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コラム

「男女賃金差の情報開示義務化」「企業における同一労働同一賃金への対応状況」など 人事労務関連レポート2022年7月号

2022 年7 月5 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

男女賃金差の情報開示義務化

 令和4年5月20日、政府は第7回『新しい資本主義実現会議』を開催し、人への投資(賃金、人材育成、兼業・副業、男女間格差)等について議論を行いました。
 岸田政権の目指す『新しい資本主義の実現』とは規制緩和や構造改革によって深まった格差を政策により経済成長と所得分配の好循環の実現を目指すというものです。
 『成長戦略』『分配戦略』『全ての人が生きがいを感じられる社会の実現』の3つの政策のうち、分配戦略の中で『人への投資』の抜本強化が挙げられています。『人への投資』とは、人に重点的に投資し、 官民が協力し、『成長』『分配』を実現化し、分配により、 需要が増加(消費・投資)することと共に成長力が強化されることで次なる世代が成長することを目標に掲げており、男女賃金格差是正もこのうちの一つです。
 岸田総理は議論を踏まえ、『男女間賃金格差を解消していくため、早急に、女性活躍推進法の制度改正を実施し、上場・非上場を問わず、301人以上を常用雇用する事業主に対し、男性の賃金に対する女性の賃金割合を開示することを義務化し、 今夏には実施できるよう準備を進める』と表明しました。男女格差を数値化した『ジェンダーギャップ指数』についても議論され、正規・非正規雇用の日本の男女間賃金格差は縮小傾向にあるが、諸外国と比べて大きく、 男女賃金差異の解消を図るため、女性活躍推進法に基づく情報公開の仕組みを一部見直し、省令を改正し、今夏の施行を目指すとし、男女間賃金格差是正に向け、企業の開示ルールの見直しが検討されています。
 令和4年5月23日、金融庁の金融審議会『ディスクロージャーワーキング・グループ』は、人的投資を持続的な価値創造の基盤と捉え、企業・投資家間での認識の共通化を目指すとする『新しい資本主義』の議論を踏まえ、上場企業に関しては、 金融証券取引法に基づき提出が義務付けらえている有価証券報告書の開示項目として、男女間賃金格差、女性管理職比率、男性の育児休業取得率を多様性の情報として追加すること、人的資本の情報として、人材育成方針、 社内環境整備方針を追加することで、非財務情報の充実化を提起する報告書(案)を了承し、投資家が企業価値を見極める際の指標の一つに加えられることになりました。
 こうした流れの中で人的資本の開示は国内的にも世界的にも活発化しており、今後はますます人的資本に関する重要性が高まり、より細やかな情報開示が求められます。ISO30414の活用については今までも本誌で取り上げてきましたが、人的資本について比較評価を客観的に可視化できる大変有意義なツールともいえます。
 男女間賃金水準の公表の義務化により、自社の取組みについてアピールや格差是正が進むことが期待されます。
 現在、女性活躍推進法に基づき、301人以上を常用雇用する事業主に、管理職に占める女性割合や平均勤続年数の男女差など厚生労働省が挙げた十数項目のうち2項目以上を公表するように義務付けていますが、どの項目にするかは企業に委ねられています。今後は男女賃金差の開示義務化の動きと整合性を取るため変更となる予定です。

企業における「同一労働同一賃金」への対応状況

 これまで正規・非正規の不合理な労働条件(待遇)格差の禁止については2012年改正の労働契約法、2014年改正のパートタイム労働法に定められていましたが、2020年4月1日に施行されたパートタイム・有期雇用労働法に集約され、2021年4月1日には中小企業にも適用されました。 雇用形態や就業形態に関わらない公正な待遇の確保が目指されていますが、こうした動向を踏まえ東京都では、労働者の意識、企業の対応状況等を把握するために都内3000社へ調査を実施し、回答を得た859社についての結果が公表されました。
 「パートタイマーを雇用している」と回答した514社のうち、直近5年間に不合理な待遇差をなくすための取り組みを「実施した」のは29.6%であり、「実施する予定である」は11.5%でした。「待遇差に関する点検を行い、不合理な待遇差がないことを確認した」は32.9%、「実施していない」は23.9%でした。
 また、2020年には独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)により全国規模で「パートタイム・有期契約労働者の雇用状況等に関する調査」が行われており、各調査の結果は下記の通りです。

