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コラム

「最低賃金、過去最大の上げ幅」「出生時育児休業、育児休業改正」の情報など 人事労務関連レポート2022年10月号

2022 年10 月5 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

令和4年度最低賃金は過去最大の上げ幅 ~ 審議会の答申公表 ~

令和4年の最低賃金全国加重平均額は961円

 厚生労働省は8月23日、令和4年度の地域別最低賃金について地方最低賃金審議会が答申した改定額を公表しました。答申での全国加重平均額は、昨年度から31円引き上げられ961円となりました。一昨年(令和2年度)は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けほぼ横ばいでしたが、昨年度は28円(引き上げ率3.1%)と大幅増へ転じ、今年度はさらに、過去最大の引き上げ率(3.3%)となりました。
 大幅な引き上げとなった背景には、政府が近年一貫して示している「できる限り早期に全国加重平均1000円以上を目指す」という方針が強く作用していると考えられます。今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」でも「最低賃金の引上げの環境整備を一層進めるためにも(中略)できる限り早期に最低賃金の全国加重平均が 1000 円以上となることを目指し、引上げに取り組む。」と述べられ、従前の方針を踏襲することを示しています。

最低賃金引き上げの影響:中小企業・サービス業にとって厳しい状況

 最低賃金の引き上げは、確かに最低賃金に近い給与レベルの労働者の生活状況を改善することに寄与しています。3月に発表された『最低賃金に関する報告書』(以下「報告書」)は、日本の最低賃金が賃金や雇用等に及ぼす影響について学識者がさまざまな角度・視点から詳細に分析し、考察した結果をまとめたものですが、報告書によれば、全国の労働者の賃金額分布をみたときに、2010年から2020年にかけて、低賃金層の賃金額が徐々に高くなっており、また、貧困線未満の世帯の所得や生活水準が改善されるという傾向も見られました。
 しかし、企業にとっては、賃金上昇率を上回るペースで上がり続けている最低賃金は大きな課題となっています。特に中小企業においては深刻で、最低賃金引き上げの直接的な影響を受けた中小企業の割合は40.3%で5年前よりも9.3ポイント増加しています(日本商工会議所本年2月調査)。また、企業(従業員30人未満)において最低賃金引き上げの影響を直接受ける労働者の割合(影響率)は、昨年は16.2%であり、今年も引き続き高い割合になると予想されます。報告書によれば、特に「宿泊業、飲食サービス業」は最低賃金額に近い賃金水準の労働者の割合が高く、最低賃金引き上げの影響をもっとも受けやすいと考えられています。政府は、次年度も引き上げる方針を示唆していますので、これらの業種は今後ますます厳しい状況に追い込まれることは確実と思われます。

特定業種への集中的な支援策が必要

 さらに、今年10月から社会保険の適用拡大が始まります。今回の改正により新たに社会保険の適用対象となる中小企業には、最低賃金に近い賃金レベルで働く労働者も多く勤めているでしょう。よって、新たに社会保険拡大の適用となった企業は、最低賃金の引き上げに加え、社会保険料の事業主負担も増えることになるのです。
 このような状況においては、従来の助成金や補助金等による企業支援の仕組みだけでなく、極めて深刻な状況に陥っている業種にフォーカスした施策を早期に集中して行っていく必要があると思われます。

10月1日から出生時育児休業、育児休業改正部分が施行されます

 育児・介護休業法が改正され、今年の4月1日、10月1日、来年4月1日の3回に分けて段階的に施行されます。10月1日に施行されるのは下記の2点です。

  1. 出生時育児休業(産後パパ育休)の創設(改正育児・介護休業法9条の2第1項)
    産後休業をしていない労働者が、子の出生後8週間以内に4週間まで、分割して2回取得することが可能になります。労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが出来ます。
  2. 育児休業の分割取得(改正育児・介護休業法5条)
    子が1歳まで育児休業を分割して、2回取得することが可能になります。
    また、上記の改正にともない、社会保険料の免除の取扱いも変更になります。

改正前 月末時点で育児休業を取得している場合、当該月の給与・賞与の社会保険料が免除となる。
改正後 給与:月末時点で育児休業を取得している場合に加え、同月内に14日以上の育児休業を取得した場合にも当該月の社会保険料が免除となる。
出生時育休中の就労日は休業に含まれない
賞与:育児休業等の期間が1か月超の場合に限り免除の対象となる。

 出生時育児休業中は労使協定を締結している場合に限り、就労することが認められていますが、実際に就労した場合の社会保険料免除の取扱いは以下のとおりになります。

【出生時育児休業中に就労した場合の社会保険料免除の取扱い】

① 12/1~12/14 就業なし 育児休業14日間  12月の給与の社会保険料は免除
② 12/1~12/14 就業1日 育児休業13日間  12月の給与の社会保険料は免除にならない
③ 12/1~14日 時間単位就業3日(1H/日)
  就業した時間を1日の所定労働時間で除した数  (1未満切り捨て)を就業日数として控除
  3H÷8H=0.375日⇒ 育児休業14日-0日=14日間
  12月の給与の社会保険料は免除

就労グラフ

 この他、厚労省が公表している「育児休業中の保険料の免除要件の見直しに関するQ&A」には、賞与にかかる保険料免除の取扱い、休日を挟んで複数回育児休業を取得する場合の取扱い等について記載されています。
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T220413S0010.pdf

後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しについて

 来月10月1日より、75歳以上の方等で一定以上の所得がある方は医療費の窓口負担割合が2割になります。
 75歳以上の方等の一定以上の所得とは、課税所得が28万円以上かつ「年金収入+そのほかの合計所得金額」が単身世帯の場合は200万円以上、複数世帯の場合は合計320万円以上となります。
 窓口負担割合が2割の方には、来月10月1日以降の窓口負担割合が記載された被保険者証が、9月頃に後期高齢者医療広域連合または市区町村から送付されます。
 また、外来患者について、施行後3年間は医療費ひと月分の1割負担の場合と比べた負担増加額を最大3,000円に抑える措置が導入されます。還付は高額療養費として事前に登録されている口座を使用されるため、2割負担に変更になる方で口座が登録されていない方には、市区町村等から申請書が郵送されます。

社会保険の適用拡大が始まります!

