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コラム

「男女の賃金の差異公表」「個別労働紛争」の情報など 人事労務関連レポート2022年9月号

2022 年9 月5 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

7月8日より女性活躍推進法の制度改正~男女の賃金の差異公表が必須に *新設

 日本はこれまで1986年の男女雇用機会均等法、1991年の育児休業法、2003年の次世代育成支援対策推進法など、女性の活躍を後押しする法律を整備してきました。しかし女性が働く環境づくりは残念ながら道半ばです。少子高齢化を背景に今後も労働人口が減少する事を踏まえれば、女性の労働参加は国の将来の為にも欠かせません。こうして2016年、男女雇用機会均等法が施行されてから30年となる節目の年に女性活躍推進法が制定されました。
 この法律は、企業が雇用する、または将来雇用する女性が企業において活躍しやすい環境をつくる事を目的としており正式名称は「女性の職業生活における活躍の促進に関する法律」といい、従業員301人以上の事業主において女性活躍に関する行動計画の策定・公表を義務化する事でスタートしました。
 現在、『令和3年賃金構造基本統計調査』において、男性337.2千円、女性253.6千円で、男女間賃金格差(男=100とした場合)は女性は75.2となっています。さらに、男女格差を数値化した『ジェンダーギャップ指数』において、世界経済フォーラムが発表した2022年版によると日本は146カ国中116位と前回と比べて、スコア、順位ともにほぼ横ばいとなっており、先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となりました。賃金格差の要因としては、『女性管理職比率の低さ』『女性の非正規比率の高さ』などが挙げられています。
 こうした状況を踏まえ、さらなる男女間格差の解消を図るため、女性活躍推進法に基づく情報公開の仕組みの一部見直し行い、2022年4月の法改正において対象企業を常時301人以上の事業主から常時101人以上の事業主にまで拡大されました。7月8日には省令が公布及び告示され(同日から施行)、労働者が301人以上の一般事業主に対して「男女の賃金の差異」を追加で新設し、当該項目の公表が義務化されました。

「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」
8項目から1項目選択+男女の賃金の差異(必須)
労働者に占める女性労働者の割合、
管理職に占める女性労働者の割合等の8項目
(新設)男女の賃金の差異(必須)
プラス
「職業生活と家庭生活との両立」
7項目から1項目選択 *従来どおり
男女の平均継続勤務年数の差異や男女別の育児休業取得率など7項目

 政府内では、金融庁の金融審議会の「ディスクロージャーワーキング・グループ」において、上場会社等財務情報公開事業者に対する非財務情報の開示の充実と効率化の検討がなされ、雇用の多様性の分野で「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」の3項目を義務とする骨子をまとめています。また、内閣府においては、新しい資本主義が目指す成長と分配の好循環のため人的資本をはじめとする非財務情報の公表を見える化し、今後は公開企業のみならず労働市場に対しても人的資本に関する企業の取り組みについて見える化を検討する方向で動いています。そのため、今後情報公開準備を進めていく企業においては、今回の女性活躍推進法のみならず、様々な視点や動きがあることを念頭に置きつつ社内整備を行うことをお勧めいたします。

個別労働紛争において「いじめ・嫌がらせ」また最多

 厚生労働省は、令和3年度の個別労働紛争解決制度施行状況をまとめました。
 それによると、全国の総合労働相談コーナー(379か所)に寄せられた相談件数は1,242,579件で、前年度と比べると、相談件数は3.7%の減少。民事上の個別労働紛争に関するものは284,139件で、前年と比べると1.9%の増加となっています。

内 容 件 数 前年比
総合労働相談 1,242,579件 ▲3.7%
内容延べ数 法制度の問い合わせ 838,913件 ▲4.2%
労働基準法等の違反の疑いがあるもの 170,070件 ▲10.9%
民事上の個別労働紛争相談件数 284,139件 1.90%
助言・指導申出 8,484件 ▲7.1%
あっせん申請 3,760件 ▲11.6%

 民事上の個別労働紛争の相談内容の内訳は、いじめ・嫌がらせに関するものが10年連続でトップとなり86,034件(全体の24.4%)、自己都合退職に関するものが40,501件(同11.5%)、解雇に関するものが33,189件(同9.4%)などとなっています。
 「いじめ・嫌がらせ」の件数は助言指導申出、あっせん申請の項目でも件数は引き続き最多となり助言指導で9年連続、あっせんで8年連続最多となり、一向に減少する兆しが見えません。
 このような状況をみると、各種ハラスメントの防止対策などに万全を期す必要があるといえます。
 なお令和2年6月の改正労働施策総合推進法の一部施行に伴い、大企業についての同法に規定する職場におけるパワーハラスメントに関する相談件数は次のとおりです。

内  容 件 数 前年比
パワーハラスメント防止措置
(第30条の2第1項関係)
18,422件 30.8%
パワーハラスメント相談を理由とした不利益取扱い
(第30条の2第2項関係)
1,115件 24.4%
その他 3,829件 12.9%
相談件数合計 23,366件 27.2%

高年齢者雇用状況等報告の集計結果(努力義務後初調査)

