社労士

コラム

「多様化する労働契約のルール」「改正育児介護休業法の実務ポイント一覧」など 人事労務関連レポート2022年5月号

2022 年5 月11 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

組織の健全性・安全性・ウェルビーイング

 「人的資本」の情報開示として、これまで紹介いたしました「ISO30414」、11項目の開示内容のうち、「組織の健全性、安全性及びウェルビーイング」について補足いたします。
 「組織は、従業員一人ひとり、組織、幅広い社会への影響を考慮し、健全性、安全性、福利に配慮することが重要である」とし「組織の健全性、安全性、ウェルビーイングは、従業員の健康及び福利に対する組織の投資及び優先順位についての情報である。」と指摘しています。
本項目の中で表示を求められる指標は以下の4つです。
 ⑴業務関連の傷害、事故及び疾病に関するロスタイム
 ⑵労働災害の件数
 ⑶労働災害で死亡した人の数
 ⑷業務上の健康及び安全に関する研修に参加した従業員の割合
これらの4つの指標の中にいくつかの具体的な表示すべき指標、例えば⑵では災害率、⑶では死亡率等が指示されています。
 ご覧いただければ、これら4つの指標では「組織の健全性、安全性及びウェルビーイング」の内容を十分満足させるものにはなりません。そのため、本項目の情報を表示するには「ISO45001」(労働安全衛生マネジメントシステム)により「適切な方法でこの状況を記述することが望ましい」としています。「ISO45001」とは、ISO(国際標準化機構)とILO(国際労働機関)の長年の共同作業により成立、2018年3月に発行された「労働安全衛生マネジメントシステム」です。

ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)

 「労働安全衛生システムの狙い及び意図した成果は、働く人の労働に関する負傷及び疾病を防止すること及び安全で健康的な職場を提供することである。」とされています。組織の安全衛生方針に整合して、法的要求事項を満たし安全衛生の目標の達成のため継続的な改善を促すことをガイダンスとしてまとめられています。
 ISOの他のマネジメントシステムと同様に、計画を立てて、運用し、パフォーマンスを評価し、改善するというPDCAサイクルとそれを主体的に実施する組織の関与を「支援」として、要求される事項がまとめられており、ISO45001では10箇条で構成されています。本マネジメントシステムでは、業務上による負傷・疾病等の事故を防ぐため、危険源の特定、リスクアセスメント、危険源の除去・管理、安全衛生リスクの低減が重要なポイントといえます。

「多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書」公表

 令和4年3月30日、厚生労働省より「多様化する労働契約のルールに関する検討会」の報告書が公表されました。有期契約労働者の雇用の安定等のために制度化された「無期転換ルール」については平成25年4月の施行時から必要に応じて見直しが予定され、無期転換ルールによって無期雇用となった労働者の受け皿のひとつとして期待される「多様な正社員」(勤務地、職務、勤務時間のいずれかが限定されている正社員)の労働条件の明確化については令和元年6月に閣議決定された規制改革実施計画において検討が予定されていたところ、本検討会は、これらについて検討を行うことを目的として開催されたものです。無期転換ルールに関しては、法の趣旨に照らして望ましくない雇止めがされた事例等が見られたことを踏まえ、制度趣旨を踏まえた権利行使の実効性確保・紛争の未然防止の観点からの検討が必要とされました。

■更新上限を設けて無期転換前に雇止めすることは可能か

 無期転換ルールは有期雇用期間が5年を超える場合に労働者に無期雇用への転換申込み権が発生する制度で、労働者からの申込みにより無期雇用への移行を可能にすることで有期契約の濫用的利用を抑制しようとするものです。使用者に5年を超えて雇用する意図がない場合には、権利発生前に雇用を終了するよう契約更新に上限を設けることができ、それ自体違法になるものではありません。しかし、契約更新上限を設けて期間満了により雇用終了となった場合においても、それが無期転換回避目的の脱法的なものであるとして雇止め無効を訴える裁判が増えています。なぜ契約に基づいた雇用終了にも拘らず争いが起こりえるのでしょうか。

■無期転換前の雇止めの有効性の判断

 労働契約法第19条により、無期転換前の雇止めは「契約更新に対する合理的期待の有無」と「雇止めに客観的合理性・社会的相当性が認められるか」の2つの主軸で判断されることになります。裁判例に、 日本通運(川崎・雇止め)事件(当初の契約時から更新上限があることが明確に示され、4回目の更新時に当初の予定通り更新しないとされていた以上、労働者に「契約更新に対する合理的期待」を生じさせる事情があったとは認めがたいとして、雇止め有効と判断)、 A学園事件(更新上限規定を契約途中から追加したケースで、上限規定追加前から更新に対し合理的期待があったとみられること、更新上限の設定という労働条件の不利益変更について労働者の同意を得ていなかったこと、更新上限に例外を設けたこと、雇止め前から後任者を募集採用したことなどの事情から、雇止め無効と判断)等があります。適切に運用できていない場合、労働者が契約更新や無期転換の期待を抱く可能性があり、労使間の認識相違からトラブルが生じやすいといえます。