不合理な待遇差をなくすための具体的な取り組み

東京都(都内859社)2021年10月 JILPT(全国9027社)2020年10月
基本給 「基本給の引き上げ・算定方法の変更」36.0%(実施済24.6% 実施予定
11.4%)
「パート・有期の基本的な賃金(賃金表含む)の増額や拡充」43.4%
「パート・有期の昇給(評価・考課を含む)の増額や拡充」33.7%
家族手当 「家族・扶養手当の支給対象の拡大」
20.4%(実施済9.0% 実施予定11.4%)
「パート・有期の家族手当の制度の新設」
7.9%
「パート・有期の家族手当の増額や拡充」
7.9%
通勤手当 「通勤手当の支給対象の拡大」25.1%(実施済18.5% 実施予定6.6%) 「パート・有期の通勤手当の制度の新設」
10.7%

「パート・有期の通勤手当の増額や拡充」
19.7%
賞与 「賞与の支給対象の拡大」29.4%(実施済16.6% 実施予定12.8%)
「賞与の引き上げ」16.6%(実施済5.2% 実施予定11.4%)
「パート・有期の賞与(特別手当)の制度の新設」16.2%
「パート・有期の賞与(特別手当)の増額や拡充」28.8%
退職金 「退職金の支給対象の拡大」16.6%(実施済4.7% 実施予定11.8%)
「退職金の引き上げ」10.4%(実施済1.4% 実施予定9%)
「パート・有期の退職金(退職手当)の制度の新設」7.6%
「パート・有期の退職金(退職手当)の増額や拡充」9.2%
休暇 「休暇制度の見直し」44.5%(実施済32.2% 実施予定12.3%) 「パート・有期の慶弔休暇の制度の新設」
10.1%
「パート・有期の慶弔休暇の拡充」16.9%

 両調査結果の特性として見直しの中身としては、基本給、賞与、通勤手当、休暇制度に関する取り組みのウェイトが高い傾向となっています。
 東京都では従業員に対しても調査を行っており、回答者のパートタイマー(有効回答数558)に、正社員との間に不合理な待遇差があると感じる点(複数回答)を尋ねると、 何らかの不合理な待遇差があると回答したパートタイマーが69.2%であり、「不合理な待遇の差があるとは思わない」は26.9%でした。不合理な待遇差があると感じる点については、 「賞与」が49.6%と最も多く、次いで、「退職金」33.7%、「基本給」27.4%でした。また、職場に「業務の内容及び責任の程度が同じ正社員がいる」と回答したパートタイマーは22.6%であり、 そのうち50.8%が「賃金水準が低く、納得していない」と回答しました。
 待遇差があるが是正しないと判断した場合や待遇差について取り組みを実施していない事業所においても、パートタイム労働者・有期雇用労働者から求めがあった場合には、 パートタイム・有期雇用労働法により正社員との間の待遇差の内容・理由等を説明する義務が課されていますので、納得のいく説明ができるようにしておく必要があります。(第14条)

新型コロナウイルス感染症の労災補償における取り扱い

 業務によって新型コロナウイルス感染症に感染した際、下記に該当した場合、労災保険給付の対象となっております。

  • 感染経路が業務によることが明らかな場合
  • 感染経路が不明の場合でも、感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した蓋然性が高い場合
  • 労災認定を受けた場合で、感染した症状が持続し(罹患後症状があり)、療養が必要と認められる場合
 新型コロナウイルス感染症については、罹患後症状で悩んでいる患者のために「新型コロナウイルス感染症診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント(第1版)」が取りまとめられました。