 来月10月1日より、社会保険の適用範囲拡大が始まります。特定適用事業所に該当する場合は対象者の把握・制度の周知・今後の労働条件を労使で確認し、10月以降は、適用範囲が拡大した加入要件を満たす場合には資格取得手続きをする必要があります。改めて適用要件の改正点をおさらいしておきましょう。

対象 要件 現行
事業所 事業所の規模 常時500人超
短時間労働者 労働時間 1週間の所定労働時間が20時間以上
賃金 月額88,000円以上
契約期間 継続して1年以上使用される見込み
適用除外 学生ではないこと
プラス
対象 要件 2022年10月1日より
事業所 事業所の規模 常時100人超
短時間労働者 労働時間 1週間の所定労働時間が20時間以上
賃金 月額88,000円以上
契約期間 継続して2か月を超えて雇用される見込み
適用除外 学生ではないこと

Q..雇用期間が2か月以内である場合は、雇用期間が2か月を超えることが見込まれないとして良いのか?
A..雇用期間が2か月以内であっても、次の1、2のいずれかに該当するときは、定めた期間を超えることが見込まれるとして取り扱います。ただし、労使双方により2か月を超えて雇用しないことに合意しているときは除きます。

  1. 就業規則や雇用契約書等において、その契約が更新される旨又は更新される可能性がある旨が明示されていること
  2. 同一の事業所において同等の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により2か月を超えて雇用された実績があること
 なお、今回の改正で、2つ以上の事業所で雇用されている方が複数の事業所で加入要件を満たすケースが増えると想定されます。通常の資格取得手続きではなく、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」の提出が必要となるため注意が必要です。

職業安定法改正のポイント~10月1日施行~

「仕事内容や、勤務条件を優先し、同じ勤め先にはこだわらない」という働き手が増えてきている昨今の労働に対する意識の変化に伴い、職業安定法の一部が改正され、来月10月1日より施行されます。

  1. 求人等に関する情報の的確な表示の義務付け
    各事業者に対して、求人等に関する①~⑤の情報すべての的確な表示が義務付けられました。
    ①求人情報、②求職者情報、③求人企業に関する情報、④自社に関する情報、⑤事業の実績に関する情報

  2. 個人情報の取り扱いに関するルールの変更
    各事業者が求職者の個人情報を収集する際は、求職者等が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に「個人情報を収集・使用・保管する業務の目的」をウェブサイトに掲載するなどして明らかにすることが義務付けられました。

  3. 求人メディア等について届け出制を創設
    「募集情報等提供」の範囲が拡大し、従来のメディア・求人情報誌だけでなく、インターネット上の公開情報等から収集した求人情報・求職者情報を提供するサービス等を行う事業者も、職業安定法の募集情報等提供事業者になりました。

雇用保険料率の変更

 3月号にてお伝えしました通り、来月10月から雇用保険料率が引き上げられます。4月の変更とは異なり、労働者負担分についても変更になりますので、ご注意ください。

就労グラフ ①労働者負担 ②事業主負担    ①+②
雇用保険料率
失業等給付・育児休業給付の保険料率 雇用保険二事業の保険料率
一般の事業 5/1,000 8.5/1000 5/1,000 3.5/1000 13.5/1000
農林水産業・
清酒製造の事業
6/1,000 9.5/1000 6/1,000 3.5/1000 15.5/1000
建設の事業 6/1,000 10.5/1000 6/1,000 4.5/1000 16.5/1000

企業主導型ベビーシッター利用者支援事業のご案内

 企業主導型ベビーシッター利用者支援事業とは、仕事と子育てとの両立に資する子ども・子育て支援の提供体制の充実を図ることを目的とした、内閣府が委託する事業です。公益社団法人全国保育サービス協会が事業主等と連携して、雇用される労働者等(アルバイト・パート、厚生年金保険の被保険者である役員なども含む)がベビーシッター派遣サービスを利用した場合に、その労働者等が支払う利用料金の一部、または全部を助成します。
 少額の企業負担で福利厚生が提供できる、本制度の活用をご検討されてはいかがでしょうか。

新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給に関するQ&Aの改訂

 新型コロナウイルス感染症対策本部においては、今年7月29日には「病床、診療・検査医療機関のひっ迫回避に向けた対応」が、8月4日には「オミクロン株の特徴に合わせた医療機関や保健所の更なる負担軽減への対応」が決定されるなど、医療機関の負担軽減を更に推し進めることが求められています。
 厚生労働省保険局は、現行の感染急拡大に対応した当面の間の運用として、「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給に関するQ&A」が改訂されました。
※令和4年8月9日以降に申請をするものが対象です。