■更新上限を設定する際の留意点

  • 更新上限を設ける場合は更新に対する合理的期待が形成される前である契約当初から設定する
  • やむを得ず上限を追加設定する場合は、就業規則の変更や個別同意(自由意思による同意)の取得などの適切な対応が重要
  • 契約更新に対する合理的期待が高い中で上限規定を加える場合には、慎重に、かつルールを徹底した形で実施しないと合理的期待を消滅させることはできない
  • 更新上限について明確に労働者に伝え、その通りに運用する(労働条件通知書、就業規則、更新時の再周知等)
  • 上限を超える雇用継続を期待させるような言動をしない(上限超えの前例、上限超えがあり得るかと思わせるような言動、契約更新の形骸化等)

■その他の論点

 「有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図る」という趣旨がより適切に実現されるよう、無期転換申込機会の確保、通算契約期間及びクーリング期間、無期転換後の労働条件、多様な正社員の労働契約関係の明確化、多様な労働者全体を反映した労使コミュニケーションの促進などについて、実態調査の結果も踏まえた検討が行われ、その成果が報告書にまとめられています。

2022年4月1日改正育児介護休業法の実務ポイント一覧

2022/4/1改正 内容 実務ポイント
育児休業を取得しやすい雇用環境整備措置の義務づけ

右記、いずれかの措置の実施
育児休業に関する研修の実施 全労働者を対象とすることが望ましいが、少なくとも管理職については研修を受けたことがある状態にすべきもの
育児休業に関する相談体制の整備
(相談窓口設置)
相談体制の窓口の設置や相談担当者を置き、これを周知することを意味し、実質的な対応が可能な窓口が必要
自社の労働者の育児休業取得に関する事例の収集・提供 書類の配布やイントラネットへの掲載等によるものとする
自社の労働者へ育児休業に関する制度と取得促進に関する方針の周知 事業所内やイントラネットへ掲示する
妊娠・出産の申出をした労働者に対する、個別の周知・意向確認の措置の義務づけ 【個別周知事項】
①育児休業に関する制度
②育児休業の申し出先
③育児休業給付に関すること
④労働者が育児休業期間について負担すべき社会保険料の取り扱い
【個別周知・意向確認方法】
①面談 ②書面交付 ③FAX ④電子メール等 のいずれか
注:①はオンラインも可能。③④は労働者が希望した場合のみ。
  • 本人からの申出方法を指定する場合
  • →あらかじめ明らかにする

  • 個別周知・意向確認時期
  • →労働者が希望の日から円滑に育児休業を取得することができるように配慮し、適切な時期に行う必要がある
有期雇用労働者の育児・介護休業取得の要件の緩和 有期労働者の休業取得要件から「引き続き雇用された期間が1年以上」が撤廃され、無期雇用労働者と同様の取得条件となる。
(労使協定締結により、除外可能)
  • 改正に伴い取得要件を撤廃する場合
  • →就業規則記載内容の改訂

  • 改正前と同様に「引き続き雇用された期間が1年以上」の有期労働者の取得要件を残す場合
  • →労使協定締結(対象者に有期雇用労働が加わるため新たに締結が必要)

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いについて

 短時間労働者に対する「社会保険の適用拡大」について、通達及びQ&A集が発表されました。特定適用事業所に該当した適用事業所の手続き方法、提出書類等がまとめられております。
 下記URLに記載されておりますので、ご参照ください。
通達
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T220322T0030.pdf
Q&A集
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.files/QA0410.pdf

年金手帳廃止について

 国民年金、厚生年金等の被保険者には、年金手帳が交付されていますが、令和4年4月1日から年金手帳の新規発行は廃止され、「基礎年金番号通知書」の発行に切り替えられました。発行対象は、①新たに年金制度に加入する方、②年金手帳の紛失またはき損により基礎年金番号が確認できる書類の再発行を希望する方です。既に交付されている年金手帳は、基礎年金番号を明らかにすることができる書類として利用できます。なお、年金手帳をすでにお持ちの方には、改めて通知書は交付されません。通知書は事業所あてではなく、原則、被保険者本人の住所あてに送付されます。

くるみん認定基準改定・新認定制度

 令和4年4月1日より、くるみん認定基準が改正され、また、新たな認定制度が創設されます。認定基準改定内容等は以下のとおりです。

【認定基準改正(一部記載)】
(くるみん)
 •男性育児休業等取得率 現行  7%以上  ⇒  10%以上
 •男性育児休業等・育児目的休暇取得率    現行 15%以上  ⇒  20%以上
(プラチナくるみん)
 •男性育児休業等取得率 現行 13%以上  ⇒  30%以上
 •男性育児休業等・育児目的休暇取得率    現行 30%以上  ⇒  50%以上

【新たな認定制度】
(トライくるみん)
 •現行くるみんと同じ認定基準
(不妊治療と仕事の両立に関する認定制度)
 •くるみん、プラチナくるみん、トライくるみんの一類型として、不妊治療と仕事を両立しやすい職場環境に取組む企業の認定制度