• 療養補償給付
 医師により療養が必要と認められる場合については、新型コロナウイルス感染症の罹患後症状として療養補償給付の対象となる。
• 休業補償給付
 罹患後症状により休業の必要性が医師により認められる場合は、休業補償給付の対象となる。
• 障害補償給付
 本感染症の罹患後症状はいまだ不明点が多いものの、時間の経過とともに一般的には改善が見込まれることから、リハビリテーションを含め、 対症療法や経過観察での療養が必要な場合には療養補償給付等の対象となるが、十分な治療を行ってもなお症状の改善見込みがなく、症状固定と判断され後遺症が残存する場合は、療養補償給付等は終了し、障害補償給付の対象となる。

週所定労働時間10時間以上20時間未満の障害者の取扱い

 5月25日、厚生労働省より第119回労働政策審議会障害者雇用分科会の資料が公表され、今後の障害者雇用施策の充実強化に関する意見書案が公開されました。 ここでは、その中から「週所定労働時間10時間以上20時間未満の障害者の取扱い」について、内容を抜粋して紹介いたします。

• 近年、精神障害者である労働者が著しく増加するとともに、これまで就業が想定されにくかった重度障害者などの就業ニーズが高まっており、 多様な障害者の就労ニーズを踏まえた働き方を推進する必要がある。具体的には、現行の障害者雇用率制度(以下「雇用率制度」という。) や障害者雇用納付金制度(以下「納付金制度」という。)において、週所定労働時間(以下「週」という。)10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者は、特例的な取り扱いを設けることにより、雇用機会を確保することが適当である。
• 週10時間以上20時間未満の障害者が労働時間の延長を希望する場合、事業主に対しその有する能力に応じた労働時間の延長について、努力義務を課すことが適当である。

 分科会において、雇用率制度や納付金制度の議論が引き続き高まることへの期待など、今後の動向に注目です。
【第119回労働政策審議会障害者雇用分科会(資料)】
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25872.html

マイナンバーカードを巡って① ~健康保険証の動向~

 5月下旬以降、政府(首相が議長を務める経済財政諮問会議)が毎年6月ごろに策定する「骨太の方針」(以下骨太方針)についてニュース等で耳にしたり、目にしたりすることも多いでしょう。
 2022年6月7日、閣議決定された骨太方針において、健康保険証をマイナンバーカードに一体化させた「マイナ保険証」の利用を促し、将来的には保険証の原則廃止を目指すとされました。
昨年10月より運用がスタートしたマイナンバーの健康保険証利用ですが、オレンジ色のステッカーやポスターで「マイナ受付」が明示されている全国の医療機関は今年の5月時点で約2割と発表されています。

 リンク:マイナンバーカードの健康保険証利用参加医療機関・薬局リスト
 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000850265.xlsx
 政府は骨太方針に2023年度から全国の医療機関に対し、マイナ保険証を利用するための読み取り機の導入を原則として義務付けるとともに、その利用促進のための各種支援措置を見直すという内容を盛り込みました。

マイナンバーカードを巡って② ~国民年金手続の電子申請~

 5月よりマイナポータル(行政手続のオンライン窓口)で国民年金手続の電子申請ができるようになりました。 24時間365日いつでも申請ができます。スマートフォンから申請することもでき、処理状況・申請結果もオンラインで確認することができます。 このサービスを使うためには最初にマイナポータルの利用者登録が必要です。
 更に簡単な手続でマイナポータルとねんきんネットをつなげることにより以下の機能もお使いになれます。

  • 日本年金機構からのお知らせ受け取り
  • ご自身の年金記録確認
  • 将来の年金見込額を試算
 マイナポータルからの手続にはマイナンバーカードと設定したパスワードが必要です。

育児休業取得状況の公表について

 常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられます。ポイントは、
• 公表の内容は「男性の育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率
• 公表は令和5年4月1日以降に開始する事業年度から対象
• 公表する年度は公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度
 となります。
対象となる事業所は令和4年度からの取得状況の把握が必要となる点に注意が必要です。