 令和3年「高年齢者雇用状況等報告」(6月1日現在)の集計結果が公表されました。
 今回の集計結果は従業員21人以上の企業232,059社からの報告に基づき、高年齢者雇用確保措置(「定年制の廃止」「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれか)について、企業の実施状況等をまとめたものです。
 義務付けられている65歳までの雇用確保措置を実施する企業は全体の99.7%に上りましたが、努力義務である70歳まで就業機会を確保しているのは、全体の25.6%(4社に1社)となり、300人以下の中小企業では全体の26.2%、300人超の大企業では17.8%で、8ポイント以上の差がありました。中小企業にとって従業員1人の退職の影響は大きいため、人材をつなぎ留めようとする傾向が強いと考えられます。
 就業機会確保の種類別では継続雇用が19.7%と最も多く、定年廃止は4.0%、業務委託や社会貢献事業への参加など雇用関係のない仕事の用意は0.1%でした。
 なお、21人以上の企業で働く人の総数は60~64歳が約239万人、65~69歳が約126万人、70歳以上が約82万人でした。

最低賃金 過去最大 全国平均31円引き上げを提示

 中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)は8月1日、2022年度の最低賃金の目安を全国平均で時給961円と提示しました。伸び率は前年度比3.3%と、6月の消費者物価指数の伸び率である2.4%を上回り、 前年度からの引き上げ幅31円は過去最大です。賃金の引き上げは日本経済の課題の一つであり、正規・非正規の賃金格差是正も必要なことです。今回の決定は、「全国加重平均1000円を目指す」という政府の方針を示した形になりました。
 しかし、最低賃金は各県ごとに決められますが、国が示した目安通りに最終決定されたとして、最も高い東京都が31円上がって1072円になるのに対し、最も低い沖縄県と高知県では30円引き上げられても850円と、地域間格差は222円とむしろ広がってしまいます。

ランク 引き上げ額目安 主な地域
Aランク 31円 東京、神奈川、埼玉、愛知、大阪など
Bランク 31円 茨城、栃木、静岡、京都、兵庫など
Cランク 30円 北海道、宮城、群馬、福岡など
Dランク 30円 青森、岩手、長崎、鹿児島、沖縄など

 また、第2次安倍政権以来、最低賃金が毎年3%前後引き上げられてきた結果、最低賃金で働く人の割合が著しく増えています。例えば、神奈川県では2011年には最低賃金で働く人が2%ほどだったのに対し、2021年には6%近くにまで増えました。全国的に見ても、最低賃金の変更によって賃金が引き上げられる労働者の割合は、2011年度には3.4%だったのに対し、2021年度は16.2%にまで達しており、多くの働く人たちの賃金が最低賃金近辺に張り付いてしまっていると考えられます。

雇用保険の基本手当日額の変更 ~令和4年8月1日~

 令和4年8月1日から雇用保険の「基本手当日額」が変更になりました。
 今回の変更は、令和3年度の平均給与額が令和2年度と比べて約1.11%上昇したこと及び最低賃金日額の適用に伴うものです。具体的な変更内容は下記のとおりです。

【 具体的な変更内容】

  1. 賃金日額・基本手当日額の最高額の引上げ
  2.  ◆ 年齢区分に応じた賃金日額・基本手当日額の上限額
    離職時の年齢 賃金日額の上限額(円) 基本手当日額の上限額(円)
    変更前 変更後 変更前 変更後
    29歳 13,520 13,670 6,760 6,835(+75)
    30~44歳 1,5020 15,190 7,510 7,595(+85)
    45歳~59歳 16,530 16,710 8,265 8,355(+90)
    60歳~64歳 15,770 15,950 7,096 7,177(+81)

  3. 基本手当日額の最低額の引上げ
  4. 年齢 賃金日額の下限額(円) 基本手当日額の下限額(円)
    変更前 変更後 変更前 変更後
    全年齢 2,577 2,657 2,061 2,125(+64)

高年齢雇用継続給付・介護休業給付・育児休業給付の支給限度額の変更 ~令和4年8月1日~

高年齢雇用継続給付(令和4年8月1日以後の支給対象期間から変更)

  • 支給限度額 360,584円 → 364,595円
     支給対象月に支払いを受けた賃金の額が支給限度額以上であるときには、高年齢雇用継続給付は支給されません。また、支給対象月に支払いを受けた賃金額と高年齢雇用継続給付として算定された額の合計が支給限度額を超えるときは、364,595円(支給対象月に支払われた賃金額)が支給額となります。
  • 最低限度額 2,061円 → 2,125円
     高年齢雇用継続給付として算定された額が最低限度額を超えない場合は、支給されません。
  • 60歳到達時の賃金月額
                  上限額 473,100円  → 478,500円
                  下限額   77,310円  →  79,710円
     60歳到達時の賃金が上限額以上(下限額未満)の場合には、賃金日額ではなく、上限額(下限額)を用いて支給額を算定します。

介護休業給付

  • 支給限度額 上限額 332,253円 → 335,871円

育児休業給付

  • 支給限度額 上限額(支給率67%)301,902円 → 305,319円
                 上限額(支給率50%)225,300円 → 227,850円

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の対象となる休業期間及び申請期限

 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金について、対象となる休業期間を令和4年9月までに延長することと併せ、申請期限も下記の通りとなります。

休業期間 【変更前】申請期限 【変更後】申請期限
令和4年1月~3月 令和4年6月末 令和4年9月末
令和4年4月~6月 令和4年9月末 令和4年9月末(変更なし)
令和4年7月~9月 - 令和4年12月末