だったことに起因する労使トラブルを未然に防ぎ、新たに更新上限を設ける場合は、既存の有期雇用の労働者に説明するよう求める等の変更がある見通しです。
 無期転換ルールに関しては、平成25年4月、非正規労働者らの雇用安定などを目的に始まり、企業の「採用の自由」を制限し、労働市場の需給調整機能をゆがめるとの指摘もあります。施行から8年後に制度を見直す規定に従い、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)分科会で議論されていますが、制度の根幹は「見直さなければならない問題が生じている状況ではない」との考えを示しています。
 令和3年の厚労省が行った調査では、対象の有期契約労働者のうち、無期転換ルールについて何かしら知っていると回答したのは全体の38.5%に留まっており、労働者側の認知が進んでいない状況が続いている為、今回の改正を前に一度運用を見直してみてはいかがでしょうか。
厚生労働省無期転換ポータルサイト

業務改善助成金(特例コース)が拡充されます

 「業務改善助成金特例コース」は、新型コロナウイルス感染者の影響により売上高等が30%以上減少した中小企業事業者等を支援する助成金です。令和4年9月1日から業務改善助成金特例コースの受付を再開するとともに対象期間と申請期限を延長し、原材料費の高騰などで利益率が5%ポイント以上低下した事業者を対象に追加するなどの拡充を行いました。

【拡充のポイント】

  1. 申請期限と賃上げ対象期間を延長します
  2. 変更前 変更後
    申請期限 令和4年7月29日まで 令和5年1月31日まで
    賃上げ
    対象期間
    令和3年7月16日から
    令和3年12月31日まで
    令和3年7月16日から
    令和4年12月31日まで
  3. 対象となる事業者を拡大し、助成率も引き上げます
  4. 助成対象事業者の追加 「原材料費の高騰など社会的・経済的環境変化等外的要因により利益率が前年同月に比べ5%ポイント以上低下した事業者」を追加します。
    売上高等の比較対象期間見直し 売上高等が30%以上減少した事業者の売上高等の比較対象期間を見直します。
    見直し前:令和3年4月から[令和3年12月まで]
    見直し後:令和3年4月から[令和4年12月まで]
    ※比較対象期間を2年前まで⇒3年前までに変更
    助成率の
    引き上げ
    【一律3/4】を、事業場内最低賃金額が920円未満の事業者は
    【4/5】に引き上げます。
この他、厚労省が公表しているリーフレット「業務改善助成金(特例コース)のご案内」には、対象となる事業者、支給要件等について記載されています。(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000984393.pdf

小学校休業等対応助成金・支援金の内容等について(令和4年10月以降)

 厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等により仕事を休まざるをえなくなった保護者を支援するため、小学校休業等対応助成金・支援金制度を設け、令和4年9月30日までの間に取得した休暇について支援を行ってきましたが、対象となる休暇取得の期間に令和4年10月~11月が追加されました。
 令和4年10月~11月の支援の内容は以下の通りです。

  1. 「小学校休業等対応助成金・支援金」について
    ①小学校休業等対応助成金 (労働者を雇用する事業主の方向け) 休暇中に支払った賃金相当額×10/10を助成する点に変更はありません
    ②小学校休業等対応支援金 (委託を受けて個人で仕事をする方向け) 就業できなかった日について、1日あたり定額で支給する点に変更はありません

  2. 「小学校休業等対応助成金に関する特別相談窓口」の設置期間の延長
    小学校休業対応助成金に関する相談に対応するため、「小学校休業等対応助成金に関する特別相談窓口」 を、令和4年12月28日までの期間、全国の都道府県労働局に設置しています。この設置期間も、延長する予定です。

  3. 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の仕組みによる申請
    労働局からの本助成金の活用の働きかけに事業主が応じていただけない場合に、令和4年9月末までに取得した休暇と同様に、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の仕組みにより、労働者が個人で申請できることとする対応も、令和4年11月末までに取得した休暇について行う予定です。

令和5年度から大学生等のインターンシップの取扱いが変わります

 令和7年3月に卒業・修了する学生が、令和5年度に参加するインターンシップから、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の合意による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」の改正が適用されます。

【改正ポイント①】インターンシップ等の学生のキャリア形成支援に係る取組を4つに類型化

改正ポイント

【改正ポイント②】一定の基準を満たすインターンシップ(タイプ3)で取得した学生情報を、広報活動・採用選考活動の開始時期以降に限り、それぞれ使用可能

<一定の基準>

  • 就業体験要件(実施期間の半分を超える日数を就業体験に充当)
  • 指導要件(職場の社員が学生を指導し、学生にフィードバックを行う)
  • 実施期間要件(汎用能力活用型は5日間以上。専門活用型は2週間以上)
  • 実施時期要件(卒業・修了前年度以降の長期休暇期間中)
  • 情報開示要件(学生情報を活用する旨等を募集要項等に明示)

タイプや基準の詳細、学生情報の使用可能な始期については、「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」に記載されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000949684.pdf

新型コロナウイルス感染症に係る労災保険請求について

新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)の労災保険請求における臨時的な取扱いについて、今般の新規感染者数の拡大に伴う緊急避難措置として、本感染症に係る労災保険の請求や相談があった場合には、以下の通り臨時的な運用として取り扱われることとなりました。

  1. 休業補償給付請求における証明の取扱いについて
    医療機関を受診せず自宅療養を行った者等からの休業補償給付請求書における診療担当者の証明については、PCR検査や抗原検査からの陽性結果通知書等や、MyHER-SYSにより電磁的に発行された証明書等を添付することとして差し支えないこととする。
  2. 休業補償給付請求における相談等の対応について
    休業補償給付請求書における診療担当者の証明に関し、被災労働者等から相談等があった場合には、上記1の証明書等を休業補償給付請求書に添付することにより請求が可能である旨説明すること。